公益財団法人日本国際フォーラム

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第7回定例研究会合
  1. 日 時:2024年3月26日(金)午後2時半-午後3時半
  2. 形 式:ZOOMによるオンライン会合
  3. 出席者:8名
[主  査] 廣瀬 陽子 慶應義塾大学教授/JFIR上席研究員
[メンバー] 宇山 智彦 北海道大学教授
遠藤  貢 東京大学教授
畝川 憲之 近畿大学教授
高畑 洋平 JFIR常務理事・上席研究員
三船 恵美 駒澤大学教授/JFIR上席研究員

(メンバー 五十音順)

[JFIR] 渡辺  繭 理事長
伊藤和歌子 常務理事・研究主幹
  1. 議論の概要

(1)開会挨拶

冒頭、伊藤研究主幹より本事業の審査・評価委員会による中間評価についての説明があった。続いて、主査およびメンバーより、今年度の総括及び次年度の研究課題について発言がなされた。

(2)各メンバーからの総括と次年度の研究課題

<廣瀬主査>

この研究会は広いパースペクティブで始まり、計画書を作るときには考えていなかったグローバルサウス、コーカサス、大洋州の連関が立体的に見えてきたことは興味深い副産物で非常によかった。現状の世界を考える上で、グローバルサウスとウクライナ戦争が鍵になると考える。ロシアの継戦能力を考えていく上でも、ロシアの国際的孤立の有無を考える上でも、グローバルサウスが握る影響力は相当大きい。実際、ウクライナ自身もグローバルサウスの賛同がなければ全ての問題をクリアするような和平は結び得ないと感じているだろう。他方で、コーカサスの国もウクライナ戦争とロシアに非常に色濃く影響を受けている。ロシアが地域の不安定な要素に付け込んだり、周辺国が戦争特需とも言えるような状況を享受していたりと、双方にさまざまなインタラクティブがあり、結局、ロシアと周辺国の関係が断ち切られることはなかなか想像できない実情がある。さらに、今年は選挙イヤーということで、多くの国で選挙が行われ、国際政治の景色が大きく変化することが予想できるが、グローバルサウスの重要性というのは全く変わらないであろうと予測される。よって、グローバルサウスとウクライナ戦争に軸を置いて来年度も研究を続けていければいいだろう。

<遠藤メンバー>

ウクライナ戦争に加えてガザ情勢の問題も現在注目を集めている。ガザ情勢は、南アフリカがICJへ提訴する動きという形でアフリカと繋がっている。アフリカ地域は非常に大きな国際政治秩序形成における変化を体現していて、関係性の変容が起きていると考える。スーダン内戦やソマリアがトルコと関係構築を新たな関係を構築し始めたことなど、非常にサヘル・西アフリカでダイナミックな動きが見受けられる。さらに、ロシアはサヘル、西アフリカ地域を中心に進出を強め、国連、フランス、アメリカもサヘル地域からの撤退を余儀なくされる状況になっている。
 外務省にとってもアフリカに関する議論や情報は今後重要になると考える。昨年来グローバルサウスに関するセッションやセミナーに外務省を介して動員されているなど、外務省はグローバルサウスの一角としてのアフリカとの関係構築を積極的に行っていると感じる。さらに、今年のG7の議長国イタリアは、1月末にアフリカとのサミットを開き、今年のG7の議題の中にアフリカを入れると言っている上、来年度にはTICAD9が開催される。引き続き、アフリカ政策パネルの開催とこの研究会のジョイントが可能かどうか、まだどのようにより生産的なプロダクトを作るか議論をしていきたい。

