公益財団法人日本国際フォーラム

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第8回定例研究会合

標題研究会合が、下記1.~3.の日時、場所、出席者にて開催されたところ、その議論概要は下記4.のとおり。

  1. 日 時:令和471日(金)16時より18時まで
  2. 形 式:ZOOMによるオンライン会合
  3. 出席者:10名(以下、五十音順)
[主  査] 常盤  伸 JFIR上席研究員/東京新聞(中日新聞)編集委員
[顧  問] 袴田 茂樹 JFIR評議員・上席研究員
[メンバー] 安達 祐子 上智大学教授
名越 健郎 拓殖大学教授
廣瀬 陽子 JFIR上席研究員/慶應義塾大学教授
保坂三四郎 二松学舎大学准教授
山添 博史 防衛省防衛研究所主任研究官
[JFIR] 高畑 洋平 主任研究員
日向友紀恵 特任研究助手
渡辺  繭 理事長

 

  1. 議論概要:

(1)廣瀬メンバーによる報告:「ウクライナ危機とロシアの誤算:近い外国への影響を中心に」

2月24日からロシアはウクライナに侵攻しているが、そこには当初のロシアの目的達成にとり障壁となる大いなる誤算があった。NATOの北方拡大、ウクライナ国民の反ロシア感情悪化、旧ソ連諸国のロシア軽視ムードの蔓延等である。具体的事例は以下(イ)~(ホ)のとおりである。

(イ)国連決議

国連では、32日に国連総会特別緊急会合ロシア非難決議、同24日に同会合ロシアの責任を強調する人道決議、47日にはロシアの人権理事会理事国資格停止決議の3つの決議が行われていた。その結果、旧ソ連諸国で反対票を投じ続けロシア寄りの態度を表明したのはベラルーシしかおらず、ウクライナ・ジョージア・モルドヴァの親欧米系諸国はすべて賛成票を投じた。他旧ソ連諸国は、アゼルバイジャン・アルメニア・トルクメニスタンはすべて棄権か不参加で対応し、ウズベキスタン・カザフスタン・キルギス・タジキスタンは32日と24日は棄権か不参加だが、47日には反対している。3月の決議2つと異なり47日決議は人権の問題であり、人権を侵害しているような国が賛成をしてしまうと自国への非難を招く恐れがあるため、ここではロシア同様に反対票を投じたということである。

これら決議の結果から、ベラルーシのみがロシアに寄り添っており、その他中央アジア諸国は皆態度を表明したくないが、人権問題等価値が入ってきた場合自分の国に何か言われそうになってくると都合が良くないのでそこではロシアにも寄り添うという日和見的な態度が見て取れる。

(ロ)CSTOの動き

ロシア主導の軍事同盟であるCSTO(集団安全保障条約機構)でも、反ロシア的な動きが散見される。元来CSTOは、旧ソ連の中でも比較的ロシアに寄り添っている国が加盟しているイメージだった。しかし今回の会議の内容をみていると決してそうではないということがわかる。516日にモスクワで首脳会談が行われ、これは条約締結30周年の記念すべき会であったが、ロシアに寄り添ったのはベラルーシのみで、異例のロシア批判が相次ぐという結果となった。共同声明にも侵攻を直接指示する文言は記載されず、ここでも足並みの乱れが表れている。

(ハ)旧ソ連諸国の動き

・ ベラルーシ… CSTOの中でも旧ソ連の中でも唯一ロシアに寄り添っている国である。そのため国際社会からの制裁も受けているのだが、ロシアによる参戦の依頼には応じていない。ウクライナの分析によると、ベラルーシ国境付近でベラルーシ軍の集結が確認されるも「侵攻の予兆なし」である。ウクライナ軍を引き付けるための陽動作戦なのではないかという見方もあり、ウクライナは現状ではベラルーシ軍を恐れてはいない。また、ウクライナ側に義勇兵として参加する者も出てきており、将来のベラルーシ政権転覆分子として、これらのベラルーシ義勇兵に米英が関心を持って接触をしている。

・ カザフスタン… 今回のウクライナ侵攻に激しく反発している国である。軍の派兵要請拒否、親ロシアデモを禁じる一方親ウクライナデモは許可、ドンバス向け人道支援の組織は許可しないがウクライナ向け人道支援の組織は許可する等、反ロシア的行動が目立つ。617日開催の国際フォーラム全体会合では、トカエフ大統領がドネツク・ルハンシク両「人民共和国」を国家承認しないと言明し、プーチン大統領の顔に泥を塗ることになった。カザフスタン国内では第二のウクライナになりたくないという感情と民族主義の高まりが見られ、ロシアなしでもやっていけるというムードが強いため、ロシア側の対カザフ感情苛立ちが高まっていることは間違いないと言える。

