公益財団法人日本国際フォーラム

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第5回定例研究会合
2024年9月10日
公益財団法人日本国際フォーラム
グローバル・フォーラム

このほど、公益財団法人日本国際フォーラムの「中露の勢力圏構想の行方と日本の対応」研究会とその姉妹団体であるグローバル・フォーラムの「アフリカ政策パネル」は、いわゆる、「グローバル・サウス」と呼ばれる国々のうち、その存在感を高めているアフリカ諸国の動向をより深く探るべく、小林周日本エネルギー経済研究所主任研究員をゲストにお迎えし、「北アフリカ諸国の政治情勢」と題する合同研究会を下記1.~4.の通り開催したところ、その主な議論概要は、下記5.のとおりであった。

  1. 日  時:2024年9月10日(火)14時半より15時50分まで
  2. 形  式:ZOOMによるオンライン会合
  3. 使用言語:日本語
  4. 出 席 者:51名
[外部講師] 小林 周 日本エネルギー経済研究所主任研究員
「中露の勢力圏構想の行方と日本の対応」研究会
[主  査] 廣瀬 陽子 慶應義塾大学教授/JFIR上席研究員
[メンバー] 宇山 智彦※ 北海道大学教授
遠藤  貢 東京大学教授
畝川 憲之※ 近畿大学教授
ダヴィド・ゴギナシュヴィリ 慶應義塾大学SFC研究所上席所員
高畑 洋平* JFIR常務理事・上席研究員
三船 恵美※ 駒澤大学教授/JFIR上席研究員

(メンバー五十音順、※欠席、*本事業責任者)

「アフリカ政策パネル」
[主  査] 遠藤  貢 東京大学教授
[顧  問] 北野 尚宏 JICA緒方貞子平和開発研究所客員研究員
[メンバー] 青山 瑠妙※ 早稲田大学教授
佐川  徹 慶應義塾大学准教授
阪本 拓人 東京大学教授
武内 進一 東京外国語大学教授
玉井  隆※ 東京女子大学准教授
福西 隆弘 日本貿易振興機構アジア経済研究所主任調査研究員

(メンバー五十音順、※欠席)

[JFIR] 渡辺  繭 理事長  ほか41名
  1. 議論概要:
     本会合ではまず、高畑洋平JFIR上席研究員から冒頭挨拶が行われ、次いで、遠藤貢東京大学教授による趣旨説明、その後、基調報告者の小林周日本エネルギー経済研究所主任研究員の報告および参加全員による自由討論の順で開催されたところ、その主な議論概要については、以下のとおりであった。

(1)小林氏による報告

(イ)北アフリカ政治情勢の注目点

現在の北アフリカ政治情勢の注目点は主に4点に要約できる。第1に、政治の季節であることだ。エジプト、アルジェリア、チュニジアではいずれも2023年から2024年にかけて大統領選が行われる。第2に、「アラブの春」の終わりだ。アラブの春が目指した民主化の動きは停滞し、アラブの春が影響した国々では大統領や軍に権限が集中している。また、スーダンやリビアでは内戦や政治対立が続いている。第3に、ウクライナ戦争の影響だ。脱ロシア依存を目指すヨーロッパ諸国においては、北アフリカ産エネルギー資源への関心が増加している。他方で、ウクライナやロシアに小麦などの食糧依存をしている国々が多いため、食糧危機や物価上昇の影響が続いている。北アフリカ諸国は一般的にロシアとの関係を維持し、中にはロシアとの関係を強化している国もみられる。第4に、ガザ情勢の影響だ。エジプトは、ガザ地区と国境を接し、直接的な交渉当事者として活動している。アルジェリアは国連安保理の非常任理事国として、非常に積極的に停戦を求めている。他方で、モロッコはアブラハム合意によってイスラエルとの国交を結んでいるため、経済的にも技術的にも協力を強化している。

