公益財団法人日本国際フォーラム

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「海洋秩序構築の多面的展開―海洋『世論』の創成と拡大」研究会

当フォーラムの「海洋世論の創出」研究会(主査:伊藤剛当フォーラム上席研究員・明治大学教授)は、さる11月17日、定例研究会合をオンライン開催した。メンバーの合田浩之東海大学教授より、「船の船籍・船会社の国籍」と題して報告を受けたところ、その概要は以下のとおりである。

  1. 日 時:2020年11月17日(火)19:00-21:00
  2. 場 所:日本国際フォーラム会議室およびZoomによるオンラインを併用
  3. 出席者:
    [主 査] 伊藤 剛 JFIR上席研究員/明治大学教授
    [顧 問] 坂元 茂樹 同志社大学教授
    [メンバー] 石川 智士 東海大学教授
    鎌江 一平 明治大学国際関係研究所研究員
    合田 浩之 東海大学教授
    小森 雄太 笹川平和財団海洋政策研究所研究員
    近藤 知弘 外務省経済局漁業室主査
    西谷 真規子 神戸大学教授
    山田 吉彦 東海大学教授
    渡邉 敦 笹川平和財団海洋政策研究所主任研究員
    他ゲストなど多数
  4. 協議概要

(1)合田浩之東海大学教授による報告概要

海洋安全保障を考えるうえで船の国籍や船会社の国籍も重要な点である。日本商船隊は、日本のオペレーターが運行管理する船であり、日本籍船は保有形態全体の11.3%に過ぎず、66.4%は便宜置籍船(置籍国の半分以上はパナマ)である。日本の商船隊が世界の商船隊に占めるシェアは11.5%であり、国力の2倍ほどプレゼンスがある。しかし、日本商船隊のなかには外国企業から用船している場合もある。それ以外に、日本の会社が所有しているものの、自分たちではオペレーションしていない船もあり、これらは日本商船隊に含まれない(日本の船会社の船の45%)。

便宜置籍船が行われる理由として、外国人船員を自由に配乗でき、船籍国による船主へのサービス、金融機関にとって都合の良い抵当権制度等があり、トン数比例税制など税制政策によって促されている。日本においても希望する場合、日本船舶および準日本船舶を対象としたトン数比例税制が適用されているが、適用される会社には日本船籍および日本人船員の増加が義務付けられている。しかし、近年では経済的メリットはなく、負担額の方が大きい。日本商船隊に乗り組む船員のうち、フィリピン人が7割を占めている。日本船籍船に外国籍の船員が配乗する場合、海外貸渡し方式あるいは全日本海員組合との協議によって認められた場合、全乗(一人も日本人が乗らない)の場合もある。コンテナ船の運航会社の実情として、シンガポールに配船・運行管理・採算管理の会社を置いて営業している。つまり、便宜置籍船を利用し、船舶管理はシンガポールの子会社が担当し、フィリピン人やインド人船長のもと、フィリピン人船員がマンニングする形態となっている。

(2)自由討議

合田メンバーの報告を受け、参加者と合田メンバーとの間で、以下のような協議が行われた。

参加者:船の所有や運行管理等によって会社が異なるが、最も利益の大きい分野はどこか。船会社の利益において、どの部分の利益・損失の変動が大きいのか。
合田メンバー:業界として、どこかが独り勝ちするようなものではない。オーナーとオペレーターは対等の関係であるが、運賃や用船料の部分(需給関係で決定)で変動がある。
参加者:乗組員としてフィリピン人が多い理由は何か。また、乗組員のライセンス取得・教育システムの統一性はどうなっているのか。
合田メンバー:ライセンスに関して、IMOのSTCW条約に基づいて取得されている。フィリピン人の多い理由としては歴史的な経緯(経路依存性)が大きく、英語が堪能かつ海外で働く意欲があり、賃金が安い。また、働くうえで日本人とフィリピン人との組み合わせが良好であった。ただ、船会社はフィリピン人以外の乗員も増やせるように努力しているところである。アフリカにも船員養成学校はあるが、日本の船会社が自営しているものではない。

