Ⅰ 対話の「窓」を開いた高市・習会談
首脳会談冒頭で、習氏から高市首相に対する「祝意」が表明された。この点は、両国の政治トップが対話路線の「窓」を開いた(「窓」であり、「扉」ではない)という意味での外交成果として高く評価できよう。
習氏が国家主席に就任した2013年以降、日本で内閣総理大臣に就いた菅義偉氏、岸田文雄氏、石破茂氏に、習近平氏は祝電を送ってきた。しかし、高市首相の政治姿勢を「警戒」する中国は、高市首相には就任の祝電を送らないという異例の対応をとった(※ただし、国務院総理の李強氏は高市首相へ祝電を送っていたことが明らかにされている)。
10月4日に自民党総裁に就いた高市総裁は、10月9日、「南モンゴルを支援する議員連盟」の会長として、衆議院第1議員会館で開かれた国際フォーラム「南モンゴル自由・独立運動の歴史と展望」に文書でメッセージを寄せ、「中国共産党による弾圧が続いていることに憤りを禁じ得ない」と強い懸念を示し、自由、法の支配、基本的人権など普遍的な価値をともに守るために連帯を強めたいと訴えていた。これを受けて、中国外交部は翌日「内政に干渉している」「人権問題を政治化、道具化している」と非難し、強く抗議していた。
高市首相は、10月26日にクアラルンプールで開催された第28回日本・ASEAN首脳会議には出席したが、アメリカのドナルド・トランプ大統領が来日した27日に開催された第28回ASEAN+3(日中韓)首脳会議には出ておらず(茂木敏充外務大臣が代理出席)、中国の李強国務院総理との会談は行われなかった。
高市首相は、10月26日にフィリピンのフェルディナンド・マルコス大統領、マレーシアのアンワル・イブラヒム・マレーシア首相、オーストラリアのアンソニー・アルバニージー首相との首脳会談は行っており、26日の段階では中国側が日本の新首相に慎重な姿勢をとっていたと言えよう。
10月26日の日豪首脳は、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の実現のための連携強化や、重要鉱物のサプライチェーンを含む経済安全保障分野における協力で合意した。オーストラリアが10月20日の米豪首脳会談で署名したレアアース・重要鉱物の確保に向けた連携強化の合意文書には、日本とのプロジェクトも含まれていた。これに関連して、アメリカがマレーシアとのレアアース開発に関する「基本合意書」(MOU)に調印した10月26日、日本とマレーシアは、レアアース等の経済安全保障分野における連携を一層強化していくことを確認した(※ オーストラリアが採掘・資源供給の主要な役割を担い、マレーシアは供給された鉱物の加工・精錬における東南アジアの重要なハブとなることが期待されている。これにより、アメリカは「採掘〔オーストラリア〕→加工・精錬〔マレーシア等〕→利用〔アメリカ〕」という、中国を経由しない新たなサプライチェーンの構築を目指していると考えられている。こうした動きは、アメリカが日本やオーストラリアだけでなく、ASEAN諸国とも連携を深め、グローバルな重要鉱物サプライチェーンの再編を急いでいることを示している)。両国は、日本の「政府安全保障能力強化支援(OSA)」を通じて、無人航空機(UAV)・救難艇の引き渡し、潜水作業支援船等の供与等にも合意した。また、OSAを通じた協力が進んでいるフィリピンとの会談では、物品役務相互提供協定(ACSA)が実質的な合意に至ったことを歓迎した。
まさに、これら3つのサミットは、中国を念頭においた戦略的な外交であった。
高市首相の姿勢や発言に警戒していた中国が首脳会談に慎重になっていたため、首脳会談の開催が公表されたのは、会談当日の10月31日のことであった。
中国側が総理就任の祝電を送らないという異例の対応をとっていたことから考えれば、今回の日中首脳会談の成果は、「高市・習会談が実現したこと」にあった。
Ⅱ 前政権からの継続:「戦略的互恵関係」の包括的推進と「建設的かつ安定的な関係」の構築
日中両国が「戦略的互恵関係」を包括的に推進し、「建設的かつ安定的な関係」を構築するという「大きな方向性」の確認については、岸田文雄政権以来、変わりはない。高市首相が中国側へ伝えた「懸念」は、岸田氏、石破氏も伝えてきた。
