公益財団法人日本国際フォーラム

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第9回公開セミナー 「長期化するウクライナ戦争:不安定化するユーラシア」

このたび、日本国際フォーラムの「ユーラシア・ダイナミズムと日本外交」研究会(主査:渡邊啓貴・日本国際フォーラム上席研究員)は、11月25日(金)に第9回公開セミナー「長期化するウクライナ戦争:不安定化するユーラシア」を下記1.~4.のとおり開催した。主な議論概要は、下記5.のとおり。

  1. 日 時:2022年11月25日(金)18時から19時半まで
  2. 開催形式:Zoomウェビナーによるオンライン形式
  3. 使用言語:日本語と英語による同時通訳
  4. プログラム
開会挨拶 高畑 洋平 日本国際フォーラム上席研究員
主査挨拶 渡邊 啓貴 日本国際フォーラム上席研究員/帝京大学教授/東京外国語大学名誉教授
基調報告者 ヴォロディミル・オフルィズコ ウクライナ元外務大臣
リード・コメント 松嵜 英也 津田塾大学専任講師
三船 恵美 日本国際フォーラム上席研究員/駒澤大学教授
杉田 弘毅 共同通信特別編集委員
土屋 大洋 慶應義塾大学教授
今井 宏平 日本貿易振興機構アジア経済研究所研究員
自由討論 参加者全員
総括 渡邊 啓貴 日本国際フォーラム上席研究員

5. 議論概要:
   本セミナーにおける議論概要は以下のとおり。

(1)開会挨拶:高畑洋平氏

ロシアのウクライナ侵攻からまもなく9か月が経過するが、その戦況は長期化、深刻化の様相を呈している。とりわけ最近では、ロシアによるウクライナ各地でのインフラ施設の攻撃も確認できており、人道の罪の問題も指摘されている。こうしたなかで、我々はウクライナ国内外で何が起きているのか、そしてウクライナに対して何ができるのかという議論の場を設けることは、極めて重要な機会であると考えている。
 

(2)主査挨拶:渡邊啓貴氏

ウクライナ侵攻前に本研究会では、オフルィズコ氏を招き議論を行った。その際、現況の悪化が起きないことを願ったが、この9か月間ウクライナは厳しい状況にさらされることとなった。本日は、ウクライナの現状と今後の見通しを含めたオフルィズコ氏の考えを共有して頂きたい。
 

(3)基調報告:ヴォロディミル・オフルィズコ氏

ロシアのウクライナ侵攻から9か月が経過した。ウクライナ検察当局によると、これまでに少なくとも8,300人以上のウクライナ市民がロシア兵士たちに殺害されたことが明らかとなった。また、戦況が日増しに厳しくなるなか、およそ数百万人のウクライナ人が故郷の土地を離れ、その結果、約5万人の人々の行方がわかっていない。

ロシアは今、ウクライナ各地の重要インフラ施設への攻撃を相次いで行っており、ウクライナは経済活動の継続が不可能な状況に陥っている。その経済的損失は3,000億ドル以上になるとの見方が強まっており、今年の国内総生産(GDP)が最大で前年比40%減と大幅に落ち込むとの見通しも示されている。
他方、欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長がロシアの犯罪を調査・起訴する特別法廷の設置を目指すと表明したことで、現在ウクライナでは、様々な情報やデータなどを収集し、ロシア政府の行為を対外的に可視化するべく準備を進めている。正式な文献または記録のなかで、ロシアが行っている活動を明確にし、理想やイデオロギー等を含め全体を精査したうえで、この戦争犯罪に対する軍事法廷を立ち上げ、正式に裁く必要がある。

他方、ウクライナは現在50%以上の領土を解放しているが、ゴールはウクライナ全土をロシアの占領から解放することであり、停戦交渉のための条件は、ロシアが拘束したウクライナ領土全てから撤退することである。ロシアは国際的に孤立している状況ではあるが、国際的な法律を蹂躙し、組織の存在理由を破壊したロシアに対して、より一層、ほかの国際組織も含めロシアを排除していく必要があるだろう。
ロシアが今後、東欧拡大をすすめていく可能性もあるなか、我々は考えるだけではなく実行に移すフェーズに移行するべきと考える。その意味では、今後、関係各国には、ロシアに対して一層の政治的・外交的な圧力をかけ、ウクライナの領土奪還に向けた協力を要請したい。

