当フォーラムの「『自由で開かれたインド太平洋』時代のチャイナ・リスクとチャイナ・オポチュニティ」研究会(主査:神谷万丈当フォーラム上席研究員・防衛大学校教授)の欧州班は、さる6月29日、定例研究会合をオンライン開催した。ギブール・ドラモット東洋言語文化学院(仏INALCO)准教授より、「最近の EU 対中関係」と題して報告を受けたところ、その概要は以下のとおりである。
- 日 時:令和2年6月29日(月)午後6時より午後8時まで(2時間)
- 場 所:オンライン形式(Zoom)
- 出席者
[副査・欧州班責任者] 細谷 雄一 慶應義塾大学教授 [アドバイザー] 岩間 陽子 政策研究大学院大学教授 [メンバー] 鶴岡 路人 慶應義塾大学准教授 [JFIRライジングスター・
プログラム・メンバー]合六 強 二松学舎大学専任講師員 越野 結花 国際戦略研究所(IISS)研究員 田中 亮佑 防衛研究所研究員 [研究協力者] ギブール・ドラモット 東洋言語文化学院(仏INALCO)
准教授 (五十音順)[JFIR] 伊藤 和歌子 特別研究員 武田 悠基 研究員 岩間 慶乃亮 特任研究助手 田辺 アリンソヴグラン 特任研究助手 中村 優介 特任研究助手 平井 拓磨 特任研究助手 など - ギブール・ドラモット准教授の報告「最近の EU 対中関係」の概要
(1)パンデミックを機にしたEU内での変化
EU内では、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、より戦略的に中国と向き合う必要があるとの認識が以前より高まっている。感染拡大以前から、東欧や南欧だけでなく、フランスやイギリスでも中国の存在感が高まっており、EU加盟国は、中国の域内対外投資に対して何か対策を講じなければならないと考えていた。欧州委員会は、対外投資に関する枠組みの形成を主導し、2019年3月に加盟国間で合意した。しかし、この枠組みは緩やかなものであり、欧州委員会はあくまで助言をするに留まった。これまでEU内では「自由貿易によって中国を転向させることができる」というリベラル志向が占めていたが、今回のパンデミックを機に「より強いヨーロッパ」を志向する意見が台頭している。例えば、マクロン仏大統領は欧州防衛を推進している。
(2)中国による情報戦
今回のパンデミックで、欧州委員会ならびに欧州理事会、EU加盟国から批判が高まっているのが中国による情報戦争である。実際、欧州委員会とEU外務・安全保障政策上級代表の間でこの問題が話し合われ、フランスは6月14日、中国大使を外務省に招致した。
(3)最近の日・EU関係
5月26日、安倍首相とシャルル・ミシェル欧州理事会議長、およびウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長は会談し、共同報道発表を発出した。三者は、民主主義の尊重や、感染拡大を回避するために国際機関の役割を改善することなどを求めた。香港についても話し合われたが、発表には盛り込まれなかった。しかし、日本とEUは中国に対し、公に批判するわけではないが、「なんとかしたい」という共通の意思が垣間見える。(事務局註、参考: https://www.mofa.go.jp/mofaj/erp/ep/page4_005157.html )
(4)EU・中国サミット
ミシェル理事会議長とライエン委員長は、中国の習近平国家主席および李克強首相と6月22日に首脳会談を行ったが、会談後に共同記者会見は開かず、EU側からの報道発表が発出されたに留まった。EUはその中で、香港の人権状況に対する「深い懸念」を改めて示した。
(5)域外からの投資に対する欧州委員会の権限強化の可能性
欧州委員会は最近、対外投資政策に関する白書を発表したが、その中で、2019年3月に合意された、域外からの投資に関する枠組みよりも、より強い規制の必要性を提唱している。とりわけ、欧州委員会が各国の取りまとめ役として、域外からの投資に対し、より強い規制権限を持つことが求められている。例としては、外国企業によるEU域内国企業の合併を禁止させることができる、といった権限である。欧州委員会は、3年前に初めて対外投資規制枠組みの権限を得たが、今回の感染症拡大は、その権限強化への機運となっている。
以上、文責在事務局