(ロ)北アフリカ諸国の内政

北アフリカ諸国の内政には、政権の長期化と大統領・軍への権限集中という2つの傾向がみられる。アルジェリアでは、Le Pouvoir(権力を掌握したエリート)による体制維持が続いている。先日の選挙では、テブーン大統領の得票率が94.7%で圧勝している。この背景には、民主化勢力の抑圧・懐柔がされていることや、1990年代の内戦で犠牲者が10万人以上出たトラウマから大規模な抗議運動が起きにくくなっていることがある。軍と与党のFLNが政治権力の中心を掌握しており、テブーン政権下では一層、軍による政治家、経済界、治安機関、民主化勢力を抑え込む体制維持が図られている。
 また、チュニジアはアラブの春の唯一の成功例とされていたが、サイード大統領への権力集中が進んでいる。2021年7月、首相が解任され、議会が停止された後に、国民投票を通じて憲法が修正され、大統領権限を強化する動きからみられる。他方で、約19億ドルのIMFとの融資交渉や約10億ユーロのEUからの支援が停滞しているため、チュニジアの国内経済は苦境に陥っている。
 アラブの春を受けて、北アフリカ諸国は民主主義へ失望していると言える。2021年から2022年にかけて行われたArab Barometer による大規模世論調査によると、チュニジアやリビアでは、60%以上の人々が「民主的な政権は優柔不断で問題が多い」、そして「民主主義体制は秩序と安定を維持するのに効果的ではない」に賛同または強く賛同している。アラブの春を通じて民主化を推し進めようとした国々の国民は民主主義に失望していることが見て取れる。

(ハ)北アフリカ諸国の外交

北アフリカ諸国では、域内・域外情勢が連動し、複雑化していると言える。アルジェリアとモロッコは、西サハラ問題などで対立をし、2021年8月に外交関係を断絶した上、2021年11月にはアルジェリアからモロッコへの天然ガス供給が停止されている。現状、2国間の関係改善の兆しは見えない。他方で、今まで関係が悪かったエジプトとトルコの間では、9月3日にシーシー大統領がトルコを訪問し、関係改善がみられている。サブサハラアフリカ情勢は北アフリカ情勢と連動している。ナイル川の水資源問題を起点とし、エジプトはソマリアと軍事協力拡大をすることで、エチオピアへ圧力をかけようとしている。この軍事拡大がアフリカの角や紅海の情勢にどのような影響を与えるかは今後注目すべきだろう。同時に、サヘル地域において、サヘル諸国と直接国境を接しているアルジェリアがクーデタードミノなどの情勢の不安定化を非常に懸念している。アルジェリアの国家安全保障を守るために、アルジェリアの国境の外に出て対テロ作戦を行えるように憲法を改正している。一方で、サヘル諸国に対して大西洋へのアクセスを提供するなど、モロッコは関与を拡大している。

(ニ)中露のプレゼンス

中国によるエジプトへの軍事的支援が非常に目立つようになっている。例えば、2024年8月に航空ショーをエジプトで行う際に、中国の戦闘機を飛ばしていた。アルジェリアとは中国、ロシアの経済・軍事関係は深い。2018年~2022年の間で、アルジェリア向けの武器輸出の75%はロシアからであった。また、エジプトはBRICsのメンバーになり、アルジェリアはBRICsのメンバーになりたいと表明している。北アフリカ諸国の中露との関係強化は、経済的・軍事的な戦略的自立性を高めることを目的としており、アメリカやヨーロッパとの関係を切ることは考えていない。
 リビアでは、2010年10月に国民合意政府とリビア国民軍の間で停戦合意が署名された。2022年以降は「一国二政府・二首相」状態であり、国内が非常に分断されている。最近は、トリポリの暫定政府の影響力が弱まり、リビア東部勢力がつよくなってきている。現状は内戦や大きな戦争を起きていないが、この状態がどれほどサステイナブルかはわかっていない。ワグネルは、2017年頃からリビア紛争に介入しており、ワグネルによってアフリカ展開のハブとなっている。ロシアのエフクロフ副国防相は頻繁にリビアを訪問し、リビア東部勢力のみならず、トリポリの暫定政府とも関係を着実に強化し、リビア全土に政治的・軍事的影響を及ぼそうとしている。これに対して欧米は、リビアへの影響を及ぼすのに遅れをとっている。

(ホ)エネルギー:期待と長期的懸念

リビア、アルジェリア、エジプトは豊富なエネルギー資源を持っている。ロシア・ウクライナ戦争を受けて、欧州はオルタナティブの供給源を探しており、これら北アフリカへの注目が高まっている。一方で、北アフリカ諸国内でのエネルギー需要が増加、主要な石油・ガス田の生産量減衰、インフラの老朽化などの問題があるため、これらの国の輸出余力が低下していることが懸念されている。
 リビアについては、政治・治安の混乱が石油生産の最大のリスクとなっている。反政府勢力は石油の生産を止めることで、国内や国際社会への政治的圧力を及ぼしており、石油の武器化がされている。また、ヨーロッパとの関係強化の中で、再生可能エネルギーへの注目が北アフリカ諸国で集まっているが、拡大は未だ途上であり、総発電量を占める部分は少ない

(ヘ)まとめ

北アフリカ諸国は、中東情勢やアフリカの角情勢と連動して、国境を越えた不安定化を拡散している。テロ組織・犯罪組織、移民、ドラッグ、武器などが北アフリカ諸国を経由して拡散している。北アフリカ諸国は、紛争、テロ、低開発、食糧危機、移民、気候変動、統治の脆弱化などが複合的に絡み合いながら不安定化を拡散させているといえる。