(4)上記(3)の報告を踏まえて、本研究会メンバーなどから、下記(イ)-(ホ)のコメントがなされた。

(イ) 松嵜英也氏

・ウクライナ侵攻以降、国軍だけでなく、国家親衛隊や義勇兵などの様々な主体が戦闘に参加しており、指令系統が複雑かと思うが、どのような調整がなされているのだろうか。また、今日ではどのような女性兵士がロシアの侵略戦争に参加し、役割を果たしているのか。
(→全ての軍隊が正規軍の指揮に従って動いている。また、女性に関しては戦場からの情報収集や、物資の供給等、様々なエリア、分野で活動に関わっている。)

(ロ) 三船恵美氏

・東アジアにはロシアと同様に力で現状を変更しようとする国もあるが、ロシアによるウクライナ侵攻は東アジアに位置する日本にどのような教訓があるだろうか。また、戦争終結後、ウクライナは中国とどのような関係性を構築していくことを考えているのか。
(→この戦争からの教訓は、歴史の正しい側にたつことを忘れないことである。自由とその価値を尊重する国であれば、その意志を大切にするべきであり、日本は現状十分に示している。また、中国については、積極的にウクライナを支援していない一方でロシアも支持していない。戦争終結後、ウクライナと中国の関係がどう展開していくかは予測がつかないが、これまでの中国の立場に基づいて結論をだしていくのではないか。)

(ハ) 杉田弘毅氏

・今後ウクライナ戦争の長期化、核兵器の使用についてどのように考えているのか。
(→核兵器使用の議論もでているが、この議論は現実とは乖離している。核兵器の使用は、全てが破壊されることから、ロシアは捕獲した領土も失うことになる。また、化学兵器の使用によって、文明社会はロシアを完全に社会的に切り離すことが考えられる。他方で、ロシアが攻撃を続けるにつれ、ウクライナ人のロシアへの対抗意識はより強固になっていくだろう。)

(ニ) 土屋大洋氏

・今回の戦争に伴うサイバー攻撃について、ウクライナのIT軍をみていると、ロシアの国内におけるシビリアンターゲットを攻撃の対象にしていることは明らかだ。しかしながら、サイバースペースにおいては違うロジックが適応されているようにみえるが、どのようにそれらを区別しているのか。
(→ウクライナはロシアの一般市民への攻撃はしたくないと考えている。ウクライナは独立と生命の維持について最善の努力をしており、そのための活動だと考えている。)

(ホ) 今井宏平氏

・トルコは今回の侵攻において、ウクライナとロシアとの仲介という外交姿勢をとっているが、どう評価しているか。
(→トルコの軍事的なサポートには感謝している。またウクライナの領土のなかに軍事的な施設をつくる計画にも賛同している。今後両国の交渉において、トルコが仲介を行うことになると思うが、それはロシアの全ての軍が撤退したときになると考える。)

(5)自由討論

上記を踏まえて自由討論が行われ、テーマ別に下記(イ)~(ハ)の論点が提起された。

(イ) ウクライナのNATO加盟について。(一般視聴者)

(→ウクライナはできるだけ早く、NATO加盟国にしてほしいと要求をしている。これは簡単なタスクではないが、ヨーロッパの安定化を図るためにも必要なことだと考える。)

(ロ) ポーランド領におちたミサイルについて、ウクライナによって誤って落とされたとの見方がでている がこれについてどう考えているか。(軍司泰史氏)

(→現在調査が行われており、結果はわかっていない。この戦争以降、ウクライナとポーランドは緊密な関係を構築しており、この問題で関係悪化に繋がることはないと考えている。)

(ハ) 今後の戦争の見通しについてどう考えているのか。(渡邊啓貴氏)

(→ロシアがウクライナの土地から撤退するときが、交渉の始まりだと考えている。また少なくとも保障として、3000億USドルの要求と全ての戦争犯罪に対して懲罰が必要になるだろう。このプロセスには日本にも積極的に参加してもらいたい。来春が停戦に向けたタイミングになり、ウクライナはそのタイミングで西側国家の一員になる必要があると考える。ロシアのファシスト政権が人類の歴史になったとき、どう対応していくかを我々は考えていかなければならない。)

(以上、文責在事務局)