2020年6月30日に香港国家安全維持法(以下、国安法)が成立して以降、香港では民主化を求め、政府に抗議する人々に対する抑圧が強まっている。黄之鋒(ジョシュア・ウォン)や黎智英(ジミー・ライ)といった日本でも著名な民主活動家、メディア関係者、政治家を含む多数の人々がターゲットとなり、相次いで逮捕・起訴されている。また同時に、政治的弾圧から逃れるために国外への移民の道を模索し、あるいは海外において難民申請を行う香港人の数が増加している。
この香港国安法問題は、2019年以来の逃亡犯条例反対条例運動に引き続いて、国際社会の関心を強く引き付けることになった。米英を中心とした各国は香港の状況に憂慮を表明し、中国政府に対する批判を繰り返す一方、中国政府は内政干渉であるとしてこれらに強く反発する構図が生まれている。このように香港における民主派に対する弾圧は、ウイグルにおける人道危機と同様、中国と各国の間に緊張関係を引き起こす重大な争点の一つとなっている。
香港国安法制定までの経緯や法案の内容、香港社会における影響などについては、既にメディアの報道や香港専門家による分析が出ているため、ここでは繰り返さない[1]。他方で香港社会の情勢の変動を受けて国外に逃れようと移民する人びとと、それに対応する各国の政策については、当該国の移民政策あるいは中国との二国間関係の文脈で議論されることはあっても、それらを比較し、国際関係の中に位置づけて捉えられることは少ない。そこで本稿では同問題によって引き起こされた「人の移動」をめぐる、関係各国政府の政策動向(2020年7月-2021年1月)について整理し検討していくこととしたい。
香港「人の移動」問題の前史
前述の問題を論じるのに先だって、香港の「人の移動」に関わる歴史的背景を二つの点に絞って概観しておく。第一の前史は、冷戦期に見いだせる。1949年の中華人民共和国成立により、華南地域から香港への大規模な避難民が生じた。このとき、伝統的な華人の移民先であった東南アジア各地は政治的な混乱に見舞われており、また米国などの移民国家はアジア系に対する移民制限を解除していなかったために、避難民は出国先を失い、香港で滞留することになった。香港政庁はかれらを厄介者扱いし、最低限の福祉しか提供しなかった。その一方、当時の国際社会においては、国連に議席を得ていた中華民国はかれらを「国民」であると主張していたために、かれらは実質的な保護は与えられていなかったにもかかわらず、形式的には保護する本国が存在することになっていた。そのため、難民条約の定める「難民」とは見なされず、国際的な支援を受けることが困難であった [2]。
しかし東側との冷戦対峙の状況下において、米国政府は香港難民にプロパガンダの観点から利用価値を見出した。米政府は民間支援団体を通じた選択的な受け入れを実施し、米国の道徳的な優位性を宣伝する材料としていた[3]。また台湾の中華民国も同様に、政治的または経済的な利用価値を持つ「難民」については台湾への移住を許可していた[4]。このように、冷戦初期においては中国と対峙する諸国家が、政治的な意図を持って香港難民を受け入れていたのである。
米国と台湾による、政治性を帯びた「難民」受け入れは1950年代を通じて行われていたが、この状況は50年代末以降、異なる局面へと展開していった。1958年には香港政庁が避難民の定住を支援する方針へと転換し、さらに1960年代後半からは、米国やカナダがアジア系に対する移民制限を解除したことで、香港から海外への移民の道が開けるようになったからである。
第二の前史は、1984年の中英共同声明により、1997年における香港の中国返還が既定路線となった前後から始まる。同声明を通じて香港に一国二制度が適用され、返還後50年の間は返還時点での現状を変更しないことが約束されたが、にもかかわらず将来における中国の統治に不安を覚えた少なからぬ香港市民がカナダ、米国、オーストラリアなどに移民を開始した。1989年に発生した天安門事件はこの移民の流れを加速させた。1980年から2008年までの間に香港から海外へと移民した数は約80万人に上ったが、そのうち46万人弱が1989年から1997年の8年間に移民している [5]。
