公益財団法人日本国際フォーラム

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公開ウェビナー「出版記念シンポジウム」

このたび、日本国際フォーラムの「ユーラシア・ダイナミズムと日本外交」研究会(主査:渡邊啓貴当フォーラム上席研究員)は、さる720日(水)に『ユーラシア・ダイナミズムと日本』(中央公論新社)( https://www.amazon.co.jp/dp/4120055558 )を刊行したところ、その本書刊行を記念して、出版記念シンポジウムを下記1.~4.のとおり開催した。主な議論概要は、下記5.のとおり。

1.日 時:2022725日(月)13時から14時半まで

2.開催形式:Zoomウェビナーによるオンライン形式

3.使用言語:日本語

4.プログラム

[開会挨拶] 渡辺 まゆ 日本国際フォーラム理事長
[主査挨拶] 渡邊 啓貴 帝京大学教授/日本国際フォーラム上席研究員
[報 告 者] 廣瀬 陽子 慶応義塾大学教授/日本国際フォーラム上席研究員
宇山 智彦 北海道大学教授
三船 恵美 駒澤大学教授/日本国際フォーラム上席研究員
杉田 弘毅 共同通信特別編集委員
広瀬 公巳 近畿大学教授
今井 宏平 日本貿易振興機構アジア経済研究所研究員
山本 忠通 前アフガニスタン担当国連事務総長特別代表
宮脇  昇 立命館大学教授
詫摩 佳代 東京都立大学教授
高畑 洋平 日本国際フォーラム上席研究員
渡邊 啓貴 帝京大学教授/日本国際フォーラム上席研究員
[自由討論] 参加者全員
[総括] 渡邊 啓貴 帝京大学教授/日本国際フォーラム上席研究員

5. 議論概要

本シンポジウムにおける各報告者の議論概要については次のとおり。

(1) 開会挨拶:渡辺まゆ

現在、ウクライナ戦争をはじめ、ユーラシアは世界を揺るがす激震地となっている。本書では第一線で活躍している有識者たちの最新の論考がまとめられている。本書を通じて、日本外交の新地平を切り開くための手がかりになれば幸いである。

(2) 主査挨拶:渡邊啓貴

本書ではユーラシアを中国、ロシア、EUの大きな3つの勢力圏、影響圏でわけて考えながらも、広く様々なアプローチからユーラシアを読み解いた。昨今のアフガニスタン問題とウクライナ戦争の最新情報に加え、日本のユーラシア外交の可能性についても言及された、きわめて有益な1冊ではないか。

(3) 各執筆者による報告

(イ)廣瀬陽子

近年、コーカサス地域は中国の台頭によって情勢が混迷を深めている。こうした状況のなか、ロシアは影響圏を維持するために、「エネルギー」「政治」「経済」「未承認国家」という4つのカードを使うことで、自国の影響圏を維持してきた。また、今回のウクライナ侵攻によって新たな展開も垣間見えつつある。「狭間の政治学」という構図は変わらない一方で、様々な事象によって各種の動きもあり、これらにも注目しながらこの地域の動向について注視する必要がある。

 

(ロ)宇山智彦

ウクライナ侵攻当初、プーチンの精神面の異常の説が唱えられたが、これはプーチンが冷静で現実的であるという一面的なイメージによって唱えられたといえる。今回の侵攻は、ロシアの地位の回復と西側への復讐の実現と言われているが、他方、世界各国の反応には様々な違いが感情と関係して表れている。これは日本においても同様である。現在も近隣諸国、特に韓国には感情のファクターが大きく影響している。国際関係がしばしば大国の指導者の感情によって動いていることを認識しながら、感情の地政学から解放されなければ、現在の複雑な世界で生き残っていくことは難しいのではないか。

 

