公益財団法人日本国際フォーラム

日米関係全体においては、一見して極めて安定的な時代のようにもみえる。日本食、アニメーション、あるいはコスプレなど大衆文化に至るまで、日本の文化に対する関心はアメリカでも高まっている。各種世論調査でもアメリカの国民の日本に対する好感度は極めて高い。

実際の日米の関係も1980年台や90年台に比べると、協力体制が整ってきた。アメリカで走る日本車の6割以上が「メイドインUSA」であることに代表されるように、日本企業の直接投資は年々充実している。また、トランプ第二次政権のベクトルが不安定であるものの、日本側の安全保障のコミットメントの度合いはかつてないほど積極的になっている。

しかし、このような日米関係の安定は、あくまでも日本から見た一方的な姿だ。アメリカで直面するのは、日本のプレゼンスの否定しようもない大きな低下である。特に、政策的重要性・同盟国としての位置づけは十分に共有されているとはいいがたい状況である。

それには様々な理由がある。まず、アメリカで生活をする日本人が大きく減った。人の交流は経済的・政治的・文化的影響力の柱だ。日本人の存在感が大きかったのは1980年台から1990年代半ばだったが、日本が長きにわたって経済的な停滞を続けてきたことにより、日本企業の駐在事務所数と駐在員が減少した。

さらに大きいのが日本人留学生の減少である。アメリカの中の日本人留学生1990年代半ばには4万5000人以上を記録し、1994 年から97年までは国別で最大であった。当時、ワシントンやニューヨークの街ですれ違いざまに英語以外の言葉が聞こえたとすると、かなりの確率で日本語だった。しかし、21世紀に入ってからは徐々に減り続け、2023年現在には1万3000人を割り、3分の1以下となった。日本以外の国からの留学生は、日本の近隣諸国のライバル国を含めて多くなっていく。2023年の国別最大の第1位はインドで33万人、第2位は中国の27万人であり、いずれにも日本からの留学生の20倍以上だ。

驚くべきことだが、日本からアメリカへの留学生数は、ナイジェリア(7位、2万人)、バングラデシュ(8位、1万7000人)、ネパール(10位、1万6000人)などの途上国にも抜かれてしまった。日本は第13位であり、人口では日本の方が優る韓国は4万3000人(第3位)、台湾2万3000人(第5位)、ベトナム2万2000人(第6位)などのアジアの後発ライバル国にも大きく水をあけられてしまっている。

日本人の若者の数自体が減少しているため、減少自体にはやむを得ない側面が存在する。さらに日本の経済的不振、日本人の若者の内向き志向などが大きな要因だろう。ただ、人的交流の物理的な機会は、文化や社会への関心につながり、日本人留学生と接したアメリカ国民にも肯定的な影響を与える。単なる数年間の留学経験に終わるのではなく、友人作りやひいては長年の日米関係を支えるつながりを生みだしていく。つまり、日本外交のソフトパワーの充実に貢献するものである。

日本からアメリカに留学する学生が年々、少なくなっている中、トランプ第二次政権では留学生や働き手、さらには観光客を含めての外国人の受け入れを制限していく「閉じていくアメリカ」現象が加速してしまった。

2025年11月後半に公表されたアメリカの国際教育研究所が国内の大学などの高等教育機関825校に実施した調査では、昨年秋の新年度の新規留学生の数は前年より17%と大きく減った。教育機関が挙げる減少の理由として(複数回答)の一番には、「ビザが発給されるかどうかわからない」という懸念(96%)に他ならない。トランプ政権が矢継ぎ早に導入した学生ビザの発給厳格化や、留学生の受け入れ上限設定などの政策の影響が極めて大きい。

アメリカに敵対的な人物を見分けるためとして、トランプ政権は在外公館にビザ申請者にSNSのアカウントの開示させるように指示した。これによって一部の学生ビザは取り消されたほか、申請の審査手続きの遅延も目立っている。大学に対する研究補助金を大幅に切ったことも、留学生にとっては不安を高める一因となっている。

17%という数字だが、アメリカの大学で働いている友人たちに聞くと「実態はもっと多いのでは」という。特に「名門校ほど多いのでは」という意見も多い。トランプ政権の大学たたきが続く中、来年はさらに留学生の数が減少するのは間違いないとされており、アメリカの大学は過去にない大きな曲がり角となっている。

留学ビザの厳格化に歩調を合わせるように、昨年12月には観光客向けのESTA申請についても、SNSのアカウントの開示が義務化された。トランプ政権は犯罪者と「反米」的な人物の特定を理由に挙げている。各国からの留学生や旅行者のアメリカ離れが進むのは必至だ。留学生の減少を放置したままでは次世代の日米関係を担う人材が枯渇してしまう可能性がある。

日本のプレゼンスの低下は人材交流だけではない。国としての主張の発信力も限定的である。日本の場合、アメリカの良き同盟国であることを前提に、広報的な戦略については、どうしても控え気味である。これに対して、中国や韓国は政府としての発信能力を強化してきただけでなく、自前のメディアやシンクタンクを用意し、また戦略的にワシントンにあるシンクタンク等にも資金を提供してきた。両国の主張は、しばしば日本の立場に批判的であり、日本を批判することが広報活動全体の目的の一つであるといえる。

発信の向こう側にあるのがアメリカ国民の世論だが、バブル崩壊以後、日本に対する関心の低下も頻繁に指摘されてきた。それに代わるのが中国への関心である。そして、トランプ大統領が自ら発した「G2」という言葉が示すように、米中関係が世界の中で最も重要であり、日本は米中関係をマネージするカードのような存在になりつつある。これは政府間の関係だけではなく、アメリカの中等・高等教育において、日本語や日本関連講座が中国語あるいは中国関連講座にとって代わられてきた例も数多く報告されている。

中国からの情報提供の場合、例えば孔子学院に代表される、純粋なソフトパワーではなく、中国の権威主義的な体制を推進する見方を含めた、いわゆる「シャープパワー」の位置づけもある。この点は、アメリカにとっても、さらにアメリカの同盟国だが、中国とは隣国である日本にとっても対応が難しい。

こうした状況を踏まえ、日本は、外交政策の一部として、人材交流・文化交流を再設計し、プレゼンス低下の鍵を握る対米留学生の減少を防ぐ総合的な施策を検討すべきである。

第一に、ワシントンやニューヨークといった政策中枢におけるメディア・ナラティブ形成の改善、学会・シンクタンクにおける日本研究基盤の再生といった日米の接続強化の工夫がまず挙げられる。

しかし、より重要なのは、都市部に限らない全米規模での日米関係の基盤強化である。若者のアメリカ離れが進む中、世代間ギャップを意識した人的交流の再設計が急務である。日米双方の留学生交流の拡充、日本文化への理解促進、日本人・日系人コミュニティと米国一般社会との協働の深化を戦略的に支援すべきである。さらに、その持続的基盤として、連邦議会のみならず州政府レベルでの関係強化も鍵となろう。

日本の米国におけるプレゼンスの回復は自然に起こるものではなく、政策と戦略を伴って初めて実現する。今こそ、日本は「安定した同盟」という認識を超え、次世代の日米関係を担う人的・知的基盤の再構築に本格的に取り組むべきである。