公益財団法人日本国際フォーラム

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中国班・インド太平洋諸国班 第8回定例研究会合

当フォーラムの実施する「『自由で開かれたインド太平洋』時代のチャイナ・リスクとチャイナ・オポチュニティ」研究会内、中国・インド太平洋諸国班の第8回定例研究会合が、下記1.~3.の日時、場所、出席者にて開催されたところ、その議事概要は下記4.のとおり。

  1. 日 時:2022年3月17日(木)14時〜15時半
  2. 場 所:オンライン形式 (ZOOM)
  3. 出席者:

 

[報告者] 山田 紀彦 日本貿易振興機構アジア経済研究所地域研究センター・動向分析研究グループ長
[司 会] 川島  真 JFIR上席研究員/東京大学教授(副査/中国班班長)
[メンバー] 大庭 三枝 神奈川大学教授(インド太平洋諸国班班長)
高原 明生 JFIR上席研究員/東京大学教授(中国班アドバイザー)
飯田 将史 防衛研究所地域研究部米欧ロシア研究室長
佐竹 知彦 防衛研究所主任研究官
福田  円 法政大学教授
[JRSP] 熊倉  潤 法政大学准教授
溜  和敏 中央大学准教授
鶴園 裕基 早稲田大学客員次席研究員
内藤 寛子 日本貿易振興機構アジア経済研究所研究員
[JFIR] 伊藤和歌子 研究主幹
佐藤  光 特別研究員
[外務省オブザーバー] 17名
  1. 議論概要:

(1)山田グループ長による報告「ラオスにとっての「一帯一路」―対中関係の深化と課題―」

  • (イ)ラオスは5か国に囲まれた内陸国であって海が無く、物流コスト面でのハンディキャップを抱えている。王政と人民革命党の間で30年近くの内戦状態を経た後、1975年に人民革命党によりラオス人民共和国が建国された。2000年代以降には中国資金の流入が拡大し、高い経済成長を遂げたものの、成長率は徐々に減速し、2020年1月に生じた新型コロナウィルス禍で一気に低下した。同党は2016年から一人当たりGDP8000ドルを目指すビジョン2030を掲げていたものの、2021年の第11回党大会において持続と安定に方針を転換した。
  • (ロ)1997年にラオス・中国経済・貿易・技術協力委員会が設立されたことから両者の新たな関係が始まった。2000年には中国の江沢民国家主席がラオスを訪問し、以後、経済、政治、軍関係も徐々に深まった。2017年に習近平国家主席が訪問した際には、その後3年間で約40億元の無償援助を約束した。2021年には中国・ラオス鉄道が開通し、ラオス人民革命党のトーンルン党書記長は中国の「一帯一路」構想に対する積極的な支持を表明した。ラオスの開発戦略は、隣国との関係強化をし、地域のハブになる事を目指しており、インフラ整備が非常に重要である。

  • (ハ)1989年からラオスに対する西側諸国の投資が始まった。まずタイ企業が参入し、2000年代中盤から中国企業の投資が増えた。現在、ラオスに対する最大の投資国は中国であり、その額は160億ドル以上である。投資の増加と共に中国からの経済協力も進展し、中国資金を活用した建設プロジェクトも促進された。中国資金の流入とラオスの経済成長率の増加は比例している。ラオスは鉄道建設によってさらに中国人観光客を増やしたいと考えている。
  • (ニ)2010年代までは日本文化の人気により多くの大学で日本語学科が設立され、中国語学科は少なかったが、中国との関係が深まるにつれ増えてきた。2010年にラオス国立大学に孔子学院が設立されると、予想以上に入学希望者が殺到した。2018年にスパヌウォン大学で孔子学院が設立された際には、設置目的に「一帯一路と中国・ラオス経済回廊建設への貢献」と明記されている。ラオス政治家の師弟の留学先は、アメリカやオーストラリアから中国に変わっている。賃金が高い中国企業に就職したい若者が増え、中国学科希望者が増えている。公務員の採用でも中国留学組が有利になりつつある。また、国営放送で春節番組が放映されるなど、徐々に中国文化がラオスに影響を及ぼしている。一方、ラオス語の表記間違いや土地問題などラオス人からの反発も見られる。
  • (ホ)ラオス人民革命党指導部は国家を縦断する鉄道建設を求め続け、2010年から中国との鉄道協議が本格化した。2012年には20年振りにラオス特別国会を開催し、中国からの70億ドル借款を可決した。その後、中国鉄道部の汚職や事故の影響で計画は停止したが、2013年以降、「一帯一路」構想の下で中国が積極姿勢に転じた。両国が共同で出資し建設するプロジェクトが2015年から開始し、2021年に開通した。中国・ラオス鉄道以外にも鉄道プロジェクトがあり、それらが開通すれば、中国からベトナム、タイ、カンボジアに通じることになる。中国・ラオス鉄道の負担割合は7対3であり、ラオス政府は鉄道の経済効果を期待している。中国からの関税免除のような政策によって農産物輸出が増加し、タイ経済依存からの脱却が可能となった。鉄道収入の8割が貨物であるので、シンガポールまで結ばれないとあまり意味がないが、タイ、マレーシア、シンガポールの鉄道事業は遅れている。また、ラオスは中国人観光客の増加にも期待しているが、自家用車で来る中国人が多いため、鉄道の効果は疑問視される。
  • (ヘ)鉄道に加え、中国企業の関わる高速道路計画もある。北高速道路と南高速道路が建設中である。また、中国による大規模なインフラプロジェクトが進行している。首都ヴィエンチャンの経済特区の一つを中国企業が出資・運営している。中国企業とラオス国営企業が共同運営している製油所もある。さらに南部にも中国系企業とラオスの合弁会社による新たな経済特区を作る計画があり、ホテル事業やカジノ等が計画されている。近年、コーヒーの産地で有名な南部ボラヴエン高原に多国籍企業の進出計画があるが、ラオス政府と内通した中国が土地の開発権を得る可能性が高い。また、北西部シェンクアンでは中国がレアアース採掘権を取得し、ルアンパバーン県ではスマートシティの建設計画も囁かれる。これらの地域は鉄道網、高速道路沿いにあり、全てが線で繋がることになる。ラオスにとって電力は重要産業であるが、2020年に中国企業(南方電網)とラオス国営企業が合弁会社を設立した。ラオス電力公社は中国に多くの債務を抱えていることから、中国がラオスの電力(特に送電線)を管理するようになってきている。
  • (ト)鉄道や高速道路建設には中国の技術と資金が必要であり、ラオスにとって中国の「一帯一路」構想の持つ意味は大きい。しかし、中国企業・中国人の流入に伴うラオス社会とのトラブルもある。また市場や債務等において中国依存が深まり、規模の大きい鉄道事業は後戻り出来ず、依存は更に深まるだろう。過剰な依存への不安と必要性の間で悩ましい状況である。そのような中、2010年以降、エネルギー分野、軍事協力等の観点からラオスはロシアとの協力関係を進め、2021年の第11回党大会でロシアを「社会主義兄弟国」と位置づけ、関係強化する方針をみせた。さらに、2022年3月には国連総会におけるロシア非難決議の採択を棄権している。しかし、中国への依存から脱却したいラオスにとって、今後のカードは無くなった状況である。

