公益財団法人日本国際フォーラム

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国際シンポジウム“U.S.–Japan Relations: A Model for the World?”

1.日 時:2025年3月5日 (水) 16:30-18:00

2.会 場:ウェズリアン大学パブリック・アフェアーズ・センター100号室
      (ZOOMウェビナーとのハイブリッド開催)

3.参加者:56名

4.登壇者:(報告順)
   【日本側】三牧 聖子    同志社大学准教授
        小尾 美千代   南山大学教授
        鈴木 一敏    上智大学教授
        手塚 沙織    南山大学准教授
        前嶋 和弘    上智大学教授
        
   【米国側】メアリー・ハダッド   ウェズリアン大学教授(司会)
        ザック・クーパー    アメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)シニアフェロー
        ポール・スラシック   ヤングスタウン州立大学教授/ハドソン研究所 非常勤フェロー
        ニコラス・セーチェニ  戦略国際問題研究所(CSIS)日本部上席研究員/
                    地政学・外交政策副部長
        チャールズ・マクリーン イェール大学助教

5.議論の概要

パネリストからの報告

(1) ザック・クーパー シニアフェロー

現在、日米関係は大きな転換期にあると考えられる。トランプ政権は、過去80年間で最も大きな外交政策の変化をもたらそうとしており、これは第二次世界大戦後の米国外交の基本戦略であった「戦略的抑制(Strategic Restraint)」の見直しに等しい。この戦略は、米国が短期的な利益をあえて放棄し、長期的な利益を得るために、一定のコストを支払ってルールに基づく国際秩序を構築してきたというものである。これにより、米国は長年にわたって大きな恩恵を受けてきた。

しかし、トランプ政権はこのような秩序構築の姿勢には関心を示さず、短期的な経済的利益を重視する姿勢を明確にしている。これは、従来の米国外交とは大きく異なり、秩序構築を軸としたこれまでの日米協力の枠組みに課題を突きつけている。例えば、自由で開かれたインド太平洋構想はもともと日本が提唱し、米国が採用したものであり、これは明確に秩序構築型の戦略である。こうした背景を踏まえると、現在、日米両国の関係者の多くが「今後、米国がどのような方向に進むのか」「日本はどう対応すべきか」という問いに直面している状況である。

特に日本にとっての課題は、バイデン政権下ではG7やQUADなどを通じて、日米が共に秩序構築にリーダーシップを発揮してきたが、トランプ氏はこうした枠組みには関心を示していない点にある。トランプ氏が重視するのは短期的な経済取引であり、日本はその関心を満たすような「短期的な取引材料」を提示しつつも、同時に「日米関係が長期的に安定し、両国の利益を守る体制にある」ことを示す必要がある。この両立が、今後の日本外交における大きな課題となると考えられる。

(2) ポール・スラシック教授

日米関係の将来については悲観的な見方が広がりがちであるが、楽観的に捉える余地も存在する。例えば、トランプ政権1期目においては日米貿易協定の第1フェーズ(Phase One)が締結されており、一定の前進が見られた。仮にトランプ氏が再び政権を握ることになれば、この協定の第2フェーズへの進展も議論の対象となる可能性がある。

こうした政策的進展に加えて、米国における世論と有権者の意識も重要な要素である。日米関係については政府・エリートレベルの議論に注目が集まりがちだが、米国の有権者や一般国民の理解や関心も同様に大きな影響を及ぼす。米国の教育制度は国際問題に対する教育が不十分であり、多くの学生が地理を学ばない現状がある。そのため、アジア諸国の関係や歴史を理解する学生は少数派であり、多くの米国民はそもそも日本人と接点を持ったことすらない可能性がある。こうした状況を踏まえ、今後は学生交流を含む人と人との直接的な交流をより重視すべきである。対話を通じて相互理解を深めることが、誤解を減らし、健全な日米関係の基盤となる。

また、日米間には政府制度に関する誤解も多い。たとえば、本日発表された米連邦最高裁の判断は、トランプ政権のUSAID資金に関する計画に対し一定の歯止めをかけたものであった。米国では最高裁がしばしば政治的とみなされがちだが、依然として法的制度であり、先例や法理が重視されている点は見過ごされがちである。さらに、日本側でもウクライナ政策と対中・対台湾政策の違いが適切に理解されていない場合があり、こうした誤解が日米関係を不必要に悪化させる原因となっている。ゆえに、日米双方における教育の強化とコミュニケーションの深化が、今後の関係安定化のために不可欠である。

(3) ニコラス・セーチェニ副部長

今後の日米関係について、3つの好機と3つの主要な課題があると考えられる。まず、機会については、2月7日に発表されたトランプ大統領と石破首相による共同声明が重要な指針を提供している。この共同声明は、現時点で数少ないトランプ大統領との首脳会談を経てまとめられたものであり、日米協力の継続性を示唆する内容となっている。

