公益財団法人日本国際フォーラム

はじめに

1993年に石油の純輸入国となったことが象徴する通り、経済成長に伴う国内でのエネルギー需要の高まりを受けて石油や天然ガスの対外依存を深めてきた中国 にとって、海外のエネルギー資源への安定的な確保は国家全体の課題となっている。2030年までに石油の対外依存度が80%を超えるとの予測もあるように、中国の国外からのエネルギーの輸入は年を経るごとに増加 してきた [1]。また、気候変動問題や脱炭素に向けた世界的なエネルギー分野での大きな流れもあり、中国は再生可能エネルギー普及を政策上の重点として据えている。2020年12月に発表された『新時代の中国のエネルギー発展』についての政府白書は、習近平政権下のエネルギー安全保障のスローガンである「4つの革命、1つの協力(四個革命、一個合作) [2]」を新戦略として改めて掲げ [3]、内政及び外交上のいずれの領域においてもエネルギー政策をより充実させる姿勢を打ち出した [4]

本研究プロジェクトにおいて中国のエネルギー外交の分析を行うにあたっての基礎的な情報整理のため、本稿では、中国の権力構造の階層性に着眼しながら、エネルギー外交の政策決定過程の大まかな構造を描き出したい。

中国のエネルギー外交とその政策決定過程

本節では、中国の政策決定過程 に階層性があることに着眼しつつ、エネルギー外交におけるその過程を概観する。以下、①中国共産党中央政治局常務委員会、②中国共産党中央の議事協調機構 (委員会及び小組)、③国家エネルギー委員会、④国家発展改革委員会ならびに国家エネルギー局に焦点を当てていく。

1 中国共産党中央政治局常務委員会

中国の政策決定過程の頂点に立つのは、中国共産党中央政治局常務委員会である。中央政治局常務委員会では、内政に加え、中国の対外戦略全体に関わる問題が討議される。中国社会科学院の周琪によれば、 中央政治局常務委員会では対外政策について、米国、ロシア、日本、北朝鮮との関係や中台関係に加え、軍備管理、上海協力機構(SCO)、他国に対する債権放棄、そして中国のエネルギー供給問題などについての政策決定が行われる [5]。中央政治局常務委員会においては、対外政策の関連でエネルギー問題についての討議がなされ、エネルギー外交の全体像がそこで形成されると見られる。 また、エネルギー外交に関連する議題が党や政府などの下部組織から引き上げられ、中央政治局常務委員会で政策決定が下されることも想定される。

特に、エネルギー外交の実態を理解するために重要な情報は、最高指導部のメンバーによる外遊先である。中国の最高指導者による外遊の訪問先については、産油国がその行先として優先的に選定される傾向があると指摘されており、エネルギー外交が対外政策全般の中において中枢的な位置を占めているとも言える [6]。また、2005年1月から2010年8月までの胡錦濤による外遊先の半数以上の国は、中国の三大石油企業 [7]が石油または天然ガスの利権を有するという [8]。これらのことから、最近の中国においても、エネルギー資源を豊富に抱える国が外遊先として選ばれる趨向があると考えられるが、この点に関してはデータなどを用いた定量的な分析が必要となろう。

更に、中国は、これまで数多くの国との間でパートナーシップ関係(夥伴関係)を結んできたが、その締結相手国に関しても、やはりエネルギー資源の調達先や同国の国有企業が利権を有する国である傾向が指摘されている [9]

もう一点見過ごせないのが、エネルギー分野での利権や権力闘争である。この点で知られているのは、元常務委員(2007~2012年)の周永康の存在である。習近平政権による反腐敗運動の下、周永康を主とする石油閥(石油幇)への取り締まりが続けられてきた [10]。三大石油国有企業の中国石油天然気集団(CNPC)の出身という経歴に加え、自らの中央政治局常務委員という特権的な身分を背景としながら、周永康はスーダンでの油田開発を主導し、事実上中国の対スーダン政策を取り仕切っていた [11]。2014年に周永康が逮捕された後も、CNPCは周永康などの勢力を一掃する決意を示してきた [12]。ただ、周永康の権力の喪失は、中国がスーダン及び南スーダンにおける石油などのエネルギー資源の利権を放棄したことを意味する訳ではなく、むしろ「一帯一路」構想の一環として、その権益を維持する動きを見せている [13]。2018年9月に中国・アフリカ協力フォーラムに参加するためにスーダンのオマル・ハッサン・アハメド・バシル(Omar Hassan Ahmed al-Bashir)大統領が中国を訪れた際、CNPC董事長の王宜林と会談を行っている。王は、両国間でのエネルギー分野での更なる協力推進への期待を表明しつつ、CNPCとスーダン政府との間での石油及び天然ガスの協力に関する覚書に署名した [14]。現在の中国は、周永康などの勢力を排除しつつ、国有企業などを通じたエネルギー外交を引き続き展開していると見られる [15]

