コメンタリー
[1] https://um.dk/en/foreign-policy/agreement/
[2] https://truthsocial.com/@WhiteHouse/posts/117315570745604580
[3] なお、本稿執筆時点では、協定は三者によって署名された段階にあり、グリーンランド自治議会およびデンマーク議会による承認は、今後の手続きに委ねられている。
[4] https://www.berlingske.dk/politik/trump-om-groenland-aftale-det-har-vaeret-en-fantastisk-rejse
[5] https://www.berlingske.dk/politik/regeringen-ser-ubekymret-paa-usas-aktiviteter-paa-baser-i-groenland
[6] Minori Takahashi (ed.) (2019). The Influence of Sub-state Actors on National Security: Using Military Bases to Forge Autonomy (Springer Polar Sciences). Cham: Springer.
[7] https://www.jfir.or.jp/studygroup_article/13524/
[8] Minori Takahashi og Shinji Kawana (2021). “Inklusion, imagepleje eller nødvendighed? Basepolitik i Grønland og politisk kultur i Danmark”. Økonomi & Politik. Vol.94 (2). pp.68-83.
[9] https://politiken.dk/edition/features/art10908177/The-U.S.-Has-Left-Widespread-Pollution-in-Greenland-%C2%BBIt%E2%80%99s-a-filthy-mess%C2%AB
[10] https://www.altinget.dk/artikel/professor-emeritus-overset-detalje-i-groenlandsaftalen-boer-vaekke-bekymring
[11] https://truthsocial.com/@realDonaldTrump/posts/117294126158197822
[12] https://knr.gl/da/nyheder/loekke-slaar-fast-usa-betaler-selv-bygge-baser-i-groenland
[13] https://www.atlanticcouncil.org/content-series/atlantic-council-strategy-paper-series/a-us-and-allied-strategy-for-greenland/
[14] https://www.fmn.dk/en/news/2025/the-second-agreement-on-the-arctic-and-north-atlantic-strengthens-the-operational-effectiveness-of-the-danish-armed-forces-with-new-acquisitions-totalling-dkk-27.4-billion
[15] こうした王国内の政治的ダイナミクスについては、以下の文献も参照されたい。高橋美野梨編著『グリーンランド〈増補新版〉——人文社会科学から照らす極北の島』藤原書店、2026年。高橋美野梨・中丸禎子・小澤実共編著『アイスランド・グリーンランド・北極を知るための67章【第2版】』明石書店、2026年。
[16] https://www.fpri.org/article/2026/09/what-stands-out-in-the-us-greenland-denmark-agreement/