・ 南オセチア@ジョージア… 旧ソ連の未承認国家の中でも一番ロシアに寄り添っている国であった。まずはジョージアから独立、それからロシアの北オセチアと統合という動きを狙っているが、ここに来て反ロシア的な動きが目立ち始めた。58日の「大統領選」では野党指導者のガグロエフが当選し、徹底した親ロシア派でロシアとの統合を急いでいた現職ビビロフは敗北している。なお、今回のウクライナ侵攻においてジョージアは意識的に距離を取っているが、理由として、2008年のロシア・ジョージア戦争当時ウクライナがジョージアに対し冷淡な態度を取っていたことや、今回のウクライナ戦争における戦闘や政治混乱の波及を恐れていること等が挙げられる。

・ アゼルバイジャン… 本年3月にナゴルノ・カラバフで緊張を引き起こし、ロシア平和維持軍がいる中にも拘らずアルメニア勢力を攻撃するも、ロシア国防相はアルメニア・アゼルバイジャンの各国防相と電話で話し合う対応に留まった。ウクライナ侵攻直前の222日にロシア・アゼルバイジャン両大統領は軍事面での関係強化を含む「同盟的協力宣言」に署名、これが形に残る部分で明確な態度を取りたくないアゼルバイジャンが先述の国連決議で3決議全てで不参加を貫いたことにも影響したのではないかと言われている。

・ リトアニア… EUの対ロ制裁の一環で、ロシア西部の飛び地カリーニングラードに向かう列車のうち、制裁対象となっている鉄鋼や金属製品を積んだ列車の国内通過を禁止している。しかしこの制裁による通行禁止はカリーニングラード民にとって実はそれほど大変なことではなく、鉄鋼や金属製品以外の食糧等は問題なく通過可能であり、時間はかかるもののサンクトペテルブルクから海路でも入手可能であることから、事を大きく見せるようなロシアの情報戦であると捉える見方もある。

(二)ウクライナのEU加盟への道のり

元来、ウクライナ・ジョージアはNATOおよびEU加盟を、モルドヴァはEU加盟を目指してきた。228日にウクライナが、33日にジョージアとモルドヴァがEU加盟申請文書に署名し、623EU首脳会議でウクライナとモルドヴァを「加盟候補国」として認定した。なおジョージアが候補国にならなかった一番の理由とされているのが、現在のジョージアトップが富豪であり、富豪が政治を牛耳っている国を候補国にするのは悪いメッセージとして伝わることを欧州が危惧したためである。加盟候補国として認定されたウクライナであるが、EU加盟までの道のりは長く、法や自由、金融サービス、税制など35分野でコペンハーゲン基準に合わせる必要等があるため、一連の手続きには10年前後かかるとされている。

(ホ)プーチンのコロナ禍後初外遊(タジキスタン、トルクメニスタン)

プーチン大統領は628日にタジキスタンを、同29日にトルクメニスタンをそれぞれ訪問した。タジキスタンに訪問した背景として、中国とロシアのユーラシア政策において軍事・政治はロシア、経済は中国とすみ分けられており、中国が軍事まで手を広げないように牽制する意味もあったと考えられる。トルクメニスタンで氏はカスピ海サミットに出席し、ロシアの影響力を示すことによって欧米諸国がカスピ海に入ってこないよう意志表示をした。コロナ禍後初の外遊先が中央アジアだったことは、ロシアが旧ソ連構成国を重視するという姿勢を改めて示したものであると考えられる。

