公益財団法人日本国際フォーラム

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第6回定例研究会合
  1. 日 時:2023年12月20日(水)午後2時半-午後4時
  2. 形 式:ZOOMによるオンライン会合
  3. 出席者:22名
[主  査] 廣瀬 陽子 慶應義塾大学教授/JFIR上席研究員(担当、コーカサス)
[メンバー] 宇山 智彦 北海道大学教授(担当、中央アジア諸国)
遠藤  貢 東京大学教授(担当、アフリカ地域)
小柏 葉子 広島大学教授(担当、島嶼海域)
畝川 憲之 近畿大学教授(担当、東南アジア・オセアニア地域の政治)
高畑 洋平 JFIR常務理事・上席研究員*(担当、日本外交)
三船 恵美 駒澤大学教授/JFIR上席研究員(担当、中国)
[JFIR] 渡辺  繭 理事長
伊藤和歌子 常務理事・研究主幹  ほか14名
  1. 議論の概要

(1)遠藤貢メンバーより報告

<「薄い覇権」概念>

グローバルなインド太平洋地域を特徴付ける「薄い覇権」「薄い自由主義秩序」といった概念が提起されてきた。これは、「異質で、相対的に自律的な構成要素からなる覇権的な国際システムであり、これらの構成要素が密に、またしばしば協調的に相互作用し合うものの、その規範的な選好が一点に収束することはなく、支配的な権力の選好を反映することもない。そして、この支配的な権力は、このシステム(あるいはその一部)を緩やかに構造化するにとどまり、何らかの公共財を提供する役割を担う」(Verhoeven 2021)と定義されてきた。アフリカでは、一定の覇権的な地位にあったとも思われるフランスや国連PKOが撤退し、ロシアのワグネルの活動が非常に目立つようになっていることから、この「薄い覇権」という概念はアフリカを取り巻く状況を考察する上で援用可能であると考えられる。

<中国のアフリカ関与>

中国は、習近平体制になってから一帯一路構想を展開し、アフリカ地域では東アフリカ諸国のみならず、広域的に多くの国が署名をしている。中国のアフリカ諸国への関与の狙いは4つある。第1に、国連等を中心とした国際機関における一定程度の政治的な支持を得ること。第2に、アフリカ大陸に居住する約100万人の中国人の安全の確保。第3に、アフリカにおける安全保障への関与の強化。第4に、アフリカ大陸における輸送網の整備を通じた大陸レベルでの連結性の強化と、巨大市場の実現。特に、長期的にはアフリカ大陸自由貿易圏(AfCTA)を見据えたアフリカ大陸の巨大市場へのアクセスや大西洋を挟んだ南米との連結性まで見据えた巨大経済圏構想を狙っていると考えられる。このようなアフリカ関与の狙いは、習近平国家主席による基調演説における発言に裏付けられている。
 このような中国の狙いは、21世紀のアフリカにおける中国のプレゼンスの高まりとして体現している。資源開発を目的とした融資にみられた「アンゴラ型モデル」が従来は一般的であったが、近年はジブチの自由貿易区などにみられる経済特区の開設など、貿易を通じた協力を進める「泰達協力モデル」も見受けられる。さらに、ジブチからエチオピアを繋げる古い鉄道を近代化するプロジェクト融資やケニアやナイジェリアで鉄道建設が盛んに行われていることから、インフラ建設も中国の対アフリカ関与の重要な一端であるといえる。
 2000年から、中国・アフリカ協力フォーラム(FOCAC)が開催されてきた。従来は、FOCACで経済関係が重要視されていたが、2021年に開催された第8回閣僚会議(FOCAC8)を受けて、従来に比べて政治関係強化に力点が置かれるようになった。このような政治的な関係強化という面で注目すべき動きとして、ムワリム・ジュリウス・ニエレレ・リーダーシップスクール(Mwalimu Julius Nyerere Leadership School)の開校が挙げられる。このスクールは、様々なアカデミックな交流を行うために2022年2月に開校され、中国共産党とアフリカ南部諸国からの資金協力を得ている。ここでは、中国共産党とアフリカ南部諸国与党のエリート間の人事交流を進めるためのトレーニングプログラムが行われている。