一つ目の柱は「平和のための日米協力」であり、これは防衛協力を指す。近年、日米間の防衛協力は加速しており、地域有事を想定して両軍がより緊密に連携できる体制が構築されつつある。共同声明ではこの協力の枠組みと進捗が明記されている。二つ目は「成長と繁栄をもたらす日米協力」で、これは主に経済分野における協力を指す。特に注目されるのは、日本による対米投資の拡大と、米国産エネルギーの輸入増加に対する関心である。三つ目は「インド太平洋地域における日米連携」である。共同声明では、豪州、韓国、フィリピンなどの主要なパートナー国に加え、日米豪印によるQUADといった地域連携の枠組みが言及されており、東京発の「自由で開かれたインド太平洋」構想の継続性が確認された。これら三点は、トランプ政権第2期下においても日米戦略の一定の連続性が保たれていることを示す好材料である。

一方で、重要な課題も存在する。一つ目の課題は、米国における経済戦略の欠如である。日本はアジアにおける経済統合や貿易自由化を戦略の中核としているが、米国は保護主義的な姿勢を強め、多国間貿易協定への参加に消極的である。このギャップは、日米間の摩擦要因となりうる。二つ目の課題は、開発戦略の不一致である。日本はグローバル・サウス諸国への経済支援と安定化を重視しており、これは外交戦略の重要な柱となっている。しかし、米国では開発援助に対する支出削減の動きもあり、両国の戦略に乖離が生じる可能性がある。三つ目の課題は、トランプ政権による外交政策全般に対する懸念である。特に中国、ロシア、北朝鮮といった国々との外交において、米国が日本と十分に調整せず、一方的に交渉を進める場合、日本の安全保障環境に深刻な影響を及ぼす恐れがある。日本はこれらの地域的脅威の最前線に位置しており、地理的要因からしても米国との協調が不可欠である。

総じて言えば、日米関係には継続性と前向きな協力の兆しがある一方で、日本側から見ると、トランプ政権の外交政策が自国の安全保障に与える影響について大きな不確実性が残っている。

(4) チャールズ・マクリーン助教

米国と日本が共通して抱える課題として「ジェロントクラシー(老人支配)」に注目している。トランプ氏やバイデン氏、石破首相に限らず、両国ではあらゆるレベルで指導者が有権者よりも高齢である。この傾向はOECD諸国の中でも特に顕著で、両国の下院では40歳未満の議員が5〜7%程度しかいない。一方、北欧諸国では30〜40%に達する国もある。

若者の政治参入を促すには二つの課題に取り組む必要があると考えている。一つ目は立候補にかかる経済的障壁の引き下げである。多額の資金が必要な現状では、出馬できる若者は政治家の家系か富裕層に限られてしまう。二つ目は、政治的野心の醸成である。多くの若者は政治家になりたいと思っておらず、関心も低下している。こうした現状に変化をもたらす一例として、宮城県蔵王町での取り組みがある。町議会の「オープンハウス」に参加した若者のうち3名の女性が翌年立候補し、全員が当選。町で初の女性議員となり、50歳未満の立候補者も増えた。これは、小規模ながら大きな変化をもたらした実践例だと私は捉えている。このような取り組みを広げていけば、若者の政治参加を促し、民主主義の活性化につながる。ひいては、日米関係においても新たな対話や協力の可能性を開く土壌となるはずだ。

(5) 三牧聖子准教授

本報告では、トランプ政権下における日米間の「共有価値」のあり方に焦点を当てる。懸念すべきは、トランプ氏が国際秩序や小国の主権を軽視する発言を繰り返している点であり、日本国内では帝国主義の再来への不安が高まっている。例えば、トランプ氏はパナマ運河の管理権返還を主張し、グリーンランドの領有も求めた。また、演説で「マニフェスト・デスティニー」という19世紀の領土拡張思想を持ち出すなど、覇権的な世界観をにじませている。さらに、国連総会での対ロ非難決議に反対票を投じたことも、米国の国際的立ち位置に対する疑念を生んでいる。こうした中、プーチン大統領はロシア占領下のウクライナで米国との資源開発を提案しており、ヤルタ体制の再現を想起させる。つまり、米・中・露の大国が勢力圏を分け合う大国中心の平和が現実になりつつある。

先月の日米首脳会談では、新たな黄金時代がうたわれたものの、その直後にトランプ氏は鉄鋼・アルミ製品への関税を発表し、日本も例外ではないことが明らかになった。首脳会談が表面的に成功した背景には、石破首相が地位協定などの敏感な問題に言及しなかったことがある。加えて、今回の共同声明からは「法の支配」や「ルールに基づく国際秩序」といった重要な文言が削除されている。これまで日本は、米国との同盟関係を価値の共有に基づいて維持してきた。しかし今、国際法や秩序に関する認識にズレが生じているのではないかという懸念がある。日本は今後、米国のジュニアパートナーとして振る舞うのか、それとも韓国、豪州、欧州などと連携して国際秩序を守る立場をとるのか、岐路に立たされている。

ただし、これらは二者択一ではなく、並行的に進めることも可能である。加えて、米国内にもトランプ氏とは異なる価値観を持つ有権者は存在しており、国際秩序を重視する声もある。日本はそうした多様な動きに目を向けつつ、主体的な戦略を模索していく必要がある。

