公益財団法人日本国際フォーラム

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「米中覇権競争とインド太平洋地経学」研究会第4回定例研究会合

標題研究会合が、下記1.~3.の日時、場所、出席者にて開催されたところ、その議論概要は下記4.のとおり。

  1. 日 時:令和4929日(火)15時より17時まで
  2. 形 式:ZOOMによるオンライン会合
  3. 出席者:13
[報  告  者] 伊藤さゆり ニッセイ基礎研究所研究理事
伊藤和歌子 JFIR研究主幹
[主査] 寺田  貴 JFIR上席研究員/同志社大学教授
[顧問] 河合 正弘 JFIR上席研究員/東京大学名誉教授
[メンバー] 櫻川 昌哉 慶應義塾大学教授
益尾知佐子 九州大学准教授
[JFIR] 安井 清峰 研究員
大﨑 祐馬 特任研究助手
[オブザーバー] 5名

 

  1. 議論概要:

(1)伊藤さゆりメンバーの報告:「グローバル・ブリテン戦略とインド太平洋傾斜」

トラス新政権以前の各政権における、グローバル・ブリテン戦略を打ち出した背景事情と、新政権の下での展望を報告する。

 

①グローバル・ブリテン戦略

グローバル・ブリテン戦略自体は、EU離脱と深く関わる政策となる。それ以前の英国の対外戦略は、1948年に保守党の党大会でチャーチル元首相が提示した基本戦略として「3つの輪(three circle doctrine)の中核」という考え方があった。まず、自由国家と民主主義国家には3つの大きな輪(「1つ目はコモンウェルスと英連邦王国(英国の旧植民地)、2つ目は英語圏諸国、3つ目は欧州である」)があるとした上で、「英国は3つの相互に関連する輪の全てで重要な役割を果たしている唯一の国」であるとの認識の下、「英国には全てを一つにする機会があり、人類に安全で幸せな未来を開く鍵を握り、再び感謝と名声を得ることができる」ということを訴えた。直近の、3つのそれぞれの輪に占める貿易総額のシェアを数値化すると、コモンウェルスが9%、英語圏諸国が17%、欧州が43%という内訳になっている。チャーチルがこの戦略を打ち出した当時から比べると、英国の中核性というのはかなり薄らいできたという事情が指摘できる。こうした中でEU離脱という重い決断をしたわけだが、グローバル・ブリテン戦略は住民投票後に国家運営を担うことになったメイ政権より始まった。同じく保守党の党大会での発言に起源が求められるが、「グローバル・ブリテンは、EU離脱後の英国に対する私たちの野心的なビジョン」であるとし、「ヨーロッパ大陸を越えて、より広い世界に経済と外交の機会を求めていく」戦略であるとされた。極めて曖昧な表現であるが、この方針はEUの中にいたらできないかと言われるとそうではなく、むしろ金融の中心として機能し、恩恵を得ていた面もあったことから、そもそも矛盾を抱えた戦略であった。要は、偶発的に英国国民が離脱を選択したために、掲げざるを得なくなってしまった苦しい看板という事情があった。

メイ首相はEU離脱を実現できないまま失脚し、跡を継いだジョンソン政権もおよそ3年で政権を退くことになった。ジョンソン政権の実績を振り返ると、最大の実績は1912月総選挙の勝利だろう。保守党単独過半数を確保したことで、従来は労働党の支持基盤であった英国北部地域で、EU離脱に起死回生を期待していた「赤い壁」と呼ばれる勢力が崩壊した。元々、EUの制約から離れることが名目であったため、新たな移民制度を導入し、関税制度や独自の通商協定の締結機会を獲得した事になる。また、前政権で打ち出されたグローバル・ブリテン戦略におけるインド太平洋傾斜(tilt)を明確化したのがジョンソン政権であった。安全保障、防衛、技術開発および外交政策に関わる「統合レビュー」の中でこうした方向性を打ち出し、成長戦略へも明記した。実際の政策でも、インド太平洋傾斜を明確にしており、日英EPA(包括的経済連携協定)の締結やCPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)への加盟申請、AUKUS、英海軍新型空母の「クイーン・エリザベス」号の派遣も象徴的な動きであった。FTA(自由貿易協定)の調印という面では、EU時代には結んでいなかった豪州やニュージーランドとそれぞれ妥結した他、インドとも2210月に大筋合意の目処が立っている。さらに、新移民制度の導入で、EUとの人の自由移動を停止した他、高技能・高収入人材重視のポイント・ベース制度を導入した。コロナ禍での対応に関してはワクチン政策や大規模財政支出が奏功した他、ウクライナ危機への対応を巡っては一貫して強硬な姿勢を見せていたことに加え、G7議長国やCOP26(第26回気候変動枠組条約締約国会議)ホスト国としての役回りなど、国際会議の巡り合わせで舞台が用意された側面もあった。ただし、ジョンソン前首相のウクライナへの訪問を巡っては、国内の批判を躱す目的もあったとされる。