英国はこの間、香港住民の身分に関わる国籍政策の変更を行った。まず、1981年の英国国籍法の改定によって香港住民は英国属領市民[BDTC]とされ、英国本土における居住権を持たなくなった[6]。ついで1985年香港法および1986年香港国籍令により、97年の返還後にBDTC資格保持者は資格を失うことが規定され、その代わりにかれらには領事保護権を伴った英国国民(海外)[BN(O)]の地位が申請により付与されることになった。ただし、このBN(O)はBDTCと同様に、英国本国における居住権はなく子供への継承もできないものとされた。このBN(O)パスポートへの切り替え対象者は324万人以上にも上った [7]。
以上のような歴史的背景から、米国、英国、カナダ、オーストラリアなどの英連邦構成国、ならびに台湾が香港からの移民・難民受け入れに関する利害関心を有していることが分かる。以下では国安法制定前後における、これらの国々の「人の移動」をめぐる政策動向を検討していく。
米国の動向
国安法制定に先立つ2019年の逃亡犯条例問題においては、当初トランプ政権は無関心であったと言われている。しかし8月以降、デモ隊への鎮圧が暴力するにつれてトランプ大統領は態度を硬化させ、「香港を人道的に取り扱わなければ、貿易交渉を危険にさらす」と警告[8]。以後、米国世論の対中不信の高まりと香港における事態の悪化を背景に、米国は中国に対する制裁を立て続けに実施してきた。
香港区議会選挙で民主派が大勝した後の11月27日、米国議会は「香港民主主義・人権法」を成立させた。これには、香港人の管轄外へ引き渡し、拘禁、拷問に関与した者ならびに、その他の国際的に認められた人権に対する重大な侵害を行った者に対して資産凍結、米国渡航ビザの発行停止、取り消しする規定(同法第7条)を含んでいる[9]。さらに国安法成立後の2020年7月14日には「香港自治法」を成立させ、香港の自治および人権を侵害する個人・団体に対する金融制裁を規定した [10]。これに基づいて8月には林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官以下11名に対する制裁を実施している[11]。また香港自治法の成立と同日、トランプ大統領は大統領令13936に署名し、香港との犯罪人引き渡し条約の停止、従来香港に与えられていた旅行と移民についての優遇の取り消しを含む措置をとっている[12]。
以上のような措置以外にも、トランプ政権は行政裁量に基づき、中国に対する一連の制裁を行っている。2019年10月には中国大使館の人員に対し、地方政府当局者、教育関係者と接触する場合は米国政府に事前の許可を必要とするよう規定[13]、2020年5月には中国ジャーナリストに対するビザ制限[14]、同12月には中国共産党員とその家族に対するビザ制限を導入している [15]。これらの措置のいくつかは中国政府の米国への制裁に対する同等の報復として取られた行動であり、必ずしも香港問題と直接リンクしている訳ではない。しかし中国本土であれ香港であれ、中国政府による自由の抑圧に起因する政府間関係の悪化が「人の移動」に対する制限として現れている点で注目に値するだろう[16]。
なお、香港国安法が成立した6月30日、マリノウスキー共和党議員により、「香港人民の自由と選択法案」が米国下院に提出されている。同法案は香港人で法の発行の日以前からアメリカに滞在する者に対し一時的被保護身分(Temporary Protected Status)を与え(第5条)、ついで民主化運動に関わり、処罰または身分の剥奪対象となった人々に対する難民認定を行い(第10条)、同盟国とパートナーに対して同様の便宜を図ることを呼びかける内容(第11条)を含む[17]。しかし法案は12月18日、テッド・クルーズの反対により上院を通過せず [18]、トランプ政権においては成立しなかった。
英国および英連邦構成国の動向
英国はかつて植民地として香港を統治し、中英共同声明を通じて香港の主権を中国に返還した当事国であることから、米国に次いで香港の現状に対し強い批判を加えてきた。以下では英国と、香港からの移民を受け入れてきた英連邦構成国であるカナダ、オーストラリア、ニュージーランドの動向を合わせて整理していく。