(2)自由討論

  • (イ)①鉄道や高速道路の建設があっても中国人観光客は増加しないのか。ラオスの魅力が薄いのではなく、北部の地形の問題ではないか。鉄道と高速道路に関わる大型プロジェクトの中で中国人観光客を当て込んだ施設は既にできているのではないか。また、②他の東南アジア諸国と異なり、ラオス人のラオス文化愛は強く、中国と一体化した経済圏に果たしてなり得るのか。(大庭班長)
  • ⇒①バンビエンなど中国企業が関係する施設もあるので、観光客は確かに増えるだろう。だが、中国国内で体験できる程度のリゾートをわざわざラオスで体験したいかという疑問があるので、ラオスが当初期待していたほど観光客は増えないだろう。②確かにラオス人のラオス文化愛は強く、それにそぐわない振る舞いには厳しい。だが、タイの前例でも明らかなように、両者が交わらないからといって経済的一体性をもたらさないということにもならない。(山田グループ長)
  • (ロ)ラオス国民の中国に対する反発には地域差や民族差があるのか。また、その不満が現政権に与える影響はどのようなものか。(鶴園メンバー)
  • ⇒土地を奪われながら補償金を受け取れていない人々の反発が特に大きいが、一党独裁体制の中で主張することは難しい。首都にチャイナタウンが出来る際も、土地を奪われる人々の反発が大きかった。民族間での差は特にない。政府に直接声を上げる人々も増えているが、あまりに主張しすぎると逮捕されてしまうので、代わりにSNSが利用されている。ラオス国会と省庁は国民の不満を受け付けるホットラインを設けており、これを通して中国への不満が届いている。(山田グループ長)
  • (ハ)①中国のラオス進出は東西南北でどのように計画されているのか。②コロナと貨物の管理について。③3月の国連決議でカンボジアが賛成したことを、ラオスはどう受け止めているか。(川島班長)
  • ⇒①中国の進出は南北に集中し、今のところ東西の道路や鉄道には入って来ていない。東西の道路や鉄道を作れば南北と結ばれ、中国にとって大きな価値になるだろう。②ゼロコロナ政策で中国が国境を閉鎖し、トラックが止まり、野菜や果物を破棄せざる得ない状況が続いていた。③カンボジアが国連決議で賛成しただけでなく、共同提案者になったことは、ラオスにとっても驚きだった。過去に議長国でありながら共同声明を発出出来なかった失敗があったので、今回は議長国として失点を取り返す意図ではないか。ただ、他にも理由はあるのだろう。このようなカンボジアの行動を受け、ラオスとベトナムは今後何かの国連決議がある際に、棄権しにくくなっている。(山田グループ長)
  • (ニ)ラオスの対中姿勢に社会主義は関係しているのか。(飯田メンバー)

  • ⇒経済面では譲る部分と譲らない部分をはっきり主張している。しかし、同じ社会主義で国境を接する大国中国とは、数少ない同志国として独裁体制を維持していくという上でも上手く付き合っていかなければならないと考えている。(山田グループ長)
(以上、文責在事務局)