公益財団法人日本国際フォーラム

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第5回定例研究会合

標題研究会合が、下記1.~3.の日時、場所、出席者にて開催されたところ、その議論概要は下記4.のとおり。

  1. 日 時:令和429日(金)14時半より16時半まで
  2. 形 式:Zoomによるオンライン会合
  3. 出席者:8名(以下、五十音順)

[外部講師]

松浦晃一郎         元ユネスコ事務局長

[ 主  査 ]

渡邊 啓貴         JFIR上席研究員/帝京大学教授

[ 副  査 ]

渡辺 まゆ         JFIR理事長

[メンバー]

上村 雄彦         横浜市立大学教授

鈴木 美勝         ジャーナリスト

中嶋 聖雄         早稲田大学教授

[JFIR]

高畑 洋平           主任研究員

ハディ・ハーニ 特任研究助手

  1. 議論概要:

(1)松浦外部講師より報告:「日本の将来 ― 国際人の見方」

    戦後75年の日本の歩みを振り返りながら、現在の日本が抱える問題への対応方法について考えたい。自分がUNESCOに属していた時期(199911月~ 200911月)には、日本の国際的地位は最高水準にあった。しかしUNESCOでは国連本部とは異なり地域別のローテーションが定められていないため、1990年代の終わりごろに自分が第8代事務局長となるまで、アジア・太平洋からの選出は前例がなかった。西洋から見ると、UNESCOは伝統的にフランスに拠点を置いていたこともあり、西洋文明の中核ともいうべき位置を占めており、西洋文明の継承者こそがそのリーダーになるべきであるという見方がフランスを始めとする西欧の国々にあった。ところが自分が事務局長となる際、日本は経済大国であっても文化大国ではなく、UNESCOに根付く西洋的伝統が破壊されるとの意識からフランスの学者を中心に反松浦キャンペーンが展開された。それにもかかわらず選挙戦において勝利できたのは、90年代以降の経済的後退にもかかわらず、日本の国際的な評価が2000年代頃まで概して高かったことがプラスに働いたためであった。先立つ88年にはWHO(世界保健機関)トップに日本人が就任し、また自分と同時期にはITU(国際電気通信連合)やUNHCR(国連難民高等弁務官)のトップにも日本人が就任するなどの例があった。しかし現在はそうした例が減少し、日本の国際的なイメージが全体として後退しているように思われる。代わりに中国が躍進している状況がある。

    終戦復興を経て日本が経済的に成長しつつも、その実力に見合った国際的な地位、イメージ、評価が得られていないという点に対処するのが、1960年代の外務省の重要な任務であった。60年代の国内には日本が先進国入りしたとの意識も拡大していたが、1968年パリにあるOECD日本代表部に赴任した時代の肌感覚では、一部途上国での日本の評価は高い一方、主に先進国やアジア諸国では低い評価のままで、特にOECDではフルメンバー扱いされていない雰囲気が存在した。1975年に発足した先進国(G7)サミットにおいて日本は当初からそのメンバーに選ばれたものの、その中での日本の扱いはしばらくは同様の状態があったといえる。80年代に入って初めて、実力に見合った評価がなされるようになったが、その際の鍵となったのは中曽根首相の首脳外交の成功であった。そして93年のG7東京サミットでは日本の評価は完全に実力に見合ったものとなった。90年代末ごろから日本の実力が低下していく傾向がみられるが、評価は高い水準で維持されていたように思われる。

    しかし2010年は、中国がGDPにおいて日本を追い抜くなど大きな転機となった。2000年代初頭まで、中国は経済的に成長したもののまだ人材が育っていなかったが、その後の注力を経て、近年ようやく中国人の登用も見られるようになった。2008年の香港のマーガレット・チャンのWHO事務局長就任はその先駆けといえる。同様に韓国・インド・シンガポールなども伸びてきたが、日本は横ばいのままだった。その後安倍外交では日本の地位を高める取り組みがなされたが、少子化対策などの内政面では成功しなかった。

