掲題研究会合が、下記1.~3.の日時、場所、出席者にて開催したところ、その議論概要は下記4.の通り。
- 日 時:2021年5月21日(金)17時~18時
- 場 所:オンライン形式(Zoom)
- 出席者:6名
[ゲスト] 張 林峰 ZTEコーポレーション副社長 [主 査] 渡邊 啓貴 JJFIR上席研究員/帝京大学教授 [顧 問] 杉田 弘毅 共同通信特別編集委員 [海外研究メンバー] ギブール・ドラモット フランス国立東洋言語文化大学准教授 [JFIR] 高畑 洋平 主任研究員 渡辺 繭 理事長 - 協議概要
(1)張副社長による報告
5Gとは、通信の第5の規格である。世界の民間の移動通信(モバイル通信)の歴史は、2020年までの約50年間で、10年毎に1世代進んできた。1世代上がると通信速度が約10倍になる。3Gの後半からスマートフォンが出始めて現在4Gが当たり前になった。4Gには下りと上り(ダウンロードとアップロード)に半分ずつ使うFDDと、同じ周波数の一本の道で時に下り時に上りを行うTDDとの2種類がある。世界中の企業の開発の末出来上がった5Gの特徴は3つある。第一に、速度が速い。第二に、接続数が多い。4Gは携帯電話との接続が主な目的であったが、5Gは様々な機械と繋がる。第三に、反応が速い。つまり、5Gが普及すると時間や場所を問わず、何とでも繋がる。IoTやAIが発達し、農作物の色や艶や大きさによる選別もできる。クラウドのコンピュータで膨大な計算ができるため、工業、農業、製薬などの分野で期待されている。娯楽面では、膨大な通信を要するARやVRが可能になる。また、あらゆるものが追跡可能になる。これは安全にも危険にも繋がる。中国では5Gによる無人タクシーが小規模ながら商用でも使われ始めたが、運転手の雇用問題も絡んでくる。5Gはいわゆる通信分野だけでなく社会全体に影響を与える、未来の世界のプラットフォームである。
各国の5G利用開始時期としては米中韓とEUの一部は2019年、日本は2020年であった。最高品質を提供しているのは中国である。2021年3月時点で64カ国に153種類の商用5Gがある。日本はdocomo, KDDI, Softbankの三大キャリアが全国規模で展開しつつある。通信格差による情報格差がアメリカで生じているように、限られた時間で情報を判断できるか否かは、ビジネスにも研究にも影響する。しかし、日本の5Gの現状は中国に比べて2年分の遅れがある。部品を集めて製品化するための基地局を所有するのは、中、韓、EUである。部品技術は日本が強く、他に、チップが得意なアメリカ、発展中の中国、韓国・台湾というITの先進国、そしてEUも関係している。5G必須特許は中国が30%以上を占める。欧州や韓国の他、日本にもあるが多くはない。現在日本政府が数千億円で6Gなどの日本企業産業創出に躍進中である。5Gという技術を、今後、人類が争いの為ではなく進歩や幸せの為に用いるよう願う。
(2)意見交換
上記(1)を踏まえ、出席者間で意見交換が行われたところ、テーマ別に下記(イ)~(ヘ)の論点が提出された。
(イ)5G以降の日中韓の関係について
5G以降、6Gに向けて日中やアジア全体の協力関係を考える際、技術は突然発展するのではなく継承されていくという点に注意が必要である。日中韓で協力して開発して共同で特許を申請し、他の大陸へ売り込めると良い。例えば、汐留の会社が、5~6ギガで数千円だった時代に、プラス千円で20ギガになる「ギガモンスター」というプランを出し、2017年には料金据え置きで50ギガになった。これは3Gでは起こり得ないが、4Gを経た5Gだからこそできた。6Gも同様に、5Gをもとに世界中で研究され、4~5年後には具体化するであろう。また、海、砂漠、山、南極、北極の衛星通信など、6Gにしかできないイノベーションがある。(渡邊主査、張副社長)
(ロ)米中関係について
米中の先端技術を巡る競争があり、トランプ政権時に中国への技術輸出を禁じる制裁が始まり、バイデン政権下でも変わっていない。これ対してZTEは20数億ドルの賠償金で和解し、アメリカの部品を使い続けている。世界の部品が必要な状況はどの国も同じで、孤立は不可能である。一方、ファーウェイには厳しい制裁が続いている。両者の違いは企業文化にあるかもしれない。ZTEの創業以来の理念にグローバル化があり、道を塞がれたら別の道を探したり強行突破したりするのではなく、道を塞ぐ相手と和解する。アメリカは警戒心が強い国で、日本の80年代の半導体と同様に、現在の中国の5Gについて、早目に対抗しなければ競争に負けると考えているようである。技術と経済のデカップリングは良くないものの、効率化のためのグローバル化の中で、良い物を安く使うのは当然とも言える。(杉田顧問、張副社長)
(ハ)ユーラシアへの視点について
・ユーラシア大陸において、ロシアの技術的な遅れにより、中国はかなりのマーケットシェアを有する。90年代に習近平は既にアメリカによる封じ込めを警戒し、また、徐々に東へ拡張するNATOに中国もロシアも不安を抱いた。中国の一帯一路の主な動機は経済であるが、現在工事中の高速鉄道によるユーラシア大陸の一体化は、中国の安全保障にも繋がり得る。昔は欧州とアジアはまるで別の大陸のように認識されていたが、中国の技術や様々な輸出物の関係で、今後は中国を叩けば独仏への輸出が止まって混乱が起きるという状況になる。様々な見方があるのは当然であるが、中国は今後そのような意図のもとユーラシアの一体化を進めるのではないか。(渡邊主査、張副社長)
