トランプ政権はUSAIDを「無駄と浪費の温床」と断じ、年間400億ドルにのぼる予算削減を進めた。さらにイーロン・マスク氏が主導する「政府効率化省(Department of Government Efficiency, DOGE)」を創設し、「メディケアやメディケイドには不正が多い」として大胆な支出削減を実施した。これはヘリテージ財団の「プロジェクト2025」にも連動する動きであり、政府閉鎖が長期化する一方、減税と権限縮小によって「最小国家」化が進んでいる。
その中で民主党内では、「反エスタブリッシュメント」の新潮流が今後の党勢拡大の鍵となり得る動きを見せている。2025年のニューヨーク州予備選では、インド系移民二世のゾーラン・マムダニ議員が民主社会主義を掲げ、著名政治家を破って圧勝した。彼は物価高や家賃上昇に苦しむ若年層・労働者層の支持を背景に台頭し、イスラエルの軍事行動を厳しく批判している。実際、Pew Research Centerの調査でも、共和党の若年層にまで反イスラエル感情が拡大しており、米国内の価値対立は「右対左」ではなく「上対下」「富裕層対庶民」へと再編されつつある。
(6)国際秩序と日米関係への含意
2025年6月、トランプ政権はネタニヤフ首相に逮捕状を出した国際刑事裁判所(ICC)の判事や、国連人権理事会特別報告者への制裁方針を発表した。これは「法の支配」を支える国際制度への正面からの挑戦であり、米国の国際的正統性を根底から揺るがすものである。ジョセフ・ナイ教授は遺構となった “The End of Long American Century”で、米国が「強制」や「報酬」だけに依存し、価値と文化の魅力=ソフトパワーを失っていると警告した。
(1)戦後秩序の断絶としてのトランプ政権
本年は戦後80年という節目であり、日本が戦後秩序の継承と変容を議論する一方で、米国も大きな転換点に立っている。トランプ2.0政権は、一期目以上に「国際秩序からの離脱」を明確に掲げた政権である。2025年1月の就任演説でトランプ大統領は、「米国がこれ以上つけ込まれることを許さない」と宣言し、戦後80年にわたり形成されてきた国際秩序の終焉を示唆した。ルビオ国務長官も公聴会で、冷戦後の国際主義と普遍主義を「危険な妄想」と断じ、「力の限界を自覚した国益第一主義」への転換を宣言した。こうして米国は、普遍的価値や国際協調を重視する外交から、力と取引を軸にした現実主義的国益外交へと外交姿勢を変化させつつある。
(2)国内体制の再構築:「最小国家」と「寡頭制」への傾斜
トランプ政権はUSAIDを「無駄と浪費の温床」と断じ、年間400億ドルにのぼる予算削減を進めた。さらにイーロン・マスク氏が主導する「政府効率化省(Department of Government Efficiency, DOGE)」を創設し、「メディケアやメディケイドには不正が多い」として大胆な支出削減を実施した。これはヘリテージ財団の「プロジェクト2025」にも連動する動きであり、政府閉鎖が長期化する一方、減税と権限縮小によって「最小国家」化が進んでいる。
その一方で、就任式や晩餐会には富裕層やテック企業経営者が列席し、2億ドル超の「トランプ・ボールルーム」建設が進むなど、政治の寡頭制化が進行している。経済的格差の拡大と政治的閉塞感の中で、「アメリカンドリームを信じない」と答える国民は7割に達し、社会的絶望と分断はかつてない水準に達している。
(3)国際秩序に関心を失うアメリカ:孤立主義と帝国的衝動
外交においても、トランプ政権は一貫して取引主義的姿勢を強めている。2025年2月のゼレンスキー大統領との会談では、「あなたは切るカードを持っていない」と発言し、軍事支援を約束しなかった。さらにバンス副大統領夫妻のグリーンランド訪問では、同地の米領化を正当化する発言が続き、地政学的優位と資源確保を目的とする帝国的衝動が露呈した。このような姿勢は、米中露の間で世界を再分割する「ヤルタ2.0」的構図を想起させる。
こうした動きの背景には、米国内で「米国が世界の秩序維持を担い続けることは損である」とする世論の変化がある。シカゴ国際問題評議会の調査では、米国の国際的役割を「利益よりもコストが上回る」と答える層が共和党支持者では過半数に達しており、国民的孤立主義が外交政策の背後に強く働いている。
(4)文化と学術への統制:反DEIと国家的歴史観の再構築
トランプ大統領は2025年1月の就任演説で、「人種やジェンダーを社会的に組み込もうとする政策を終わらせる」と述べ、反DEI(多様性・公平性・包摂性)政策を明確に打ち出した。黒人や女性の高官の解任が相次ぎ、3月には「アメリカの歴史に真実と正気を取り戻す」とする大統領令を発出。過去の人種差別や抑圧を強調する展示を制限する方針を示した。
また、全米科学財団(NSF)は「diversity」「equity」「women」などの語を含む研究を助成対象から除外し、研究・教育の自由を大幅に制限している。ハーバード大学に対しても「アメリカ的価値観に反する思想の排除」を求め、補助金凍結と留学生受け入れ停止を通告した。こうした動きは思想統制的性格を帯び、文化・学術の自律性を根底から脅かすものである。
(5)政治の再編と民主党の変容
トランプ体制に対しては全米で大規模な抗議が続き、2025年6月には「王はいらない」と掲げるデモが全米で500万人規模に達し、今後も大規模なデモが予定されている。トランプ支持率は一時37%まで低下し、政治的無党派層の離反も顕著となっているものの、民主党も明確なオルタナティブを提示できずに低迷している。
その中で民主党内では、「反エスタブリッシュメント」の新潮流が今後の党勢拡大の鍵となり得る動きを見せている。2025年のニューヨーク州予備選では、インド系移民二世のゾーラン・マムダニ議員が民主社会主義を掲げ、著名政治家を破って圧勝した。彼は物価高や家賃上昇に苦しむ若年層・労働者層の支持を背景に台頭し、イスラエルの軍事行動を厳しく批判している。実際、Pew Research Centerの調査でも、共和党の若年層にまで反イスラエル感情が拡大しており、米国内の価値対立は「右対左」ではなく「上対下」「富裕層対庶民」へと再編されつつある。
(6)国際秩序と日米関係への含意
2025年6月、トランプ政権はネタニヤフ首相に逮捕状を出した国際刑事裁判所(ICC)の判事や、国連人権理事会特別報告者への制裁方針を発表した。これは「法の支配」を支える国際制度への正面からの挑戦であり、米国の国際的正統性を根底から揺るがすものである。ジョセフ・ナイ教授は遺構となった “The End of Long American Century”で、米国が「強制」や「報酬」だけに依存し、価値と文化の魅力=ソフトパワーを失っていると警告した。
日米関係においても、2月の首脳会談で共同声明から「国際秩序」「法の支配」という文言が削除され、価値共有を基礎とする同盟の再定義が迫られている。アメリカが法の支配を守る国際的枠組みから離れつつあるなかで、日米同盟は依然として極めて重要である一方、その同盟をいかなる価値や原則によって基礎づけていくのかが問われている。いま、両国は重大な岐路に立たされているといえよう。