メモ

- 日 時:2026年4月24日(金)午後4時~午後5時半
- 形 式:ZOOMによるオンライン会合
- 出席者:19名
[外部講師] 多賀 太 関西大学教授
[主 査] 髙橋 若菜 日本国際フォーラム上席研究員/宇都宮大学教授
[副 査] 廣瀬 陽子 日本国際フォーラム上席研究員/慶應義塾大学教授
[事業統括] 高畑 洋平 日本国際フォーラム上席研究員/慶應義塾大学 SFC 研究所上席所員
[メンバー] 上野 友也 岐阜大学教授
甲斐田きよみ 文京学院大学准教授
[JFIR] 渡辺 まゆ 理事長
池野 琴美 研究助手 ほか11名 - 議論の概要:
(以上、文責在事務局)
多賀太関西大学教授による基調報告「男性学・男性性研究の視点と方法」
(1)男性学・男性性研究の視点
男性学は、女性学やフェミニズムが明らかにしてきた男性中心的な社会構造を受け、男性自身が自らのあり方を問い直す学問として発展してきた。従来の学問や制度は、しばしば男性を「人間一般」の標準とみなし、女性を特殊な対象として扱ってきた。しかし実際には、男性もまた特定の社会制度や文化の中で形成された存在であり、ジェンダー化されている。そのため、女性の働きにくさや社会参加の困難を考える際にも、女性側だけを見るのでは不十分である。長時間労働や稼ぎ手役割を前提とする男性標準の働き方が、女性の就労継続や昇進を妨げてきたのであれば、男性の働き方や生活構造そのものを変える必要がある。
(2)男性性の複数性と階層性
男性は一枚岩の集団ではなく、階層、世代、人種、性的指向、地域などによって異なる位置に置かれている。男性は集団として女性に対して制度的特権を持つ一方で、すべての男性が同じように利益を得ているわけではない。男性の中にも、男らしさの規範に適合するために長時間労働、感情表現の抑制、孤立、不健康などのコストを負う者や、階層・世代・性的指向によって不利な位置に置かれる者が存在する。したがって、男性を単純に「加害者」や「特権者」としてのみ捉えるのではなく、男性内部の差異と不平等や、男性が負う「男らしさのコスト」にも注目する必要がある。
(3)ヘゲモニック・マスキュリニティ
レイ・コンネルの「ヘゲモニック・マスキュリニティ」は、単に理想的な男性像を意味するのではなく、女性に対する男性支配を正当化し、維持する機能を持つ男性性を指す。例えば、強く、合理的で、経済的に成功し、リーダーシップを発揮する男性像が理想化される社会では、そのような男性が意思決定の中心に立つことが自然なものとして受け止められやすい。
一方で、こうした支配的男性性に合致しない男性は、「真の男ではない」として劣位に置かれることがある。また、支配的男性性を直接体現しない男性や女性であっても、それを理想として支持することで、既存のジェンダー秩序の維持に加担する場合がある。このような「共犯性」も、ジェンダー秩序を理解する上で重要である。
(4)ジェンダー平等政策における男性の位置付け
国際的なジェンダー平等政策において、男性が明示的に対象化されるようになったのは比較的新しい。1995年の北京女性会議以降、男性もジェンダー平等に向けた行動に参加すべき主体として位置付けられるようになった。その後、UN WomenのHeForSheキャンペーン、ホワイトリボンキャンペーン、男性チャンピオン、行動する傍観者・第三者介入など、男性をジェンダー平等の担い手として巻き込む取り組みが展開されてきた。
近年では、「ケアする男性性」も注目されている。これは、ケアを女性だけの役割とせず、男性も育児、介護、無償労働、自己ケア、男性同士のケアに関わるべきだとする考え方である。男性がケアに関わることは、女性の負担軽減だけでなく、男性自身の生活の質やウェルビーイングの向上にもつながる。
(5)WPSへの示唆
WPSへの第一の示唆は、女性の安全やエンパワーメントを実現するためには、男性のあり方にも注目する必要があるという点である。女性が直面する困難は、男性との関係性や、男性を標準として設計された制度の中で生じているためである。