    現在日本が抱えている課題は主に6点ある。第一の課題は、人口減少である。明治維新の時代から実に日本人口は4倍となったが、2058年には1億人を割るといわれている。先進国では全体的に減少傾向にあるが、日本の減少スピードは中でも急激で、さらに高齢化も深刻である。対応するには外国人労働者や限定的な移民受入れの推進が期待される。また第二の課題は、人口の中でも特に労働人口の減少という問題である。労働生産性の低下は顕著で、38OECD加盟国のうち、日本は23位だった。加えて日系企業の海外展開も増えているものの、それを担うべきグローバル人材の育成が不十分な状況がある。国際機関に従事する日本人も少なく、例えば国連システムで働くプロ人材41,000人のうち日本人は918名で、2.2%だった(2020年末)。日本の国連分担金を見ても、2000年には20.57%で過去最高であったが、その後減少し、現在は8.3%となった。一方中国の分担金割合は15.25%まで成長している。国連職員数の割合は分担金率と同水準となるのが均等とみなされているが、分担金8.3%に対し職員数2.2%と、実に4分の1であり、非常に小さい。グローバル人材には英語でのコミュニケーション能力が当然重要だが、TOEFLスコア水準では、28のアジア諸国のうち日本は26位だった。これには英語教育水準の低さも関係している。第三の課題は、日本のものづくり産業である。かつて分野によって日本産業は米を追い抜くほどで、半導体では日本が世界シェア5割を占めたが、現状は大きく後退した。唯一、自動車産業は水準を維持しているが、電気自動車分野での遅れが懸念されている。企業の時価総額でみると日本トップのトヨタが世界29位で、ソニーが92位だった。特にIT産業では大きく後れを取った。これは第四の課題、すなわち国全体でデジタル化が遅れている状況とも関連している。こうしたことを踏まえ、第五の課題として、日本の潜在成長率が低下しているという点が挙げられる。さらに第六の課題として、日本円の購買力の低下という状況がある。現在の為替レートは1972年の水準と同程度となった。消費者物価指数を見ても、日本では1995年以降4%しか上昇しておらず、円安が進行した。これら個別の課題に対する対応方法は必ずしも明確ではなく、今後具体的に議論を重ねて提言につなげていく必要があるだろう。

    (2)自由討論

    上記(1)を踏まえて自由討論が行われ、テーマ別に下記(イ)~(ホ)の論点が提起された。

    (イ)日本の国際的評価の推移とその背景について

    • 「島国根性」「平和ボケ」とよく聞くように、地理的特性や日本人のメンタリティといった要素も日本の国際的評価に影響しているように思われる。(渡邊主査)
    • 日本人は完璧を求めすぎる傾向がある。例えば英語など、完璧に話せないという意識のせいでコミュニケーションに消極的になってしまっているように思われる。中国や韓国の状況と比較しても遅れていると思われ、こうした意識も全体として変えていく必要があるだろう。外国人はすぐに意見を挟んでくる図々しさがあり、そこまでのレベルは必要ないまでも、人々の意識を変えていく必要があるだろう。(松浦外部講師)
    • 国力や評価の高低という中長期的課題とは別に、短期的な課題として、政治家の質という問題がある。政治家に対する教育プログラムなど、その質向上を図ることで日本の評価向上にもつながるのではないか。また日本では閣僚や国際機関の長に特定分野の専門家が就く事例が少ない。ポストによっては、そうした人材を積極的に取り入れることも重要だろう。専門家らと官僚との対話も積極的に行うとよいと思われる。(川崎メンバー、松浦外部講師)

    (ロ)ユーラシア地域に対する日本外交の展開について

    • 冷戦期には、日米同盟が特に重視されており、その裏返しとしてソ連圏に対する厳しい対応がなされた。その後、EUが成立によりヨーロッパが国際的地位を確立し、米一強時代は終わった。また中国の台頭も重要である。日本にとって、経済的には米より中国のほうが重要な存在となった。現在、一般的には日米同盟を軸としながらも中国との友好的関係を築く必要があることが周知されているが、その両立は非常に難しい。日本国内でも意見が大きく分かれている。(松浦外部講師)
    • かつて外務省では、ソ連解体後に相次いで独立した中央アジア諸国との友好関係構築が重視された。実際にODADAC対象国化など、経済援助の拡充がなされた。現在はかわって中国の影響拡大がみられ、日本の外務省は優先順位を下げているように思われるが、更なる関係推進に取り組むべきだろう。(松浦外部講師)
    • 国際機関における中国の台頭が指摘される昨今、日本の立ち位置に関する議論や人材育成の取り組みを政策レベルで推進していく必要がある。(渡辺副査)

    (ハ)人材育成に関して

    • グローバル人材の育成を目指して、大学でも各種講義の実施やフィールドワークなど様々な取り組みがなされているが、例えば国連職員になる学生は非常に少数である。理由は奨学金の重圧によりすぐに就職して働く必要があるためか。グローバル人材、国連職員などを目指すには時間もお金もかかる。(上村メンバー)
    • 国際機関の職員を増やすことは、かつての時代には必要だったかもしれないが、20002010年代になるとグローバルな活躍をする場が多様化した。特にインターネット普及による変化は大きい。時代への適応という意味では、国連分担金負担割合や国際機関職員数などの課題のみならず、例えばスポーツや芸術分野など、異なる視点・方法でのグローバル人材育成や、そうした人材の取り込みという視点も重要だろう。ただし、そうした新領域においても、中国人や韓国人と比較すると現在日本は遅れているといわざるを得ない。(中嶋メンバー、松浦外部講師)
    • 根本的な問題としては、日本の教育現場の課題がある。個人個人が当事者意識をもち、日本人として、いかに国際協力に取り組んでいくか、といった主体性を育てる観点が、教育において重視されていないと思われる。教育は重要な柱であり、中長期的視点で改革する必要がある。与えられた正解を覚えるだけの教育システムではなく、主体的な意見を持ち、表現する能力を磨くようなシステムが求められる。また教師や国家公務員の待遇改善も急務である。(鈴木メンバー、松浦外部講師)