<ロシアのアフリカへの関与>

ロシアは、近年サミット級の会合を開催しているほか、軍事、鉱物資源開発、原子力施設建設、メディアなどの領域でのアフリカ諸国との関係強化に向けた動きが観察される。さらに、国連総会での支持獲得等を含む地政学的(外交的)利益と、民間軍事会社ワグネルの活用を含む軍事的利益の2つを中心にアフリカ戦略をロシアは展開してきたと考えられる。具体的な活動としては、選挙における情報偽装・偽情報キャンペーン、中央アフリカやスーダンではワグネルを中心とした軍事組織と現地政府との関係強化の動き、”The Tourist”というプロパガンダ映画の制作が指摘されている。
 ロシア・アフリカ関係の新展開として、アフリカ首脳を招いたロシア・アフリカサミットを2019年以降開催が挙げられる。第一回のサミットでは、武器輸出や対テロ協力を通じたアフリカ地域への影響力強化が明確化された。2023年7月に第2回のロシア・アフリカサミットが開催され、第一回のサミットに比べて、17カ国の首脳参加が減少していたことや、また、ウクライナからアフリカ諸国に対する穀物輸出の減少を受けてロシアがアフリカ諸国に対して食糧輸出の協力を宣言したことなどが変化として指摘されている。さらに、第2回サミットでは、2026年までのロシア・アフリカ間パートナーシップの行動計画が採択された。

<サヘル・アフリカを中心とした不安定化>

サヘル・アフリカ地域やアフリカの角は極めて不安定化しており、不安定化の裏にはロシアの関与が見え隠れている。この地域には、ジハディストというイスラームの武装勢力、また、平和活動の展開を試みるアフリカ連合、フランス、国連のPKOなど多くのアクターが活動を行っているが、なかなか成果が上がらないままに不安定化が進んでいる状態が続いている。
 サヘル・アフリカに位置するマリでは、2回クーデタが起きており、クーデタで誕生した暫定政府がロシアとの関係強化を図る動きがみられた。その後、ラブロフ外相がマリを訪問し、2023年2月に行われた国連総会では、エリトリアと共にロシアを支持する反対票を投じていることから、ロシアとの距離を非常に縮めるような動きがみられた。ニジェールは、サヘル・アフリカにおいて、唯一民主主義的な価値を西側と共有できるとされる国であったが、2023年7月にクーデタが起き、フランス大使館前に数千人のデモ隊が詰まるなど、フランス批判、ロシア賞賛の動きがみられた。ガボンにおいても、2023年8月にクーデタが起きた。
 このような繰り返されるクーデタの背景には、フランスの植民地時代の統治方法や独立後も続くフランスの密接な関与が考えられる。イギリスの植民地統治は開発を中心に置いていたのに比べて、フランスは同化政策を中心としており、フランスの政治家とアフリカの政治エリートの間に根深いネットワークが構築されてきた。このような独立後も続くフランスとアフリカ諸国の密接な関係における「脱植民地化」の新局面として現在のクーデタを理解できる。また、フランスを含む西側諸国を中心とした「強国」(安保理常任理事国)に対する不信感も背景にあると考えられる。
 2023年4月にスーダン内戦が起き、スーダン国軍(SAF)と準軍事組織即応支援部隊(RSF)間が対立した。RSF側は、広域から戦闘員・武器調達をしており、その中でもロシア(ワグネル)が関与していると報道されており、スーダン情勢とロシアの関与は地域的な不安定化を推し進めているといえる。

<アメリカの関心と関与>

2022年8月に公開された「アメリカのサハラ以南アフリカの戦略」という文章においては、アメリカにとってアフリカという地域の戦略的環境は変化しており、その脅威として、中国とロシアが名指しで問題として指摘がされている。それに対して、アメリカは、中国やロシアを含む他の外国主体への対応を図るというメッセージを文章中に示し、中国とロシアの活動の批判的な評価をしている。
 2022年12月にオバマ政権以来のアメリカ・アフリカサミットが開催された。会合において、アメリカの対サハラ以南アフリカ戦略で指摘されたようなロシア・中国の活動に対する批判的な見方をオースティン国防長官が指摘した。ロシアについては、特に、ワグネルや武器の問題が地域を不安定にさせる可能性があると指摘をした。経済関係については、アフリカ成長機会法(AGOA)を2025年以降更新するか否かの問題について話された。AGOAとは、アフリカ経済に米国市場への免税アクセスを認める法律であり、米国市場のアクセスを得る資格要件として、アフリカ諸国は政治的多元主義、人権尊重、法の支配等を尊重する必要がある。さらに、サミットでアフリカ連合がG20に加わることや、国連安保理にアフリカの常任理事国を含めるための改革についても話された。
 2023年11月にAGOAフォーラムが開催された。会議に先立ち、中央アフリカ、ガボン、ニジェール、ウガンダの4カ国が2024年一月一日以降の資格剥奪が発表された。中央アフリカ、ガボン、ニジェールはクーデタ問題を理由に、ウガンダはLGBTQに対する厳しい法律の制定を理由に資格が剥奪される。

