活動
2026年4月29日
袴田 茂樹
日本国際フォーラム評議員/安全保障問題研究会会長/青山学院大学・新潟県立大学名誉教授
私は複数の知人や友人たちと同じ Line で語り合っている。ある知人が今日の中東問題について、以下のように述べた。
「イラン国内の事情がどうであれ、いきなり急襲し、一国の文明まで抹殺すると言って憚らないトランプとネタニヤフの所業・倫理観のなさには強く怒りを覚えます。ベネズエラでの成功がよほど『力による正義』を増長させているのでしょうか。世界平和はドナルドにしか出来ないと持ち上げた高市総理はどうなのだろうか。」
これに対し、すぐ他の知人から「全く同感」との反応があった。米国とイスラエルのイラン攻撃への厳しい批判で、トランプを批判しない高市首相への疑念も聞こえる。
私は、すでに何か所かで述べていることだが、このような見解に対し疑念を持つ。最近の産経新聞「正論」欄でもそのことを述べた (4月17日)。と言っても知人たちの見解が異常とか特異なのではなく、そのような見解や気持ちを抱くのはは当然のことだ。むしろ、わが国の諸メディアやそれらが頼っている大部分の中東専門家(飯山陽氏などごく一部を除く)の発言を異常に思う。中東専門家たちの言に耳を傾けると、このような見解が一般化するのは当然のこと、と思える。日本社会一般では、知人たちの見解が「正論」だろう。
私にとって腑に落ちないのは、中東専門家たちが次のことを明確に説明しないことだ。1979年のホメイニ宗教指導者によるイラン革命以来、イランは全世界でジハード (聖戦)を遂行すると宣言し、それを革命防衛隊やイランに従属するイスラム諸過激派を軍事的、経済的に扇動して今日に至っている。その聖戦によって滅ぼすべきは、ホメイニの言う「悪魔」であり、世界の悪魔の代表格がシオニスト政権、すなわちイスラエルだ。イスラエルが国際法や国連で承認されている主権国家だとしても、イランのイスラム法は国際法や国連憲章、国内法などより上に置かれ、イランでは宗教界の最高指導者は、大統領や政府高官、諸メディアよりも上位に立つ。最高指導者は「イスラエル」という国名をほとんど口にしない。それはシオニストが樹立した汚らわしい殲滅すべき対象なので、「シオニスト政権」と呼ぶ。この殲滅政策こそが、イランにとって最重要の国是なのだ。
もちろん、ほとんどの中東専門家はそのことは知っているはずだが、わが国では彼らもメディアも、イスラエルのこの国是をはっきりと説明しない。イランが「イスラム諸過激派の中央銀行」とも呼ばれるが、イランの国是を説明しないと、理解できないだろう。
イランとの関係がイスラエルにとって、「死活の問題」とか「実存的危機」とテレビ解説で述ぺているのを聴いたことがある。もちろん、これは正しいのだが、中東問題の専門家でないわが国の一般国民に、イスラエル人の感じる深刻な危機感がこのような言葉でどれだけ伝わるだろうか。また、何故「死活の問題」なのかを、理解できるだろうか。
イスラエルは 1948年に建国され、翌年国連に加盟している。今日のイスラエルの人口は約1,000万人で、その民族構成はユダヤ人約73%、アラブ人約21%、その他約6%だ。ユダヤ人国家建設の動きは19世紀からあったが、それが実現したのはドイツのナチ政権によるホロコーストにより約600万人のユダヤ人が殺された後で、その結果でもある。
ユダヤ人の国家であるイスラエルの建国そのものに問題があるとの見解も、パレスチナだけでなく他の国にも存在する。最近、日本のあるテレビ放送で、「多くの国ではユダヤ人は非ユダヤ人と何とかちゃんと関係を構築してきたのに……」と述べ、「何故イスラエル建国が必要だったのか」と言わんばかりの発言を聴いた。「ちゃんとした関係構築」と言っても、少なくともキリスト教の普及した欧米諸国では、シェークスピアの『ベニスの商人』を持ち出すまでもなく、古くから反ユダヤ主義は各国で一般化していた。キリストを裏切り死に至らしめた十二使徒の一人であるユダとその後のユダヤ民族が結びつけられたのも、反ユダヤ主義の一因だ。キリストもユダヤ人だったのだが。
16世紀の初め、マルティン・ルターは堕落したカトリックを批判した。欧米では、彼が始めたプロテスタントが、その後の人権思想の基礎になったとも言われる。しかしルター自身はユダヤ人を、「教会を破壊し聖像を壊し暴力を行使する者」として厳しく批判する反ユダヤ主義者だった。(ルター著 『暴力を起こす霊の持ち主について』)