(2)自由討論

上記(1)を踏まえてロシアと近隣諸国との関係及びウクライナ情勢に関する自由討論が行われ、テーマ別に下記(イ)~(ホ)の論点が提起された。

(イ)旧ソ連諸国との関係-カザフスタン-

  • カザフスタンの北部はとてもロシア人が多く、自国民保護を盾にロシアが入ってくる可能性については気になっていた。しかしロシアはウクライナで手一杯なので、今ここで何か行動を起こすことはないだろうと思う。現状は「影響はない」と言ってしまって良いだろう。(常盤主査、廣瀬メンバー)
  • 今後カザフはロシアと手を組んでいかなくてもいいのではないかという話も出ているが、その場合アメリカや中国による接近はあり得るのだろうか。中国につく可能性はまずないと思う。カザフが中国と親和性を感じる動きはあまりなく、ウイグル問題や中国人の工場経営トラブルなど起きている。一方アメリカと協力関係になる可能性はあると考えられる。カザフはいざとなったらアメリカと協力する国だという疑いをロシア自体が有している。(常盤主査、廣瀬メンバー)
  • サンクトペテルブルクの国際フォーラムにおいてトカエフがドネツク・ルハンシクを「承認しない」と述べた件について、プーチンは事前に知っていたのか、それとも突然のことだったのかは不明である。しかし当時トカエフは明確に領土保全を支持するのだと言っており、民族自決を尊重してしまうとカザフ北部の割譲というか独立を認めざるを得なくなる。少なくともプーチンはトカエフのこうしたスタンスを理解していたのだとは思う。(安達メンバー、廣瀬メンバー)

(ロ)アジア地域との関係

  • 11月のG20インドネシアバリ島は旧ソ連諸国と違って人権問題で国際社会から咎められる恐れもあるし、テロも危ないし行かないと思う。しかし直前までは行くようなことを匂わせていくことがプーチンにとって重要なのではないかと思う。(名越メンバー、廣瀬メンバー)
  • アジアの世論は、今回の戦争はロシアではなくNATOが悪いのではないかという傾向にある。11月のインドネシアにプーチン大統領は行くのではないかと思う。(保坂メンバー)

(ハ)EU/NATO加盟

  • ジョージアがEU加盟から外された理由について、富豪が支配しているからということであったが、ウクライナ戦争との関係でモルドヴァが極めて危険な状況になるので、EU加盟はモルドヴァを優先して、ジョージアは後回しにされたという見方も出来るのではないか。(袴田顧問)
  • ロシアにとってはウクライナがNATOに入ることだけが問題であって、フィンランドやスウェーデンのNATO加盟もウクライナのEU加盟も大した問題ではないという態度は、もともとそう考えていたのかそれとも後から誤魔化しているのかについて、それが最初から問題だったわけではないが、数多ある理由のうちの一つではあったと思う。(山添メンバー、廣瀬メンバー)
  • プーチンにとってウクライナではNATO問題自体は重要な問題ではなかったが、対外的な被害者意識が極めて強く、ウクライナをNATOの勢力圏にしたくないという思いが極めて強かったのではないかと個人的には感じている。(袴田顧問)

(ニ)ウクライナの国民意識・社会構造

  • ウクライナ国民は今回のロシア侵略を受けて初めてウクライナが統一した国家であるという国民意識を持てたという側面もあるのではないかと思う。過去、ナチスの頃、ドイツとの戦争によってはじめてソ連邦という統一意識を持てたことによく似ている。(袴田顧問)
  • 新しい国民意識が出来ても、腐敗や汚職、オリガルヒ等の社会構造の問題は解決しないのかというと、社会構造はそう簡単に変わらないのではないか。社会や文化はなかなか変わらないため、今後も大きな問題として残ると思う。(袴田顧問、廣瀬メンバー)
  • 社会や文化を変えることは簡単ではなく、時間がかかる。しかし外からも関与できるメカニズムや基本的なインスティトゥーションが既に出来ているので、お金があればどんどん変わるのではないかと思う。(保坂メンバー)

(ホ)ロシアの今後

  • 今回の戦争を経て、明らかにロシアは衰退していかざるを得ないだろう。(保坂メンバー)
  • 「ロシア帝国」は今回のことで「崩壊」せざるを得ないだろう。今のままだとロシア・ウクライナ双方ともに落としどころを見いだせず、戦争が終わるというより、旧ソ連でありがちな凍結された戦争としてエンドレスになりうる。また、今後ロシアの経済は東へ行かざるを得ない。弱くなったロシアに旧ソ連諸国が追随するとは思えず、離れる国は離れていくだろう。今までとは違ったロシアの姿が生まれてくるのは間違いない。(廣瀬メンバー)

(3)その他、次回の研究計画などについて

今後の研究計画について、常盤主査および高畑主任研究員より以下のとおり提案がなされた。

  • 今回研究会にて所属メンバーの発表は一巡した。
  • 秋頃には、本研究会成果披露のためのワークショップを開催したらどうか。

以上