(2)自由討論

上記(1)を踏まえて、参加者全員で自由討論が行われたところ、テーマ別に下記(イ)~(ト)の論点が提起された。

(イ)2~3年前に発表されたArab Barometerの報告からは、民主主義への国民の評価は、民主主義の経験に大きく左右されると感じる。例えば、民主的な選挙を行う国は存在するが9割以上の得票率をとるなど、事実上、競争的な選挙が行われていない。このように、民主主義の状況が各国大きく異なるときに、北アフリカの民主主義をどのように理解するべきだろうか。また、Arab Barometerの結果に対する批判はあるだろうか。(遠藤氏)

⇒遠藤主査がおっしゃる通り、民主主義がどのくらい社会に根付いているのか、それに対する適切な期待を持てているかどうかは依然として疑問が残る。エジプトのシーシー大統領は強権的で、その権力は経済や社会を含めた軍部の連携に裏打ちされていると考える。一方で、チュニジアについては、選挙候補者に対する立候補資格が与えられるかどうかが公然と制限されることはない。アラブの春の直後は、イスラム主義系の勢力・政党が動員力を発揮して多数の議席を取り、大統領を送り込むなどの動きが見られた一方で、現職サイード大統領は元々大学教授であり、政治と無関係であったが、ポピュリスト的な動きにより当選した。このように、必ずしも権力集中とそれによる疑似的な選挙でお墨付けを得ることがずっと起きていたわけではなく、大統領や軍部に権力が集中し始めたのは、最近の動向だと考える。また、アルジェリアでは、2019年の選挙で、ブーテフリカ大統領が体を自分で動かせない状態で第5期目に出馬をしようとした際には、国民による大規模な抗議活動を通じて阻止するような、民主的な動きはみられた。多くの国で似たような状況が起きているが、内実は様々であると感じる。
 チュニジアは、アラブの春以降、憲法を作り、議会や選挙を行おうとしたが、結果的には権力者による腐敗や汚職につながるという民主主義の失敗を経験している。そのため、エリートや民主的制度に不信感を持つチュニジアの国民や治安機関は、かつては政治と無関係であり、強権的なパワーを持って物事を動かすサイード大統領に一定の信頼を置いていると感じる。チュニジアのGDP成長率や失業率など、チュニジアの国内経済はアラブの春前より悪くなっている。(小林氏)

(ロ)東ヨーロッパで起きたジョージアのバラ革命とウクライナのオレンジ革命は北アフリカのアラブの春によく似ていると感じる。ジョージアは民主化の成功例として挙げられる一方で、ウクライナでは政府の意思決定が上手くなっていないということで、民主主義が本当に効率的な体制なのか、という根本的な疑問に立ち返るようなネガティブな言説が広まっている。その結果、親露的な政権が一時的に誕生した。市民社会が成熟していない国で民主主義体制を採用し、革命が起きると、この体制は西側が押し付けてきたものだという言説が流布しやすいと感じる。一方で、参加型の成熟した市民社会が形成されていれば、民主化運動は成功しやすく感じる。ジョージアでの革命の成功は、非政府団体が積極的に国民の政治教育を行っていたことが一因である。北アフリカの場合は、どうだろうか。(ゴギナシュヴィリ氏)

⇒NGOや市民社会レベルで民主主義、自由、公正という物に対する支持が草の根のレベルで強まり、長期的に大きなインパクトを与える可能性はあると考える。そのような草の根活動を地方で行っている団体は北アフリカで存在する。一方で、政府はこのようなNGOの活動を認知しているため、NGOや市民社会の締め付け、さらには、それを支援する外国の団体の締め付けは非常に強くなっている。また、民主主義に対する国民の不信が今だけのものなのか、今後高まる可能性があるのかはわからない。ヨーロッパも、適切な移民対策を講じ、安定的にエネルギーを供給するような強くて安定した政府を求めている。このように、北アフリカ内部だけではく、外部でも強権的な政府を支持する動きがみられるため、今後北アフリカで市民社会の成熟がみられるかどうかはわからない。(小林氏)

(ハ) 本日サヘルの話題が出たが、例えば、マリやニジェール等では、イスラム主義武装勢力による襲撃やテロ、それに起因する難民・避難民が発生しており、人道危機が高まっている。また、サヘル地域における農民と牧畜民の間の衝突の課題も指摘されている。このように西アフリカ情勢と気候変動の問題はきわめて深刻であるといえるが、例えば、北アフリカ地域においては、いわゆる気候変動と紛争の現状はどうなっているのか。(高畑氏)

