公益財団法人日本国際フォーラム

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中国班・インド太平洋諸国班 第2回定例研究会合

当フォーラムの実施する「『自由で開かれたインド太平洋』時代のチャイナ・リスクとチャイナ・オポチュニティ」研究会内、中国・インド太平洋諸国班の第回定例研究会合が、下記1.~3.の日時、場所、出席者にて開催されたところ、その議事概要は下記4.のとおり。

  1. 日時:2022928日(水)午後14時より午後15時半まで
  2. 場所:オンライン形式(Zoom
  3. 出席者
[報告者] 北野 尚宏 早稲田大学教授
[司 会] 川島  真 JFIR上席研究員/東京大学教授(副査/中国班班長)
[メンバー] 大庭 三枝 神奈川大学教授(インド太平洋諸国班班長)
高原 明生 JFIR上席研究員/東京大学教授(中国班アドバイザー)
飯田 将史 防衛研究所地域研究部米欧ロシア研究室長
佐竹 知彦 防衛研究所主任研究官
福田  円 法政大学教授
[JRSP] 相澤 伸広 九州大学准教授
熊倉  潤 法政大学准教授
高木 佑輔 政策研究大学院大学准教授
溜  和敏 中央大学准教授
鶴園 裕基 早稲田大学客員次席研究員
内藤 寛子 日本貿易振興機構アジア経済研究所研究員
[JFIR] 伊藤和歌子 研究主幹
安井 清峰 特任研究員
佐藤  光 特別研究員
北野 有咲 特任研究助手
[外務省
 オブザーバー]
44名

 

  1. 議事概要

北野教授による報告「中国の対外援助最新状況」

(イ)中国の地域協力枠組みの変遷 

 中国は2000年代より地域協力枠組みを導入し、中国輸出入銀行優遇借款(GCL)・優遇バイヤーズ・クレジット(PBC)の供与などにより途上国との連帯を強め、途上国における中国企業のインフラ整備を下支えしてきた。また、「一帯一路」構想のもとで中国輸出入銀行や国家開発銀行などの融資をさらに拡大した。しかし、2015年の人民元切り下げを契機に、2016年まで増加傾向にあった対外投資にブレーキがかかり、2018年以降には債務問題が顕在化した上にCOVID19により状況は悪化し、融資額は急減した。2020年以降もこの傾向が続いている。

(ロ)中国の債務問題への対処

 国際開発協会(IDA)加盟国における公的債務は、中国などパリクラブに加盟していない国の割合が増えている。2018年には、エチオピアが中国への鉄道プロジェクト関連の債務を返済できなくなったことから債務の返済繰延べが行われ、G20でも債務問題が取り上げられるようになった。中国自身も2019年の第2回「一帯一路」国際協力サミットフォーラムで「一帯一路債務持続性分析枠組み」を公表するなど債務問題を意識している。そして日本がG20で主導した債務持続可能性を含む「質の高いインフラ投資に関するG20原則」に協調する方向に変化してきている。
 COVID19の影響で、国際通貨基金(IMF)と世界銀行が中心となり、最貧国(世銀IDA対象国+国連の後発開発途上国:計77カ国)より申請があれば債務返済を時限的に猶予するという「債務支払い猶予イニシアティブ(DSSI)」、さらに最も困難なケースにおいては債務を減免する「DSSI後の債務措置にかかる共通枠組み」が導入された。債務不履行となり共通枠組みに申請したザンビアのケースでは、中国がフランスと債権者委員会の共同議長を務め初めて債権再編条件をザンビアと交渉する合意を取り付けたことで、IMFは拡大クレジットファシリティ(Extended Credit Facility:ECF)13億ドル供与を承認した。しかし、中国は依然債務の免除には踏み込んではいない。
 最近では、公的資金を途上国政府に供与するのではなく、中国企業が投資事業としてプロジェクトを実施する事例が目立つ。例えば、China Road & Bridge Corporation (CRBC)が現地に設立した実施会社により、拠出額を約20億ドルとする高速道路建設がカンボジアで進められている。

(ハ)中国の対外援助業務改革

 2018年、中国は外交業務実施体制強化の一環として、対外援助政策・事業統括を担う国家国際発展協力署(CIDCA)の設立を第13回全国人民代表会議全人代で可決した。中国の有識者は、CIDCAの発足により、従来の対外援助と国際開発協力との統合、転換を図ったことに意義があるとしている。合わせて「対外援助管理弁法」も2021年に改訂された。CIDCA、商務部および外交部の共管文書として、三部門の役割分担が定められた点が特徴的である。被援助国の経済・社会開発や質の高い「一帯一路」共同建設推進などを対外援助の目標に掲げ、「正しい義利観」(政治的に正義・道義を堅持し、経済的に互恵の原則を厳守)、被援助国の主権尊重、内政不干渉などを対外援助の理念に据えている。長期的にCIDCAの役割が強化されるためには、対外援助立法の実現が課題であるといえる。
 さらに2021年9月、習近平国家主席は国連総会でグローバル開発構想(GDI)を提唱した。中国が国際公共財としてのプラットフォームを提供し、各国や国際機関などに共同参加を呼びかけて、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の実施を促進していく構想である。開発優先、人間中心、包摂、イノベーション主導型開発、人間と自然との共生、結果志向を6つの基本理念とし、貧困削減、食糧安全保障、感染症対策とワクチン、開発資金、気候変動とグリーン開発、産業化、デジタル経済、連結性を8つの国際協力重点分野とする。グローバル発展推進センターを事務局として、開発のためのグローバル知識ネットワーク構築・交流を行う。
 2022年5月の国連本部でのGDIフレンズグループ会合には、53か国及び多くの国連諸機関が参加した。同年9月には同フレンズグループ閣僚級会合が開催され、農業、クリーンエネルギー、デジタル教育などの協力プロジェクトが公表された。中国は、国連レベルでの作業枠組みの立ち上げ、フレンズグループの制度化、世界銀行・アジア開発銀行などとの協力を目指している。予算面、体制面の強化など今後の方向性に注目する必要がある。

(ニ)対外援助を巡る日中の交流状況

 日中は2007年に第三国での援助協力について対話を行う点で一致し、同年に。2017年に第1回「一帯一路」国際協力ハイレベルフォーラムが開催されて以降動きがある。2018年には安倍総理が訪中した。習近平国家主席・李克強総理との間で開発分野における対話や人材交流などの新たな次元の日中協力を推進で合意し、「日中第三国市場協力フオーラム」が開催された。今後の対話の進展に注目したい。

(以上、文責在事務局)