以下に、過去5回の日中首脳会談の概要を示したが、内容的には大きな違いはない。
(1)岸田・習会談(2021年10月8日、電話会談)
岸田首相(当時、以下同様)から、両国間の様々な懸案を率直に提起し、こうした問題を含め、以後対話を重ねていきたい旨、日中国交正常化50周年を迎える2022年を契機に「建設的かつ安定的な関係」をともに構築していかなければならない旨を習氏に伝え、習氏から賛意を得た。また両首脳は共通の諸課題について協力していくことで一致した。
(2)岸田・習会談(2022年11月17日、APEC首脳会議出席で訪問中のタイにおける初めての対面会談):
岸田首相(当時、以下同様)から、国際的課題にはともに責任ある大国として行動し、共通の諸課題について協力するという「建設的かつ安定的な日中関係」の構築という共通の方向性を双方の努力で加速していくことが重要である旨を述べた。
(3)岸田・習会談(2023年11月16日、APEC首脳会議出席で訪問中のアメリカのサンフランシスコにおける対面会談)
両首脳は、日中間の4つの基本文書の諸原則と共通認識を堅持し、「戦略的互恵関係」を包括的に推進することを再確認した。その上で両首脳は、日中関係の新たな時代を切り開くべく、「建設的かつ安定的な日中関係」の構築という大きな方向性を確認した。また、両首脳は、外務、経済産業、防衛、環境分野の閣僚間の対話が同年開催されたことを歓迎し、引き続き首脳レベルを含むあらゆるレベルで緊密に意思疎通を重ねていくことで一致した。
(4)石破・習会談(2024年11月15日、APEC首脳会議出席で訪問中のペルーでの会談):
両首脳は、日中両国が引き続き、「戦略的互恵関係」を包括的に推進し、「建設的かつ安定的な関係」を構築するという大きな方向性を共有していることを確認した。また、両首脳は、日中間の4つの基本文書の諸原則と共通認識を堅持し、率直な対話を重ねられる関係を築いていくことも確認した。両首脳は、この大きな方向性の下で、首脳レベルを含むあらゆるレベルで幅広い分野において意思疎通をより一層強化し、課題と懸案を減らし、協力と連携を増やしていくために互いに努力することを確認した。石破首相(当時、以下同様)は、中国による日本産水産物の輸入回復、日本産牛肉の輸出再開、精米の輸出拡大に係る当局間協議の早期再開を求め、尖閣諸島情勢を含む東シナ海情勢や中国軍の活動の活発化、邦人の安全、台湾海峡の平和と安定、南シナ海、香港、新疆ウイグル自治区等の状況に対する深刻な懸念を表明した。
(5)高市・習会談(2025年10月31日・APEC首脳会議出席で訪問中の韓国での会談):
習氏から高市首相大臣就任に対する祝意が伝えられた。両首脳は、「戦略的互恵関係」を包括的に推進し、「建設的かつ安定的な関係」を構築するという日中関係の大きな方向性を改めて確認した。その上で、高市首相から習氏に、地域と国際社会の平和と繁栄という重責を果たしていく重要性について働きかけた。両首脳は、首脳間での対話、そして日中間の幅広い分野での重層的な意思疎通を行う重要性を確認した。
高市首相は、10都県産の農水産物等の輸入規制撤廃の早期実現、日本産牛肉の輸出再開、グローバルな課題での協力等を求め、尖閣諸島情勢を含む東シナ海情勢や中国軍の活動のエスカレーションや海洋調査活動、レアアース関連の輸出管理措置、邦人の安全、台湾海峡の平和と安定、南シナ海、香港、新疆ウイグル自治区等の状況に対する深刻な懸念を表明した。また、両首脳は、拉致問題を含む北朝鮮情勢等についても意見交換を行った。
Ⅲ 「日本新内閣の発したいくつかの前向きなシグナルに留意している」。
高市・習会談が実現した要因の1つは、10月21日に発足した高市内閣が、中国に向けて「積極的なシグナル(中国側からすると「前向きなシグナル」)」を発信し続けたことであった。
高市首相も木原稔官房長官も、10月17日の靖国における「令和7年秋季例大祭」での参拝を見送った。また、高市首相は、10月24日の所信表明演説において、「中国は日本にとって重要な隣国であり、建設的かつ安定的な関係を構築していく必要があります」「日中間には、経済安全保障を含む安全保障上の懸念事項が存在することも事実です。日中首脳同士で率直に対話を重ね、戦略的互恵関係を包括的に推進していきます」と訴えていた。