ヒトラーのナチスはこの反ユダヤ主義を極限まで進めホロコーストで約600万のユダヤ人を殺した。欧米だけでなく、ポーランドやウクライナを含む帝政ロシアでもユダヤ人を対象としたポグロム(組織的な殺害、暴行、略奪)が19世紀後半に行われた。さらに、スターリン時代のソ連でも「反コスモポリタン主義」の名目で、1940~50年代に反ユダヤ主義あるいは大ロシア主義が強められた。
私は、ユダヤ人が古代ユダヤ王国のあったパレスチナにイスラエル国家を建設したのを批判することはできない。ただ同時に、約二千年前までユダヤ国家が存在していたとは言え、イスラエル国家建設で難民となった約80万のパレスチナ人には、深い同情を覚える。
キリスト教を中心とする国家では、有能なユダヤ人でも真っ当な出世の道は閉ざされ、文化・芸術・学問とか経済・金融などの道に進む以外に、才能を生かす道は少なかった。経済で成功したユダヤ人は一層憎まれる存在となり、反ユダヤ主義も、より強まった。欧州でも米国でも、ユダヤ人だと自認している人で、大統領など国家のトップになった人は、調べた限りでは存在しない。以下述べる米国でも、ユダヤ人大統領はいない。
イランの国是に従うと、アジアの伝統的な仏教国や米国なども、殲滅の対象ということになる。米国とイスラエルがイランと対峙していて、欧州には、スペインのように今回のイラン問題に関わることを拒否している国もある。仏、独、伊も慎重な態度を示し、積極的に米国とイスラエルを支持していない。では米国はなぜ積極的にイスラエルを支持しているのか。私見では、米国は欧米諸国でも例外的に、ユダヤ人が文化・芸術・学問だけでなく、金融界や経済、さらには政界にも多く進出しているからではないだろうか。
欧米で、ユダヤ人ロビー団体の力が最も強いのが米国だ。「アメリカ・イスラエル公共問題委員会(AIPAC)」は、米国最強のロビー団体と言われる。ちなみに、米国の現在の人口は3億4900万人で、その内ユダヤ系は約600万~700万だ。
イランから遠く、何倍もの軍備を有し、攻撃される筈のない米国が、何故イスラエルと一緒になって、熱心にイラン攻撃をするのか。トランプが福音派の支持を受ける右派だからだろうか。多くの米国人がイスラエルを支持するのは、汚職等の疑惑で逮捕状の出ているイスラエルのネタニヤフ首相の野心を支援するためではない。米国の国力を世界に見せるためでもない。その最大の理由は、ユダヤ人政権のイスラエルを殲滅することが、イランの国是だからである。したがって、ユダヤ人国家を絶対に守るとの米国の意思は固い。
私は複数の知人や友人たちと同じ Line で語り合っている。ある知人が今日の中東問題について、以下のように述べた。
「イラン国内の事情がどうであれ、いきなり急襲し、一国の文明まで抹殺すると言って憚らないトランプとネタニヤフの所業・倫理観のなさには強く怒りを覚えます。ベネズエラでの成功がよほど『力による正義』を増長させているのでしょうか。世界平和はドナルドにしか出来ないと持ち上げた高市総理はどうなのだろうか。」
これに対し、すぐ他の知人から「全く同感」との反応があった。米国とイスラエルのイラン攻撃への厳しい批判で、トランプを批判しない高市首相への疑念も聞こえる。
私は、すでに何か所かで述べていることだが、このような見解に対し疑念を持つ。最近の産経新聞「正論」欄でもそのことを述べた (4月17日)。と言っても知人たちの見解が異常とか特異なのではなく、そのような見解や気持ちを抱くのはは当然のことだ。むしろ、わが国の諸メディアやそれらが頼っている大部分の中東専門家(飯山陽氏などごく一部を除く)の発言を異常に思う。中東専門家たちの言に耳を傾けると、このような見解が一般化するのは当然のこと、と思える。日本社会一般では、知人たちの見解が「正論」だろう。
私にとって腑に落ちないのは、中東専門家たちが次のことを明確に説明しないことだ。1979年のホメイニ宗教指導者によるイラン革命以来、イランは全世界でジハード (聖戦)を遂行すると宣言し、それを革命防衛隊やイランに従属するイスラム諸過激派を軍事的、経済的に扇動して今日に至っている。その聖戦によって滅ぼすべきは、ホメイニの言う「悪魔」であり、世界の悪魔の代表格がシオニスト政権、すなわちイスラエルだ。イスラエルが国際法や国連で承認されている主権国家だとしても、イランのイスラム法は国際法や国連憲章、国内法などより上に置かれ、イランでは宗教界の最高指導者は、大統領や政府高官、諸メディアよりも上位に立つ。最高指導者は「イスラエル」という国名をほとんど口にしない。それはシオニストが樹立した汚らわしい殲滅すべき対象なので、「シオニスト政権」と呼ぶ。この殲滅政策こそが、イランにとって最重要の国是なのだ。