エネルギー政策及びその政治的な重要性に鑑みれば、中央政治局常務委員会がエネルギー外交の政策決定過程において主導的な立場にあると言える。

2 中国共産党中央の議事協調機構 (委員会及び領導小組、協調小組)

エネルギー問題は、経済発展を支える政策課題であることから、中国共産党中央においても非常に重視されていると考えられる。したがって、エネルギー外交は、党中央の議事協調機構における政策決定に基づいて行われるであろう。

2018年に領導小組から委員会へと格上げされる以前の出来事ではあるが、2014年6月に開かれた中央財経領導小組第6回会議の議題はエネルギー問題であった。経済政策を担う中央財経領導小組のこの時の会議には、当時の楊潔篪国務委員や王毅外交部長の出席が確認されている [16]。楊や王がここに出席していることは、エネルギー問題が外交政策と連結しているという中国の考えを反映していると思われる。

中国は対外政策面でエネルギー分野での国家間協力に重きを置いていることから、中央外事工作委員会においてその問題が議題として挙げられると考えられる。例えば、2018年5月に開催された中央外事工作委員会の第1回会議では、習近平が講話を行ったが、その際に「一帯一路」構想の意義について強調している [17]。「一帯一路」構想の中では、他国とのエネルギー分野での協力が重視されているため、同委員会でエネルギー外交に関わる政策決定が下されることが予想される。また、2020年10月に中央外事工作委員会弁公室主任の楊潔篪がスリランカ、アラブ首長国連邦(UAE)、アルジェリア、セルビアの4ヶ国を歴訪し、帰国後に中国メディアのインタビューに答えている。その中で、楊は、それらの国々はいずれも「一帯一路」構想において重要であるとし、共同でインフラやエネルギー面での協力を着実に進めていく意向に言及している [18]。後にも論及する通り、エネルギーは対外関係に関わる「一帯一路」構想の中において重要な分野として位置づけられていることから、中央外事工作委員会はエネルギー外交の政策決定過程の中で重要な組織であると言える。

正確な実情を解明することは難しいものの、党中央の各委員会や小組において、エネルギー問題は国内外の時局に関わる議題として幅広く取り扱われるものと思われる。

3 国家エネルギー委員会 (国家能源委員会)

現在の国家エネルギー委員会は、2010年に発足した [19]。国家エネルギー委員会が国務院によって設立された目的は、「エネルギー戦略の政策決定と統一的調整を強化するため」であり、同委員会は「中国で最高規格のエネルギー機関」であるとされる。また、その主たる職責に関しては、「国のエネルギー開発戦略を研究・策定し、エネルギー安全保障とエネルギー開発における重要な問題を審議し、国内のエネルギー開発とエネルギー国際協力に係わる重要な事項を統一的に調整」の3つとなっている [20]。国家エネルギー委員会の弁公室主任については、国家発展改革委員会主任、副主任は国家エネルギー局長が兼任することになっている [21]

習近平政権下では、これまで2014年4月 [22]、2016年11月 [23]、2019年10月 [24]と3回にわたる国家エネルギー委員会の会議開催を確認することができる。いずれの会議についても共通するのは、同委員会主任である李克強が経済発展におけるエネルギーの重大性やエネルギー安全保障を安定的に確保する意義、そしてエネルギー問題が国内外の情勢と連関している点を強調していることである。2016年の会議の際には、「一帯一路」構想に言及しつつ、エネルギー分野での国際的な協力を進めていく必要性を李が説いているように、国家エネルギー委員会での議題が対外関係の在り方にも関わりうることを示している [25]

国家エネルギー委員会の参加者については、適宜人事の入れ替えが実施されており、その名簿が公表されてきた。外交との関わり合いについて言えば、2010年(楊潔篪) [26]、2013年 [27]と2016年(王毅) [28]の通知では、それぞれ5番目に外交部長の名が掲載されている。

しかし、2018年の委員会の参加者を見ると、その並びに変化が生じていることが分かる。それまでの外交部長が5番目、その次に国家発展改革委員会主任が来るという従来の順番とは異なり、2018年の人事では、王毅の名前が消え、その代わりに6番目に楽玉成外交副部長の名前が掲示されている。 王毅の代わりに楽玉成が国家エネルギー委員会に加わった理由は、王が国務委員を兼任することになったためであると思われる。他方、2017年に国家発展改革委員会主任に就任した何立峰が国家エネルギー委員会主任である李克強、副主任である韓正に次ぐ3番目に位置している [29]。何が3番目にいることに関しては、国家エネルギー委員会の中で国家発展改革委員会の発言力が増加したことを暗示しているとの見方もできなくはない [30]