 

②統合レビュー(インド太平洋の重要性の高まり)

ところで、統合レビューで打ち出されたのは今後10年間の安全保障、防衛、技術開発、外交戦略が4つの変化に対応する必要があるというものであった。地政学・地経学的シフトとして中国の影響力と自己主張の増大やインド太平洋の重要性の高まり、政治体制、国際秩序を巡る体制上の競争が激化していく他、気候変動など国境を越える課題や、急激な技術進歩にキャッチアップしていく必要があるという潮流の中で、どのような対応をするかが、統合レビューでは論じられている。特に、中国の体制上の挑戦への対応力改善やインド太平洋への関与強化が謳われている。ジョンソン政権では、成長戦略としてのグローバル・ブリテンも標榜されたが、それは地域格差是正やネットゼロと並んで目標とする成長の一つという位置付けであった。具体的には不明瞭な部分もあるが、同志国・パートナーとの機動的なアライアンスや連携を構築するという点は、国連常任理事国でもあり、核保有国でもある一方で、経済的には中規模国家という位置付けのため、非常に重視されていた。「自由で開かれたインド太平洋」との親和性も高いとされてきた一方で、グローバル・ブリテン戦略はあくまでもEUと距離をおくという考えの対案として出てきた経緯があり、予算責任庁のEU離脱分析レポートによると、インド太平洋傾斜ではEU離脱の影響を埋め合わせることは困難であるとされた他、通商協定の影響も限定的かつ段階的であることに加え、人手不足が打撃となるとの評価となっている。また、インド太平洋傾斜の実相としては基本的な動機は経済的な利益追求にあり、安全保障面でも、インド太平洋地域の市場の成長への期待が高く、防衛産業協力や防衛装備品の輸出拡大が主な狙いとの見方もある。他方、ジョンソン前首相自身が親中国とされることも多く、中国に対しては注意深い外交と中国への知識と理解が欠かせないとされた一方で、統合レビューでは台湾への言及はなかった。統合レビューはトラス新政権の下、年内にも改定される予定だが、中国の位置付けと台湾への言及といった点が、今後注目すべきポイントになってくるだろう。

 

③英国経済の現状とトラス新政権の政策転換

まだ発足まもないトラス新政権だが、経済政策を打ち出した直後から混乱している。背景にあるのは、生活危機と言われるほど深刻な高インフレがある。世論調査では、英国が直面する課題としてインフレと経済が占めており、近年こうしたことは無かった。消費者物価指数(CPI)も直近は10%近くまで上がっており、このままでは10%台半ばまで上がると目されており、緊急経済対策が必要になってきていた。なお、英国のガス・電力料金高騰の背景として、ロシア産ガスは輸入していないものの、エネルギー市場自由化の進展や、ガスそのものへの依存度が高く、貯蔵能力が乏しいため、市場の価格変動の影響を受けやすいことがある。英国の経済状況を長期トレンドの中で見ると、インフレ率に関しては、IMF(国際通貨基金)への支援申請直前や「不満の冬」と称された70年代が想起される様な経済状況になっている。経済成長のペースは落ちており、2008年金融危機以降は、それ以前のトレンドを取り戻せなくなっている。英国は基本的に、資本流入を必要とする経済であるため、足元のエネルギー価格の高騰は元々経常赤字であるところへ大きな打撃となる。その上、トラス新政権が高インフレ下では似つかわしくないような大規模な減税を打ち出したことが厳しく批判されており、対ドル相場が過去最低水準を更新し、報告前日(※2022928日)には中央銀行が無制限の国債買い入れを約束するような緊迫した状態になっている。