2026年9月22日、グリーンランド、デンマーク、米国の三者は、1951年にデンマークと米国が締結した防衛協定(以下、1951年協定)を修正・補完する新たな協定(以下、2026年協定)[1]に署名した[2]。2024年12月以降、トランプ米大統領がグリーンランドの所有や統制をめぐる発言を繰り返し、デンマークとグリーンランドがその対応を迫られるなか、もう一つの回路として、2026年初頭から水面下で進められてきた三者交渉の帰結である[3]。トランプは「長く、素晴らしい協力関係になるだろう」と述べ、デンマーク首相フレデリクセンは「一つの画期」と語り、グリーンランド首相ニールセンは「非常に大きな一日」と表現した[4]。
なるほど、大国による「暴言」のさらなるエスカレーションを回避する点で、2026年協定は確かに一つの到達点ではあっただろう。そして、何よりもデンマーク王国にとってこの合意は、プラグマティズムの結果でもあった。フレデリクセンは、今回の協定をめぐり、何をしてはいけないのかに労力を費やすのではなく、安全保障上の脅威がグリーンランド/北極に接近しつつあるなかで、自らを防衛できる環境を整えていくことが重要だと述べており[5]、米国との関係において、現実的な対応に重きをおいたことをうかがわせた。
では、2026年協定は実際にいかなる内容を定めているのか。1951年協定を基礎とする米国とデンマークの二国間枠組みは、その骨格を維持しつつも、2003年のイチリク宣言、2004年のイガリク協定(以下、2004年協定)を通じて、グリーンランドを意思決定に関与する主体へと位置付けてきた[6]。こうした制度的な展開は、2026年協定といかに接続したのか。
2026年9月18日付の前稿——奇しくもその日は、今回の協定をめぐるトランプの最初のポストがTruth Socialになされた日でもあった——では、三者交渉のただなかで、米国の企図を理解するために、地政学アナリストのハリドによる沖縄モデルという構想と、その着想を導いた筆者とデンマーク国際問題研究所のガドによる論考を手がかりとした[7]。沖縄モデル——それは、米国が同盟国の主権を形式上は維持しながら、領域内部に基地、その利用やアクセスを保障する権利、さらには基地の設置・運用を支える安全保障上の制度を重層的に組み込み、当該空間を実質的な軍事・戦略空間へと「丸ごと」再編する統治のあり方を指している。そして、こうした空間の再編を、中国やロシアなどによる軍事的・戦略的関与、あるいはその可能性を排除する拒否戦略と連動させる構想でもあった。
本稿では、こうした前稿の議論を引き継ぎ、2026年協定の内容に即して、沖縄モデルという視角がその特徴をどこまで捉え得るのかを考えてみたい。ここで着目するのは、沖縄モデルを構成する二つの作用、すなわち、米国に対して特定の領域を丸ごと「開く」一方、競合する第三国に対しては拒否戦略を通じてそれを「閉じる」作用である。以下では、この「開閉」の観点から2026年協定を読み解き、さらに、その境界を誰が、いかなる手続きを通じて統御するのかを検討したい。
開く
まず、米国に対してグリーンランドを「開く」仕組みから見ていこう。その出発点となるのは、1951年協定である。そのV条3項では、米国の公船・航空機、軍隊・車両に対して、陸・海・空を通じて防衛区域へ自由にアクセスし、また防衛区域間を移動する権利を認めている。航空機についても、デンマークとの間で合意された制限を除き、領海を含むグリーンランドのいかなる領域にも上空飛行・着陸できると規定している。米国による軍事アクセスは、この時点ですでに固定された防衛区域の内部に完結するものではなく、区域間の移動や上空飛行を通じて、その外側へと広がる仕組みを備えていた。
2026年協定は、こうした1951年以来のアクセスを引き継ぎながら、その対象と態様を改めて規定するとともに、新たな利用形態を加えている。VI条は、領海を含むグリーンランド領域の残余(the rest of the territory of Greenland)を明示的に対象とし、防衛区域へのアクセスと区域間の陸・海・空を通じた移動、航空機による上空飛行・着陸に加えて、米国公船による領海への水中アクセスとその内部での移動を規定した。1951年協定にすでに含まれていた領域横断的なアクセス権は、こうして、水中を含む領海の利用や防衛区域外における施設の設置を加えた、より多様な軍事利用の仕組みへと展開している。