国安法の導入に対応して、英国ジョンソン政権は2020年7月20日、北京政府は中英共同声明に基づく国際的義務に「深刻に違反している」として香港との犯罪人引き渡し条約を停止し、香港市民に対して英国市民権取得を簡易化する計画を公表した[19]。カナダ、オーストラリア、ニュージーランドもまた英国の動きに追随して香港との犯罪人引き渡し条約の停止を宣言[20]。中国政府の側でもこれらの動きは重大な内政干渉であるとして、犯罪人引き渡し条約の停止を通告している [21]。
中国政府に対する制裁の実施と同時に、これらの国々では香港人に対する救済を開始している。英国政府は7月より2020年1月末までの間に、「移民法の定めの外の在留」(Leave Outside the Immigration Rules, LOTR[22])の原則に基づく自由裁量により、7000名の香港人の定住を認めた[23]。また民主派団体・香港衆志の党首であり、前立法会議員の羅冠聡(ネイサン・ロー)もまた、英国に移住し亡命申請を行ったことが報道されている [24]。これに加えて、2021年1月31日、BN(O)パスポート所持者とその直系親族に対して5+1年で市民権を取得できるビザポリシーを開始し、2026年までに30万人の移入を見込んでいるとした。
英国が主導する香港市民救済の動きには、オーストラリア、カナダが追随している。オーストラリア政府は2020年7月より「セイフ・ヘイヴン」スキームに基づいて国内で就労または就学する香港人に対して5年間の在留資格延長を認め、2021年2月までに2500人が適用を受けている[25]。カナダ政府もまた、11月12日に香港の若者の就労・就学を積極的に受け入れる移民構想を発表している [26]。英国の政策がBNOパスポート保持者(23歳以上)を主たる対象とする一方、オーストラリアやカナダは香港政府が発行するHKSARパスポートのみを所持する若年層を含めて対象としている点からすれば、この三カ国は救済対象を「分業」しているようにも見える。他方で、ニュージーランド政府は2021年1月末現在において、国安法の制定に対応した、香港人に対する救済措置は公表していない。
これまで見てきた各国のうち、英国と米国は単独で中国に対する抗議を行っているほか[27]、2020年11月19日にはファイブアイズ名義で以下のような声明を発表している[28]。
中国の行動は、法的に拘束力のある、国連に登録された中英共同声明の定める国際的な諸義務に対する明確な違反である。中国は、「香港が高度な自治と、言論の自由を享受する」という約束の双方に違反している[29]。
ただし、2021年以降は、ニュージーランドは他の国と一線を画した動きを見せている。1月11日、香港において50名以上の民主派の政治家、活動家が逮捕された際にもファイブアイズ名義で中国に対する非難声明が発出されているが、ニュージーランドはこれとは個別に声明を発出している[30]。このように、香港問題をめぐってファイブアイズが完全に足並みを揃えているわけではないことが確認できる。
台湾の動向
台湾では、香港の逃亡犯条例反対運動を通じて中国に対する警戒感を高めた世論の後押しを受け、2021年1月の総統選挙では現職の蔡英文が再選された。5月20日の就任演説において、蔡英文は中国が提案する、台湾に対する一国二制度の適用を改めて拒否している[31]。このような背景のために、蔡英文政権は就任当初から香港問題に関して強い関心を示してきた。
5月24日、蔡英文総統はフェイスブック上において、国安法制定を前に香港の一国二制度が危機に瀕していることに懸念を示し、「香港マカオ関係条例第60条に基づき、香港情勢に変化が生じれば、同条例の一部または全部の適用を停止することがありうる」との声明を発表している[32]。同条例は中国返還後も、香港・マカオが中国本土とは異なる統治を受けることを前提として制定された、両地との交流関係を規定する法律である。そのため、この発言は「香港を見捨てる」意図とも受け止められたことから、翌日には香港・マカオ関係を管掌する官庁である行政院大陸委員会は、この発言は北京政府に対して国安法の制定が重大な結果をもたらすことを警告する意図であったと表明。政府として香港人に対する人道支援を行っていく考えを強調した [33]。
