公益財団法人日本国際フォーラム

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第7回定例研究会合

標題研究会合が、下記1.~3.の日時、場所、出席者にて開催されたところ、その議論概要は下記4.のとおり。

  1. 日 時:令和4513日(金)14時より16時まで
  2. 形 式:ZOOMによるオンライン会合
  3. 出席者:10名(以下、五十音順)
[主  査] 常盤  伸 JFIR上席研究員/東京新聞元モスクワ支局長
[顧  問] 袴田 茂樹 JFIR評議員・上席研究員
[メンバー] 安達 祐子 上智大学教授
名越 健郎 拓殖大学教授
廣瀬 陽子 JFIR上席研究員/慶應義塾大学教授
保坂三四郎 エストニア・タルトゥ大学
山添 博史 防衛省防衛研究所主任研究官
[JFIR] 高畑 洋平 主任研究員
日向友紀恵 特任研究助手
渡辺  繭 理事長

 

  1. 議論概要:

名越メンバーによる報告:「最近の日露関係」

(イ)近年の日露関係史を振り返る

 2018年11月のシンガポール合意を受け、安倍政権(当時)は翌年1月よりロシアと本格協議を重ねるが、結局、大きな進展ないまま交渉は決裂した。北方領土4島が露領であることを認めよというラブロフ外相の主張に対し、日本は2島引渡しを求めるという弱い立場に甘んじた。2020年に新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、同年7月にはロシアで領土の割譲を禁止する項目が盛り込まれた憲法の改正が決まった。その後、日本では安倍総理が辞任し、菅政権(当時)が誕生したが、この間に日ロ間での首脳会談は実現せず、電話会談のみであった。安部政権を引き継いだ菅政権もわずか1年で退陣を余儀なくされた。岸田新政権が誕生すると、2021年10月、北方領土に外国企業を誘致するため「免税特区」を創設する法律が成立したほか、中ロ軍艦の日本周回、さらには、2022年2月には、ロシアによるウクライナ侵攻が突如勃発する。こうした動きを受けて、日本は3月に平和条約交渉及びビザなし交流の中止を打ち出すことになる。

(ロ)日本の対露制裁

 本年2月24日以降、岸田政権による対露制裁は、2014年クリミア併合時の安倍政権によるソフトな対応に比べると厳しいものであった。7月の参院選を意識してか、強硬姿勢で臨んでいる。
 具体的な制裁として、日本はロシアからの石炭輸入を制限し、最恵国待遇を撤回しロシアの製品輸入に関税を課すことになった。また、日本は、在日ロシア大使館の外交官ら8人に国外退去を求めた。日本でこれだけの規模の大使館員を追放するのは戦後初めてのことである。さらに、岸田総理は東南アジアにも対露制裁を働きかけているが、東南アジア諸国は乗り気ではないといえる。
 ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、日本企業も軒並みロシアから撤退し、とりわけ、ロシアでの事業展開で最も成功している企業の1つであるJTさえも、事業撤退を発表した。現在の日露間の経済交流は完全に冷却状態にあるといえよう。

(ハ)ロシアの対日報復

 ロシアの対日姿勢については、平和条約交渉を継続しない、30年にわたり続いたビザなし交流・元島民の自由訪問中止、北方領土共同経済活動の協議から離脱する、等一層厳しい様相を見せている。また、軍事面では、北方領土での軍事演習や海軍軍艦の津軽海峡通過、日本海でのミサイル試射等からロシアは日本を脅迫する動きを見せている。他方、経済面ではサハリン州で日本へのカニ・ウニ・イクラ等の海産物禁輸論が浮上する一方で、サケマス交渉は妥結、入漁料も引き下げられた。
 こうした中、ロシア連邦安全保障会議書記にしてナンバー2と言われるパトルシェフも「日本は完全に主権を回復していない。経済面でアメリカの言いなりになっている」と言及するほか、プーチン大統領も数年前にアイヌをロシア固有の民族と認定するなど、ロシアは北海道に対しても固有の領土の請求権をもつという理論すら展開しているのが現状である。

(ニ)今後の日ロ関係についての個人的提案

 外交関係では、まずは安倍政権時代の対露融和政策をリセットすることである。今年は日中国交50周年ということもあり、「日中友好」外交により中露離間を図る必要がある。また、北朝鮮とロシアの脅威が高まるほどに日韓の連携は重要になってくるため、韓国との関係改善も重視すべきである。対露政策としては、今後若い人々を中心に、ポスト・プーチンを念頭に置いた対露長期戦略を策定することである。

以上