公益財団法人日本国際フォーラム

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「変わりゆく国際秩序における日本の外交戦略―中国の対外行動分析枠組みの構築を踏まえて―」 2021年度第5回定例研究会合

当フォーラムの「変わりゆく国際秩序における日本の外交戦略―中国の対外行動分析枠組みの構築を踏まえて―(主査:加茂具樹慶應義塾大学教授・当フォーラム上席研究員)は、さる107日、定例研究会合を開催した。講師として招いた大嶋英一・星槎大学教授より「中国海洋政策の決定過程-南沙諸島への進出」と題して報告を受けたところ、その概要は以下のとおりである。

  1. 日 時:2021年10月7日(木)19時~21時
  2. 場 所:日本国際フォーラム会議室およびZoomによるオンラインを併用
  3. 出席者:38
    [主 査] 加茂 具樹 慶應義塾大学教授 / 日本国際フォーラム上席研究員
    [顧 問] 高原 明生 東京大学教授 / 日本国際フォーラム評議員・上席研究員
    [メンバー] 飯田 将史 防衛研究所地域研究部米欧ロシア研究室長
    井上 一郎 関西学院大学教授
    林  載桓 青山学院大学教授
    江口 伸吾 南山大学教授
    大澤 武司 福岡大学教授
    熊倉  潤 法政大学准教授
    小嶋華津子 慶應義塾大学教授
    下野 寿子 北九州市立大学教授
    城山 英巳 北海道大学教授
    内藤 寛子 日本貿易振興機構アジア経済研究所研究員
    廣野 美和 立命館大学准教授
    真家 陽一 名古屋外国語大学教授
    Vida Macikenaite 国際大学国際関係学研究科講師
    山﨑  周 キャノングローバル戦略研究所研究員(五十音順)
    [ご報告者] 大嶋 英一 星槎大学教授
    [JRSPメンバー] 新田 順一 慶應義塾大学特任助教/日本国際フォーラム特別研究員
    [JFIR] 渡辺 まゆ 理事長
    菊池 誉名 理事・主任研究員 ほかゲストなど
  4. 報告内容:
  5. 南シナ海の領有権問題は、島・岩礁の領有権問題(領土問題)と海域の問題(海洋問題)という二つの異なる問題が混在している。両者を峻別しないことで誤解・誤報が生じている。

    1988年に中国が初めて南沙諸島に進出した際、ユネスコ海洋学委員会の委託で海洋観測所を設置するという名目だったが、実際は領土主権を主張するためであった。武力衝突を極力避けることが基本方針であったにもかかわらず、海軍は戦闘準備に匹敵する作業を行い、結果としてベトナムと武力衝突に至った(3・14中越海戦)。海戦は「自衛の戦い」ということになったが、海戦は現地指揮官の独断であった。海戦に関し、海軍(劉華清)と中央指導部との間に意見の食い違いがあった。

    海戦の直前劉華清は、海戦の直前劉華清は、建議の内容は今も公表されておらず、南沙の実効支配のための活動強化などを網羅したものと考えられるが、建議と3・14海戦との関係は不明である。

    1992年初頭から南シナ海での活動が活発化したが、外交部は軍に押し切られ、領海法制定時に尖閣を中国領と明記した。この時期、南沙進出について従来の海軍・国家海洋局などに加え、海南省や石油ビジネスなどステークホルダーが増えた。外交部は近隣諸国への影響を重視し南沙進出に慎重であり、銭其琛が軍の南沙での行動を抑えた。

    1994年、比が領有権を主張していたミスチーフ礁を占拠した。中国は漁民のためのシェルターであり軍事施設ではないと説明し、名目上は漁政局が所管するも、実際は海軍と国家海洋局が関与した。2015年以降の埋め立てで飛行場を含む巨大軍事施設化した。88年の南沙進出時、中国はベトナムには対抗してもASEANとは事を構える気はなかった。しかし、94年時において、中国はASEANとの対立も辞さない姿勢を示した。

    ミスチーフ礁占拠の意思決定に関して、発案者は88年時にも関与した厳宏謨(国家海洋局長)であった。90年にスカボロー礁とミスチーフ礁に避難港建設を主張するも反対に遭った。しかし、国家海洋局や軍(海軍、総参謀部)、漁政局等とともに粘り強く主張を続け、94年に党中央と国務院の承認の下、厳宏謨が取りまとめ役となりミスチーフ礁の占拠計画を推進した。

    三つの事例から導かれることとして、海洋進出にかかる意思決定は軍(海軍と総参謀部)と国家海洋局が主導した。外交部は南沙進出に慎重だったが、意思決定への影響力は限定的であった。進出する前に軍は過剰と言えるほどの準備を行った。未公表の「南沙闘争強化に関する建議」は現在も有効である可能性がある。組織上の問題として、2018年に国家海洋局は解体され自然資源部に吸収され、海洋政策の決定は中央外事工作委員会と同弁公室が負うことになった。外交部が主体となったものの、軍改革が海洋政策決定に与える影響は現時点で不明である。

    文責任在事務局