(ハ)三船恵美

中国が掲げる「一帯一路」とは、経済回廊の枠組みを獲得し、政策とルールをすりあわせ、中国の標準を国際標準化へと促進するパクスシニカを目指した構想である。世界が中国の一帯一路を注視しなければいけない理由は、人類運命共同体構想の手段として習近平が一帯一路を位置づけていることである。また、2節の「アフガン政変と中国」については、米軍の停滞によって中国西部の安全保障関係は不安定化し、CPEC(中国パキスタンの経済回廊)のリスク要因が大きくなっていることを指摘した。さらに3節では、中国がロシア・ウクライナ戦争を2国間の戦争として捉えているのではなく、ユーラシアにおける米ロの地政学から捉えている点について指摘した。

 

(二)杉田弘毅

現在の大きな問題として、アフガニスタンとウクライナをどのような違いをもって米国が対応するのかという点にあるが、今後のウクライナに対する米国の出方は、新しい対応のプロトタイプになるだろう。具体的には、米軍のBoots on the ground(戦場で実際に戦っている部隊)の派遣をしない、経済制裁をかける、外交的な孤立を促すということであろう。また、最近では米国国内におけるウクライナへの支援疲れが顕著となっている。今後、バイデン大統領としては、国民世論を上手く操作しながらウクライナ政策の支持を守りつつ、ロシア側の疲弊を待つという、長期的な戦略が問われているといえよう。

 

(ホ)広瀬公巳

インドを2つの三角形を使って考えていきたい。その三角形とは、「陸の三角形」と「海の三角形」であり、「陸の三角形」はインド・ロシア・中国で権威主義的なリーダーを有する、長年国際紛争が続いているユーラシア大陸である。一方、「海の三角形」は、日本・米国・インドであり、中国の海洋進出に対する連合であり、理念が支配するシステムである。インドはもともと民主主義国家であり、これまで「海の三角形」の枠組みで考えられていた。しかし、現在モディ政権は長期政権化するとともに、その支持率も高く権威的な色彩も強めていることから、陸の三角形の要素も強くなっていると考える。今後の経済力と人口の増加予想からインドがどちら側の体制につくかによって、世界の趨勢も変わっていくのではないか。

 

(ヘ)今井宏平

トルコにおけるユーラシア外交について執筆し、現在のトルコのユーラシア外交を2.0、冷戦崩壊直後をユーラシア外交1.0と位置づけそれらについて論じた。まず、ユーラシア外交1.0だが、当時のトルコは政治力、経済力が弱くユーラシア外交1.0はうまく機能しなかった。その後、現在のユーラシア外交2.0は、2000年代以降、トルコの経済力がかなり強くなってきており、それに呼応する中央アジア、南コーカサスの国々も多かった。また、ユーラシア外交1.0の反省からテュルク系の人々を重視することと、それ以上にロシアや中国を巻き込んだ西側重視だけではない全方位外交の場として国益の確保をしていこうという色彩が強くなってきたといえよう。

 

(ト)山本忠通

アフガニスタンで現在達成すべきことは、①同国を再びテロの温床にしないこと、②国民間の和解と人道危機と自立をどう促していくのかということである。加えて、国際社会への復帰の問題や女性の権利などについても対策を講じる必要がある。現在のアフガニスタンの状況は、タリバンが保守化したため、国際社会の関心が低下していることだ。また、タリバンの自律的な動きだけで、状況を好転させることは難しく、この点は、日本含む国際社会の協力が急務であろう。

 

(チ)宮脇昇

今回のウクライナ戦争で、経済制裁としてロシアの空路遮断、ロシア船の入港禁止等が行われたことからも、国家の政策に「接続性」がキーワードとなるのは明らかだ。現在起きているエネルギー問題を接続性の観点からみたとき、接続性は独立変数としても解することができる。これは空路やガスの遮断においても同様だ。すなわち、各国はロシアとの関係を接続性の観点から維持しなければならないという政治判断が問われるが、民主主義諸国においては厳しい決断を強いられることになるのは疑いない。

 

