公益財団法人日本国際フォーラム

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⽇本側「中国班・イン ド太平洋諸国班第5回 合同会合」

当フォーラムの実施する「『自由で開かれたインド太平洋』時代のチャイナ・リスクとチャイナ・オポチュニティ」研究会内、中国・インド太平洋諸国班の第5回定例研究会合が、下記1.~3.の日時、場所、出席者にて開催されたところ、その報告概要は下記4.のとおり。

  1. 日時:2021年11月19日(木)午前9時半より午前11時まで
  2. 場所:オンライン形式(ZOOM)
  3. 出席者:
    [報告者] 鄭  方婷 日本貿易振興機構アジア経済研究所新領域研究センター研究員
    [司会] 大庭 三枝 神奈川大学教授(インド太平洋諸国班班長)
    [メンバー] 川島  真 JFIR上席研究員/東京大学教授(副査/中国班班長)
    飯田 将史 防衛研究所地域研究部米欧ロシア研究室長
    佐竹 知彦 防衛研究所主任研究官
    [JRSP] 相澤 伸広 九州大学准教授
    熊倉  潤 法政大学准教授
    高木 佑輔 政策研究大学院大学准教授
    溜  和敏 中央大学准教授
    鶴園 裕基 早稲田大学客員次席研究員
    内藤 寛子 日本貿易振興機構アジア経済研究所研究員
    [JFIR] 伊藤和歌子 研究主幹
    佐藤  光 特別研究員
    [外務省オブザーバー] 2名
  4. 鄭研究員による報告

「気候変動ガバナンスと米中関係:『パリ協定』の締結からCOP26の閉幕まで」

本報告では、1)気候変動への取り組みと米中関係はどのような関係にあるのか、2)カーボンニュートラルが主流となる中での米中の立場の変化、影響はどのようなものか、3)米中対立の中で気候変動対応が緩衝材的役割を果たし得るのか、についてとりあげる。

米中関係は気候変動問題において重要である。というのもグラフに示されるように、2019年度の温室効果ガス排出量は両国合わせて全世界の44%を占める。気候変動ガバナンスの実効性を確保するために、主要排出国による温室効果ガス削減の積極的取り組みが大事である。パリ協定下では「国別自主的貢献」の提出で特定年度までの温室効果ガス削減量を各国が示さなければならない。京都議定書よりも先進国発展途上国間の境界線が曖昧となった。

カーボンニュートラルとは、二酸化炭素排出量を実質ゼロにするという長期目標である。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によると、パリ協定の目標のように、今世紀末までに気温上昇を2度未満にするためには、2030年度排出量を2010年度比で25%削減、1.5度以内に抑えるには45%の削減が必要となる。EUを筆頭に中国、アメリカ、日本、サウジアラビア、インド等130か国以上がカーボンニュートラルを表明している。

このほど閉幕した英国グラスゴーCOP26(10月31日~11月12日)では、「気候危機」とも呼ばれる気候変動の深刻化を回避できるのか、2030年中期目標はパンデミック後の経済回復との関係も含めて十分なのか、2050年カーボンニュートラルは実現可能なのか、温室効果ガス削減だけではなく温室効果ガスを吸収するような地球工学的に新しい技術イノベーションが必要ではないか、という問題が指摘された。会期中の11月5日、国連気候変動枠組み条約事務局は、各国が提出した温室効果ガス削減目標を全て達成したとしても2030年排出量は2010年比で13.7%増となるという分析結果を報告している。これから如何にして温室効果ガスを削減出来るのか、真剣に考えなくてはならないという状況のなか、パンデミック後初の一大国際政治・対面式イベントであり、かつ中期目標引き上げと経済的手法の交渉がなされたという点で、今回のCOP26は非常に重要な意味を持った。本会議では「グラスゴー気候協定」が採択され、1)2030年には二酸化炭素を2010年比で45%削減、2050年頃にネットゼロの必要性を認識、2)石炭火力のフェーズダウン、3)先進国による資金提供引き上げ協議の継続、4)米中共同宣言、5)炭素市場ルール策定、という成果に繋がった。