トラス新政権の大規模減税は今の英国経済の状況では相応しくないにも関わらず、なぜ実行したのかというと、2010年から続く保守党政権が世界金融危機からの回復を担ったという経緯から、過剰な新自由主義を是正し、分配重視の経済政策へ舵を切らざるを得なかったことへの不満の蓄積があるように感じる。トラス政権の政策は、企業や富裕層への過剰な負担が低成長や、足元の投資不足によるインフレをもたらしているという診断に基づく。だから、供給重視のエネルギー危機対策や企業、富裕層優遇の大規模減税という処方箋を打ち出した。しかし、実際に、投資が伸び悩む原因となったのは、BREXIT(イギリスの欧州連合離脱)を挟む形で場当たり的な経済政策が行われてきたことや、EU離脱に代表される様に、先行きへの不透明感が続いたことにある。本来は、政策の一貫性の向上やEUとの関係改善、移民制度の見直しが望まれる対策となるところ、トラス新政権はエネルギー危機対策や成長戦略を打ち出した。しかし、これらは実現可能性が疑われる状況になっており、逆に政策不信によるポンド安、債券安、株安のトリプル安から成長基盤を脆弱化している。さらに、2010年以降の保守党政権の政策も転換している他、GDP(国内総生産)比で2.6%規模のエネルギー危機対策及び450億ポンド相当の政策を事前審査プロセスも危機対応という名目ですっ飛ばす形で打ち出したため、市場がパニックに陥った。

最後に、英国の展望としては、連合王国自身の遠心力の問題がある。国民の心の支柱となってきたエリザベス女王を失い、スコットランド独立や北アイルランドの問題が加速するのではないかと懸念されている。さらに、イングランド内の地域格差の問題として、投資ゾーンの設置で地域経済の活性化を謳うものの、むしろ格差は広がるのではないかと思われる。外交面では、統合レビューの見直しを年末にかけて行うとしているが、現下の状況では経済財政政策への対応に優先順位が置かれる可能性が高く、具体的に割ける政治資本は限定的なものとなるかもしれない。個別に見ると、対米関係では同盟関係は強固なものにしていきながらも、グローバル・ブリテン戦略で最重視されていた通商協定締結は断念された他、バイデン政権からは北アイルランド問題を懸念する声が上がっている。対EU関係では、北アイルランド問題に関する議定書の一部の取り決めを一方的に書き換える法案を整備する動きもあり、緊張関係は継続すると見られている。安全保障問題に関しては、トラス首相は党首選の中で国防費の対GDP比(現在2.1%)を30年までに3%へ引き上げるとしていたが、財源の問題から難しいだろう。インド太平洋傾斜の中では、先述の通り、年末までに見直す統合レビューでの中国の位置付けを、これまでの「体制上の競争相手」からロシアと同じ「脅威」に引き上げるかどうかが注目されているが、仮にそうなった場合は、中国との関係が緊張を帯びる可能性もあり、グローバル・ブリテンと言いながらどこへ市場を求めるのかという状況に陥りかねない。経済成長、安全保障重視、対中強硬姿勢のトラス新政権は、グローバル・ブリテン戦略とインド太平洋傾斜の姿勢を一段と強めざるを得ない状況であり、日本との連携を重視する事になるだろう。ただし、保守党政権の政治的意思と、現実にインド太平洋に割ける資源の実体にはズレがあることも念頭に置く必要がある。

(2)伊藤和歌子研究主幹の報告「中国の科学技術と一帯一路戦略」

中国が科学技術を用いて、一帯一路戦略の沿線国にどの様に影響力を及ぼしているのかを理解する材料を提示したい。

 

①中国の科学技術戦略の変遷

まず、中国の科学技術戦略はどの様に変遷してきたかを概観する。

1978年に改革開放政策が始まると、「科学技術は第一の生産力」として、「経済建設は科学技術に依存しなければならず、科学技術活動は経済建設に向かわなければならない」との考え方が示された。1995年、江沢民政権においては、科学技術と教育により経済・社会発展をすべきとする「科教興国戦略(科学教育立国戦略)」が掲げられる。

