公益財団法人日本国際フォーラム

(1)小尾美千代メンバーによる報告「米国での脱炭素化の現状:テキサス・パラドックスと再生可能エネルギーをめぐる党派的言説」

①気候変動問題の現状と米国の排出量

世界各国のCO₂排出目標と実際の排出量のギャップは依然として大きい。パリ協定による各国の自主的な排出目標であるNDC(国が決定する貢献)が完全に実施されたとしても、地球平均気温上昇を産業革命以前から1.5℃または2℃に抑える排出経路には届かないと推計されている。気候変動緩和策の基本は電化と電力部門の脱炭素化の両立である。電化を進めても、その電力が化石燃料由来であればCO₂排出は減らないためである。米国の発電量は2000年代後半まで増加傾向にあり、その後横ばいになったものの、2020年頃から再び増加傾向にある。そうした中でエネルギー関連のCO₂排出量を見ると、1990年には約50億3,800万トンであったが、2025年には発電量が約1.5倍に増加したにもかかわらず約49億400万トンへとわずかに減少している。その要因としては特に2000年代末頃から見られる、発電量当たりのCO2排出量の多い石炭に代わって天然ガスが増えていることに加えて、近年は再生可能エネルギー(以下、再エネ)も増加傾向にあることが注目される。

②米国における気候政策の政治化

米国で気候政策と脱炭素化が「文化戦争」の一部となり、政治的分極化が強く反映されるようになったのは比較的最近の傾向ではあるが、連邦レベルの政策はこれまでも民主党と共和党の政権交代のたびに大きく転換してきた。京都議定書についてはクリントン大統領が署名したものの、ジョージ・W・ブッシュ大統領は離脱を正式に表明した。また、オバマ大統領はパリ協定に中国と共に批准を発表して早期の協定発効に貢献したが、第1次トランプ政権は発足直後に離脱を表明した。その後のバイデン政権になって復帰したものの、現在の第2次トランプ政権は再び離脱を決定している。なお、第2次トランプ政権はパリ協定のみならずUNFCCC(国連気候変動枠組条約)を含む多くの国際制度を離脱しており、第1次政権よりもより多くの分野で国際協調の枠組みから距離を置いている。

国内政策も同様であり、バイデン政権のIRA(インフレ抑制法)は、脱炭素化とクリーンエネルギー投資を支える大規模な気候変動対策であったが、第2次トランプ政権はOBBBA(予算調整措置法)によってIRA関連の措置を縮小・変更した。もっとも、連邦レベルでは党派対立が鮮明な一方で、州レベルでは共和党が優位にある州でIRAによるクリーンエネルギー投資が積極的に展開されており、必ずしも党派に沿った動きが見られるわけではない。

③再生可能エネルギーの拡大と「テキサス・パラドックス」

先に触れたように米国の電源構成は大きく変化しており石炭が減る一方で天然ガスが増えているが、近年ではそれ以上に再エネの増加が見られている。2026年上半期の電源に占める再エネ比率は30.2%で、前年同期の27.8%から上昇した。注目すべきは発電所のような大規模発電容量の新規導入状況であり、脱炭素化をめぐる政治対立が続く中で2024年以降、太陽光・蓄電池・風力で90%以上を占めている。

この一見矛盾した状況を最も明確に示すのがテキサス州である。同州は共和党が強く、グレッグ・アボット知事も再エネに批判的であるが、再エネ総発電量は全米首位の約200TWh(テラワットアワー)で州内発電量の33.5%を占めており、第2位のカリフォルニア州の総発電量(88TWh)の2倍以上を誇る。電源別に見ると、風力は全米1位、太陽光は2位であるが大規模太陽光発電に限れば全米最大である。蓄電池を含めたクリーン電源導入量でも、2026年第1四半期には他州を大きく引き離して首位となった。

④テキサス州で再生可能エネルギーが拡大した要因

このようなテキサス州の再エネ拡大を支えてきたのは気候変動対策としての脱炭素化政策ではなく、主に電力市場改革・送電網インフラ整備・脱炭素化を推進する巨大テック企業による市場参入の3つから説明される。テキサス州は1999年に電力市場を自由化し、総発電量のうち一定割合以上の再エネ発電を電力会社に義務付けるRPS(再生可能エネルギー利用割合基準)を導入した。次に2005年以降のCREZ(競争的再エネ地域)構想により、風力資源に恵まれた西部・パンハンドル地域と大都市の需要地を結ぶ送電網を整備した。その結果、特に風力発電の新規参入障壁が下がり、その後の再エネ拡大の基盤となった。

