公益財団法人日本国際フォーラム

中国の王毅国務委員兼外交部長は、7月7日、G20外相会合出席のため滞在していたバリ島で、ロシアのセルゲイ・ラヴロフ外相に「中国とロシアは、両国首脳の戦略的リーダーシップの下、妨害を排除し、正常なつき合いを維持し、各分野の協力を推進し、両国関係の大きな強靭性と戦略的に揺るぎなさを示した」と語った。

中国とロシアは、アメリカを見据えた地政学的な観点から戦略パートナーシップを築いているのであって、同盟を結ぶこともなければ、それを目指しているわけではない。しかし、中国中央は、アメリカがロシア・ウクライナ戦争をエスカレーションさせ、中国とロシアの両方を弱体化させようとしていると見ている。そこで、ロシアによるウクライナ侵攻をめぐる中国の主張として、習近平の講話や中国当局の発信などを整理すると、以下の5つのキーワードを挙げることができる。

 

1つめは、「ウクライナ情勢を利用した陣営対立/ブロック対立」への反対である。いくら米欧日を批判しても、中国はリベラルな国際秩序とグローバリゼーションの最大の受益者に他ならない。地政学的観点からロシアとパートナーシップを維持していても、中国の発展のためには、米欧のマーケットから切り離されることはできない。そこで、中国は米欧日が、ブロック対立/ゼロサムゲームをアジア太平洋に持ち込み《新冷戦》を作り出そうとしていると反発している。

 

2つめは、ウクライナ問題をめぐるロシアの「複雑で特殊な歴史的経緯」と「安全保障における合理的な懸念」に理解を示しつつ、中国が繰り返している「安全保障の不可分性」の堅持である。「安全保障の不可分性」の概念とは、国家が単独で安全保障を強化しようとすれば「安全保障のディレンマ」に陥るので、それを克服するためにゼロ・サム的発想を転換し、他国の立場にも配慮し、相互に協力することで「共通の安全保障」を確保する考え方である。

NATOの東方拡大について「他国を安全でない状態にして自国の安全保障を築くことに反対する」と中国は繰り返しているが、中国がインド太平洋を安全ではない状態にしていることには無頓着である。

 

3つめは、中国に火の粉が飛んでくる「一方的な制裁」と「管轄権の域外適用」への反対である。

アメリカのジェイク・サリヴァン大統領補佐官は楊潔篪中共中央政治局委員と3月にローマで会談した際に、中国がロシアのウクライナ侵攻を支援する場合、「厳しい結果」が待っていると警告していた。しかし、西側諸国がロシアに制裁を科す中、中国が5月に輸入したロシア産原油は前年比55%増の過去最高を記録した。また、習近平は69歳の誕生日を迎えた6月15日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と電話会談し、中国がロシアを戦略的パートナーとして重視する方針に変化がないことや主権や安全保障に関わる核心的利益と重大な問題で互いに支持する意向を確認し、軍事と軍事技術でのいっそうの協力拡大を協議した。

 

4つめは、「中国はロシアを含む各国と共に国際的な公平と正義を守ることを望んでいる」と表明しているように、1/3世紀以上も中国が繰り返し続けている「公平な国際秩序」「公正な国際秩序」「民主的な国際関係」の追求である。中国外交には、《独特な意味を持つことば》がある。これらもその一部である。中国が「公平な国際秩序」「公正な国際秩序」「民主的な国際関係」を使う時、「欧米中心の国際秩序」「欧米の価値基準で定めたルール」への批判を含む。中国とロシアが共に語る「各国国民が自ら選択する発展の道と社会制度を尊重すること」「他国への内政不干渉」に置き換えられることばである。民主主義・法の支配・自由をめぐり、中ロが寄り添っていると言えよう。

 

5つ目は、「ダブルスタンダードへの反対」である。中国は、欧米がウクライナ問題を利用して、ダブルスタンダードを用いて、中国の主権及び領土的一体性を損なうことに反対し、ウクライナ危機と台湾問題を同列に論じることを拒絶している。

その一方で、中国は台湾人自らが選択する発展の道と社会制度を尊重することがないという自らがダブルスタンダードをとっているという矛盾について語ることはない。

 

こうしてみてみると、ウクライナ情勢をめぐる中国の主張は、習近平が今年4月の博鰲(ボアオ)・アジアフォーラムで提起した「グローバル安全保障イニシアティブ(GSI)」、すなわち中国が「《人類運命共同体》構想の安全保障分野における実践と主張しているもの」と重なっている。

ウクライナ情勢をめぐり「公正で正当な国際秩序」を構築していくとロシアと確認している中国は、ロシア・ウクライナ戦争をもはや二国間戦争の範疇をはるかに超えたもの、すなわち、ユーラシアにおけるアメリカとの対立を見据えた地政学的競争として捉えている。