公益財団法人日本国際フォーラム

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第4回定例研究会合

標題研究会合が、下記1.~3.の日時、場所、出席者にて開催されたところ、その議論概要は下記4.のとおり。

  1. 日 時:2021年1011日(金)15時より17時まで
  2. 形 式:ZOOMによるオンライン会合
  3. 出席者:11名(以下、五十音順)
    [主  査] 常盤  伸 JFIR上席研究員/東京新聞外報部次長
    [顧  問] 袴田 茂樹 JFIR上席研究員/東京新聞外報部次長
    [メンバー] 安達 祐子 上智大学教授
    伊藤和歌子 JFIR研究主幹
    名越 健郎 拓殖大学教授
    廣瀬 陽子 慶應義塾大学教授
    保坂三四郎 エストニア・タルトゥ大学
    山添 博史 防衛省防衛研究所主任研究官
    [JFIR] 高畑 洋平 主任研究員
    ハディ・ハーニ 特任研究助手
    渡辺  繭 理事長
  4. 議論概要:

(1)安達メンバーより報告:

「ロシアにおける政府―企業間関係の現況:大企業システムを中心に」

ロシアにおける政権と財界は「捕獲」あるいは「補完」いずれの関係性にあるのかという点について考える。さらに、ロシア大企業の例を紹介し、国家・政府による産業に対する支配度について俯瞰する。さらに、どのような実業家がそれらを支配しているか、また、コロナ危機における政府から企業への支援についても考える。

政治とビジネスは「捕獲」あるいは「補完」、いずれの関係性にあるのか。ソ連崩壊後、エリツィン時代には多くの企業の民営化が進行し、市場経済が導入され、オリガルヒ(新興財閥)が台頭し政治的影響力を増した。しかしプーチン時代には資源・戦略産業において行き過ぎとみなされた民営化の事例を再度国有化するという揺り戻しが起こった。

これによりシロヴィキが台頭し、彼らはプーチン時代のオリガルヒ(=シロヴァルヒ)とも言われた。エリツィン時代の民営化、プーチン時代の再国有化で切り分けると、前者においてはビジネスが国家を捕獲しており、後者においては逆とみることができる。しかし、両時代を通じて大企業や経営陣と政権との公式・非公式のつながりは変わっておらず、それがロシア政治経済に大きな影響を与えているという点では補完・相互依存的ともみなせる。

とはいえプーチン時代には経済への国家的関与が明らかに強化された。その好例がビッグビジネスの事例である。ロシアの経済誌によるロシア系大企業ランキング(RBC-5002019年度版)を見ると、第一の特徴として、ロシア経済においては大企業の市場支配度が強い。またRBC-500では、トップ500社の総売上高がGDPの約8割に相当し、さらにその割合は年々上昇してきた。またトップ500社の中でも上位20社が総売上高の半分を占める(2019年)。

また上位5位は継続して、ガスプロム(国営ガス最大手)、ルクオイル(民間石油大手)、ロスネフチ(国営石油最大手)、ズベルバンク(国営銀行)、ロシア鉄道(国営)で占められている。第二の特徴としては、資源部門のプレゼンスが高い点がある。例えば米では、上位5位以内に入る資源関連企業はエクソン・モービルのみで、しかも全てが民間企業だった。前年比の売上高の伸び率でみても、ロシアでは資源関連企業が強い。

第三の特徴は、国家部門の支配度・影響力が強い点である。2019年版RBC-500では、81社の国有企業の売上高が500社全体の売上高の41%を占めた。上位10社の中では半数以上が国営である。また特にプーチン政権下では政府のプレゼンスが高まった。移行経済研究所や経済発展省によれば、2006年から2009年の間に国営企業の売上がGDPに占める割合が38%から50%に増加した。さらに現在に至るまで増加傾向にあると見られている。OECDによる、政府の経済活動への関与を指標化した製品市場規制(PMR)指標でも、米1.1、中国4.63、ロシア4.39となっており、高い水準となっている。

一方、政府による経済コントロールについては、量的な変化のみならず、質的な変化、特に戦略的分野における政府の支配度が注目に値する。ロシア経済における国家部門の量的増加は、2010年台には安定期に入ったが、質的に見れば特に戦略的分野において政府の影響力が強まっている。質的拡大とは、企業活動や人的・金融資源配分における政府・政府系機関の役割強化、また国家主導の企業統合・設立の動きを意味する。特にプーチン期には、石油・ガス、防衛といった部門で関与が強まり、国家コーポレーションと呼ばれる特殊法人形態も創設された。石油ガス依存体質のロシア経済の多角化に向け、軍需を含むハイテク産業、航空機製造業、原子力産業などにおける企業の再編・統合が国家主導で進行した。これらの分野に優先的に国家資金を配分する目的があるともみられる。代表的な国家コーポレーションの例には、ロステク、ロスアトムがある(いずれもRBC-500トップ10位圏内)。国家コーポレーションはコーポレート・ガバナンスの観点からはイレギュラーな存在で、株式会社でも所有一元(ユニタリー)企業でもなく、形式上は非商業組織と位置付けられるが、傘下に営利法人を抱えている場合がある。特殊な位置づけのため、民法規定が該当せず、競争法や破産法の定める法的義務などからも免除され、(株主総会などの)説明責任も要求されず、破産認定されることもない。故に不透明な部分が多く、批判も受けている。また国家コーポレーションの総裁は大統領が任命・解任する。監査委員会の形成にも大統領が大きな役割を果たしており、その役員は政府から選出されることが多い。

エリツィン時代の元祖オリガルヒ7人組のうち、プーチンと対立して4人が消えたが、3人は生き残った。プーチン時代となり、プーチンに近い人物が台頭した(シロヴァルヒ)。このように政権と近い人物がトップ企業を指揮する構図は、ロシア財界の顕著な特徴である。むしろ起業家の成功の鍵は、政権との強い結びつきであり、それにより有利なビジネスへのアクセス機会を得られる。顔ぶれは変化しても、この基本的構図は現在も変化していない。ただし、コネのみではなく起業家としての能力も重要である。

政府と企業の結びつきを見る具体例として、コロナ危機対策の事例を見てみたい。ロシア国内では、基幹企業のうち一部が「システム構成企業」として政府に定められており、ロシア政府は経済危機のたびにシステム構成企業リストを作成し、優先的に支援を行ってきた。初めてリストが発表されたのは2008年のリーマン・ショック時で、「プーチンのリスト」と呼ばれた。これには当初295社、その後ウクライナ・クリミア危機やコロナ危機にて更新され、20216月には計1392社が含まれている。具体的には運転資金補充および雇用維持のための譲許的融資がなされている。12回目のリスト作成時には政府が統一リストを作成していたが、その後各省庁が関連業界ごとにリストを作成するようになった。リストアップ基準は売上規模や従業員数などだが、業界ごとに異なる。

以上