公益財団法人日本国際フォーラム

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第1回⽇⽶合同ワークショップ

当フォーラムの実施する「『自由で開かれたインド太平洋』時代のチャイナ・リスクとチャイナ・オポチュニティ」の第1回日米合同ワークショップが、下記1.~3.の日時、場所、出席者にて開催されたところ、その議論概要は下記4.のとおり。

  1. 日 時:2021年11月3日(水) 21時~23時
  2. 場 所:オンライン形式 (ZOOM)
  3. 出席者:
    [報告者]* 熊倉  潤 法政大学准教授(JRSPメンバー)
    倉田  徹 立教大学教授
    ニコラス・セイチェーニ 戦略国際問題研究所日本部副部長
    [司 会] 神谷 万丈 JFIR副理事長/防衛大学校教授(主査/日米班班長)
    [日本側] 飯田 将史 防衛研究所地域研究部米欧ロシア研究室長
    岩間 陽子 政策研究大学院大学教授(欧州班アドバイザー)
    大庭 三枝 神奈川大学教授(インド太平洋諸国班班長)
    川島  真 JFIR上席研究員/東京大学教授(副査/中国班班長)
    高原 明生 JFIR上席研究員/東京大学教授(中国班アドバイザー)
    鶴岡 路人 慶應義塾大学准教授
    中西  寛 京都大学教授
    東野 篤子 筑波大学准教授
    細谷 雄一 JFIR上席研究員/慶應義塾大学教授(副査/欧州班班長)
    森   聡 法政大学教授
    相澤 伸広 九州大学准教授(JRSPメンバー)
    石田 智範 防衛研究所主任研究官(JRSPメンバー)
    田中 亮佑 防衛研究所研究員(JRSPメンバー)
    溜  和敏 中京大学准教授(JRSPメンバー)
    鶴園 裕基 早稲田大学客員次席研究員(JRSPメンバー)
    内藤 寛子 日本貿易振興機構アジア経済研究所研究員(JRSPメンバー)
    中村 長史 東京大学特任助教(JRSPメンバー)
    中村 優介 千葉商科大学国際教養学部助教(JRSPメンバー)
    村野  将 ハドソン研究所研究員(JRSPメンバー)
    [米国側] ハナ・アンダーソン カーネギー国際平和財団
    ザック・クーパー アメリカン・エンタープライズ研究所シニア・フェロー/ “Alliance for Securing Democracy”共同ディレクター
    ジェームス・ギャノン 日本国際交流センターシニア・フェロー(JCIE/USA)
    クリスティーナ・L・ガラフォラ ランド研究所准政策研究員
    スコット・W・ハロルド ランド研究所上級政治学者
    ヨハンナ・カオ 共和党国際研究所
    パトリシア・M・キム ブルッキングス研究所ジョン・ソーントン中国センター/東アジア政策研究センター・デビッド・M・ルーベンスタイン・フェロー
    ジェームズ・L・ショフ 笹川平和財団米国シニア・ディレクター
    エイミー・シーライト 元米国防次官補代理
    アダム・シーガル 外交問題評議会チェア(新興技術・国家安全保障担当)
    [JFIR] 伊藤和歌子 研究主幹
    佐藤  光 特別研究員
  4. 議論概要:

イントロダクション

  • (1)2021年11月3日、日本国際フォーラム(JFIR)とカーネギー国際平和財団は、日米合同で小規模なワークショップをオンライン開催し、民主主義/人権問題における日米の対中連携について議論した。「『自由で開かれたインド太平洋時代』のチャイナ・リスクとチャイナ・オポチュニティ」研究会は活動2年目を迎え、本ワークショップがその初回の日米合同イベントであった。今年度は2国間のワークショップを3度開催予定であるが、そのキックオフとして、今回の人権/民主主義に関するラウンドテーブルでは、日米間で人権擁護に対する姿勢が異なる中、いかに両国が対中政策を擦り合わせていくのかが焦点となった。また議論では、本プロジェクトが先に発表した政策提言(「日米4リーダーによる緊急提言:日米の対中戦略の基本原則」)の改訂も検討された。
  • (2)まずある日本側研究者は、「7月の緊急提言発表以降、4、5ヶ月の間に様々な事態が生じている」と述べた。しかし、中国をめぐってこの間に新たな課題が浮上している中であっても、依然「中国との協力は継続しながら、日米の連携を維持することが必要である」と別の日本側研究者はコメントした。同じ研究者は、岸田文雄首相は(前任の歴代首相に比して)米国の政策課題により合致するという意味において柔軟な対中政策を採る可能性があるとの楽観的な見方を示した。他方、岸田首相のリーダーシップは「ボトムアップ」型であることから、他の閣僚も日本の対中政策の方向性を決める上で大きな役割を持つだろう。この点で例えば、岸防衛大臣が「中国に対してかなり厳しい」のに対し、林芳正次期外務大臣はよりタカ派的ではないと目されている。
  • (3)ある米国側の研究者は、「日米が、双方で合意された一連の原則に基づいて対中政策を形成している限りにおいて、仮に情勢が変化しても、必要に応じてその原則に立ち戻り、政策を調整することが可能である」と強調した。さらに、「本日のテーマについて言えば、日米は人権や民主主義の推進に限って政策連携を行おうとしているわけではない。・・・本日われわれは、対中政策全体をいかに形成するかという文脈の中で人権、民主主義といった特定のイシューを議論していると考えるべきであろう」という点も明確に示した。
  • (4)本ワークショップでは、新疆ウイグル自治区、香港、そしてより広い意味での民主的ガバナンスに対する支援という三つの重要な議題が取り扱われた。日米は中国の国内外における行動に対して類似した懸念を有しているものの、日本政府の対中姿勢は微妙に異なるものとなっているという点で、大方の参加者の認識は一致した。しかし、ある米国側参加者が強調したように、ミャンマーや中国のように人権侵害問題を抱える国々に対する戦略において違いはあるにせよ、政策連携といっても日米が全く同一の政策をとることを必要とするわけではない。むしろ、日米は、それぞれの国の強みと相手国政府との独自の関係を活かして相互補完的な戦略をとることが可能である。