次の転換点として2004年に、中央経済工作会議で「自主創新(独自のイノベーション)は経済構造の調整推進の中心」であるとの考え方が示される。2006年に発表された科学技術政策に関する最高位の「国家中長期科学技術発展計画綱要(2006年〜 2020年)」では、16の国家科学技術重大特定プログラムが始動し、国の経済発展におけるボトルネックとなる産業技術の基盤技術の研究開発を中長期的に国が支援することで競争力の一点突破を図る方向性が提示された。特に、「自主創新(中国独自のイノベーション)」の要素を整理し、「原始創新(ゼロからのイノベーション)」、「集成創新(イノベーションの集積)」、「引進消化吸収創新(外国技術を消化・吸収して再創造する)」などが列挙されたが、近年、欧米諸国からは最後の点が特に接収の疑いがあり問題であると指摘されている。2008年には、1993年制定の科学技術進歩法が改正され、特に、第55条では科学技術経費をGDPの伸びを上回って増大させることが明記され、これがその後の研究開発費増加の要因になったとされている。さらに、よく知られた政策として2010年、イノベーション能力の向上推進のための新たな産業振興策が指定され、次世代情報技術など7分野を「戦略的新興産業」に選定した。

なお、2006年からの「国家科学技術重大特定プログラム」とは、国の経済発展におけるボトルネックとなる産業技術の基盤技術に関連した最優先研究課題で、中長期的に政府が支援することで、一点突破で競争力の向上をはかるものであり、16の課題のうち、高解像度地球観測システムや有人宇宙飛行及び月面探査などの13課題が公表されている。

2014年には、「新常態」成長率の重視から成長の質・効率重視へと転換した。科学技術イノベーションは生産力と国力を向上させるための中核的戦略として位置付けられ、20153月には、「軍民融合」を国家戦略に格上げし、技術革新・経済発展・軍事力増強の同時進行を目指すこととなった。2016年の「第13次五ヵ年計画」では、5つの発展理念の筆頭に「イノベーション」を初めて掲げ、同年発表の「国家イノベーション駆動型発展戦略要綱」では、2050年までを視野に入れた中長期的な中国の科学技術イノベーション戦略を示す軍民融合の深化も目標の一つに掲げられている。興味深い動向として、2021年の第14次五か年計画では、科学技術の「自立自強」を国家戦略の柱に据え、科教興国戦略+人材強国戦略+イノベーション駆動の発展戦略による科技強国の速やかな建設に言及している。

科技強国実現のための施策の一例は主に以下のとおりである。

第一に、科技強国行動要綱というグランドデザインを示すことである。

第二に、基礎研究を強化すべく、研究開発費における基礎研究経費の占める割合を8%以上にすることである。

第三に、国家の重要な科学技術研究開発プロジェクトの実施分野として、人工智能、量子情報、集積回路、生命健康、脳科学、育種学、航空宇宙科学技術、深地層・深海等の先端領域を指定している。

第四に、量子情報、フォトニクス・マイクロエレクトロニクス、ネットワーク通信、AI、生物医学、現代エネルギーシステムの分野指定型の国家実験室の設立を掲げるとともに、国家重点実験室の再編、国家工程研究センター/国家技術イノベーションセンターをイノベーション拠点として強化する。

2022年現在、基礎研究10年行動計画の制定や、重点研究開発計画の70余の重点特別プロジェクトが始動している他、「科学技術改革3年計画」が策定されている。

 

②「デジタル中国」建設

こうした科学技術戦略の変遷に加えて、国力向上のためのもう一つの牽引力である「デジタル中国」建設に関しても言及したい。2016年以降になると、習近平国家主席によるデジタル経済の発展への言及がみられるようになる。2016年の第18期中国共産党政治局第36回集団学習会では「デジタル経済が大きく強くなればなるほど、経済発展の新空間が拡大する」と強調されており、2017年第19期中国共産党政治局第2回集団学習会では「デジタル中国の建設を加速させ、データを重要な要素とするデジタル経済を構築し、実体経済とデジタル経済の融合による発展を推進しなければならない」と述べている。この様にイノベーション重視の方針が鮮明になる中、2030年までの中国AI戦略を描いた「次世代AI発展計画」や、2016-2020年のロボット産業発展計画、ビッグデータ産業発展計画も相次いで打ち出されている。これらは、ハイテク技術を用いた産業・社会のデジタル化を目指す「イノベーション駆動型デジタル国家」の形成へと繋がり、デジタル化の進み具合がイノベーションの進展を測る指標にもなる。第14次五カ年計画の主要指標の一つである「イノベーション」では、研究開発費の増加率、人口1万人あたりの高付加価値発明・特許保有件数に並び、デジタル経済のコア産業の対GDP比率が指標として掲げられる。また、第14次五か年計画では初めて「デジタル中国」建設の章が設けられ、デジタル産業の振興のみならず、他の産業・社会・行政といったあらゆる分野におけるデジタル化の同時進行が目指されている。なお、第14次五か年デジタル経済発展計画では「デジタルインフラの最適化・高度化」が掲げられているが、それとは別途、情報化・デジタル経済に関するそれぞれの五か年計画でも、デジタルインフラの整備が最優先課題になっている。