この方針は6月18日に、「香港人道援助ケア・アクションプラン」(香港人道援助関懐行動専案)として具体化され、台港サービス交流オフィス(台港服務交流弁公室)を立ち上げ、香港人の台湾での就学就業、投資創業、移民定住に関する情報提供を行うほか、国内香港人の生活状況に関する相談窓口を設け、安全や自由が脅かされる事案については行政院の管掌案件とした。ただしこれらの支援は台湾に合法的に入境した香港人を対象とし、域外の香港人の救援を意図するものではないと説明されている[34]。
行政院大陸委員会が示した前述の行動計画は、従前から存在した香港からの投資移民や留学生受け入れ政策の延長線上に位置づけられるものだが[35]、野党からはより踏み込んだ香港政策を求める声が上がっている。時代力量と台湾民衆党はそれぞれ5月1日と5月15日、「香港マカオ関係条例」第18条に対する修正案を提出した。同条は、「政治的な要因によって安全および自由に緊急の危害を受ける香港あるいはマカオの居民に対して、必要な援助を提供し得る」とする規定であるが、これに修正を加え、香港からの「難民」に対して政治庇護を与えることを条文に規定するよう求めたのである [36]。また最大野党である国民党からも、難民保護を明記しないものの、香港からの避難者に対して入管法の罰則の適用を除外する第18条修正案が提起されている[37]。これらの議案は内政委員会に付託され、審議を待つ段階にあるが、もし野党が要求するような第18条の修正が成立するのであれば、台湾政府は何らかの形で、香港からの「難民」受け入れを政策化する必要に迫られることになる。
なお台湾では2019年の逃亡犯条例反対運動以降、香港からの移民が増大する傾向にあり[38]、これにともなって香港からの入境・定住を規定する政令が厳格化されている。2020年8月17日、「香港マカオ居民台湾地区進入及び居留定居許可弁法」第22条、第30条が修正され、中国大陸の公的機関やメディア等と繋がりがある、または過去にあった人物の移住を制限するよう規定が改定されている [39]。ここからは、香港からの移民受け入れ拡大に乗じた、中国共産党のエージェントの浸透を警戒する意図が見て取れよう。
中国の反応と海外香港人の動向
最後に、中国政府の反応と海外香港人の動向について簡単に確認しておく。上述した各国の抗議に対しては、中国政府は「香港問題は純粋に内政問題である」と反駁し、制裁に対しては同等の措置でもって報復する、という行動を繰り返している。既に言及したもの以外の例では、2020年8月10日、米国による香港の当局者への制裁に対する報復としてマルコ・ルビオ上院議員以下11名に制裁[40]、また9月11日には米国外交官に対してビザ免除特権を停止し、行動制限を導入することを宣言している [41]。11月30日には、同月に米国が4名の制裁に踏み切った事に対して、米国民主主義協会アジアディレクターのジョン・クナイスをはじめとする4名に制裁を科し[42]、さらにトランプ政権末期の2021年1月21日には、米国による28名の人員に対する制裁に対して、ポンペオ国務長官以下10名に制裁を科す措置をとっている [43]。以上のような、外国政府による香港問題への関与を「内政干渉」であるとしてはね除ける態度は、2月10日に行われた習近平とバイデン米大統領の電話会談においても確認できる[44]。
中国政府の報復は、外国政府による中国政府当局に対する制裁だけでなく、香港人に対する移民受け入れ政策に対しても行われている。中国政府は、英国政府がBN(O)パスポート所持者に対して移民受け入れ拡大ことに対して「内政干渉」であるとし、1月31日にBN(O)パスポートを有効な旅券と見なさないと宣言している[45]。これは香港人の出国を直接に妨げるものではないが、外国政府に対しては、香港人移住希望者の受け入れが政治的な行動であると中国が見なした場合、対中関係を悪化させるリスクがあることを強く印象づけたと言える。