ただし、こうした米軍のプレゼンスをグリーンランド社会との関係のなかにいかに位置付けるかという点で、1951年協定と2026年協定は大きく異なっている。1951年協定VI条は、デンマーク当局の判断により、米軍関係者と現地住民との接触を極力回避することを定めていた。米国に広範な軍事アクセスを認めながら、その活動をグリーンランド社会から可能な限り外在化する、「非親密化」の原則である。この規定は1986年に撤廃されたものの、在グリーンランド米軍基地・関連施設はすでに冷戦期を通じて漸進的に縮小しており、冷戦終焉後もその流れが基地へのリエントリーや増設・拡張へと反転することはなかった。その意味で、規定の撤廃が米軍プレゼンスとグリーンランド社会との関係を直ちに大きく変える条件は乏しかった。
他方、1986年の撤廃は、両者の関係を規律する制度がその後変化していく過程の一部をなしていた。冷戦終結後、米国が脅威構造の変化に対応して海外基地・前方展開態勢の再編を進める一方、グリーンランドでは自治の進展とともに、国家安全保障への関与がより一層強まっていた[8]。そうした二つの変化が交差するなか、交渉の末に妥結した2004年協定は、米軍基地をグリーンランド社会との関係のなかに、改めて位置付け直すものとなった。そこでは、3条2(a)において、グリーンランド自治政府の代表とチューレ空軍基地(当時)司令官との協議の仕組みを設けるなど、現地レベルの協力が制度化された。さらに3条1(c)は、グリーンランドにおける米軍の活動や施設に重要な変更を加える場合、その実施に先立ち、米国がグリーンランド自治政府を含むデンマーク王国政府と協議し、情報を提供することを定めた。加えて、2004年協定の枠組みのなかで署名された経済・技術協力と環境協力に関する二つの共同宣言は、三者の関係を軍事分野にとどめず、より広い協力へと広げるものとなった。そこからは、米国のプレゼンスを基地内部の問題としてのみ捉えるのではなく、グリーンランド社会とのより広い関係のなかに位置付けていく方向性を見て取ることができる。もっとも、こうした制度化によって冷戦期の軍事活動が残した問題が解消されたわけでは、当然になかった。2010年代後半には旧米軍施設の環境汚染や廃棄物をめぐる問題が政治化し、2018年にはデンマークとグリーンランドの間で旧施設の清掃に関する合意が結ばれている[9]。
したがって、2026年協定を構成する「開く」要素が1951年協定と地続きであったとしても、それが適用されるグリーンランド社会との関係は決定的に異なっていたことを改めて確認したい。加えて、2026年協定を取り巻く安全保障環境も、北極の位相から見れば、1951年当時とは大きく様変わりしている。冷戦期には米ソ二大超大国を隔てる戦略的な緩衝空間として、冷戦後には域外の地政学的対立や大国間競争から相対的に隔てられ、政府間協力が維持される空間として捉えられてきた北極のあり方が変容し、いわゆる北極例外主義が後退するなか、グリーンランドを含む北極で軍事プレゼンスの強化が進み、2026年協定が署名されたからである。かつて、領域を軍事的に「開く」ことと組み合わされていた非親密化の原則はすでに姿を消し、その後に築かれたグリーンランド社会との関係を維持しながら、米軍による軍事利用を拡充する——ここに、1951年とは異なる2026年協定の前提がある。
1951年との違いは、こうした軍事アクセスを取り巻く条件だけにとどまらない。そのアクセスを正当化する目的にもおよんでいる。1951年協定II条は、防衛区域の設置・運用の必要性を、グリーンランドおよび北大西洋条約地域の残余の防衛に結び付けていた。これに対して2026年協定は、前文およびI条において、グリーンランドへの米国の軍事アクセスを、北大西洋条約地域、グリーンランドおよびアメリカ大陸の防衛に結び付けている。しかも、アメリカ大陸の防衛は一般的な目的にとどまらない。IV条iii項では新たな(追加的な)防衛区域を設置する必要性を判断する根拠として、VI条iii項では米国公船による領海への追加的なアクセスと移動の必要性を判断する根拠として、それぞれ位置付けられている。1951年以来の北大西洋条約を基盤とする集団防衛の論理に、アメリカ大陸の防衛という目的が重ねられ、それがグリーンランドにおける具体的な軍事利用の根拠にも組み込まれたのである。グリーンランドはここで、自らが防衛される領域であると同時に、その地理的位置を通じて、アメリカ大陸の防衛を明示的に支える軍事・戦略空間としても位置付けられたことになる。
