標題研究会合が、下記1.~3.の日時、場所、出席者にて開催されたところ、その議論概要は下記4.のとおり。
記
- 日 時:令和4年12月19日(月)10時より12時まで
- 形 式:ZOOMによるオンライン会合
- 出席者:11名(以下、五十音順)
[講 師] | 小泉 悠 | 東京大学先端科学技術研究センター専任講師 |
[主 査] | 常盤 伸 | JFIR上席研究員/東京新聞(中日新聞)編集委員 |
[顧 問] | 袴田 茂樹 | JFIR評議員・上席研究員 |
[メンバー] | 安達 祐子 | 上智大学教授 |
名越 健郎 | 拓殖大学教授 | |
廣瀬 陽子 | JFIR上席研究員/慶應義塾大学教授 | |
保坂三四郎 | エストニア・タルトゥ大学 | |
山添 博史 | 防衛省防衛研究所主任研究官 | |
吉岡 明子 | キヤノングローバル戦略研究所研究員 | |
[JFIR] | 高畑 洋平 | 上席研究員 |
日向友紀恵 | 特任研究助手 |
- 議論概要:
小泉氏による報告:「軍事戦略思想から見たウクライナ戦争」
ロシアの高級軍人たちが、今の21世紀の世界をどういう風に見ていて、その中にいかなる不満があって、将来の戦争はどういう風に展開され、それに対して如何に備えるべきか。ロシアの参謀本部が出している「軍事思想」という雑誌のバックナンバーを拾い読み、一定のロシアの軍事戦略思想が見えてきた。ロシアが前提として大事にしている世界観のひとつは、ナショナリズムを全面に打ち出し、ウクライナやベラルーシはロシアの一部である、ということ。もうひとつは、極めてパワー論的、すなわち力の強いものがすべてを決めるということ。今のウクライナ軍隊は開戦前の時点で20万人弱、これは旧ソ連で第2位の軍事力をもともと持っていたということである。2月の開戦後、どれくらい動員したのかははっきりわかっていないが、予備役含め数十万人程度動員したのではないかと思われる。6月の段階でゼレンスキー大統領は動員数100万人だと言っており、レズニコウ国防大臣は100万人のうち70万人が軍で残り30万人は治安部隊などを改変した部隊なのだと内訳を述べている。ウクライナの政治目的は国家国防と極めてシンプルであるが、他方でロシアの場合はこの戦争の政治目的がはっきりしておらず、国民の精神的動員ができていないのである。
ウクライナの内部崩壊を目論むにしてもロシアの計画はあまりにも雑であったことが窺える。ロシアは、ウクライナ人の国民的な抵抗意識や軍隊の能力を軽視して戦争を始めたが、ウクライナのようにそれなりに足腰のしっかりした国は、簡単にはつぶれない。我々は今、まさに第一次世界大戦とそっくりな、極めて古典的な戦争を見ている。凄まじく長い戦線ができて、その双方で100万人規模の軍隊が睨み合い、とてつもない犠牲を出しながら、しかしなかなか戦線は動かない。戦争の趨勢を決めるファクターは、100年前も現在も、あまり変わっていないのである。ロシアが、自分たちは超大国であり、ウクライナは弱い国であるという前提のもと、つまりロシアの自己認識と現実にギャップがある中で、軍事戦略を組み立てている。ロシアの軍人たちは、NATOが介入した場合にいかに自国の通常戦力を持ち堪えさせ戦争を優位に終結させるのかという点を懸念しているものの、ウクライナ相手に躓くという想定がどこにもなく、今回はそこで躓いているのである。
日本への示唆としては、古い軍事力が大事であり、動員能力と火力が効くこと、また、核抑止はやはり機能するのだということが言える。なんだかんだで戦争が10か月も続いているのは、核抑止によってNATOの介入を防げていることが大きな理由であろう。台湾有事のときはどうなるか考えてみると、ウクライナと同じような状況で、中国が核抑止力を嵩に戦争を仕掛けてきた場合、米軍が暫く介入してくれないかもしれない中で、どれだけ自分たちで対応できるのかを考えておく必要がある。
以上