公益財団法人日本国際フォーラム

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「変わりゆく国際秩序における日本の外交戦略―中国の対外行動分析枠組みの構築を踏まえて―」 2021年度第6回定例研究会合

当フォーラムの「変わりゆく国際秩序における日本の外交戦略―中国の対外行動分析枠組みの構築を踏まえて―(主査:加茂具樹慶應義塾大学教授・当フォーラム上席研究員)は、さる114日、定例研究会合を開催した。講師として招いた佐々木智弘・防衛大学校教授より「電気通信事業改革の政治過程にみる所管官庁の影響力行使」と題して報告を受けたところ、その概要は以下のとおりである。

  1. 日 時:2021年11月4日(木)19時~21時
  2. 場 所:日本国際フォーラム会議室およびZoomによるオンラインを併用
  3. 出席者:28名
    [主 査] 加茂 具樹 慶應義塾大学教授 / 日本国際フォーラム上席研究員
    [顧 問] 高原 明生 東京大学教授 / 日本国際フォーラム評議員・上席研究員
    [メンバー] 飯田 将史 防衛研究所地域研究部米欧ロシア研究室長
    井上 一郎 関西学院大学教授
    林  載桓 青山学院大学教授
    江口 伸吾 南山大学教授
    大澤 武司 福岡大学教授
    熊倉  潤 法政大学准教授
    小嶋華津子 慶應義塾大学教授
    下野 寿子 北九州市立大学教授
    城山 英巳 北海道大学教授
    諏訪 一幸 静岡県立大学国際関係学部教授
    内藤 寛子 日本貿易振興機構アジア経済研究所研究員
    廣野 美和 立命館大学准教授
    真家 陽一 名古屋外国語大学教授
    Vida Macikenaite 国際大学国際関係学研究科講師
    山﨑  周 キャノングローバル戦略研究所研究員(五十音順)
    [ご報告者] 佐々木智弘 防衛大学校教授
    [JRSPメンバー] 新田 順一 慶應義塾大学特任助教/日本国際フォーラム特別研究員
    [JFIR] 渡辺 まゆ 理事長
    菊池 誉名 理事・主任研究員 ほかゲストなど
  4. 報告内容:
  5. 1990 年代前半から2000 年代末にかけての電気通信事業改革の過程を、独占打破から競争導入の試みとそれをめぐる政治過程としてとらえ、電気通信事業の所管官庁である郵電部・情報産業部・工業情報化部という官僚組織に焦点を当てる。どのように影響力を行使したかを明らかにするために、3つの政策過程(①1994年の中国聯通の設立、②1999年の中国電信の4社分割、③2008年の第3世代携帯電話サービスの営業免許発給)を分析する。

    電気通信事業改革の2つの目的は、①事業者の独占を打破し、競争を導入すること、②行政管理と企業経営を分離すること(政企分開)、であった。

    この改革の注目点として、3つの政策過程において、アジェンダに対して政策の方向性を示した、政策を提案したのが中央指導者であったこと、さらにその政策を所管官庁が覆し、最終的に自らが望んだ政策を決定させた、形骸化させたことである。一党支配体制の下でなぜ可能であったのかを明らかにするうえで、所管官庁が自らの望む政策を決定させるために、政治過程においてどのように影響力を行使したかという官僚組織の行動メカニズムに注目する必要がある。

    一党支配体制の下で、所管官庁という官僚組織の影響力行使が、中央指導者との相互依存関係の中で行われた。所管官庁は一貫した組織利益(事業者を統制する裁量権を保つ)を有しており、完全な自由競争、同格の中央官庁・部門の存在は裁量権が保てなくなる障害となる。官僚組織の影響力行使の特徴の一つ目としては、組織利益に基づく影響力行使が行われたことである。

    電気通信事業改革の場合、中国聯通の設立や中国電信の分割、3 世代携帯電話サービスの営業免許発給によって事業者が増加することは、所管官庁から見れば事業者の経営自律化と所管官庁の統制弱体化が懸念された。中国聯通の設立を首脳部に提案したのは機械電子工業部であり、設立後の中国聯通の所属は国家経済貿易委員会であった。また3G移行を提案したのは、所管官庁ではなく、国家発展改革委員会や国務院国有資産監督管理委員会であった。地位の形骸化を懸念した所管官庁は、改革過程で無制限な事業者拡大の抑止、不完全な競争体制の構築、事業者間の緊張関係の創出などの状況を作り出した。

    二つ目の特徴として、最も影響力を有する中央指導者と相互依存関係を構築したことである。所管官庁は、最終決定の場である中央政治局常務委員会や中央政治局会議での中央指導者の協力を必要としたが、国家戦略であった電気通信事業改革の場合、すべての中央指導者ではなく、最も影響力を有する中央指導者(首相や総書記)の支持を取り付ければよかった。他方で、中央指導者は、党内での権力基盤の強化という政治的目標を達成するために、所管分野での業績を上げる必要があり、所管官庁に協力を求めた。

    三つ目の特徴として、最も影響力を有する中央指導者の支持を獲得するために、相互作用の中で戦略的に行動したことである。第一に、専門知識や政策情報を政治的に利用し、自らに有利になるよう中央指導者に選択的に提供した。第二に、中央指導者に対し、自らが望まない政策を組織利益に抵触しない範囲で受け入れるという政治的な妥協を行った。自らの組織利益を実現するために、状況に応じて政策目的を変更し、優先順位の高い政策への支持を求めた。第三に、中央指導者間の政治対立を利用した。政治的妥協と通じて、中央指導者の実績作りに協力した。

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