こうして見ると、先に示した沖縄モデルとの重なりは、確かに2026年協定によって突如生じたものではなく、1951年以来の制度的連続性のなかに見出せる。その一方で、2026年協定は、軍事アクセスの範囲と態様が拡充され、その目的をアメリカ大陸の防衛にまで広げるとともに、そうしたアクセスをかつてとは異なる社会・安全保障環境のもとに置いているのである。
閉じる
では、この「開く」仕組みと表裏をなす、第三国の関与を選別し、領域を「閉じる」方はどうだろうか。軍事面について、2026年協定IX条は、三者が別途合意しない限り、NATO非加盟国がグリーンランドに有人・無人の軍事施設を設置し、あるいは軍隊を継続的に駐留させることを認めていない。X条はさらに、軍事施設や軍隊の駐留を越えて、外国からの投資その他の活動にも対象を広げている。NATO加盟国、NATOパートナー国、EU加盟国のいずれにも該当しない国またはその投資家について、重要インフラや資源採掘を含む「特に機微な分野または活動」に対して、安全保障や公秩序への脅威となり得る統制、重大な影響力、非公開情報へのアクセスを認めない仕組みである。ただし、その活動が脅威を構成しないと三者が合意した場合には、この限りではない。
「閉じる」対象となるのは、軍事施設や軍隊だけではない。インフラ、資源、投資を含め、誰がグリーンランドに軍事的・戦略的に関与し得るのかが選別される。米国に対する広範な軍事アクセスの保障と、競合する第三国による軍事・戦略的関与への障壁は、その意味で一つの領域秩序の両面をなしている。「誰に開き、誰に閉じるのか」を選別することによって安全保障空間を構成するという点にも、沖縄モデルとの接点を見いだすことができそうである。
このように、沖縄モデルが明示的に捉えるのは、主として「開く/閉じる」という領域利用の構造である。だが、沖縄モデルを実質的に支えているのは、接受国側、とりわけ下位国家主体が関与するチャネルを不可視化し、あるいは機能不全に追いやることで、その統御の範囲を限定する様式である。では、2026年協定における下位国家主体、すなわちグリーンランドの位置付けはどうだろうか。
統御する
2026年協定では、グリーンランド自身が、領域の開閉をめぐる境界の設定に関与する。そのことが最も明瞭に現れるのが、新たな防衛区域の設定である。IV条iii項は、新たな防衛区域の必要性をいずれかの当事者が提起した場合、位置、範囲、規模、活動内容などを示した提案をもとに常設委員会で直ちに協議し、三者の合意に基づいて実施の詳細を決定するとしている。米軍基地をどこに置くのかは、こうしてグリーンランドを含む三者の意思決定に委ねられた。ただし、三者の合意に至らない場合にも、それによって提案が失効するわけではない。常設委員会で90日以内に合意に至らなければ、協議は次官級、さらに閣僚級へと引き上げられる。協定は、その段階でも米国が一方的に防衛区域を設定できるとは定めていない一方、なお合意に至らない場合の帰結も明示していない。したがって、ここで制度化されたのは、グリーンランドの不同意によって直ちに提案を終結させる仕組みではなく、その不同意を三者間の政治協議へと引き上げながら、グリーンランドを意思決定の当事者として「とどめる」仕組みである。
そのうえで重要なのは、米国による軍事利用をめぐる意思決定へのグリーンランドの関与が、その全てについて同じ仕組みで制度化されているわけではないことである。たとえば、防衛区域外の無人軍事施設については、V条に基づき、デンマーク王国とグリーンランドが米国からの設置要請を、迅速な承認手続きのもとで審査する仕組みを設けている。これに対し、VI条i・ii項が定める防衛区域へのアクセスや区域間の移動、上空飛行・着陸、領海への水中アクセスと移動については、ii項に三者の合意による制限の余地を残しつつ、協定そのものが米国にこれらのアクセスをあらかじめ認めている。つまり、米軍基地をどこに置くのかと、グリーンランド領域をどのように軍事利用し得るのかとでは、グリーンランドが関与する仕組みも、その程度も異なるということである。
他方、米国に領域を「開く」局面と表裏をなす、競合する第三国に対して領域を「閉じる」局面においても、グリーンランドはその統御に関与する。既述のX条は、グリーンランドがデンマーク王国との緊密な協力のもと、自らの現在または将来の投資審査法を適用することによって、投資スクリーニングの目的を確保すると定めている。1951年以来の米国による軍事アクセスに重なるかたちで、2003/2004年以降に積み重ねられてきたグリーンランドの主体化は、2026年協定において、領域を誰に開き、誰に閉じ、その境界を誰が統御するのかという問題にまで射程を広げている。