茂木敏充外務大臣は、中国の王毅外交部長と10月28日午後2時から約30分の電話会談を行い、中国が日本にとって重要な隣国であり、高市首相は日中関係を非常に重視していることや、日本側がこれまで中国側とのデカップリングやサプライチェーンの分断を意図したことはなく、双方が各レベルで交流を強化し、互恵協力を深め、意見の相違に適切に対処し、建設的かつ安定的な日中の戦略的互恵関係を包括的に推進していくことを望んでいること等を伝えた。この電話会談で、双方は、日中両国が「戦略的互恵関係」を包括的に推進し、「建設的かつ安定的な関係」を構築するという大きな方向性を共有していることを確認した。また、両国は、こうした「大きな方向性」の下で、課題と懸案を減らし、理解と協力を増やしていくことでも一致した。そのうえで、茂木外相から王氏へ、レアアース関連の輸出管理措置、東シナ海での中国の活動に対する懸念を表明するとともに、拘束中の邦人の早期釈放、在留邦人の安全確保、日本産水産物の輸入の円滑化、日本産牛肉の早期の輸入再開、10都県産農水産物の輸入規制の撤廃の要望が伝えられた。これらの内容は、31日の首脳会談でも、総理から中国側へ伝えられた。
Ⅳ 中国側のねらい
それでは、会談を実現させた中国側のねらいについて、どのように考えられるであろうか。
その主な点として、経済面と安全保障面の以下2点を指摘する。
(1)FTAAPを射程に入れた「アジア太平洋共同体」構築の推進
習近平氏は、11月1日午前に開催された第32回APEC非公式首脳会議のホスト国引継ぎセレモニーに出席し、中国が2026年11月に広東省深圳市で第33回APEC非公式首脳会議を開催することを発表した。中国は3度目となるAPECホスト国を務めることになる。中国はこれを機に、各関係方面と連携して「アジア太平洋共同体」の構築を推進することを打ち出している。「アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)」の推進、相互連結、デジタル経済、人工知能(AI)などの実務協力推進に力を入れようとしている。
これに先立ち、10月31日午前に開催されたAPEC非公式首脳会議(セッション1)において、習近平氏は、「重要演説」と銘打った「普遍的に恩恵をもたらす包摂的な開放型アジア太平洋経済の共同構築」と題する演説を行っている。また、31日の日中首脳会談においても、習近平氏は高市首相に対して「アジア太平洋共同体の構築を推進する」との提言を行っている。
FTAAPとは、APEC加盟国間に自由貿易圏を形成するという構想である。2004年にAPECビジネス諮問委員会(ABAC)が提言したことに始まるFTAAP構想については、2010年の横浜APEC首脳会議で「FTAAPへの道筋」が採択された。
APECがFTAAPへ向かうプロセスとして重要になってくるのが、CPTPPである。本来は、FTAAPに向かう道筋がアメリカの主導する「環太平洋パートナーシップ(TPP)」もしくは中国が主導する「地域的な包括的経済連携協定(RCEP)」となるはずであった。しかし、TPPと中国は第1期トランプ政権発足とともにアメリカが脱退し、日本政府が「旗振り役」として、「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定」(CPTPP)として協定を成立させ、発効にこぎつけた。また、2024年に実現したイギリスのCPTPP加入では、日本が加入作業部会の議長を務めるなど、新規加入プロセスを積極的にリードした。日本政府は、加入を希望するエコノミーに対して、CPTPPの高い水準と
ルールを完全に満たす能力と意思があるかを見極め、協定の質の維持に努めている。
日本政府がCPTPPを「自由で公正な経済秩序」の礎として維持・強化していることで、CPTPPが「インド太平洋地域」の貿易・経済発展に貢献する戦略的パートナーシップの要として機能している。