<宇山メンバー>

私は、今年度国際政治学会やこの研究会でグローバルサウスについて議論をする機会が何度かあったが、このグローバルサウスという言葉は由来から考えると、今の使い方はおかしいと感じる。なおかつ、グローバルサウスが一つのグループであるように考えることも大きな間違いに繋がるため、分析概念としては使わないほうがいいと感じる。
 他方で、グローバルサウスと呼ばれる多様な地域が注目を浴びているというのは確かに重要な現象であると考える。アフリカには南アフリカやナイジェリアなどの相対的な大国はあっても、世界政治の中で一つの極を成すような大国ではないため、狭間の政治学を、単に地理的に大国に挟まれた地域の立ち振る舞いというだけではなく、複数の大国との関係の中で自分たちの国益を追求しようとする国々の外交として考えれば、中央アジア、コーカサス、太平洋、アフリカ地域に共通する点があるとこの研究会を通して感じた。そのため、グローバルサウスと呼ばれる地域を視野に入れることと狭間の政治学的な複数の大国と中小国の関係を見る視座というのは、十分に両立するのではないかと思う。
 この1年間、ロシア・ウクライナ戦争は、どちらかというと戦況が大きく変わらないことが特徴的であったと感じる。中央アジアは、戦争が始まり間もない頃に私が書いた「様子見」という状態が続いている。特に、エネルギー問題ではロシアとの協力がますます重要になっている。一方で、カザフスタンはロシア以外のパートナーとの関係を非常に積極的に強め、クルグズスタンやウズベキスタンはロシア以外の国に労働移民を送ることにとても熱心になっている。このように色々な方向での変化が見えてきているため、ウクライナ戦争が続く中、他の国々がどのように振る舞っているかを分析・提言をするのが引き続き我々の課題であると考える。また、今までは国内読者が中心であったが、今後は外国でも読んでもらうような分析や政策提言を作成できるといいだろう。

高畑メンバーからの質問:現在使われている「グローバルサウス」と冷戦期に使われていた「第三世界」の違いは何だろうか。
 ⇒「グローバルサウス」はもともと、南の国々がいくらあがいても、北への従属から逃れられない状況を問題視する冷戦期の従属論に繋がるような考え方で、南の国々、さらには居住国にかかわらず抑圧されている人々の解放を求めていくという運動から出てきた言葉である。これは、冷戦時代の第3世界を解放するという思想から連続しているものである。グローバルサウスは、冷戦が終わったのに、第3世界なんていう言葉を使ってるのはおかしいから何か代わりの言葉を見つけようということで広まったので、国家群だけを指しているわけではないという違いはあるが、2つの言葉には共通性の方が遥かに大きいと思う。一方で、現実の世界の変化を見ると、かつて第3世界は、その中に相対的な大国と小国はあっても、より豊かな国々との違いというのは非常に明確であった。だから大国も中小国も一緒になって、南北格差を解消していこうという動きが存在していた。今は、中国のように、サウスの中から野心的で経済力のある大国がいくつも出てきたということで、弱い南と圧倒的に進んでいる北という構図が崩れてしまった。(宇山メンバー)

<高畑メンバー>

去年デニス・ベルダコフ・キルギス大統領府付属国立戦略研究所(NISS)顧問との意見交換を行ったので、ここでその議論を簡単に紹介したい。はじめに、本研究会について紹介するとともに、私のユーラシア観について私見を述べた。ベルダコフ氏からは、日本でこのような先駆的な研究会を実施することに対して、敬意を表明する一方で、中国のキルギスに対する進出はかなり進んでいるのが実情である。可能であれば、もう少し前から設置されていたら、是非この研究会と協働したかった。今キルギスが求めているのは、より具体的な経済協力や経済援助である。ぜひ、経済界と学術界の連携についても研究を進めてほしいとの、要請があった。