新疆ウイグル自治区

  • (1)新疆ウイグル自治区をめぐる議論から浮かび上がった一つの重要なテーマは、同区の現況に対する日米の市民の認識が大きく異なっているということである。米国では、新疆ウイグル自治区の人権侵害に対し断固たる姿勢をとることが超党派で強く支持されている。他方、日本では、一部のより右派の人々が、度々新疆ウイグル自治区の問題を利用し、中国を批判することで自身の政治的利益を高めようとしていることを除けば、同区における人権侵害に対する世間の関心はさほど高くない。一部の日本側参加者は、日本のリベラル派は中国に対し比較的同情的かつ寛容で、人権問題にも目をつぶりがちであると指摘した。参加者の中には、当初、この認識ギャップは、新疆ウイグル自治区の状況に関する公開情報が日本においては不十分であることに起因しており、米国政府は、より多くの新疆ウイグル自治区に関するインテリジェンスを日本政府と共有すべきであると提起した者もあった。しかし、米国側の参加者たちは、新疆ウイグル自治区における中国の人権侵害の証拠が欠如しているとの見方には同意せず、確固たる公開エビデンスが圧倒的多数存在すると指摘した。またある参加者は、「情報不足と言うのは簡単だが、日米間の認識ギャップの源は、我々が十分な情報を持っているか否かということよりも、さらに根深いところにある。日米両政府で人権問題の政策優先度は異なっており、それは中国、ミャンマー等をめぐる政策調整上の課題として見てとることができる」とも主張した。
  • (2)この議論では、たとえ日本の市民が人権侵害について信憑性の高い報道にアクセスできたとしても、日本の政治的右派が新疆ウイグル自治区にまつわる情報を微妙に政治化することが、人々が中国国民の人権への支持を表明するのを妨げていることが鮮明になった。日本政府、さらには日本国民は、「情報の評価に際しては非常に保守的(控えめ)」であり、新疆ウイグル自治区での人権侵害について同じ情報に接したとしても、米国国内ほどの反応を起こさない。この差は、議論の中で日本側の一部が、新疆ウイグル自治区における中国の行動についての米国の見方を表現するのに「ジェノサイド理論」との語を用いたのに対し、ある米国側参加者が、そのようにレッテルを貼ることは、中国が人権に対するあらゆる懸念もイデオロギー的な中傷として信用を落とさせようとする際に使う言葉づかいに似ているとして強く反論したことからも明らかであった。しかしある日本側参加者は、日本の状況は徐々に変化しつつあり、中国の人権侵害や香港での民主主義弾圧に関するメディアの報道が増えつつあることにも言及した。
  • (3)一部の参加者からは、新疆ウイグル自治区の人権問題に対して共同で取り組むため、カザフスタンのような第三国と協力して中国政府に圧力をかけてはという提案もなされた。ある米国の研究者は、「中国にとっては、米国から非難されたところで西側諸国による誹謗中傷としかみないかもしれないが、開発途上国のリーダーと見られることを望んでいるため、それら途上国からの批判には、より敏感に反応する」と指摘した。だが、ある日本側の研究者は、中国と同じような人権侵害問題を抱えているイスラム教国もあるため、そのような国家にウイグル住民の声を代弁させるような試みは「諸刃の剣」となりかねないと述べた。

