公益財団法人日本国際フォーラム

はじめに

202212月に改訂された「国家安全保障戦略」において、日本が優先する戦略的アプローチの一環として、日本を全方位でシームレスに守るための取組の強化が挙げられた。具体的には、①サイバー安全保障、②海洋安全保障・海上保安能力、③宇宙安全保障、④安全保障関連の技術力の向上と積極的な活用、⑤情報に関する能力の向上、⑥有事も念頭に置いた日本国内での対応能力の強化、⑦国民保護の体制強化、⑧在外邦人等の保護、⑨エネルギーや食料等国家安全保障に不可欠な資源の確保の9項目である。これらはいずれも極めて重要な課題であり、早急な対応が必要である[1]
 そして、海洋安全保障・海上安保能力については、航行・飛行の自由や安全の確保、法の支配を含む普遍的価値に基づく国際的な海洋秩序の維持・発展のための取組として、シーレーンにおける海洋状況監視、共同訓練・演習・寄港による多国間の海洋安全保障協力の強化、海賊対処や情報収集活動等による海上交通の安全確保、国際法に基づく紛争の平和的解決の推進、シーレーン沿岸国との関係の強化、北極海航路の利活用やジブチにおける拠点の活用等を図ることが挙げられた。また、海上保安能力の大幅強化と体制の拡充のための対策や、米国、東南アジア諸国等の海上法執行機関との国際的な連携・協力の強化などの方針も示された。これらは、海洋安全保障の軍事的側面を強化するために有効である[2]
 また、エネルギー安全保障の確保については、資源国との関係強化、供給源の多角化、調達リスク評価の強化等に加え、再生可能エネルギーや原子力といったエネルギー源の活用と開発、同盟国・同志国や国際機関等との連携によるエネルギー自給率向上に向けた方策の強化などが示された。食料安全保障については、食料の安定的な輸入と適切な備蓄、国内生産の増加、海外依存度の高い品目や生産資材の国産化等による安定的な食料供給の確保、同盟国・同志国や国際機関等との連携による食料供給に関する国際環境の整備、食料生産の向上及び脆弱な国への支援等の実施が挙げられた[3]
 以上のように、最新の「国家安全保障戦略」では、海洋安全保障・海上安保能力の強化やエネルギー安全保障や食料安全保障の確保のための取り組みを行うことが具体的に提示された。しかしながら、経済安全保障の強化や日本のサプライチェーンの強靭化のためには、エネルギー資源や物資の運搬手段である海上輸送の安定的な確保も極めて重要であるにもかかわらず、海上輸送手段についてはほとんど焦点があたっていなかった。そこで、本稿では、日本の船舶保有状況からみた日本の海上輸送における対外依存度の高さを指摘し、日本のサプライチェーンの強靭化を考えるうえでの示唆を提示したい。

日本商船隊の船舶保有状況

日本は多くの物資を海外に依存している。例えば、日本海事広報協会によると、エネルギー資源の対外依存度は、鉄鉱石は100%、石炭99.7%、原油は99.6%、天然ガスは97.9%である。食料では、とうもろこし(飼料)は100%、大豆は94%、小麦は85%、砂糖類は64%、果実は62%、魚介類は45%、肉類は47%となっている[4]
 しかも、エネルギー資源や食料のほとんどは、海上輸送によって日本に輸入される。2020年の場合、日本の貿易量に占める海上輸送の割合はトン数ベースで輸出入合計の貿易量の99.5%を占め、85617万トンであった。このうち、日本の外航海運企業が運航する2000総トン以上の外航商船群である日本商船隊によって輸送される輸出入貨物の積取比率は、輸出は48.8%、輸入は62.6%、輸出入では60.1%であった[5]。つまり、日本の輸出貨物の半分以上、輸入貨物の4割近くが海外の商船隊によって輸送されている。
 日本は、世界有数の海運国だといわれている。国際連合貿易開発会議(United Nations Conference on Trade and Development: UNCTAD)は、世界の海運に関するデータを毎年公表している。表1は、主要国の船会社が2022年に実質保有する1,000総トン以上の船舶数と船腹量をまとめたものである[6]


日本の船会社が2022年に実質保有する船腹量は約23,664万トンである。世界シェアでみると、ギリシャが第1位で17.6%、中国が第2位で12.7%であり、日本は10.9%で第3位である。とはいえ、日本の船会社が実質保有する船腹量に占める日本国籍船の割合は、わずか15.2%にすぎない。この日本の割合は、ギリシャや韓国、英国と同程度である。しかし、中国の自国籍船の割合は40.7%であり、香港の割合は64.6%であることに比べると、日本の自国籍船の保有割合は相対的に低いといえる。
 また、日本の船会社が実質保有する船舶は4,007隻であり、世界第3位、世界シェアの7.3%を占めている。隻数では中国が第1位で8,007隻、世界シェアは14.5%であり、ギリシャは第2位で4,870隻、8.8%のシェアである。隻数でみても、日本国籍船の割合は23.3%にすぎない。ギリシャの自国籍船の割合は12.7%と低いが、中国は66.9%、香港は47.3%であり、韓国も47.9%の高さである。このように、日本の船会社が実質保有するとはいえ、日本の自国籍船の隻数と船腹量の割合は、アジアの主要国・地域に比べると相対的に低く、外国籍船への依存度が高いことがわかる。
 表2は、2021年のトップ3であるギリシャ、中国、日本の支配船腹量をまとめたものである[7]2021年と2022年の実績を比較すると、中国の船会社が保有する船舶数と船腹量の伸びが目立つ。中国は、過去1年間で船腹量を33,287,592トン増やし(自国籍船の船腹量は7,378,223トン増)、船腹量の世界シェアを11.6%から12.7%まで伸ばした。船舶数はより顕著で、2021年の7,318隻から8,007隻へと689隻、対前年比で9.4%も増やしており、世界シェアを13.6%から14.5%まで一気に高めた。また、自国籍船は470隻増やした。以上のように、中国の船会社は保有する船舶の隻数と船腹量を着々伸ばして、プレゼンスを高めている。

おわりに

日本の経済安全保障を強化するうえで、サプライチェーンの強靭化は最優先課題である。
 エネルギー資源や食料をはじめとする戦略物資などの安定的な供給をいかに確保するかは喫緊の課題である。同時に、ほとんどの戦略物資の運搬手段が海運である以上、海運は日本の経済安全保障やサプライチェーンの生命線である。
 日本は世界有数の海運国であるが、船舶保有の点では、相対的に外国への依存度が高い。近年、海運における中国のプレゼンスが高まっている。20201月以降の新型コロナウィルスの感染爆発による世界的な物流の停滞や20222月のロシアによるウクライナ侵攻など、危機がどのような形で起こるかは予想がつかないことが多い。また、危機は突然に起こるものである。万一危機が起きた場合、その悪影響が極力小さくすむよう、日本でも平時から海上輸送の安定的な確保のための準備をしておくべきである。