中国が唱え始めた「アジア太平洋共同体」構築の推進において、FTAAPの推進としてのCPTPPと日本の存在は極めて重要になる。高市首相は、所信表明演説において、「自由で開かれたインド太平洋」を高市外交の柱として推進し、そのビジョンの下で同志国やグローバルサウス諸国との連携強化に取り組み、CPTPPについて戦略的観点から締約国の拡大に努めると訴えている。
日中会談開催を決定した時点での高市政権に対する日本国民の支持率の高さを考えれば、中国は高市政権と中期的な視野で向き合う必要性がある。2025~2026年の国際政治と国際関係のタイムラインを考えれば、高市政権とのハイレベル協議の第一歩に踏み出すことは、中国側にとっても重要となる。
(2)高市首相・トランプ大統領会談と日中関係
安全保障をめぐっても、中国側にも会談へ踏み出す重要性があった。
高市首相は、日米関係の新たな「黄金時代」を示す文書と重要な鉱物に関する文書に署名した10月28日、大統領専用ヘリコプター「マリーン・ワン」にアメリカのドナルド・トランプ大統領と同乗し、神奈川県横須賀の米軍基地に向かった。米原子力空母ジョージ・ワシントンにトランプ大統領とともに乗艦した高市首相は、「今後、日本の防衛力を抜本的に強化して、この地域の平和と安定により一層、積極的に貢献していく」と宣言した。高市首相が演説した演台後方には「力による平和(Peace Through Strength)」と書かれた垂れ幕が掲げられていた。ものすごく大きな字によるPeace Through Strengthの垂れ幕の前で、高市首相は米兵らの歓声に拳を真上に上げてみせた。
習近平氏は、10月31日の会談で、「現在、中日関係には機会と課題が共存している」「日本の新内閣が正しい対中認識を確立し、両国の一世代上の政治家や各界の人々が中日関係の発展に注いだ心血と努力を大切にし、平和、友好、協力という中日の大きな方向性を堅持することを希望する」と強調した。そのうえで打ち上げた5つの提言のうちの1つが「意見の相違の適切な管理・コントロール」であった。大局を見据え、違いは違いとして尊重しながら共通点を探り、共通点に注目して意見の相違を乗り越えて理解や調和を目指し、対立や意見の相違が両国関係を定義することを避けることを、習氏は日本側に伝えた。台湾問題については、中国側から日本政府に対して切り出し、1972年の日中共同声明の立場を堅持するように求めた。
これらは、中国と台湾の両岸関係のみを指しているとは言えない。
これらの文言の背景には、高市首相が所信方針演説で示した「我が国として主体的に進める防衛力の抜本的強化」に対する危惧があると言えよう。
特に、2022年12月の安保3文書以降の「安全保障環境の変化への対応」をめぐる高市政権の方向性について、中国は注視している。安保3文書とは、日本の国家安全保障政策の基本方針を示す「国家安全保障戦略」、防衛力の水準や整備方針を定める「国家防衛戦略」、具体的な防衛力整備の内容を定める「防衛力整備計画」の3つの文書の総称である。2013年に策定された安保3文書は2022年に改定された。前回は9年目での改定であったが、今回は短期間での改定になる。そのねらいとして、中国に対する強い危機感によって日本が防衛力の抜本的強化を加速させようとしているためと見られる。GDP比の達成時期だけでなく、防衛力整備計画の規模とスピードを大きく変えるものと予測される。中国側はそうした動きを、日本の安全保障政策の大きな転換点になるかもしれないと警戒しているのである。
安保3文書の2026年改定を目指している高市政権は、石破内閣でインドネシア大使の辞令が10月10日に閣議決定されていた市川恵一氏を、岡野正敬氏の後任として、外交・安全保障政策の司令塔である国家安全保障局長に10月21日に就かせた。高市政権は、防衛装備品移転のルール変更や「スパイ防止法」制定などに取り組む方針を示している。こうした政策の取りまとめ役を担う職位に「市川恵一氏が就いた意味」を、中国は認識している。