香港

  • (1)香港情勢に関しても、参加者からは、新疆問題と同様に日米間で立場のギャップがあるとの懸念が示された。日本は現在、人権問題のみを根拠として他国に制裁を課す手段を持たないが、米国は2021年7月の香港での弾圧に対して、中国政府当局者7名に制裁を課した。他方で参加者たちは、米国政府がこれまでのところ香港に対して真に痛みを伴う金融制裁を課してはいないことにも留意した。そのような制裁は、予測困難な外交的・経済的影響を伴う深刻なエスカレーションを意味するからである。こうした文脈の中で、会議に参加した日米のリーダーらは、香港の人権と民主主義を守るために日米両国が行う必要があるのは、互いが協力可能な現実的な方法を検討することであるという点を強調した。
  • (2)そのために、日米両国は海外在住の香港人活動家への支援を約束し、「カウンター・プロパガンダ(対抗宣伝)」を行うための、香港の政治に関する研究を強化すべきであるとの提案が、ある日本側の研究者からなされた。同じ研究者は、中国が行動を変えるには、「人権を無視すれば損失を被る」という条件が必要であるとの認識を示した。例えば、中国政府と香港の経済界が強く懸念するように、香港が国際金融センターとしての地位を失うかどうかということであろう。「欧米諸国の制裁が香港経済に負の影響を与えることを懸念する香港の実業家が、中国政府に対し香港の人権状況改善を求める」ように促すことを通じて、日米はそうした利益を達成できるかもしれない、とその研究者は主張した。
  • (3)ある米国側の参加者は、その日本側研究者のそうした提案を支持する一方で、「結局のところ、中国の国内システムや対外行動を変えられるのは中国の人々であり、彼ら自身が自国政府に対する見方を変え、彼らの政府に対して変革を求めていかなければならない」とも指摘した。したがって、日米両国は、「中国国内におけるポジティブな変化を促すような長期的環境」を整備することが重要である。その例としては、中国市民の間での情報や議論にアクセスする機会を増やしたり、中国の学生が米国や日本などの自由民主主義国への留学を継続し、異なる政治システムを体感できる状況を確保し続けたりすることなどが挙げられよう。

同盟調整

  • (1)ワークショップの最後のトピックとして議論されたのは、人権/民主主義問題における対中政策調整というより大きなテーマであった。ある米国側の研究者からは、本研究プロジェクトが、中国、とりわけ新疆ウイグル自治区と香港における人権状況に焦点を当てるべきか、あるいは第三国、より具体的には、日米による人権/民主主義促進に対し中国が悪影響を及ぼしかねない東南アジアにも、より大きな焦点を当てるべきなのかとの問いかけがあった。この問いかけは、両同盟国間で政策を調整しようとするときには様々な局面があることを明確に示しており、参加者たちの反応は、日米が人権と民主主義の問題に取り組む上では、多様な戦略の選択肢が存在することを示すものであった。
  • (2)一人の米国側研究者は、近く開催される民主主義サミットを取り上げつつ、日本が世界大での民主主義強化に向けた米国の取り組みを強化しうるいくつかの方法を示した。一例として、日本が「来るサミットで代表的なアジアの声となり」、新興国に対する開発援助や公共インフラ投資における豊富な経験を他の参加国と共有することができるかもしれない。その研究者は、韓国や豪州など他の国々も、民主主義の原則を支援するために開発援助を活用してきた同様の実績があり、「より緊密な連携」の機会になり得ると指摘した。
  • (3)その研究者からは、民主主義サミットの先を見据え、「同志国を、民主主義の原則が一貫して示されていることが確かめられる諸方法に引き入れる」ためのプラットフォームとして国際機関を活用することが提案された。日本側の研究者の一人は、人権意識の啓発において国連を含む国際機関は死活的な役割を果たすが、他国との調整もまた必要であると繰り返した。米国側の研究者の一人は、「たとえ特定の制度的地位が与えられないとしても、台湾は、地域の民主主義諸国のいかなる議論にも加えられるべきだ」とも述べた。
  • (4)米国側参加者の一人は、「日米の共同声明が空疎なレトリックに留まらないことを確認するためには、行動を伴わなければならない」と述べ、インフラなどの分野での協調を例示した。一人の研究者は、「インフラのような分野では、2国間あるいは3国間の協力を強化を検討すべきだと思う」と述べた。同じ参加者は、人権や民主主義に関する日米の協力が、民主主義サミットの枠内のみで行われるべきではないと警鐘を鳴らした。インド太平洋地域には、選挙デモクラシーではないものの、重要なパートナーである国々が存在しており、それら諸国を排除してしまう危険性があるからだ。その参加者は、良い統治を行ってきた国々にも焦点を当て、包括性をより高めるべきであると提起した。この点には、いずれかの国を排除してしまうことに対する同様の懸念を共有する日本側の研究者の多くも賛同した。
  • (5)その米国側参加者はまた、海外での人権・民主主義の促進を「中国問題」の枠に押し込めてはならないとも述べた。その参加者は、中国が「大きな動機としての要因」ではあるものの、「われわれが上述の措置を講じたり、他国での民主的慣行や規範に関心を寄せ、その構築に努めることが、単に中国を意識した行動であるかのように見られるのは避けなければならない」と表明した。そして、「これらのイシューは我々にとっていずれにせよ本質的な問題であり」、「重要なのは価値観である」と強調した。