もちろん、ほとんどの中東専門家はそのことは知っているはずだが、わが国では彼らもメディアも、イスラエルのこの国是をはっきりと説明しない。イランが「イスラム諸過激派の中央銀行」とも呼ばれるが、イランの国是を説明しないと、理解できないだろう。
イランとの関係がイスラエルにとって、「死活の問題」とか「実存的危機」とテレビ解説で述ぺているのを聴いたことがある。もちろん、これは正しいのだが、中東問題の専門家でないわが国の一般国民に、イスラエル人の感じる深刻な危機感がこのような言葉でどれだけ伝わるだろうか。また、何故「死活の問題」なのかを、理解できるだろうか。
イスラエルは 1948年に建国され、翌年国連に加盟している。今日のイスラエルの人口は約1,000万人で、その民族構成はユダヤ人約73%、アラブ人約21%、その他約6%だ。ユダヤ人国家建設の動きは19世紀からあったが、それが実現したのはドイツのナチ政権によるホロコーストにより約600万人のユダヤ人が殺された後で、その結果でもある。
ユダヤ人の国家であるイスラエルの建国そのものに問題があるとの見解も、パレスチナだけでなく他の国にも存在する。最近、日本のあるテレビ放送で、「多くの国ではユダヤ人は非ユダヤ人と何とかちゃんと関係を構築してきたのに……」と述べ、「何故イスラエル建国が必要だったのか」と言わんばかりの発言を聴いた。「ちゃんとした関係構築」と言っても、少なくともキリスト教の普及した欧米諸国では、シェークスピアの『ベニスの商人』を持ち出すまでもなく、古くから反ユダヤ主義は各国で一般化していた。キリストを裏切り死に至らしめた十二使徒の一人であるユダとその後のユダヤ民族が結びつけられたのも、反ユダヤ主義の一因だ。キリストもユダヤ人だったのだが。
16世紀の初め、マルティン・ルターは堕落したカトリックを批判した。欧米では、彼が始めたプロテスタントが、その後の人権思想の基礎になったとも言われる。しかしルター自身はユダヤ人を、「教会を破壊し聖像を壊し暴力を行使する者」として厳しく批判する反ユダヤ主義者だった。(ルター著 『暴力を起こす霊の持ち主について』)
ヒトラーのナチスはこの反ユダヤ主義を極限まで進めホロコーストで約600万のユダヤ人を殺した。欧米だけでなく、ポーランドやウクライナを含む帝政ロシアでもユダヤ人を対象としたポグロム(組織的な殺害、暴行、略奪)が19世紀後半に行われた。さらに、スターリン時代のソ連でも「反コスモポリタン主義」の名目で、1940~50年代に反ユダヤ主義あるいは大ロシア主義が強められた。
私は、ユダヤ人が古代ユダヤ王国のあったパレスチナにイスラエル国家を建設したのを批判することはできない。ただ同時に、約二千年前までユダヤ国家が存在していたとは言え、イスラエル国家建設で難民となった約80万のパレスチナ人には、深い同情を覚える。
キリスト教を中心とする国家では、有能なユダヤ人でも真っ当な出世の道は閉ざされ、文化・芸術・学問とか経済・金融などの道に進む以外に、才能を生かす道は少なかった。経済で成功したユダヤ人は一層憎まれる存在となり、反ユダヤ主義も、より強まった。欧州でも米国でも、ユダヤ人だと自認している人で、大統領など国家のトップになった人は、調べた限りでは存在しない。以下述べる米国でも、ユダヤ人大統領はいない。
イランの国是に従うと、アジアの伝統的な仏教国や米国なども、殲滅の対象ということになる。米国とイスラエルがイランと対峙していて、欧州には、スペインのように今回のイラン問題に関わることを拒否している国もある。仏、独、伊も慎重な態度を示し、積極的に米国とイスラエルを支持していない。では米国はなぜ積極的にイスラエルを支持しているのか。私見では、米国は欧米諸国でも例外的に、ユダヤ人が文化・芸術・学問だけでなく、金融界や経済、さらには政界にも多く進出しているからではないだろうか。
欧米で、ユダヤ人ロビー団体の力が最も強いのが米国だ。「アメリカ・イスラエル公共問題委員会(AIPAC)」は、米国最強のロビー団体と言われる。ちなみに、米国の現在の人口は3億4900万人で、その内ユダヤ系は約600万~700万だ。
イランから遠く、何倍もの軍備を有し、攻撃される筈のない米国が、何故イスラエルと一緒になって、熱心にイラン攻撃をするのか。トランプが福音派の支持を受ける右派だからだろうか。多くの米国人がイスラエルを支持するのは、汚職等の疑惑で逮捕状の出ているイスラエルのネタニヤフ首相の野心を支援するためではない。米国の国力を世界に見せるためでもない。その最大の理由は、ユダヤ人政権のイスラエルを殲滅することが、イランの国是だからである。したがって、ユダヤ人国家を絶対に守るとの米国の意思は固い。