<三船メンバー>

冷戦時代に提唱された「グローバルサウス」ということばは、西側陣営にも東側陣営にも属さない第三世界の呼称であったことから、中国は冷戦時代からグローバルサウスという言葉を積極的に使ってこなかった。しかし、2023年1月にインドが主催した「グローバルサウスの声サミット」や2023年5月に日本が主催した広島G7サミットが「中国を含まないグローバルサウス」外交を展開し、6月8日にアメリカの上院外交委員会が一部の国際機関における中国の「発展途上国」としての地位を剥奪する法案を全会一致で可決すると、中国は西側やインドによる地政学的な含意をもつグローバルサウス外交に対して懐疑的になって批判を繰り返し、中国は2023年の7月のBRICS安全保障担当上級代表会議において、「永遠に中国は途上国の一員であって、グローバルサウスの当然のメンバーである」と訴え、中国はグローバルサウス外交の攻勢に転じた。
 SCOにおいてもBRICSにおいても、中東を入れてメンバーを拡大することで、従来の機能を広げ、単なる協力の枠組みであった両者を、ある種のペトロダラーシステムやSWIFTに対する手段としていきたいという狙いがうかがえる。とは言え、このようなねらいは、必ずしもうまくいっていない。例えば、アルゼンチンの新大統領はBRICSに入らないと選挙のキャンペーン中から宣言し就任後にその方針を伝えている。サウジアラビアは1月1日にBRICSに加盟したと報じたられていたが、同月16日、サウジアラビアの商業相はダボス会議で「サウジアラビアはBRICSに加わるよう招かれているが、まだ正式には加盟していない」と語っている。サウジアラビアの加盟も中国の思い通りに進んでいない。
 今まで日本では第1列島線と第2列島線が注目されてきたが、第3列島線、第4列島線、第5列島線、そして第6列島線において中国は2030年までに基地や拠点を作ることを考えているため、ユーラシアや地域、アフリカ、中東の視角から研究することが望ましい。

<高畑メンバー>

グローバルサウスの捉え方は識者によって違うため、この研究会としてグローバルサウスをどのように定義するのか、そして他の国・地域の横串しとして、「狭間」を拡大させるという捉え方は、きわめて有益でではないかと考えている。

<畝川メンバー>

この研究会を通して、アフリカやコーカサスについて新しい知見を色々得ることができて、とても良かった。個人的には、今後、特に中国の影響力が拡大している太平洋島嶼国における日本のプレゼンス拡大へ向けての外交の在り方について研究を進めてきたい。新しい対島嶼国外交方針が打ち出されることが期待されてきたが、第10回島サミットにおいて日本独自の外交方針は打ち出されるのか。真新しいものとしては、女性のエンパワーメントが島サミットのアジェンダに組み込まれるであろう。
 日本独自の外交方針とはどのようなものか、日本がどのように島嶼国において協力を拡大していくか考える必要がある。日本は米中対立が進む同地域で、どのようにFOIPの賛同を得ていくのか、また米中のミドルパーソンのような立場をとるべきかという点についても今年度は考えていきたい。さらに、ソロモン諸島は2024年が選挙イヤーになっているので、政権交代があるのかどうかなどモニターしていきたい。フィジーにおいては、意思決定がしにくい状況にあるという情報を得ているため、大国であるフィジーの動きもモニターしていきたい。
 9月からサバティカルでニュージーランドに行く予定であり、ニュージーランドは米中対立の中で比較的中立的な立場であるため、日本とニュージーランドの協力可能性についても現地で研究していきたい。

(3)活動予定とメンバーの海外出張の確認

<活動予定>

・基本的に企画書に書いたように進める
   -研究会を2ヶ月に1度
   -国際ワークショップ
   -シンポジウム
   -識者との意見交換

・今年度始める活動
   -国会議員との意見交換会
   -外務省のコーカサスやアフリカ担当部局との意見交換会
   -商業出版

<海外出張の確認>

・畝川メンバー:ニュージーランドに9月からサバティカルで出張

・三船メンバー:
   -バーレイン、または、アラブ首長国連邦で夏休みか春休みに中国の一帯一路政策について聞き取り調査を行う(研究会のお金を使わない)
   -中国に行く予定はない、中国の方を招く予定もない

・宇山メンバー:
   -ロシアに行く予定はない
   -多くの研究者が国外に出ているため、オンラインで話し、日本に招くことは可能

<今後の予定>

・高畑メンバー:2年度の第一回研究会は外部識者をお迎えして5月中に開催したい

・伊藤主幹:海外からの客員研究員を招いてのワークショップの可能性も検討したらどうか

(文責、在日本国際フォーラム)