メモ

- 日 時:2025年11月5日(火)10:20-11:50
- 場 所:宇都宮大学 峰キャンパス 大学会館2階多目的ホール
(ZOOMウェビナーとのハイブリッド開催) - 参加者:100名以上
- 登壇者:(報告順)
| 中村 真 | 宇都宮大学国際学部長 |
| 高畑 洋平 | 日本国際フォーラム常務理事/グローバル・フォーラム世話人事務局長 |
| カテリーナ | バンドゥーラ奏者・歌手 |
| 清水奈名子 | 宇都宮大学国際学部教授 |
| 松村 史紀 | 宇都宮大学国際学部准教授 |
| 髙橋 若菜 | 宇都宮大学多文化公共圏センター長/日本国際フォーラム上席研究員 |
- 議論概要:
(1)開会挨拶
(a) 中村真(宇都宮大学国際学部長)
宇都宮大学多文化公共圏センター長の髙橋若菜教授が日本国際フォーラムの「日本の強みを生かした『女性・平和・安全保障 (WPS)』における貢献の在り方」研究会の主査をしていることから、音楽を通じて女性と平和の問題を考えるコロキアムの開催に至った。国立大学法人は6年を1つのサイクルとして目標を設定し運営されている。現在は第4期(4年目)の計画として、研究会やコロキアムを市民社会に開放し国際社会と結びつけるプラットフォームとしての役割を担っている。「女性」と「安全保障」の問題は一見かけ離れているようにも思われるが、紛争や災害の影響を最も受けるのは女性や子供のような社会的に弱い立場の人々である。本学が掲げる多様性という理念のためにもジェンダーの視点は不可欠だ。
(b) 高畑洋平(日本国際フォーラム常務理事/グローバル・フォーラム世話人事務局長)
外交という言葉を聞くと、多くの人は政府や外務省の交渉を思い浮かべるだろう。けれども、外交の本質は「他者と関係を築く力」である。みなさんが異なる背景の人と語り、共に考え、理解しようとする。その一つひとつの行為こそが民間外交になる。今日のテーマであるWPSは、まさにその精神を体現している。暴力や紛争の現場で、女性が声を上げ、社会を再建する。その力を政治や安全保障の中核に据えること。これがWPSの理念である。そしてこの理念は、性別や国籍を超えて、すべての人に関わる。誰もが対話を通じて、互いを理解し、平和をつくる主体になれる。WPSは、そうした包摂的な社会をめざす考え方でもある。最後に外交において重要なキーワードを提示したい。私が提唱する「ABCD外交」であるが、これは頭文字を並べたものである。AはAgree(共感すること)、BはBond(絆をつくること)、CはContinue(継続すること)、DはDeliver(自らの考えを伝えること)。外交は、特別な人の仕事ではなく、是非、「自分なりの外交」を始めてもらいたい。
(2)基調講演

日本に来てから約20年が経つ。出生地はチェルノブイリ原発から約2.5キロの地点であり、生後1か月のときに事故が発生した。その後、家族とともにキーウに移り住んだ。学校に通うようになってから、授業で事故のことを学び、同じように被災地域から避難してきた子どもたちが、1クラスに10〜13人ほど在籍していた。被災者には健康上の懸念があるとして国から支援物資が配布されていたが、それがもともとキーウに暮らしていた子どもたちとの確執の一因となった。
こうした環境のなかで友人関係を築くことが難しく、避難者の子どもたちで構成された音楽団に入団した。7歳のころにはドイツで演奏を行い、その収益はチェルノブイリ事故の被害者支援に充てられた。10歳のとき、日本を訪問して演奏を行い、「安全で優しく、心の温かい国」と感じたことが、日本で音楽活動を行いたいという夢を抱くきっかけになった。
ウクライナでは小学校から高校までが一貫制で、一般の学校に通うかたわら、音楽学校にも入学した。午前中は普通科の授業、午後は音楽学校で音楽史や理論、ピアノ、バンドゥーラ、ソルフェージュなどを学び、避難者の音楽団での練習にも参加していたため、遊ぶ時間はほとんどなかった。それでも、音楽に関心のある友人たちとともに楽しく学び続けた。高校卒業後は音楽専門学校に4年間通い、大学には進学せず、2006年に来日した。日本語学校で2年間学んだのち、結婚・出産を経て、家庭生活と音楽活動の両立に苦労しながらも、ソロ活動を18年間続けてきた。
3年前には自身の会社を設立し、さらにウクライナや日本で困難に直面する人々を支援するため、一般社団法人を立ち上げた。遠い国で、異なる文化のなかで母親として生きるのは容易ではない。ただ、自分が幸せだと感じることを行えば、それが他の人の光にもなる。周囲の意見に流されるのではなく、諦めたくない夢があるなら、自分の力と想いを信じて努力すべきだ。かつて音楽活動を続けることに反対されたこともあったが、自分を信じたことで今の自分がある。
昨年は1年間で300公演を超え、日本全国を巡演した。多忙を極め、ほとんど眠れない日もあるが、好きなことに全力で取り組めることが幸せである。日本は「第二の故郷」であり、今後も日本を拠点に音楽活動を続けていきたい。
(3)ワークショップ・フロアディスカッション
(a) 質疑応答