・時速30kmの馬を使っていた時代、チベットで起こったクーデターの情報が北京に届くまでに1~2カ月、軍隊を派遣してまた1~2か月がかかった。今は高速鉄道を使えば時速300kmで移動でき、日本の新幹線通勤と同様に、蘇州に住みながら上海で仕事ができる。中国は東西南北に8本の新幹線を引いたが、それは、統治すべき国土が縮小したのと同義であり、チベットや新疆の独立による分裂のリスクが小さくなった。それと同様に、ユーラシアが緊密になると一体感ができる。(張副社長)
(ニ)一帯一路に対する見方について
・一帯一路という遠大な構想は、大きなビジネスチャンスとも、不良債権が結局は中国経済に損害を与えるとも言われるが、ZTEやファーウェイのようなハイテク企業はそれほどの利益を見込んでいない。一帯一路の最大のメリットは輸送問題である。海路では時間がかかる上に、マラッカ海峡やインド洋など、友好的ではない地域を通ることには不安がある。日本もコストと時間の節約のために、2年前から江蘇省の港に荷物を運び列車で欧州に運んでいる。また、アフリカや欧州の人が中国に住み、そこで買った物を自国へ列車で送っている。更に、建設、セメント、鉄鋼、物流に関する利益は中国にもある。単純な経済の原理ではこのように言えるが、アメリカが別の視点から語るのは仕方ない。(杉田顧問、張副社長)
(ホ)中国政府とZTEとの関係について
・ZTEは国営企業ではないが、35%程の株を所有する親企業の株の51%は国営企業が所有している。営業スタンスは「国営企業民間経営」であり、国営資本があり国営企業らしい側面もあるが、経営は民間であるということは創業者との約束である。一方、ファーウェイは純粋な民間企業である。彼らの政府とのやり取りは分からないが、ZTEに10年間勤めている間に政府から経営方針が降りてきたことは無い。政府との関係よりも市場の競争、特にファーウェイとは熾烈な競争を繰り広げて来たため、その中で競争力がついたのであろう。(ドラモットメンバー、張副社長)
・ZTEやファーウェイといった先端技術企業は、法律上、政府の指示に従って情報提供する義務があるため、日米では、情報が中国政府に渡るという疑惑があり、中国企業を排除する理由になっている。それについて中国企業側は納得し難くとも受け入れるしかない。但し、ZTEやファーウェイといったベンダーは、システム納品後一切触れられず、触るのはキャリアの人のみである。技術的に言うと、ベンダーが提供しているのは基地局のみで、基地局は電波を受けて厖大な情報をセンターへ送る。最も危険なのはコアネットワークであるが、それは全て欧州の会社が握っていて、彼らは情報を抜き取ることが可能である。実際に、汐留の会社の通信が2018年の12月に全国的な問題で繋がらなくなり、同じ問題がイギリスやインドネシアでも起きた。これは、Ericssonの問題であった。企業が電波の通信の中の生のデータを見ることは、暗号化していることや、1秒10ギガと量が膨大であることから至難の業で、アメリカのような国家レベルの技術がなければ不可能である。欧州企業が握っているコアネットワークの中にはデコーディング後の純粋なデータを見ることができるが、少なくともZTEはコアネットワークを提供していない。(杉田顧問、張副社長)
(ヘ)日本の現状と今後について
・日本は技術の遅れに加え、高額の製品しか買えないという状況にある。アメリカの圧力または指示のもと、日本には基本的にZTEもファーウェイも建設できないため、価格が3倍のNOKIAとEricssonから買うしかない。つまり、100億でできるものが300億となり、投資のハードルが上がる。更に、ZTEとファーウェイの技術は欧州より進んでおり、5G基地局の自社製チップがある。その理由は、20年前、皆アメリカのチップを使っていた頃に遡る。NOKIAとEricssonの市場は日米など経済的に豊かな国々であったので問題なかったが、ZTEやファーウェイの市場はアフリカや東南アジアであり、高価な商品は売れなかった。そのため、今から12~13年前に自らチップを作り始め、現在4世代目の、小さくて高性能のチップを使っている。一方、Ericssonは1世代目、NOKIAは作り始めで、Ericssonはまだ使えるが、NOKIAは性能に問題がある。中国企業は貧乏ゆえに工夫して模索したが、裕福になると変革しにくくなる。(ドラモットメンバー、張副社長)
・コロナ対策を通じて、日本は中国に比べてデジタル化が遅れていることが顕在化した。しかし、今後について考える際、そもそも日本は民主的であるため中国の強引な方法を採ることはできないという点も考慮しなければならない。日本は各方面を考慮して時間をかけるが、中国はスピード重視で使いながら修復する。確かに日本は、社会のITシステムの構築について遅れている。中国では身分証明書と顔人称と携帯へのショートメッセージにより、10分間で銀行口座を開設できる。30年前、中国に銀行のカードも無い頃、日本の情報処理技術は最先端であった。その後日本はあまり変わらないが、中国はITシステムで支えられた社会へと大きく変化した。これは良い悪いの話ではない。しかし、国民を守るためのコロナ予防システムについては、日本の行政がもう少しリーダーシップを発揮していいのではないか。日中は友好関係の中で共に発展していくべきである。(高畑研究主任、張副社長)
以上、文責在事務局