参加者:わかしおの事故のような場合、運航会社の責任は問われるのか。
合田メンバー:わかしおの事故に関して言えば、法律上運航会社に責任はない。運航会社の指示は出発地と目的地の指定であり、その過程で海図上のどこを通過するかは船長の判断による。船長はオーナーが雇用している。
参加者:わかしおの事故への国家の対応として、道義的観点から基金を設立して沿岸国に協力する姿勢である。日本からのモーリシャスへの支援部隊は、モーリシャス当局からの依頼を受ける形で派遣している。

参加者:ダイヤモンドプリンセスのように船内で感染症が発生した場合、船籍国にはどのような責任が生じるのか。
合田メンバー:船籍国が船主に対して適切な法執行を行っていたかが問われる。WHOの船舶衛生ガイドラインに基づいて船舶内を衛生面で適切に管理させていたかどうかが問題となる。適切に管理できていた場合、行政上の過失の面から国家の責任を問うことは難しいだろう。ダイヤモンドプリセンスの事例において、那覇での検疫後に発症の疑いが出たため横浜で再検疫の措置が取られた。日本の検疫法上、検疫済証を取れない限り入港できない(入港待ちが必要)が、その法執行は厳格に守れられた。今回は検疫法上の例外措置として着岸させ、乗客等を降ろし、薬品を搬入した。今回の措置について、日本国内への拡散を防ぎ封じ込めることができたかが問題であるが、稚拙な面はあったかもしれないものの、日本国内への感染者の拡散を防ぐという面で合格点には達していた。
参加者:ダイヤモンドプリセンスの事例で問題となったのは、薬品の搬入等について法律上管理権限のある船長から断られたことである。こうした場合、入港国としてどこまで強制的に実施可能なのか整理する必要がある。船籍国である英国や運航管理会社のある米国、入港国である日本の間で感染防止のうえでの第一義的責任を負うのがどこか、海洋条約上明確でないことが明らかとなった。

参加者:海や国をどのように守っていくのか考えた場合、「船が国家に帰属しているのか」は押さえておく必要のある問題である。香港の制度が変わった場合(香港の中国化)、中国船籍と香港船籍の合計はパナマに次ぐ規模となる。その場合、中国の海洋に対する影響力は強くなると予想される。日本の船会社と中国の船会社とでは立ち位置が異なるため、国際的な船の世界も二極化することになりかねない。
合田メンバー:香港船籍については中国とは異なる法制度が担保されている前提と、英国時代の海運会社にとって都合の良いもが残っているという前提で魅力があった。香港置籍にはメリットもあったため日本の船会社も行っていたが、実利を選んで置籍していた会社が転籍する可能性がある(一部転籍が始まっている)。したがって、すべての香港船籍が中国置籍になるとは考えづらい。また、中国の非国営の船会社の場合、中国船籍でビジネスを行う上で自由度がないため海外に移っている事例もある。ただし、世界的にみて船籍数の規模を考えた場合、IMO等で一定の影響力は持つだろう。
参加者:中国国防動員法があるため、中国人や中国資産が関わる場合、企業が海外にあったとしても中国政府の支配権に置かれてしまう。IMOにおいて中国の影響力は確実に強くなっており、国際ルールのなかで中国がどこまで自国の方針を維持できるのかは注目すべきだろう。一帯一路の戦略として、海上における船の数を増やすことも中国の戦略の一つである。

参加者:これまでマーケットメカニズムで動いていたなかで、アフターコロナのおいてどのような展開が考えられるのか。
合田メンバー:コロナ禍において人の移動は止まったが、モノの動きは回復している。しかし、船員の交代が難しいなかで船を動かし続けているのは確かである。全く影響がないわけではないが、物流を止めない努力はなされており、少なくとも貨物の流れについては影響を脱している。中国が発展してきたなかで、どこまで中国人船員を確保し続けられるかは注目すべき点であろう。現状においても中国人船員となるのは、中国の内陸部出身者などになっている。

以上、文責在事務局