高市政権の誕生は、日本の安全保障政策と憲法改正をめぐる議論に転機をもたらすことになるかもしれない。「これまで中国との関係を重視してきた公明党」との連立が解消された事実は、単なる政局の動き以上の意味を持つ。新政権が高市政権となり、「安全保障問題で毅然とした姿勢を主張してきた日本維新の会」と連立を組んだことは、日本の安全保障政策が方向転換する可能性を明確に示唆している。新たな連立与党によって、憲法改正への動きを前進させたり、スパイ防止法制の議論を加速させたりする可能性がある。
中国が首脳会談へと動いた背景の一つには、こうした日本国内の政治的転換を注視し、警戒感を強めたことがあると言えよう。
Ⅴ 毅然とした国益重視の姿勢と「重要な隣国」との対話
日本をとりまく安全保障環境は大きく変化し、日本にとって厳しいものになっている。その主な要因をつくっているのは、中国である。そうした中で、高市首相は「世界が直面する課題に向き合い、世界の真ん中で咲き誇る日本外交を取り戻す。絶対にあきらめない決意をもって、国家国民のため、果敢に働いてまいります」と10月24日の所信表明演説を力強く締め括った。
高市外交は、毅然とした国益重視の姿勢と、「重要な隣国としての中国」との対話を重ねる「戦略的互恵関係」の推進、これら2つを両立させようとしている。
この高市外交を考える上で思い浮かぶのが、国際政治の古典的リアリズムの確立者の一人であるハンス・モーゲンソー(Hans Morgenthau)のリアリズムである。「国際政治とはパワーをめぐる闘争である」と論じたモーゲンソーは、「パワー」と「国益」の概念から国際政治を分析した。モーゲンソーが説く政治パワーの源泉は、①利益への期待、②不利益への恐れ、③人や制度への敬愛の3つの要素に由来する心理的な関係である。そこで、モーゲンソーは、国家が常に自国の存続と安全保障のために行動するという見方から、誤算や不必要な戦争を避けるための対話や交渉を重視し、慎重で合理的な外交の重要性を強調した。
こうしたリアリズムの理論に基づけば、日本がとるべき姿勢は、「パワーの裏付け」と「外交の継続」の2本柱ということになる。リベラルな国際秩序が崩れ、パワーによる闘争の時代だからこそ、意図しない衝突(危機)を防ぐために、外交という対話の継続による危機管理が必至となる。
高市首相は、「強く積極的な外交」の理念を掲げるとともに、日中関係を「管理」する姿勢を打ち出している。習近平氏は、日中首脳会談で、高市内閣が中日関係を重視していると評価している。また、中国外交部は、高市首相が日中関係を重視しており、「いくつものシグナル」を日本側が示してきているとの認識を示している。これは、中国側が、高市政権の中国政策に警戒しているものの、日本との経済関係を重視し、新政権の姿勢を「一定程度評価」していることを示唆していると言えよう。また、米中関係が不安定な時期において、中国側にとっても日中関係を軽視することはできなくなっている。
安全保障環境が極めて厳しい時代にあるからこそ、東シナ海における偶発的な衝突を防ぐための危機管理メカニズムを含む外交対話を維持する必要がある。高市首相が掲げる「強く積極的な外交」の真価が、まさにこの高市首相が「対話の窓」を開いた外交路線によって問われていくと言えるだろう。
APEC首脳会議で韓国慶州を訪れていた高市早苗首相は、2025年10月31日、中国の習近平国家主席との初の日中首脳会談を行った。
本稿では、まず、第Ⅰ節で、今回の日中首脳会談の成果が「高市・習会談が実現したこと」にあったことを指摘してから、第Ⅱ節で、岸田政権・石破政権における首脳会談の概要と照らし、内容については大きな違いがなかった点を指摘する。次に第Ⅲ節で、会談が実現した背景の1つとして、高市内閣が中国に向けて送った「積極的なシグナル(中国側からすると「前向きなシグナル」)」について論じる。続いて第Ⅳ節で、高市・習会談が実現した背景として、中国の「アジア太平洋共同体」構想の推進と高市政権誕生による安全保障政策の転換について論じ、当初消極的だった中国側が会談実現に動いた背景について考察する。最後に第Ⅴ節で、リベラルな国際秩序が崩れ、パワーによる闘争の時代に入ったからこそ、日本がとるべき姿勢はリアリズムによる「パワーの裏付け」と「外交の継続」の2本柱であり、意図しない衝突(危機)を防ぐために、外交という対話の継続による危機管理が必至となることを論じる。