(リ)詫摩佳代

新型コロナウイルス前から、グローバル保健ガバナンスの仕組みにおいて、ある変化が指摘されてきた。それは国家の安全保障と感染症の問題とが密になったことだ。これにより、ヘルスセキュリティという概念と保険外交が注目を浴びるようになった。こうしたなかで、コロナ禍とウクライナ危機によりグローバル保健ガバナンスが加速化したことは疑いない。感染症対策においては、他者・他国との協力は必要不可欠であるが、それは不特定の国々と行うのではなく、近隣諸国群や互いに気心のわかる国同士で協力しあうことがまずもって重要であろう。

 

(ヌ)高畑洋平

日本のユーラシア外交の変遷について、主に橋本、小渕、麻生、安部の4政権の切り口から整理した。そのなかでも本報告では、安部外交の功績の一つとされる「自由で開かれたインド太平洋」構想を中心に報告する。今日、日本の外交戦略を語る上で、重要な戦略概念の一つとして「インド太平洋」に衆目が集まる。この戦略概念が初めて提唱されたのは、20078月、安倍晋三首相(当時)が第一次政権期に「二つの海の交わり」と題して、インド国会で行った演説であった。その延長線上でインド洋と太平洋という「二つの海」の交わり、「地球儀を俯瞰する外交」という発想に至った。「競争」か「協調」か。今後、対中関係は「開かれたインド太平洋」構想の中でどのような位置づけがなされるのか。今後の岸田外交を注視したい。

 

(ル)渡邊啓貴

欧州・アジア連結性においては日本も重要なパートナーとなっているが、地域としてはASEANに比重がおかれている。東方パートナーシップとは、EUと旧ロシア圏国との経済協力枠組みである。対中政策において、ヨーロッパは冷戦前から注目しており、現状急激に対策が変わるとは考え難くステークホルダー的な慎重な対応を行っていくと考えている。また、ウクライナ侵攻に関しては、集団安全保障体制の挫折からNATO加盟防衛論争への転化が背景にあると考え、米ロ対立が潜在化しているのではないかと考える。

(4)自由討論

上記(3)の報告を踏まえて自由討論が行われ、テーマ別に下記(イ)、(ロ)の論点が提起された。

 

(イ)他の分野と比較して、文化協力の分野は、グローバル化がすすんでいない。将来ユーラシア諸国から文化協力と地政学を結びつけるダイナミズムが発生してくる可能性はあるか。(橋本)

→そういった動きは確かにあるが、軍事戦略的な摩擦が大きい現段階では難しいのではないか。(渡邊)

(ロ)これまでの議論をふまえて、ウクライナ侵攻は今後どのように進んでいくのか。(渡邊)

→力で勝負をつけるしかない状態になっている。ウクライナとしては援助に頼るしかなく、ロシアは国民全体の動員ができないという双方手詰まりの状況である。援助疲れという問題はあるが、援助なしには事態の打開は難しく、ロシアにおいては少しずつ経済面軍事面に破綻がみえつつあるので、このままウクライナに有利な方向に進んでいくような状況ではないか。(宇山)

→完全に消耗線になっており、どこまで互いがもつかという問題になっている。ウクライナを支えることが、民主主義国家の価値を支えることになっているので欧米は支援をやめることはできない。ロシアは経済的にも厳しくなっているなかで、新しい活路を見出すことが必須になっており、中国とインドとの関係を強め、またBRICSを拡大するという方向性もみえている。戦争を行いながらも、ロシアは格下ともみえる国々との外交も丁重になっており、中東・アフリカへの外交も積極化している。グレーゾーンを確保することによって経済的な後ろ盾を確保しており、これらにより戦争への長期化が懸念されるだろう。(廣瀬)

→ウクライナとロシアの仲介のようなかたちをとっているトルコであるが、今後も継続して仲介的な外交のかたちをとるのではないかと考える。ただ来年の6月に選挙が控えているので、今後は内政と関わることに力をいれていくのではないか。(今井)

(文責、在事務局)