①参加者:20年近く夢のために続けているが、音楽活動を続けるための原動力は何か。
⇒どんなに深いトンネルでも必ず光は見えてくる。今は大変でも、もう少しがんばればもっと楽に楽しくなれる。高校1年生の息子に、自分がもう無理だという姿勢は見せたくない。息子にも夢を諦めてほしくないから、自分も頑張りたい。また音楽は趣味でもあり仕事でもあり、酸素だと思う。良いことを考えながら、難しいことも乗り越えて活動できている。(カテリーナ)
②参加者:農業をしているが、自身の農園の横道を国際通りと呼んでいる。近くの工場に通う人々が皆アジア系の外国人だからだ。時々挨拶を交わすだけの交流だがせっかくだからもっと交流したい。海外から来た人に対してどう接したら良いか。
⇒小さな場所を借りて、自分の国の料理を持ち寄って食べるのはどうか。交流したくても会話ができない人もいるので、少しでも会話できるように、お互いに挨拶からはじめて日本語を教えるのは一案かもしれない。なお、ウクライナの場合は戦争が続いていて、辛い思いをしている人たちも多く、場合によっては放っておいて欲しいという人もいる。戦争のことを話すのではなく、お互いの国の良いところの話から関係を作っていくのがどうか。(カテリーナ)
③参加者:年間300公演しているなかで、印象的な公演などがあれば教えてほしい。また栃木公演の可能性はあるか。
⇒基本的には毎回違う場所で違うお客さんに公演を行う。公演が多いので全て覚えていないが、地方公演のなかで北海道はウクライナと似ていた。また島根県に行った際、小中高で合わせて7人くらいの学校で公演を行った。田舎に残っている人や学校に通う子供は少なくなっているが、それでも学校での公演は印象深く残っている。近いうちに栃木でも公演を行う予定だ。
(b) コメント
①清水奈名子(宇都宮大学国際学部教授)
戦争ではなぜ一般市民が被害に遭うのか、保護が優先されないのかという研究をしてきた。特に戦争の後に起きる差別の問題に関心がある。日本の政治においても、外国人に対する差別が問題となっている。なぜ差別や戦争がなくならないのか。ジェンダーの視点から問いを投げかけたい。ジェンダーや女性の権利の話は、個人の話であり国際政治と関係ないように思う人はいるかもしれないが、この2つはどのように繋がっているのか考えて欲しい。自分が尊重されていないと思う社会では排除や差別が増え、戦争やジェノサイドにつながってしまう。国際政治の研究者はエリート男性の政治ばかりを見てきたために、女性や子供の声を聞くことができずにいた。今回このように1人の女性のチェルノブイリの経験を聞くことで、遠回りであっても理解につながる。ぜひみなさんには、『戦争は女の顔をしていない』(スヴェトラーナ・アレクシェーヴィチ著)を読んでもらいたい。
②松村史紀(宇都宮大学国際学部准教授)
普段、政治学や軍事的な問題についての研究が多く、ウクライナの方がくるということで戦争やチェルノブイリの話をイメージした。ただ今回は、もっと個人的なこれまでの活動についての話がメインであり、愛着があるもの(音楽)を続けてきたのだなと感じた。人の役にたつ学問をすることも大事だが、自分が愛着のある研究をすることも重要である。
(c) バンドゥーラ演奏

会合の最後には、ウクライナの伝統楽器バンドゥーラ奏者であり歌手でもあるカテリーナ氏によるコンサートが行われた。彼女の奏でる澄んだ音色と柔らかな歌声は、宇都宮の雄大な自然と、知の営みが息づく厳かな学問の場に静かに響き渡り、聴衆の心を深く魅了した。演奏曲は、自国への想いを込めたオリジナル曲「ウクライナ」、ジョン・レノンの名曲「イマジン」、そして日本人にとって馴染み深い「翼をください」の三曲で構成された。いずれの楽曲にも、戦禍に苦しむウクライナの人々への祈りと、ジェンダー平等・平和への希求が込められていた。演奏を終えると、会場は温かくも力強い拍手に包まれ、満席の聴衆からは長いスタンディングオベーションが送られた。こうして、心に深い余韻を残しながら、本イベントは静かに幕を閉じた。
(4)閉会挨拶
髙橋若菜(宇都宮大学多文化公共圏センター長/日本国際フォーラム上席研究員)
カテリーナさんの公演を聴き、平和とはただ戦争の反対語ではなく人を思いやることだと感じさせられた。安全保障とは軍事や政治だけの問題ではなく、暮らしや文化、そして心の中にある平和の力としてとらえなおす必要があるとイベントを通じて考えさせられた。平和というテーマはとても大きく、是非今回のイベントを通じて、各自自分に何ができるのか、何をすべきか、考えていただき、次なる平和に向けた一歩を踏み出さなければならない。
(文責、在研究本部)
このたび、日本国際フォーラムおよびグローバル・フォーラムは宇都宮大学国際学部附属多文化公共圏センター(UU3Sプロジェクト)、同大学国際学部ジェンダー論公開授業との共催、「日本の強みを生かした『女性・平和・安全保障 (WPS)』における貢献の在り方研究会」(外務省外交・安全保障調査研究事業)の協力により、掲題のテーマでコロキアムを下記1.~4.の要領にて開催したところ、その概要は下記5.のとおりであった。
なお、当日はウクライナ出身のバンドゥーラ奏者カテリーナ氏を迎え、音楽を通して平和とジェンダーの関係を考える貴重な場となった。