公益財団法人日本国際フォーラム

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第1回定例研究会合

標題研究会合が、下記1.~3.の日時、場所、出席者にて開催されたところ、その議論概要は下記4.のとおり。

  1. 日 時:2021年329日(月)17時より19時まで
  2. 会 場:フォレストテラス明治神宮 2F「椎の間」(一部メンバーのみZOOMによるオンライン参加)
  3. 出席者:10名(以下、五十音順)
[主  査] 常盤  伸 JFIR上席研究員/東京新聞外報部次長
[顧  問] 袴田 茂樹 JFIR上席研究員/青山学院大学名誉教授
[メンバー] 安達 祐子 上智大学教授
名越 健郎 拓殖大学教授
廣瀬 陽子 JFIR上席研究員/慶應義塾大学教授
保坂三四郎 エストニア・タルトゥ大学
山添 博史 防衛省防衛研究所主任研究官
[JFIR] 高畑 洋平 主任研究員
ハディ・ハーニ 特任研究助手
渡辺  繭 理事長
  • 議論概要:
  • (1)冒頭挨拶

    冒頭、渡辺理事長より、「現在、ロシアの政治的プレゼンスが国際的にも急速に高まる中、ロシアの行動論理を直接的かつ正面から捉えるべきである。その意味において、今回、本研究会を立ち上げることができて喜んでいる」との挨拶がなされた。次に、常盤主査より「ソ連崩壊から30年の節目を迎えた今、ナゴルノ・カラバフ紛争の終結や、最も安定した権威主義国家とも見られてきたベラルーシの政変、そしてロシアでの憲法改正、反政府活動の活発化など、大きな地殻変動が多発している。また米中対立におけるロシアの立ち位置にも注目が集まっている。本研究会では、ロシアの本質に迫りながら、日本の対露戦略について考える野心的な研究会にしたい」との挨拶がなされた。

    (2)常盤主査より問題意識などの説明

    「ロシア研究の新地平を求めて」

    本研究会の発足にあたり、基本的な問題意識や研究テーマについて確認しておきたい。全体としては、現在、プーチン主義のロシアに対するリアリスティックかつ感情を排した、本質に迫る動態的な分析こそ、我が国にとって喫緊の課題である。そうしたものこそ、日本の現実的な対露政策の基礎になるだろう。

    ロシア分析における問題意識としては、以下の通り様々なものがある。USニューズ&ワールドレポートが毎年発表している「世界のベストカントリー・ランキング」のうち、国際情勢における影響力をはかる「強国ランキング」部門(2020年度)では、ロシアは、唯一の超大国である米国に次いで第2位とされ、中国より上位に位置づけられたことに注目したい。このことは、何を意味するのか。ソ連から比較すると国力は低下したとはいえ、客観的にみれば、ロシアは依然として、軍事大国でありかつ、エネルギー大国である、また地理的優位性を持っているということから好悪の情に関係なく、世界で最も影響力を有した国家であることを意味している。

    さらには、リベラルな国際秩序に対する挑戦という側面は特に重要である。中国と並ぶ権威主義大国で、米大統領選にも関与するなど、欧米の脅威認識も高まっている。さらに日本にとってロシアは隣国であり、北方領土交渉の問題は主権の問題としてもとりわけ重要である。加えて、日本の安全保障問題として、軍事大国ロシアといかに関係構築をしていくのか、という点も大事だ。日本は、東アジアのリベラル・デモクラシーの主導国としての真価が問われているといえるだろう。

    他にも、ロシアは行動予測が難しいという側面がある。1991年ソ連共産党解散、ソ連崩壊、近年ではクリミア併合などの巨大な激変に関して、世界中のロシア研究者の予測はいずれも困難であった。このことから、対外行動の突発性という論点が挙げられる。

    またプーチン政権では、内政面の不透明性という論点も挙げられる。ロシアの歩みを振り返れば、歴史的で革命的な変動が、突如として起こる可能性がある。この観点からも、多元的かつ複眼的な研究が専門家には求められているといえるだろう。

    次に、本研究会のテーマである「ロシアの論理と日本の対露戦略」について。

    まず「ロシアの論理」というテーマは、具体的には、この20年間にわたり強権的な統治をおこなってきたプーチン主義の行動様式に対する動態的な分析を行うことを意図している。

    その要素としては、①まず第一に内政だ。政権内動向、いわゆるシロビキの分析、中央・地方関係、民主化運動などが注目されるテーマだが、とりわけ注目すべきはプーチン体制の安定度という論点だ。第二に対外行動だ。ここであえて外交という用語をあえて使わなかった。プーチン体制では、「外交」は、軍事、影響力工作などと並んで対外行動の一つの構成要素に過ぎないからだ。個別テーマとしては対立を深める欧米との関係の展望や、旧ソ連諸国との関係、対中関係などだ。第三に経済だ。独特な構造を有するロシア型資本主義の特質、その経済政策、石油・ガス産業の企業統治の特徴などだ。

    その他にも、非公式慣行などロシア社会特有の行動様式の研究も重要だろう。

    あるいは歴史的視点、つまりロシア帝国とソ連邦、ロシア連邦の本質的な連続性、非連続性という困難なテーマもある

    さらにはロシア人の精神構造の解明、政治意識、政治心理的側面の分析も見逃せない。このほかにも、ウクライナやバルト諸国など、ロシアと関係の深い国のロシア研究からの視点といった課題が挙げられる。こうした多岐にわたるテーマの研究を統合した、いわば重層的、複眼的なロシア認識が最も必要であると考える。

    また現行のロシアを理解するために最適な認識枠組みは何か、という重要な論点がある。既存のものとして「選挙権威主義」「Kleptcracy(泥棒政治)」「システマ」「情報的独裁」「ネオKGB国家」「石油国家」「ロシア株式会社」などそれぞれの研究者の視角を反映した興味深い見方があるが、本研究会としても何らかの概念を打ち出すことで、イメージ形成に役立てたい。

    最後に、日本の対露戦略についてだ。これは、今後の政策提言にもかかわる重要なテーマである。これまでの対露戦略にはロシアの行動様式に関する根本的な認識が欠けていた。単に信頼関係や友好関係を求めるといった表面的な部分だけでなく、希望的観測を排した本質的分析が必要である。

    また、いうまでもなく安保戦略上の位置づけについても分析が必要である。さらに、政治と経済の均衡をどうとっていくかという問題も重要である。

    以上