さらに、Google、Amazon、Teslaなどの大手企業が自社の脱炭素目標を進めるためにテキサス州で再エネ事業を展開している。法人所得税がないなどの企業に有利な経済環境も、電力多消費型施設の立地を後押ししてきた。こうした条件があるため、気候政策をめぐる否定的な政治的言説が拡散していても、再エネ導入は急速に進んでいる。

⑤データセンターの急拡大と世論の反発

米国におけるデータセンターの急拡大は、電力市場に新たな課題をもたらしている。データセンターには大量かつ安定した電力が必要であり、関連するガス火力発電計画は2025年の約97GW(ギガワット)から2026年上半期には189GWへとほぼ倍増した。なかでもテキサス州は、開発中のガス火力容量の増加幅が全米最大である。AIとデータセンターの拡大は、再エネの追加導入と天然ガス発電の増強を同時に迫っている。

一方で、データセンターへの世論は急速に悪化している。電気料金上昇の原因としてデータセンターを挙げる割合は、党派を問わず高まっている。特に若年層の批判が強く、AIが雇用を脅かすとの認識も広がっている。推進派は、AI革命、経済成長、対中競争に不可欠だと主張する。これに対し批判派は、大量の電力・水使用、料金上昇、大規模な用地、雇用創出の少なさなどを問題視しており、すでに500を超える郡・自治体が、新設を制限・阻止する措置を導入している。

テキサス州の対応は、データセンターをめぐる情勢が短期間で大きく変わったことを示している。アボット知事は2025年11月、Googleによる3つのデータセンター建設に対する400億ドルの投資を歓迎し、同州をAI「開発の拠点」と位置付けた。ところが2026年6月にはこうした姿勢を転換し、データセンターに電力インフラ費用の全額負担と税制優遇の段階的廃止を求めた。さらに同年8月には送電網接続申請の監査を命じ、大規模案件の承認は11月の中間選挙後まで事実上停止されている。こうした動きはテキサス州に限定されたものではなく、データセンターは中間選挙の主要な争点ともなりつつある。

⑥脱炭素化に関連する認識ギャップ

現在の米国では、脱炭素化に関連する複数の「認識ギャップ」の存在が指摘される。化石燃料については経済成長の原動力とみなされると利用拡大が推奨される一方で、気候変動の原因となる温室効果ガスの排出源との認識からは利用の削減・停止が望まれる。また、ホルムズ海峡危機やウクライナ戦争のような国際情勢の変化に対する脆弱性から、化石燃料はエネルギー安全保障の観点からも認識されるようになっている。「エネルギー安全保障」については、国内での化石燃料の生産拡大が有効な手段とする見方がある一方で、輸入の必要がなく、グローバル・サプライチェーンをめぐる国際情勢に左右されないエネルギー源として再エネの利用拡大を重視する見方もある。最後に、データセンターやAIについても、技術革新や経済成長にとって不可欠とする認識がある一方で、特にデータセンターについては騒音、水資源の浪費、電気料金の上昇などをもたらす「迷惑施設」との認識が党派対立を超えて拡大している。データセンターの建設に伴って天然ガス発電が増加すると脱炭素化が阻害されるため、今後、どのような認識が政策に反映されていくのかが注目される。

(2)メアリー・アリス・ハダッドメンバーによる報告「政治的変化に強靱な協力:地方レベルにおける日米環境協力」

①連邦レベルの言説の変化と継続する協力分野

第2次トランプ政権下の日米環境協力は、特に地方レベルで底堅さを保っている。最も大きく変わったのは、政策を説明する言葉である。バイデン政権期には、気候、脱炭素化、ネットゼロ、クリーンエネルギーなどが強調された。第2次トランプ政権では、エネルギー安全保障、先端技術、国内生産、サプライチェーンへと重点が移った。ただし、重要鉱物は両政権に共通している。多くの取組は消えたわけではなく、エネルギー安全保障、技術、産業政策、経済競争力といった観点から位置付け直されて、続いている。

②二国間合意にみる継続性と再構成

二国間合意をみると、状況は一様ではないが、全体として一定の強靭性がある。バイデン政権期の「クリーンエネルギー・エネルギー安全保障イニシアティブ」や浮体式洋上風力協力は、先行きが不透明であるが、他方で、カーボンリサイクル協力は「カーボンマネジメント」の名で継続している。水素・アンモニア協力はエネルギー安全保障とサプライチェーンの観点から拡大し、核融合エネルギー・パートナーシップも大きく拡大した。海洋プラスチック・循環経済の協力や、在日米国公館のカーボンフリー化も維持されている。