続く
ここまで見てきた関係を、さらに先まで押し進めているのがXI条である。1951年協定XIV条2項が、その存続期間を北大西洋条約の存続期間に明示的に結び付けていたのに対し、2026年協定には終了日が設けられていない。さらにXI条は、グリーンランドが将来独立する場合にも、NATOへの残留——必要な場合には加盟申請——を前提として、デンマーク王国が担ってきた本協定上の権利義務に加え、関連する実施協定その他の取り決め、および防衛上の取り決めを独立国家グリーンランドが承継することをあらかじめ定めている。
重要なのは、グリーンランドの主体化と米国の軍事アクセスとが、必ずしも一方の拡大が他方を縮減させる関係には置かれていないことである。XI条が想定するのは、グリーンランドの主体化が、その究極的な帰結ともいえる独立に至ったとしても、米国の軍事利用との断絶を必然的に意味しないことである。デンマーク・オーフス大学のブアゲ・オベル(Børge Obel)は、この規定がグリーンランドの独立をめぐるインセンティブにも影響し得ると指摘する[10]。独立後の安全保障上の不確実性があらかじめ縮減されるがゆえに、独立へのハードルが下がり得る一方、米国にとっては、グリーンランドの地位が変化しても、自らの軍事プレゼンスを継続し得る制度的な回路が確保されるからである。
引き受ける
誰に領域を開き、誰に閉じ、その境界を誰が統御するのか。そうした領域利用の制度を考えるだけでは、なお一つの問題が残る。この安全保障空間を、誰が財政的に支えるのかという問題である。この点で注目されるのが、トランプが協定の公表に先立ってTruth Socialにポストした「米国の費用負担は一切ない(no cost)」との一文である[11]。一方で、デンマーク外相ラスムセンは、米国が新たな軍事基地・施設を建設する場合、その費用は米国自身が負担するとの認識を示している[12]。したがって、トランプがポストした「負担なし」を、デンマークやグリーンランドが米軍のプレゼンスに伴う費用を全面的に負担するという意味に、そのまま解することはできない。
このポストを考えるうえで重要なのが、近年のデンマークによる北極防衛支出の拡大である。1951年協定のもと、デンマークは、在グリーンランド米軍のプレゼンスを財政的に支える明示的な接受国支援(Host Nation Support 以下、HNS)義務を負ってこなかった一方、近年の米国では、欧州同盟国への負担移転という観点から、デンマークによるHNSの拡充を求める政策提言もなされている[13]。デンマークも2025年以降、北極・北大西洋への防衛投資を大幅に増額し、グリーンランドにおける司令部や監視能力の強化を含め、艦艇、航空能力、通信インフラなどの整備を進めている[14]。これらは米軍施設の建設費を直接負担するHNSとは性格を異にするが、NATOや同盟国の活動を支える安全保障上の基盤を、王国側が自らの防衛政策として整備するものでもある[15]。
そうであれば、「負担なし」をめぐる論点は、米軍施設そのものにかかる直接的な費用負担だけでは捉えきれない。仮に米国が自らの施設にかかる費用を負担するとしても、その活動を可能にする監視、通信、インフラ、防衛能力が接受側の支出によって整備されるならば、この安全保障空間を維持する費用は、異なる名目と経路を通じて分担されることになる。他方、協定によって制度的に開かれた軍事利用の可能性が、そのまま実際の米軍プレゼンスの拡大を意味するわけでもない。2027会計年度の国防総省予算要求には北極やグリーンランドを明示した項目は見当たらず、グリーンランドにおける軍事施設の建設・拡張に要する高いコストも、その実際の拡大を制約し得る[16]。
この点は、沖縄モデルについて、もう一つの問いを提起する。基地やアクセス権、競合する第三国の関与を制約する制度によって戦略空間が構成されるとして、その空間を財政的に支えるのは誰なのか。問われるのは、誰の安全保障上の必要のためにインフラや能力が整備され、その費用を誰が引き受けるのか、そしてその負担が領域をめぐる意思決定といかなる関係を結ぶのか、という問題である。2026年協定をめぐる「負担なし」という言葉は、開く/閉じる/統御する領域の政治の先に、その戦略空間を成り立たせる負担の政治という、もう一つの論点を残している。