公益財団法人日本国際フォーラム

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第1回定例研究会合

標題研究会合が、下記1.~3.の日時、場所、出席者にて開催されたところ、その議論概要は下記4.のとおり。

  1. 日 時:令和4年7月29日(金)20時から21時半まで
  2. 形 式:ZOOMによるオンライン会合
  3. 出席者:9名
[報告者] 松嵜 英也 津田塾大学専任講師/JRSPメンバー
[主 査] 渡邊 啓貴 帝京大学教授/日本国際フォーラム上席研究員
[副 査] 廣瀬 陽子 慶應義塾大学教授/日本国際フォーラム上席研究員
[顧 問] 杉田 弘毅 共同通信特別編集委員
[メンバー] 宇山 智彦 北海道大学教授
詫摩 佳代 東京都立大学教授
土屋 大洋 慶應義塾大学教授
三船 恵美 日本国際フォーラム上席研究員/駒澤大学教授
[JFIR] 奥住 莉奈 特任研究助手

4. 議論概要

冒頭、松嵜英也JRSPメンバーより報告があり、その後出席者全員で自由討論を行った。

(1)松嵜英也JRSPメンバーより報告:「冷戦後のウクライナの秩序観:非同盟の起源、変容、破棄」

ロシアのウクライナ侵攻から5か月が経過したが、未だ決着の糸口が見えず、国際社会にも大きな影響を与えている。この戦争の今後の行方については、長期的かつ多角的な視点からこの戦争を理解し、分析する必要がある。

本日の報告では、冷戦終焉から2014年までのウクライナ外交における「非同盟」政策に着目し、その「起源」「変容」そして「破棄」へと至る歴史的経緯を分析し、今日のウクライナ外交を再考していく。

これまでのウクライナ外交は、「欧州偏重外交」と「多方向外交」という2つの外交指針のなかで揺れ動いてきた。欧州偏重とは欧州の安全保障構造への統合を目指す外交政策であり、一方の多方向とは、欧州統合を目指しながらもロシアとの関係も重視する外交政策である。これら2つの外交方針は異なる意味を持ち得るものではなく、「非同盟の地位」という共通した方針を有している。このウクライナの「非同盟」の地位は、同国外交における根幹であり、この言葉とおり、いかなる軍事ブロックにも属さない中立国家であることを意味した。その起源は冷戦終焉後の主権宣言に遡り、その後のクーデターによりロシアからの独立を果たしたウクライナは、非同盟の地位を生かして欧州とロシアとの「懸け橋」の役割を目指していた。

しかし、1990年代後半から2000年代にかけて、ウクライナ国内では、EUNATOの東方拡大が起こるなかで、非同盟を堅持することが地域の軍事的な緊張を低下させることに繋がると見なされるようになった。しかし、2014年にロシアがクリミアを併合し、東部ではロシア支援のもとに分離独立運動が活発化すると、この非同盟の地位が地域の緊張を緩和するどころか、むしろロシアの軍事介入を招いたと見なされ、その地位は破棄された。その後、ウクライナはロシアを自国の脅威とみなし、特別なパートナーとしてNATOを位置づけ、ウクライナ国軍をNATO軍の基準に近づけていくための軍改革が行われた。

これらの欧州偏重の進展を期待されたのがウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領であった。当初ドンバスとクリミアの再統合戦略をたてていたゼレンスキー大統領だが、昨年春のロシア軍の国境付近の集結をうけ、ロシアの侵攻を防ぐにはNATOへの即時介入が必要であるとの解釈に至り、対ロシア軍事戦略を次々と打ち出していった。

今後もロシアはゼレンスキー政権の転覆を目指す姿勢は変わらないと思われるが、ウクライナ全土を制圧しクリミアのようにならない限り、政権が変わるだけでは非同盟の破棄のような構造的なウクライナ外交への大転換に繋がるかは疑問が残る。

(2)自由討論

上記()を踏まえて自由討論が行われ、テーマ別に下記()()の論点が提起された。

(イ)ウクライナの非同盟の方針とは、集団安全保障的な発想からなのか。それとも、東西の敵対関係のなかでうまく立ち回りを考えた上での方針だったのか。(渡邊)

→当初は、集団安全保障的な発想からであった。ただその発想は一貫しているわけではなく、大統領によってその方針は随所で変わっていったと考える。(松嵜)

 

(ロ)非同盟の方針は破棄される2014年までどのくらい現実的な意味をもっていたのか。そして思想的な深みはあったのか。(宇山)

2000年代に現実的な意味はあったとはいい難い。だが2014年まで破棄がなされず、2008年のロシア・グルジア戦争時にも軍事ドクトリンとしてウクライナはこの非同盟を堅持することが、地域の軍事的な緊張を低下させるとの考えから破棄されることはなかった。これらをふまえて考えると、当時思想的な深みがどこまであったかは言及し難いが、意味があったのではないかと考える。(松嵜)

 

(ハ)アメリカからのNATO加盟への働きかけはあったと考えるか。(渡邊)

→ブッシュがウクライナに対してNATO加盟をプッシュするような発言はあったが、当時のウクライナ国内状況をみると加盟は現実的ではなく、アメリカの動向は特に影響はなかったのではないかと考える。(松嵜)

 

(ニ)ウクライナの軍備についておききしたい。(土屋)

→現在のウクライナ軍は元々ソ連軍であり、その当時のネットワークはあったのではないかと考える。その後2014年軍改革において、NATOとの関係性が密になっていった次第である。(松嵜)

 

(ホ)ウクライナ国内で親ロ派が勢力をのばしていることはないだろうか。(渡邊)

→親ロ派としての政党の活動が禁止されており、野党としてでてくることは考えづらい。よって反対意見も現状でてくることが困難である。(松嵜)

(文責、在事務局)