 

③「一帯一路」建設における科学技術を用いた影響力行使

これらを踏まえて、第14次五か年計画において、「一帯一路」建設でも質の高い発展が目指されている。その実現方法は以下のとおりである。

第一に、発展戦略と政策のマッチングの強化である。戦略、計画、メカニズムのマッチングによる政策、規則、標準の連携を強化し、より多く国との投資保護協定や二重課税回避の協定を締結していく一方で、金融、貿易、エネルギー、デジタル情報、農業分野での規則のマッチングにおける協力推進や「一帯一路」イニシアティブと地域・国際開発アジェンダの効果的なマッチングと相乗効果の促進を目指す。

第二に、インフラの相互接続の促進である。陸・海・空・宇宙のネットワークの四位一体化を推進し、新ユーラシアランドブリッジ経済回廊を中心に、「中欧班列」や西部陸海新ルートなどの主要ルートや情報ハイウェイを軸として、鉄道、港湾、パイプライン網に沿った相互接続ネットワークを構築していく。その他、宇宙情報回廊、空中シルクロードの建設など、重要な回廊と都市では重要プロジェクトを実施していく。

第三に、貿易・投資の実務レベルでの協力の深化である。シルクロード電子商取引の積極的展開や国際的な生産能力に関する協力の深化、第三者市場での協力拡大、ウィンウィンのサプライチェーン協力体制を構築する。

第四に、文明を相互に学ぶためのかけ橋の構築として、公衆衛生・デジタル経済・グリーンな発展・科学技術教育・文化芸術分野での人的交流、各国議会、政党、民間団体との往来を強化し、「一帯一路」科学技術イノベーション行動計画を推進し、デジタル・シルクロード、イノベーション・シルクロード、グリーン・シルクロード、ヘルス・シルクロードを構築していくことを目指す。

デジタル・シルクロード建設については、情報化・デジタル経済に関する五か年計画でもそれぞれ明記されている。ネットワークインフラの相互接続の促進や、「一帯一路」沿線国と新型アプリケーションインフラの共同構築の協力・模索の推進、クラウドデータセンター、IoTプラットフォーム、産業用インターネットなどの分野での共同研究などについて言及している。デジタル経済面での協力としては、中国・ASEANスマートシティ協力、中国・中東デジタル経済協力の推進についての言及もみられる

イノベーション・シルクロード建設については、20169月に科学技術部・国家発展改革委員会・外交部・商務部により発表された「『一帯一路』建設科学技術イノベーション協力特別計画」にそれぞれ短期、中期、長期の目標が設定されている。基盤固めとしての35年では、科学技術人材の交流・協力の強化、重点国との協力共同実験室、技術移転センター等のプラットフォームを構築していく他、企業が沿線国でR&Dセンターを建設し、重要プロジェクトで初歩的成果を得ることが目指されている。中期目標としては、短期目標の実現による重要なブレイクスルーの実現や一帯一路イノベーションコミュニティの構築に向けた着実な推進が、長期目標としては科学技術イノベーション協力を通じた「五通」(政策連携、インフラ連結、貿易円滑化、資金融通、文化・人材)の実現を謳っている。

これらの政策を「一帯一路」沿線国への影響力行使の観点からみてみると、沿線国と共同での科学技術人材の育成や、若手科学者の招へいのほか、ボアオフォーラム等のイベントでの技術移転・イノベーション協力をテーマとする会議の開催をつうじた人材交流、沿線国と重点分野における共同実験室の設立による共同研究と技術移転のための拠点構築、といった点に特徴がみられる。

(以上、文責在事務局)