2018年の国家エネルギー委員会の人事入れ替えが、中国のエネルギー外交にいかなる変化を与えるようになったのかについては不明な部分が多い。それでも、次に着目する国家発展改革委員会の重要性が高まっている可能性があり、更にエネルギー外交の政策決定過程にもそのことが影響するようになっているとも考えられる。

4 国家発展改革委員会及び国家エネルギー局

(1) 国家発展改革委員会

中国のエネルギー政策全般において重要な位置を占める組織は、国家発展改革委員会(発改委)である。発改委は、主にマクロ経済の政策を担う中央官庁であり、その強大な権限ゆえに中国の行政全体の中における「最強官庁」とも称されている。そして、国家エネルギー局(国家能源局)を管轄下に置く発改委は、エネルギー行政においても強大な権限を有している [31]

経済政策の一部でもあるエネルギー政策決定過程の中において、発改委は最重要な組織であると考えられる。エネルギー政策で多大な影響力を擁する発改委は、長期的な観点からのエネルギー資源の価格や投資先、入札などを立案する。また、既述の国家エネルギー委員会の弁公室は、発改委の内部にあることから、前者は後者の管轄下にあるとの見方もある [32]。対外政策決定過程に携わる行為主体としても、発改委はエネルギー分野での関与性を強めてきた。エネルギー安全保障を重んじる発改委の役割は、気候変動対策や石油および天然ガスなどのアクセスに関する政策決定過程において著しいとされている [33]

発改委の重要性は、中国が推進する「一帯一路」構想において顕著になりつつある。例えば、2015年3月の「シルクロード経済ベルトと21世紀海上シルクロードの共同建設推進のための構想と行動」の文書については、発改委、外交部、商務部の順番で共同発表がなされた [34]。その直後の4月、発改委が所管するシンクタンクである中国国際経済交流センター(中国国際経済交流中心)において、この文書に関する討論会が開催された。そこには、発改委西部司の司長である欧暁理が参加している。その欧については、一帯一路建設工作領導小組弁公室の関係者であることと共に、同文書の主な起草者であると紹介されている [35]。なお、数多くの政府組織の間での利害調整や全体的な戦略の統一性といった点で司令塔としての役割が期待されているその一帯一路建設工作領導小組の弁公室は、発改委の中に設置されている [36]

また、2017年の何立峰の発改委主任への昇進という属人的な要因は、「一帯一路」構想における同組織の役割と関係していると思われる。何は、2014年に発改委の副主任に就任し、2017年に主任へと引き上げられた。その副主任の時代に、既に何が「一帯一路」構想を主管することが報じられており [37]、何が今後「一帯一路」構想でより大きな役割を担う可能性が指摘されていた [38]。実際に、何は対外的に高い地位にあると見られる。例えば、2020年12月、中国とアフリカ連合(AU)との間で「『一帯一路』建設の共同推進に関する中華人民共和国政府とアフリカ連合の協力計画」への署名式が行われた。この際、ムーサ・ファキ (Moussa Faki)AU委員会委員長と共に署名したのは発改委主任の何立峰であった [39]。何が2017年に発改委主任に着任したことは、同委員会が習近平の個人的な権威とも結びつく「一帯一路」構想を牽引する立場にあることを示唆する。

「一帯一路」構想において、エネルギー分野はその中軸に据えられているが、この点でも発改委の存在が目立つ。2017年5月、一帯一路建設工作領導小組は、「一帯一路」構想に関する文書を発表した。その中では、「一帯一路」構想の重点的な7つの分野としてインフラ建設、貿易、生産能力や投資の拡大、金融、環境や生態系の保護、海洋協力、社会交流が挙げられている。とりわけ、エネルギー面でのインフラ建設については、ロシアや中央アジア、パキスタン、東南アジアとの関係に触れつつ、各国との協力を積極的に推し進める方針を明示している [40]。それと同時期、発改委と国家エネルギー局が「シルクロード経済ベルトと21世紀海上シルクロードのエネルギー協力推進のための構想と行動」 (以後、「エネルギー協力推進のための構想と行動」)を発表し、気候変動問題への取り組みや再生可能エネルギーの普及などが進む国際的な情勢の下で、エネルギー協力が「一帯一路」構想の中核にあることを強調した。発改委が下部組織の国家エネルギー局と連名でこのような文書を発表したことは、「一帯一路」構想の国際的なエネルギー協力における同委員会の中心性を表していよう [41]