緊急提言

  • (1)参加者たちはまた、先の「緊急提言」に対する評価と改訂に関する提案についても議論した。とりわけ、さらなる明確化あるいは修正が必要とされたのは以下の3点である。
  • (2)「ただし、日米が目指すのは中国の非リベラルな対外姿勢や行動を抑え、国際システムをめぐる競争に打ち勝つことであり、中国の体制をリベラルデモクラシーに変えることではないことを明確にせよ。」の箇所について。
    • (イ)この点について、ある参加者は、「香港や新疆ウイグル自治区は中国の体制下にある。したがって、その状況を変えたければ、中国の対外行動のみに対応すると言うわけにはいかない」と指摘した。別のメンバーは、「日米は中国の体制転換を目指すべきではない。だからといって香港や新疆ウイグル自治区の状況を無視するという意味にはならない」と反論した。
    • (ロ)研究者の一人は、「我々が実行しないことに焦点を当てるのではなく、共通の価値や原則に関して行おうとすることについてより自信をもって語り、民主主義に対する支援が日米二国間のアジェンダの中で大きな位置を占めることを確かにすべきである」と述べた。このコメントを踏まえ、別の学者からは、「日米がいかにして他のインド太平洋諸国の主権的選択能力を強化し、ガバナンスを向上させようと取り組んでいるか」について一文を加えるという提案もなされた。
  • (3)「中国による人権や⺠主主義の弾圧を座視するな。」の箇所について。
    • (イ)一人の学者が警告したように、「中国は、高い経済成長を伴う権威主義体制のモデルを提供しており、権威主義的な傾向を持つ多くの政府にとって非常に魅力的である。中国は、監視技術、市民社会の空間や自由な情報の流れをひどく弱体化させるサイバー法のような管理体制、そしてその他数多くの問題ある諸政策、慣行と技術を輸出することにより、他国が中国モデルを模倣できるようにしている」。このようにして、中国の行動は、国内外を問わず、世界中の民主主義に影響を及ぼしているのである。
    • (ロ)しかしながら、ある研究者からは、本研究会全体で人権侵害や民主主義弾圧に関する中国の行動に対する深刻な懸念は共有されているものの、この一文はあくまで「緊急提言の立案者4人が当初合意できた点を記したまでである(つまり、できる限り具体化は避けている)。ゆえに、弾圧された人々に対する更なる積極的な支援、多国間外交の活発化、加えて/もしくは制裁や貿易上の罰則のような負の対応の強化といった形で、われわれがとろうとする措置の種類についてもう少し具体化する余地は残されている」との指摘があった。
  • (4)「日米は、将来の国際秩序が中国の主導する非リベラルなものになることを許容しないと の決意を持て。将来の国際秩序の基盤となるのは、日米両同盟国を中心とするリベラル デモクラシー勢力でなければならない。」の箇所について。
    • (イ)ある米国側参加者は、「地域内における一つの争点は、民主主義が成果を挙げられるということを示さなければならないことであるが、特に米国の国内状況ゆえに、それを示すことはより難しくなっている。よって新型コロナウィルスやデジタル・インフラ等のイシューで日本と協力し、アジア太平洋地域において日米が成果を挙げつつあることを示せるということが極めて重要である」という点を強調した。
    • (ロ)別の参加者からは、次のような指摘もあった。緊急提言では現状の維持が謳われているのに対し、「この点はある程度見直した方がいいのではないか。現状の維持それ自体ではなく、現在のシステムやアプローチがなぜ有益であり、またなぜそれらが世界中の国々にとって魅力的かつ有益であるべきなのかが重要なのである。つまりそれは、我々(日米同盟)の権利意識や力を押し付けたり、それにしがみついたりすることを意味しているのではなく、人類と、繁栄と、国際的な国家間における民主的ガバナンスの向上にとって何がより良いことであるのかを表しているのである。

※本ワークショップにおける3名の報告内容は以下のとおりである。いずれも参加者との議論を基に改訂後、いずれもコメンタリーとして日英両言語にて当フォーラムのホームページに掲載されている。

熊倉  潤 「新疆問題について」
“The Xinjiang Issue”
倉田  徹 香港の人権状況悪化と国際社会の対応」
“The Worsening Human Rights Situation in Hong Kong and the Response of the International Community”
ニコラス・セイチェーニ 「民主的統治のための同盟」
“An Alliance for Democratic Governance”
(以上、文責在事務局)