他方で海外に流亡した香港人活動家は、香港民主化運動の「ディアスポラ化」を推し進めている。前述した羅冠聡以下8名のグループは3月14日、ウェブサイト上で「2021香港約章」を掲げ、離散香港人(diasporic Hongkonger)に対し、香港における民主と自治の追求のための団結を呼びかけた[46]。これに対して香港の保安当局は翌15日、国安法は香港域外にも効力が及び、違反者は「身分や背景を問わず、あるいは所在地がどこであれ、特別区政府は必ず法によって処理し、法律上の責任を追及する」との声明を発している [47]。このような直近の経過からは、民主と自治を求める香港人とこれを抑圧せんとする中国政府の角逐が、今後海外の香港人社会にも波及していく可能性を見て取れるだろう。
まとめと展望
本稿では、香港国安法以後に生じた、香港からの「人の移動」に対応した関係各国の政策動向について検討してきた。以下では、これまでの検討内容をまとめた上で、本問題についての今後の展望を述べる。
国安法制定以降、本論で分析した各国(米国、英国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、台湾)の対応は、大まかには香港の民主派を弾圧する中国政府・香港政府に対する「制裁」と、弾圧を受ける香港市民に対する「救済」に二分することが出来る。「制裁」の側面においては、人権抑圧者と見なした当局者に対して資金凍結、ビザ発行停止等の措置を取った、米国の一連の行動が突出している。米政府による制裁はトランプ政権下で行われたものだが、いずれも上下院の議決を経て成立した法律に則って実行されているため、バイデン政権下においてもこれらの制裁は当然に継続されるだろう。他方、大統領令に基づく香港への特別待遇の停止や、中国からの渡航者に対するビザ厳格化措置が継続されるか否かについては、今後の米中関係の指標として観察に値する。
他方、香港市民に対する「救済」の面においては、英国が最も積極的な行動を取っている。英国は1月末以降にBN(O)身分の香港人に対して市民権取得の道を開いたが、これは香港返還時にも行われなかったほどの措置である。カナダ、オーストラリアも香港人移民に対するビザ政策を変更し、移民受け入れ拡大、あるいは市民権取得も含む居住資格の安定化を図っている。これらの動きは、中国に対する政治的な対決姿勢の表明であるのと同時に、長年に渡って香港からの移民を受け入れてきた歴史的経緯を反映したものでもあると考えられよう。
香港市民に対する今後の「救済」の側面に関しては、米国と台湾の動向が注目される。具体的には、トランプ政権下では成立しなかった「香港人民の自由と選択法」がバイデン政権下で成立するか否か、立法院に提出されている「香港マカオ関係条例」第18条修正案が成立するか否かがポイントとなる。これらが仮に成立すれば、香港市民に対する「救済」の道は広がり、かつ中国に対するより強固な政策的シグナルとなる。しかしこれらの措置は中国側からの反発を引き起こし、英国に対するBN(O)パスポートの無効宣言の類する報復措置が取られることが当然予想されよう。
最後にこの国安法導入が引き起こした新たな「人の移動」に関連する、二つの問題に言及しておきたい。いずれも中国政府およびその指導下にある香港政府が、移動の自由にも踏み込んで香港市民の権利を抑圧するかという点に関わっている。第一は、香港政府がパスポート政策を転換させ、香港市民の出国を阻止、妨害する可能性である。現在までのところその徴候は見られないが、権威主義体制の国家がこのような措置を取ることは極めて一般的である。第二は海外に既に居住する香港人の身分保障についてである。一般に外国人が在留資格を取得・更新するにあたりパスポートは必須である。しかし23歳以下の香港人はBN(O)パスポートを持ち得ず、かれらは香港政府発行のSARパスポートのみを有する。仮にパスポートの発行権限が政治的統制の道具に用いられた場合 [48]、最も脆弱な立場に立たされるのは海外に居住する香港の若者ということになる。この点は、日本国内の入管政策も含めて注視していく必要がある。