また、発改委は、「一帯一路」構想関連の中国・パキスタン経済回廊 (CPEC)の計画に直接携わっている。両国間でのCPECの意思決定機関である共同協力委員会 (JCC)では、パキスタン側は計画・開発・構想特別相、中国側は発改委副主任が共同議長を担当する。例えば、2019年11月にイスラバードで第9回目のJCCが開催された時には、発改委副主任の寧吉喆が出席し、CPECが成果を挙げてきたことなどに言及しつつ、新しい時代におけるより緊密な「中パ運命共同体」を打ち立てる意向を表明した。この会議ではエネルギー、交通インフラ、産業協力、グワダル港などに関する分科会が開かれている通り、エネルギー分野はCPECの中で重要な議題である。それのみならず、寧がパキスタンのイムラン・カーン(Imran Khan)首相との会談も行っているように、発改委の外遊面での存在感も高まりつつある [42]

従来、発改委は国内の経済政策の文脈から注目を集めることが多かったと思われるが、「一帯一路」構想との繋がりで対外政策面でもその存在感を増している側面がある。

(2) 国家エネルギー局

多数の下部組織を抱える発改委の管轄下には、国家エネルギー局 (国家能源局)がある。国家エネルギー局の役割は、具体的なエネルギー政策立案、規制、計画及び調査とされている [43]。対外政策の面においても、国家エネルギー局は一定の程度重要な役割を果たしていると考えられる。

先述の2017年の「エネルギー協力推進のための構想と行動」に関して、国家エネルギー局の責任者が国家エネルギー局主管の『中国電力報』のインタビューに応じている。それによれば、「一帯一路」構想の中でエネルギー分野での協力は重要な位置を占めており、同局は他国政府のカウンターパートや国際機関との連携を図りつつ各種の成果を挙げている。また、具体的な事例として、パキスタンやロシア、英国などとの協力を列挙しながら、同局はエネルギー分野での国際的な協力を政策面で実施してきたとする。それと同時に、中国に賛同する諸国との多国間での枠組みとして、「一帯一路」エネルギー協力クラブ(「一帯一路」能源合作俱楽部)を作る意義についても論じている [44]

2019年4月、「一帯一路」エネルギー協力パートナーシップ関係の樹立に関する国際会議が北京で開かれた。この会議で演説を行った国家エネルギー局の章建華局長は、エネルギー協力に関するパートナーシップ関係が正式に成立したことに加えて、「一帯一路」構想におけるその意義を説いている [45]。なお、アジアや中東、アフリカなどからの参加者が集まった同会議の期間中に発表されたエネルギー協力についての原則や実施についての文書では、協力の原則の1つとしてエネルギー安全保障についての項目がある。興味深いのは、「各国がエネルギー安全保障の方面における核心的利益と関心を尊重し、国際的なエネルギーの輸送ルートと越境的なエネルギー事業の安全を高度に注視する」という文言である [46]。エネルギー安全保障についての「核心的利益」が具体的にいかなることを指しているのかは明らかではないが、エネルギー輸送や同分野での国際的な協力が第三国(恐らく米国を主に想定)によって妨げられることを牽制するかのような文言は、「一帯一路」構想はエネルギー安全保障政策全体と結び付いているという中国の意図の投射であるとも考えられる。

冒頭部で記した2020年12月に白書『新時代の中国のエネルギー発展』が発表された際、国務院新聞弁公室で記者会見が催された。この記者会見には、発改委党組のメンバーかつ国家エネルギー局の主任である章建華が出席し、その白書の主な内容を説明する役割を担っている。また、この席には、発改委の秘書長である趙辰昕、国家エネルギー局法制及び体制改革司長である長朱明も同席している。章建華が「4つの革命、1つの協力」のエネルギー戦略としての重要性や「一帯一路」構想の下で中国がエネルギー分野での国際的な協力を進めてきたことをアピールするなど、国家エネルギー局のそれらの高官達が同白書の内容を説明する機会であった [47]。発改委の幹部及び国家エネルギー局のトップが出席したこの記者会見の模様から判断すると、「一帯一路」構想も関係する「4つの革命、1つの協力」を強調する『新時代の中国のエネルギー発展』の政府白書は、両組織によって作成されたと判断できる。

発改委及び国家エネルギー局のエネルギー政策に関する政策決定及び実施は、中国の対外関係を直接的あるいは間接的に規定すると見られる。 「一帯一路」構想の一環である中国のエネルギー外交の方向性を決める組織として、発改委や国家エネルギー局に注目する必要がある。

おわりに

ここまで、本稿においては、中国のエネルギー外交の政策決定過程 について、権力構造の階層性に着目しながら論じてきた。より詳細な考察が求められるが、エネルギー外交と関連する「一帯一路」構想で中心的な役割を担う国家発展改革委員会が対外関係に影響を与える行為主体として重要性を増してきていることを指摘できるだろう。

なお、本稿で論じることができなかったエネルギー外交の政策決定過程に関与する他の組織 については、今後の課題として注視していきたい。