公益財団法人日本国際フォーラム

2023年4月28日、日本政府は、日本が外国勢力から武力攻撃を受けた事態において、自衛隊法80条1項に基づき海上保安庁を防衛大臣の統制下におく手続きや、防衛大臣の統制下において海上保安庁がいかなる活動を行うかなどを整理した「統制要領」を策定した。

自衛隊法80条1項は、内閣総理大臣は自衛隊に防衛出動を発令した場合に「特別の必要があると認めるときは、海上保安庁の全部又は一部を防衛大臣の統制下に入れることができる」と規定している。

たとえば外国勢力が武力を用いて日本を侵略した場合に、日本政府は自衛隊法76条1項に基づき「防衛出動」を発令し、閣議決定によって「武力攻撃事態」を認定し、それにより、自衛隊は自衛隊法88条1項および国際法上の自衛権に基づき日本を防衛するために必要な武力を行使することで事態に対処する。

日本政府はこれまでそのような事態における海上保安庁の活動などに関する統制要領を策定してこなかった。今回の統制要領の策定により、防衛出動の発令がなされた事態において、自衛隊と海上保安庁が連携・協力しつつ、海上保安庁がいかなる位置づけで・いかなる活動を行うかについて、一定の整理がなされた。

統制要領では、海上保安庁を防衛大臣の統制下におく手続きについて、閣議決定に基づき統制下におくとの整理がなされた。

また、防衛大臣の統制下で海上保安庁がいかなる活動を行うかについては、例示として、国民保護措置(住民の避難および救援)、捜索救難および人命救助、船舶への情報提供および避難支援、港湾施設等へのテロ警戒、大量避難民への対応措置の5点を掲げた。防衛大臣が防衛省・自衛隊に集約された情報とその分析をふまえて海上保安庁長官を指揮し、その指揮をふまえて海上保安庁長官が海上保安庁職員を指揮監督し、海上保安庁職員によってこれらの活動が行われることで(防衛大臣が海上保安庁の活動を直接に指揮するわけではない)、自衛隊が日本を防衛するために必要な武力行使に集中できるようになることが企図されている。

統制要領では、海上保安庁は防衛大臣の統制下においても法執行機関であることに変更はなく、またその活動が法執行活動であることについても変更はないとされている。海上保安庁は防衛大臣の統制下におかれることになっても、国際法上の軍隊となるわけではない。そのため、防衛大臣の統制下の海上保安庁は「平時」ではなく「戦時」(武力紛争法という武力紛争における戦闘行為の方法や手段などに関する国際法が適用される状況)で活動するものの、海上保安庁の位置付けや活動は平時のそれらと何ら変更はなく、それゆえ海上保安庁の設置法・作用法である海上保安庁法の改正は不要とされた。

ただ、防衛出動の発令がなされ、武力攻撃事態の認定がなされるような事態における海上保安庁の活動が国際法の観点からも法執行活動であると評価できるか、国際法上の軍事活動に踏み込んでいないかについては、関連の国際判断をふまえると、当該活動が行われる海域・目的・内容・効果等によって決まる。事態に対処する主体の国内法上の位置付けが国際法上の軍隊ではなく法執行機関であるからといって、当該機関による権限行使が、国際法上、当然に軍事活動ではなく法執行活動にあたることになるわけではない点には留意する必要がある。