第二に、男性の意識改革だけでは不十分であり、男性を変わりにくくしている制度や構造を変える必要がある。男性に変化を求めるだけでは反発を招きやすく、労働制度、家族規範、福祉制度などを含めた改革が求められる。
第三に、ジェンダー平等をゼロサムではなく、互酬性・相互利益の視点から捉える必要がある。女性が安心して暮らせる社会は、男性も安心して暮らせる社会であり、WPSは男性のウェルビーイングや地域社会全体の平和にもつながるものとして提示されるべきである。
自由討論
(1)甲斐田メンバー:弱者男性と女性への攻撃について
Q.「弱者男性」の不満が、社会構造や優位な男性ではなく女性に向かう現象をどう捉えるべきか。
A. 弱者男性の生きづらさは、女性の地位向上ではなく、労働環境、階層、世代、収入、職業構造などに起因する問題として捉える必要がある。不利な立場の男性と女性が互いに攻撃し合う構図は、上位にいる男性や既存の社会構造への批判を弱めてしまう。そのため、男性の困難を女性への反発としてではなく、社会制度や構造の問題として言語化することが重要である。
(2)髙橋主査:安全保障領域における男性性について
Q1. 安全保障や戦争の領域で、多様な男性性を議論する意義は何か。
A. 安全保障の現場にも、支配的な男性だけでなく、女性と共通する困難を抱える男性や、平和構築に協力し得る男性が存在する。したがって、男性を一枚岩として捉えるのではなく、現場ごとに男性性の複数性を分析することが重要である。また、影響力を持つ男性をWPSやジェンダー平等の推進に巻き込むことも有効である。
Q2. 多様性やジェンダー平等をマジョリティ側に受け入れてもらうには何が必要か。
A. マジョリティがマジョリティに働きかけることが重要である。男性が男性に対して、多様性やジェンダー平等の意義を語る必要がある。その際、社会正義やマイノリティ支援だけでなく、従来の男らしさが男性自身に課してきたコストを可視化し、変化が男性自身のウェルビーイングにもつながることを示す必要がある。
(3)廣瀬副査:戦争・災害時における男性性について
Q. 戦争や災害のような非常時には、男性性はどのように変化するのか。
A. 戦争時には、「女性や子どもを守ることが男らしさである」といった規範が強まり、男性を戦闘へと駆り立てる力が働く。また、帰還兵のPTSDや災害後の生活不安が、女性への暴力やハラスメントとして表れることもある。こうした問題を防ぐには、男性の困難を女性への攻撃によって解消させるのではなく、帰還兵や被災者への支援体制を整える必要がある。
(4)上野メンバー:戦場における男性の多様性について
Q. 戦場にも、戦う男性だけでなく、戦争に抵抗する男性や負傷者を助ける男性など、多様な男性が存在するのではないか。
A. 戦争は、男性内の階層性や、コストと利益の不平等が最も顕著に表れる場である。戦争を決定する男性や利益を得る男性がいる一方で、最前線で命を落とす男性もいる。また、戦争に抵抗する男性や、負傷者を助ける男性も存在する。WPSにおいては、男性を単に戦争の主体や加害者として捉えるのではなく、平和構築の担い手としての役割も検討する必要がある。
(5)高畑統括:日本における政策化と文化的文脈について
Q. 男性性の変容を、日本の文脈で実効性ある政策として具体化するには何が必要か。
A. 国際的なアプローチをそのまま日本に導入しても機能するとは限らない。日本では、抽象的理念よりも、男性自身にとっての具体的なメリットを示すことが有効である可能性がある。ジェンダー平等が女性のためだけでなく、男性の生活の質、家族関係、健康、ケア、ウェルビーイングにも資することを示す必要がある。また、WPSを展開する際には、欧米モデルを単純に輸入するのではなく、日本や東アジアの文化的・社会的文脈に即して再構成する視点が重要である。