さらに、政権の優先課題に沿う分野では新たな協力も生まれている。高速炉燃料や先進燃料サイクル、先進原子力・SMR、戦略的エネルギー投資、重要鉱物行動計画、電子廃棄物・重要鉱物リサイクルなどである。環境・エネルギー協力は終焉したのではなく、エネルギー安全保障、戦略技術、サプライチェーンの観点から説明しやすい分野へと、重点が移ったとみるべきだろう。

③地方レベルの基盤としての日・カリフォルニア協力

日本とカリフォルニア州の協力は、地方レベルの環境協力の代表例である。2022年の協力覚書は、気候、再エネ、ゼロエミッション車、高速鉄道など幅広い分野を対象とした。2025年以降も、ポート・オブ・ヒューニーミと日本郵船によるグリーン海上輸送回廊や、鉄道脱炭素化協力などが続いている。連邦レベルの言説が変わっても、州レベルでは実務的な協力を継続している。
カリフォルニア州ランカスター市と福島県浪江町の関係も重要な事例である。両自治体は2021年、水素を軸とする「スマート姉妹都市」パートナーシップを締結した。2023年のPacific Hydrogen Allianceには、浪江町とランカスター市、ハワイ州が結び付いた。神戸市とアバディーン、つくば市とコロンバスなど、類似の自治体間協力も生まれている。

2025年にトランプが米国大統領に就任すると、同政権は、それまでエネルギー省を通じてランカスター市に交付されていた、12億ドルを含む複数の主要な資金を打ち切った。しかし、連邦資金は削減されたにもかかわらず、水素プロジェクト及びランカスター市と浪江町の連携は拡大を続けている。

2024年にはランカスター市で、官民パートナーシップや企業投資(テキサス州を拠点とするElement Resourcesが2026年に表明した18億ドルの投資など)の促進に寄与する公営の水素会社が設立された。ランカスター市のこのモデルは、2026年に設立された「浪江みらいエネルギー」のきっかけともなった。ランカスター市と浪江町の関係は、定期的な相互訪問や学生交流を通じて一層深まっており、協力の範囲は経済開発や人材育成にまで広がっている。これは、自治体間の協力が、より広い企業・インフラのネットワークへと広がりつつあることを示している。

④広がる地方レベルの日米協力

2025年以降も、環境・エネルギー分野の地方レベルの日米協力は各地で続いている。ハワイ州と沖縄県のクリーンエネルギー覚書の拡充、ルイジアナ州との低炭素アンモニア協力、アラバマ州とGE HitachiのSMR協力、テキサス日米水素フォーラムの拡大などである。協力は、国家間の気候外交だけでなく、州、自治体、企業といった多様な主体に分散している。

米国企業による日本各地のプロジェクトも、このネットワークの一部をなしている。山梨県でのSGH2 Energyの水素事業や、印西市でのGoogleとJERAのデータセンター向けクリーンエネルギーなどがその例である。日米の環境関係は、公的主体、民間企業、地方主体が重なり合うネットワークを通じて展開する傾向を強めている。

⑤データセンターと新たな電力需要

脱炭素化の重要な手段の一つに、エネルギー効率を高めて総消費量を減らすことがある。しかし、現在のデータセンター投資の多くは大きな新規電力需要を生み、この方向に逆行している。一方で、日本に進出する米国テック企業は、日本の送電網に新たな需要をもたらすと同時に、太陽光を中心に地熱や水素などの新規電源にも投資している。
先進原子力やSMRをめぐる日米協力も活発で、データセンターへの電力供給に使う構想もある。ただし、こうした施設が両国で実際に稼働しているという明確な証拠は、現時点では確認できない。新技術がエネルギーシステムを変えていく度合いや速さを評価するには、協力の進展と実際の導入・稼働とを区別する必要がある。

⑥バッファロー市と金沢市の「Feathered Diplomacy」と日米の地域間協力

大手テック企業や電力多消費型インフラに依らない環境協力の例として、バッファロー市と金沢市の姉妹都市関係がある。両市は1962年から姉妹都市として、文化交流や高校生交流を続けてきた。2026年には、「Feathered Diplomacy」と呼ばれるパイロットモデルの構築に向けた支援を受けた。両市はともに渡り鳥のルート上にあり、バードウォッチングや野鳥観光が盛んである。そのため、日本野鳥の会や米国のAudubon Societyといった市民社会組織を巻き込んだ協力も見込まれる。
この事例は、日米環境協力が地域間の持続的な関係や市民社会、地域に共通する関心に根差していれば、政治的変化に対して強靱であり得ることを示している。国家レベルの政策言説や連邦政府の優先順位が変わっても、こうした協力は続いていくだろう。

(本コメンタリーは、9月4日に開催された「日米協力の基盤強化研究会」の第3回研究会合において行われた発表を、研究本部で再構成したものである。)

(文責、在研究本部)