公益財団法人日本国際フォーラム

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第2回定例研究会合

日本国際フォーラム事務局

標題研究会合が、下記1.~3.の日時、場所、出席者にて開催されたところ、その議論概要は下記4.のとおり。

  1. 日 時:令和4年7月19日(火)18時から20時まで
  2. 形 式:ZOOMによるオンライン会合
  3. 出席者:6名(以下、五十音順)
[外部講師] 滝澤 三郎 東洋英和女学院大学名誉教授
[主 査] 渡邊 啓貴 JFIR上席研究員/帝京大学教授
[副 査] 渡辺 まゆ JFIR理事長
[メンバー] 上村 雅彦 横浜市立大学教授
中嶋 聖雄 早稲田大学教授
[JFIR] 高畑 洋平 JFIR主任研究員

4. 議論概要

外部講師の滝澤三郎氏より報告があり、その後出席者全員で自由討論を行った。

(1)滝澤三郎講師より報告:「『難民鎖国』の終焉を迎えた日本とその意義」

世界の難民問題と日本の難民政策ついて報告する。まず、世界の難民問題は「人道危機問題」と難民を受け入れる先進国の政治危機という、二つの側面から考える必要がある。

人道危機問題については、その流出の規模と長期にわたるキャンプ生活が問題であろう。「UNHCR Global Trends Report」の報告書によると、現在、約1億人の難民がいるとされている。そのうち、約6000万人が国内避難民とされており、その数は決して少なくない。また、キャンプ生活はいわゆる我々が想像する数日ではなく、数年、数十年と長期にわたり不自由な生活を強いられている点である。現在の難民の流入先としてはアフリカから欧州と広がりを見せており、このことが欧州における様々な問題にも繋がっているのが現状だ。

次に先進国の政治危機だが、かつては人道問題として捉えられていた難民問題は、いまや国家の安全保障問題と、ハイポリティクスな問題になっている点であろう。欧州での反発の要因として、国境管理能力が失われてしまうのではないか、という国民の不安感が一つ要因として考えられる。

難民問題の原因については、「強すぎる国家」「弱すぎる国家」「外国からの侵略」と3つ考えられる。「強すぎる国家」については、1951年の難民条約が制定された背景として冷戦があり、端的には政府による迫害が発生し政治亡命者として逃れるパターンが難民の主であった。次に「弱すぎる国家」についてだが、今日の難民は「弱すぎる国家」により、経済破綻などで人々が生活できず紛争難民、生存移民(生きるために逃れる人々)となっている。これにより、難民条約のもとで誰を救うべきなのかということが、非常に確定し難いのが現在の状況である。

3つめの「外国からの侵略」については、近年のロシアによるウクライナ侵攻が一例であるが、この特色としては、一時的に多数の難民が発生するものの、戦闘が終わればかなりの確率で国に戻れる点であろう。難民問題の原因が多様化することに伴い、その保護の方法も多様化している。1951年の難民条約では、そもそも難民の定義が狭く、紛争難民等は定義に入っていない。その後、多くの国で難民対象が広がり、また新しい保護システムなどが導入されていった。これら難民保護条約がきちんと守られているのかを監査する役目として、「UNHCR(難民条約国連難民高等弁務官)」が存在し、世界最大級の人道機関の役割を果たしている。そしてそれを支えるものが国内・国際的NGO、市民社会、個人の存在である。

UNHCRが掲げる難民問題の解決方法として、「定住永住」「帰還」「再定住」の3つがある。これらはいずれも資金が膨大にかかるため、特に先進国が主導してUNHCRに資金をだして、その資金をもって難民を支援していくことが重要になってくる。しかし、実態は正常に機能しているとはいえず、結果として、長期のキャンプ生活や、都市部のスラム生活、越境移動などが行われている。

難民保護体制の改善が進まない理由として、次の4つが考えられる。すなわち、①「領土的庇護」を使用して排除を行っていること、②難民の定義が狭いこと、③難民と移民とが混在し「難民」を抽出することが難しいこと、④公共財のただ乗り問題である。

国境管理において重要なのは、なにより単に人道的配慮をすればいいというわけではなく、難民の人権と同時に治安、経済、社会のバランスをとる4次元連立方程式を解くことが重要である。

日本の難民政策については、①難民認定による受け入れ、②第三定住など代替的受け入れ、③資金協力の3つが行われている。まず、①について、その数は非常に少なく、近年少しずつ増えてはいるが、国際的なインパクトは圧倒的に小さい。次に②についても、その数は少ないものの、身元審査やコントロールできるということから日本人に受け入れられやすい方法であり、難民支援の中核になるのではないかと考えられる。③については、資金や数もインパクトが大きく、この点を日本はきちんと認識すべきであろう。