⇒北アフリカは、気候変動と紛争のネクサスがよく見られると感じる。去年リビアで洪水があり、死者数4千人以上、郁恵不明者数8千人以上と大規模な被害が出た。ここまで被害が出たのは社会的な問題が大きな要因だと言える。リビア東部は内戦・テロの被害が甚大であり、防災インフラが未整備であったことや、被災地域に政府がアクセスできず、被害の把握や救援が困難であった。IPCCの報告書によると、北アフリカおよびアフリカの北半分は移民キャンプが多いことから、異常気象による社会の不安定化のリスクが高いと評価されている。また、異常気象は何度も起こるため、脆弱性が増々高くなっていくといわれている。北アフリカは加えて、地中海気候と連動して水不足の問題が更に悪化すると予想されている。(小林氏)

(ニ)①北京で開催されたFOCACの北京アクションプランには、北アフリカにあるテロリズム対策の機関中国は様々な協力する用意があると書かれている。北アフリカの安全保障に中国は積極的に関わっていく姿勢をみせているがこれについてどう考えるか。②リビアの反政府勢力とも中国は関係を構築しようとしているのだろうか。(北野氏)

⇒①テロ対策は、中国にとって非常に支援をしやすい、かつ、北アフリカからしても支援を受けやすいテーマだと考える。アルジェリアやモロッコは、国内だけの問題だけではく、西アフリカやサヘルのテロ対策のハブになり、テロ対策を主導したいと考え、競争をしている。②中国はFOCACに、リビアの大統領級の人を呼んだ。この人は、比較的に東西対立に巻き込まれていない人であったため、議論を引き起こすことはなかった。中国は東部に対しては、石油に関わるアプローチを行っており、リビアから出る石油の10%は中国向けであるとされている。中国は、リビア東部と水面下で様々な密なコンタクトを取っていることや、石油の輸入代金の一部が東部に流れているといわれている。中国は、ロシアと同様に、リビアの西部にも東部にも目を配ってチャンネルを強化させていると考える。(小林氏)

(ホ) チュニジアの経済が苦境していると報道で聞く一方で、イタリアやスペインは北アフリカに積極的にアプローチをしているとも聞く。なぜ経済支援はうまくいっていないのだろうか。(武内氏)

⇒ヨーロッパ側は財政的支援をしようとしているが、サイード大統領がそれを受け入れていない。財政支援を適切に使うための制度構築とガバナンス構築をヨーロッパはチュニジアに求めており、これをサイード大統領は拒否している。チュニジア政府全体が反発しているのではなく、サイード大統領が個人で反発している。また、サイード大統領は自分に反発する大臣が任命されないように、何度も内閣改造を行っているため、ヨーロッパの支援が進まないといえる。サイード大統領は強い大統領のイメージを示し、自分の政治的基盤を強化しようとしていると評価されている。
今年の6月にイタリアのG7サミットが行われた。そこには、アルジェリアのテブーン大統領、チュニジアのサイード大統領、モーリタニアの大統領が来ていた。多くのセッションが移民、エネルギー、ガザ情勢などを含めて、北アフリカ関連であった。(小林氏)

(ヘ) ①民主主義の下の経済政策は失敗したのであれば、現政権はどのように経済成長を行おうとしているのだろうか。②新しい経済政策の中には、サブサハラとの貿易関係について言及していることはあるだろうか。 (福西メンバー)

⇒①リビア、アルジェリアなどの産油国、産ガス国は、エネルギー価格が高い今になるべく輸出をしてキャッシュを獲得することを目指している。特にアルジェリアでは、ばらまき政策を通じた政権基盤の安定化を狙っており、そのばらまき政策の結果、今回の大統領選の結果が得られたと考える。他方、長期的な経済政策の計画はわかっていない。エジプト、モロッコ、チュニジアは中東湾岸のお金持ちの国からの財政援助や投資に依存している。一方で、中東湾岸からのお金が続くかは微妙なところである。②ヨーロッパに面しているという北アフリカの地理的強みを使って、北アフリカ諸国はサブサハラ諸国との関係強化を目指している。例えば、アルジェリアは国境がつながっているすべての国と、国境のフリーゾーンや経済特区を作り、お互いの貿易促進と、アルジェリアのモノの輸出を増加させようとしている。これは、モロッコも同様だ。サブサハラと関係を強めることで、ヨーロッパに依存しない経済成長や経済枠組みを目指していると考える。一方で、今の政治情勢の下ではECOWASほどの連携を行うことは難しいと考える。(小林氏)

(文責、在研究本部)