バイデン大統領はこのほど、権威主義からの防衛、腐敗との闘い、人権尊重の促進をテーマとした「民主主義のためのサミット」を主催した。バイデン大統領は、民主主義がまだ発展途上にあることを受け止めつつも、安定、繁栄、自由への普遍的な欲求の反映としての、世界の民主主義国家のレジリエンスを認識した。バイデン大統領は現代を象徴する課題として、民主主義は衰退したという権威主義諸国による主張への対抗の必要性を挙げ、「民主主義のためのグローバル・コミュニティ」に向けて、グッド・ガバナンスやルールに基づく国際秩序の基盤となる民主主義的価値と制度の支持を呼びかけた。日米両国は、自由で開かれたインド太平洋の実現を目指す同盟国として、この理念を共に支持できる立場にある。そして「民主主義のためのサミット」を行動のきっかけとすべきである。
本サミットは、2022年末に開催予定の第2回「民主主義のためのサミット」で締めくくられる「行動の1年」の一連のイニシアチブの起点となった。バイデン大統領は民主主義的レジリエンスの要である報道の自由や汚職との闘い、自由で公平な選挙などへの米国の支持を示すものとして、「民主主義再生のためのイニシアチブ」を発表した。日本の岸田文雄首相は、民主主義や人権といった普遍的価値へのコミットメントを強調し、民主的統治への日本のコミットメントの例として、人材育成や司法制度などの制度への支援を挙げ、日本の経験を他国と共有すると約束した。また、岸田首相は民主主義への道は必ずしもまっすぐなものではなく、そこに至るまでの各国の努力を尊重することが民主主義の強化に繋がると述べた。
「行動の1年」が具体化するにつれ、インド太平洋地域には様々な民主主義の経験があることから、民主主義の原則を擁護する方法の検討には、多様なアプローチが肝要との認識が重要だろう。日本は、立法・法制分野の制度構築、法の支配の支援、途上国の行政機能の強化を目指す研修プログラムといった、政府開発援助(ODA)を活用して民主的統治の基盤を支援してきた経験を共有することで、こうした取り組みに大きく貢献できるだろう。日本は、繁栄は安定の土台であるとの信念に基づき、特に東南アジアにおいて、経済発展の推進にも主導的な役割を果たしてきた。日本はその経験を活かし、米国が「行動の1年」においてアジアの声を確実に取り入れ、地域アクターと共に様々なイニシアチブを実施し、同地域から共感を得られるような民主主義を生み出せるように支援すべきである。
日米両国はさらに、ODAを通じて民主的統治に対する域内支援の相乗効果を高めることができる。オーストラリアは従来、経済成長と貧困削減をODAの中心に据えてきたが、現在は民主的な制度、女性のエンパワメント、市民社会にも支援を提供しており、幅広い問題領域の能力構築において連携の余地がある。韓国も、オーストラリア、日本、米国の援助の優先課題と合致する同様のイニシアチブを導入している。また今年初めにはクアッド(日米豪印)加盟国により、民主主義的な価値観への共通のコミットメントが再確認され、インド太平洋地域の安定の基盤としてインフラ整備の重要性が強調された。広い意味でのレジリエンスに関する戦略的対話は、地域における民主主義の原則をさらに促進するための数多くの機会を生み出すはずである。
加えて、日米両国は「行動の1年」を活用して、民主主義の規範を支持する国際機関のアジェンダを形成すべきである。これには、今年初めに開催されたG7のコミットメントを基盤とした、民主主義、自由、平等、法の支配、人権尊重という共通の価値観の擁護が含まれる。東アジア首脳会議やアジア太平洋経済協力会議などの地域機関の主要メンバー以外の有志国のネットワーク構築は、インド太平洋の外交の特徴である多国間枠組みのもと、民主主義的な規範を支持するための協調的アプローチを促すことになるであろう。
「民主主義のためのサミット」は、アジアの民主主義の多様性とレジリエンスを称賛し、域内全体で民主的統治の幅広い基盤を強化するまたとない機会である。日米両国は、民主化支援の形をめぐる対話を進め、域内パートナーと開発援助戦略を調整し、世界で最も活力のある地域の平和と繁栄の基盤として、国際機関が民主主義的な規範を重視し続けるようにすることで、「行動の1年」を推し進めることができる。バイデン大統領と岸田首相は、今こそ、自由で開かれたインド太平洋の確立に向け、民主的統治のための同盟のアジェンダの形成を始めるべきなのだ。