近年ではコロナの影響もあり、昨年の申請者は減少した。こうしたなか、去年の大きな変化としては在留特別許可補完的保護が525人でその多くがミャンマー人であった。昨今のウクライナ難民については既に1500人受け入れており、今後難民認定者、補完的保護対象者は急増すると考えられる。

日本の難民受け入れについて、ここ何十年間、「ジャパン・バッシング」と称され、日本は難民鎖国であると批判されてきた。こうした批判は外交的損失も大きいわけだが、何より問題は、こうした状況が現在も続いていることであろう。そもそも、難民認定数が少ない理由として、地理的な理由、言語、コミュニティの小ささなどが挙げられる。

また、日本の難民制度認定基準の厳しさがあげられる。「難民」や「迫害」の審査基準が高く、また人権侵害等情報体制が弱体で、迫害の実態を知らないということで難民認定がされにくくなっている。加えて、難民に対して否定的な社会意識が高いことがあげられる。

ここで難民制度改革の動きについてみてみたい。2014年末にいくつかの提言がなされたがほとんど運用されず、2021年には入管難民認定改正案が国会に提出されたものの廃案となった。これら改革のなかでも、「補完的保護の枠組みの導入」と「送還停止効の例外」が重要であろう。

ここ十数年の入管庁の動きをみていると日本の「難民鎖国」は終焉しつつあると考えられる。2022年の難民認定数はミャンマーとアフガンで大きく増加すると考える。また、近年話題のウクライナ非難民は、明らかな国家のトップの意志に基づいており、国家安全保障の一環として避難民を受け入れている。これらは特殊なかたちであり、他の国からの難民にこの波が広がるのかは疑問である。難民鎖国が終わった背景は、外国人労働者の受け入れと治安対策の強化、難民に対する国民意識の変化、人権に対する意識変化があると考える。

最後に、1億人にのぼる難民避難民の保護や多額な支援について、日本は大きな役割を果たしてきたといえよう。今後日本のスタンスを決める意味でも、より大きな視点から日本の役割を考える必要性があるのではないか。世界中に沢山の難民がいるなかで、日本はどこからの難民を受け入れるのかという議論があってもいいのではないか。「共通だが異なる責任分担」の精神のもとで、どこで、だれを、どのくらい救うべきかといった国民的議論が今こそ問われているといえよう。

(2)自由討論

上記(1)を踏まえて自由討論が行われ、テーマ別に下記(イ)~(ト)の論点が提起された。

(イ)日本の難民受け入れ状況は今後どうなっていくのか。(渡邊)

→ウクライナについては、今の支援ブームはそれなりに続くと考える。ミャンマーとアフガンについては、国民のサポートという点でいうと、一段さがるが難民に対しての誤解は解けているのではないかと考える。イメージは変わりつつあり、政府は国民の反応をみながら慎重ではあるが受け入れを増やしていくと考える。支援団体としては彼らの実態と日本社会として支援していくことを示すことで、全体としていい方向に進むのではないかと考える。(滝澤)

(ロ)難民申請を行えば働くことはできるのか。認められていない間は働くことは認められないのか。(上村)

→難民申請を行えば働くことはでき、また加えて申請が必要だが最低限のお金を出す制度はある。大切なことはまずは難民認定申請を早急に行うことであると考える。同時に難民認定申請者に対する補助金の申請も進めることであると考える。(滝澤)

(ハ)難民政策について、うまくいっているモデルケースがあれば教えてほしい。(中嶋)

→移民国家であるカナダは、首相自ら国民も難民を地域で受け入れる姿勢があり学ぶことは多いと考える。(滝澤)

(ニ)日本社会の難民に対するイメージは解決しやすいことなのか。もしくは日本の経済状況をふまえたうえで根深いものなのか。(中嶋)

→きちんとしたデータ等はなく、難民の国際的な負担分担について議論することが必要であると考える。また日本人は経済的な関心や損得勘定が強いので、それを逆手にとり論理を組み立て、経済的な側面を強調することで難民のイメージを改善することに繋がるのではないかと考える。(滝澤)

(ホ)難民受け入れ後のインセンティブについて。(渡邊)

→日本の場合は段階を設けており、時間をかけて様子をみながら受け入れていく姿勢である。並びに教育も重視しており、それらは現状民間から資金がでているが、国費で増やしていくことが大切であると考える。(滝澤)

(文責、在事務局)