11月16日、COP26閉幕からまもないタイミングで、米中オンライン首脳会談が開催された。危機回避の観点から本タイミングでの開催は重要な意味を持つ。バイデン政権は、パリ協定からの離脱を宣言したトランプ政権とは反対に、選挙公約どおりパリ協定復帰を指示した。コロナ対策と並行して気候変動問題を政権の優先事項とし、オバマ政権に続き気候変動対策での国際的リーダーシップ奪還の意思が明白である。低炭素、クリーンエネルギー、環境に関する技術革新に向けて国内予算をつぎ込んでいる。政治・経済的対立と気候変動問題は切り離して考えるべきであると中国に対して主張しているが、中国側には受容されていない。徐々に対立は緩和されていくのではないかと見ている。

2021年4月16日の「中欧三か国気候サミット」期間中、ジョン・ケリー米特使が訪中、解振華気候変動問題担当特使と面会し、「気候変動協力に関する米中共同声明」を発表した。しかしその後の気候首脳サミットの中で習近平が「気候変動への対応は、地政学的な切り札、他国を攻撃する標的、貿易障壁の口実であってはならない」と述べて米欧の思惑を示唆し、中欧間協力を誇示した。米国は2021年4月22日、23日に気候サミットを主催し中国を招待した。中国は気候変動問題を通じて主要国との良好関係維持を図る狙いで参加したと思われる。中国は2030年のピークアウトと2060年のカーボンニュートラルの目標(30・60目標)を維持した一方で、「カーボンニュートラルは国連下で行われるべきだ」と国内向けリリースで主張し暗に米を非難している。

中国国内の排出削減政策をみると、まず2030年に全体の排出量がピークに達した後、次の30年でそれを実質ゼロにする「30・60目標」がある。また気候変動対策は第12次五か年計画以降、第14次5か年計画でも国内の経済開発モデルに組み込まれている。排出削減に対して消極的姿勢から積極的姿勢に転じた理由には、外圧、国内環境、経済政策がある。第14次5か年計画では、化石燃料、高排出産業、温室効果ガス排出量取引制度(ETS)、再生可能エネルギー、金融に関する具体的数値目標が掲げられている。

COP26は予想外に終盤の米中共同宣言によってまとまった。超大国による削減ルール策定は重要な意味を持つ。一方で米国国内のバイデン政権支持率低下と共和党内でのトランプ支持層の厚さを考慮すると、懸念が残る。

パリ協定採択過程において中国は気候変動問題を外交課題とし、とりわけ米国との協力を重要視してきた。「共通だが差異ある責任」の原則を強調し、途上国への支援をしながら(南南協力)先進国の行動を要求しバランスを取っている。オバマ政権時には「気候変動に関する米中共同声明」、度々の首脳会談開催、パリ協定発効など米中気候協力がみられた。また米中が7つの分野においてプロジェクトを提案し、エコパートナーシップとして官民連携が図られた。しかしトランプ政権では「緑の気候基金」への出資打ち切り、「クリーンパワープラン」廃止、パリ協定離脱にみられるようにアメリカの気候協力は停滞した。

2021年4月の米国主催の気候サミットでは、金融、インフラ投資、技術革新、安全保障などの多岐にわたる問題をめぐり、米国閣僚、各国首脳、他分野のリーダーらが出席して議論したが、中国からの登壇者は習近平主席のみであった。気候変動対策が経済・雇用の面で重要であるという点で米中は利害が共通しているため、協力の可能性がある。しかし気候変動対策以外の問題での対立、それぞれの思惑の違いの中で気候変動対策が米中関係の緩衝材になり得るのかということは依然として疑問である。太陽光パネルに代表されるように低炭素・脱炭素関連商材への中国依存が高まるとともに「クリーンな一帯一路政策」の中で中国の地政学的優位性が高まることが予想される。今後は低炭素技術での競争に主眼が置かれ、気候変動協力があれども、米中のライバル関係は継続していくだろう。

(以上、文責在事務局)