<アフリカが暗示する世界>

2022年2月の国連安保理においてケニア国連大使であるマーティン・キマニは、ウクライナの領土的一体性の侵害、植民地主義に対して強い懸念と反対を表明し、また、安保理メンバー諸国を含む峡谷に対しての批判も述べた。この言葉は、アフリカにおける覇権の弱まりを示し、現在のアフリカ諸国が置かれている状況を映し出しているといえる。

(2)質疑応答

Ⅰ ①中国とロシアはアフリカ地域においてどの点で利害が一致し、どの点で競争しているか。 ②ワグネル抜きのロシアの公的機関は総合的に見て、アフリカにおいてどの程度の存在感を示しているか。 (廣瀬主査)
 ⇒ ①中国とロシアがアメリカの進出に対して協力をしているような感じは全くせず、ロシアと中国がそれぞれの立場でそれぞれのターゲット国と関わっていると感じる。中国はロシアとどの程度競争をし、軋轢が起きているのかは不明である。中国は、中国人が犠牲になることを嫌うため、中国は軋轢をできるだけ回避する形で地域選択をしていると考えられる。さらに、一帯一路構想のプレゼンスは東海岸を中心としているため、ロシアが非常に関心を持って進出している地域における中国の関与は限定的にならざるを得ないと感じる。中国とロシアがアメリカの進出に対して協力関係を築き、何かプロジェクトを進めている印象はない。 ②政権の足元がおぼつかないような地域においてはワグネルを中心としてネットワークが関与しており、行政能力がそれなりにあり、ワグネルが入り込みにくい地域においては、ロシア政府が入り込む動きを示している印象である。(遠藤メンバー)

Ⅱ ①ロシアは反植民地主義をアフリカにおいて揺り起こすようなことをしているか。 ②EUのアフリカ諸国に対するアプローチはどのようなものか。(小柏メンバー)
 ⇒ ①フランスから独立以降、西アフリカではフランス人のビジネスが残っていて、フランスは軍を駐留させていた。アフリカ諸国の政治独立以降の関係の作り方においてフランスがかなり特殊であったことが現在の反仏環境に大きく影響を与えていると感じる。 ②EUは経済面における優遇的な政策を従来から行ってきた歴史はあるが、近年特にアフリカにおける平和維持活動が目立つ。例えば、ミッションを一つ立てることはアフリカ連合にとって大きなコストとなるため、EUは兵士に対する資金協力を行っている。しかし、EUは対処療法でコストがかからないようなことに対する資金援助をしているため、根本的に問題は解決せず、平和活動の成果があまりみられないことが現状だと考える。ロシアは、反仏感情が強いところにディスインフォメーションプロパガンダを立て、フランスの代わりにロシアが入り込もうとしていると評価できる。(遠藤メンバー)

Ⅲ ①ギャラップの国際世論調査を見ると、アフリカ諸国はどの大国とも良い関係を保ちたい意思が見えてとれる。ロシア、中国がアフリカに入り込むことはどの程度欧米など、他の大国の影響力を排除することにつながるか。 ②フランスやイギリスは大西洋側の地域を植民地時代に重視していたが、大西洋側で反仏感情が盛り上がるということは現在あるのか。 ③強い反仏感情はアフリカ諸国で確かにあるが、非常にフランスと植民地の関係性が強いがゆえに親仏感情も強いと歴史研究者から聞いたことがあるが、この点についてどう見ているか。(宇山メンバー)
 ⇒ ①アフリカ諸国がどの大国ともいい関係を保とうとする傾向はあると考える。そのため、今後与えられた条件が変化すれば、中国やロシアへの協力よりも他国との協力を強める可能性はあると考える。
②③沿岸に近い地域は、比較的フランスとの関係は悪くないと感じる。本日挙げた地域での反仏感情は、ジハディストという武装勢力の存在が背景になると感じる。ジハディストに対してフランスは軍事作戦を展開せず、目に見える形で成果を残せていないことから反仏感情が強くなりやすいと感じる。(遠藤メンバー)

Ⅳ中国は、アフリカとの間でサイバー空間における運命共同体に関する共同構築に関するイニシアチブ等を展開しているが、国際会議における中国の国際ルール作りにおいてアフリカの国々がどの程度協力しているか。 (伊藤JFIR)
 ⇒技術的な協力について中国は積極的に入り込んでいる可能性は高いと考えるが、国際的なルールや基準作りについての具体的な協力についての情報は今持っていない。(遠藤メンバー)

(文責、在事務局)