(6) 鈴木一敏教授

米国が自由貿易体制から距離を取りつつある点を問題だと感じている。米国は長らくWTOへの関与に消極的であり、TPPからの離脱に加え、IPEFにも関心を失いつつある。IPEFはサプライチェーン管理など、地政学的に重要な分野を扱っており、こうした枠組みへの関与低下は懸念材料である。

さらに米国は近隣諸国との間で新たな関税戦争を開始しており、これにより一部の国が中国の勢力圏に傾く可能性が高まっている。中国は現在、こうした「揺れる国々」への積極的な関与を強め、日本がかつて牽引したCPTPPへの加盟を目指している。TPPは元来、中国への対抗を意図して米国が主導した枠組みであったが、米国が離脱した今、加盟国の間で中国参加への対応に温度差が見られる。現在は日本とオーストラリアが慎重姿勢を取っているが、他の国々が支持すれば、その抵抗にも限界がある。これはRCEP交渉時の構図とも類似している。また、CPTPP創設メンバーのメキシコとカナダも中国の加盟に対して投票権を持ち、米国のアジア太平洋地域での孤立を避ける上で、その対応も注目される。

日米同盟は、依然としてインド太平洋の安定における中核的役割を果たしている。ただし、現代の安全保障は軍事力だけでなく、経済、技術、戦略的関与が複雑に絡み合っている。例えば、経済分野では親密な同盟国であっても、買い手と売り手、または競合関係の中で利害が衝突するのは避けがたい。ゆえに、貿易摩擦そのものは避けがたいかもしれないが、少なくとも表面上の政策レベルでは協調的な姿勢を重視すべきである。それが、日米同盟および民主主義国間の連携の信頼性を維持・強化する鍵となる。

(7) 手塚沙織准教授

米国は「移民の国」としての歴史を持ち、日本はかつて移民の送り出し国であり、現在は外国人労働者の受け入れ国へと移行している。一見すると両国に共通点は少ないが、構造的に共通する要素は多いと考えている。

第一に、移民政策は国際関係の影響を強く受ける。例えば、米中関係の悪化により、アメリカでは中国人向けビザ発給数が大幅に減少した。外交関係の変化は制度運用にも直結する。第二に、移民政策は経済と密接に関係している。米国では不法移民が労働人口の約4%を占め、経済の一部が彼らに依存している。日本でも慢性的な人手不足に対応する形で外国人労働者の受け入れが進んでおり、制度の経路依存性が将来の不法移民問題を引き起こすリスクを高めている。第三に、移民政策は政治と直結し、選挙や社会的対立の争点となりやすい。「誰を含み、誰を排除するか」という問いが常に含まれるためだ。

このような構造を踏まえ、現在の日米共通課題として2点を指摘したい。一つ目は、移民をめぐるフェイクニュースや誤情報の拡散である。こうした情報は恐怖や排外感情を煽り、選挙結果に影響を及ぼす。例えば、昨年の兵庫県知事選では、「ある候補者が外国人参政権に賛成している」とする誤情報がSNSで広まり、事実に反する発言が政治家によって拡散された。二つ目は、移民政策をめぐる不信と対話の断絶である。SNSの普及により移民政策が様々な視点で語られるようになったが、多くは「非難」の形であり、建設的な対話が難しくなっている。非難が目的化することで、信条が異なる者の間で対話が成立しない空気が生まれている。

こうした状況を前に、私は移民政策の議論には事実に基づく情報環境と、異なる立場の人々が安心して対話できる空間づくりが不可欠だと考えている。制度や国際情勢だけでなく、情報環境そのものとどう向き合うかが、今後の重要な課題である。

(8) 小尾美千代教授

気候変動対策について日米両政府による脱炭素化の取り組みは必ずしも十分ではない。トランプ政権はパリ協定から離脱し、大統領令による「国家エネルギー緊急事態」宣言により化石燃料を推進している一方で、太陽光・風力発電をエネルギー資源から除外し、制度的にも再生可能エネルギーを抑圧する傾向が見られる。さらに、連邦政府サイトにおける気候関連情報の削除やNOAAの解体も懸念されている。日本政府はパリ協定に残留しているが、2024年の「エネルギー基本計画」では2040年時点で再エネ比率が40〜50%、化石燃料が30〜40%とされており、1.5度目標には不十分な水準だと考える。

こうしたガバナンスの限界に対し、私は日米における非国家アクターによる脱炭素の動きに注目している。米国では「U.S. Climate Alliance」「America Is All In」「Climate Mayors」など、州政府や地方自治体が主導する取り組みが進んでいる。2024年に導入された電力の95%がクリーンエネルギーであり、その多くが共和党地盤の州に集中している点は注目に値する。また、IRAの産業支援の約8割が共和党の選挙区に配分される予定であり、気候政策が党派的な枠を超える可能性がうかがえる。ハーバード大学の研究によれば、エネルギー・農業・輸送など主要産業の約45%が脱炭素関連技術を最優先事項と見なしている。こうした状況をふまえ、日米の気候協力において、州政府・都市・産業界・研究機関など非国家アクターとの連携が鍵になると考えている。再生可能エネルギー導入のベストプラクティスや基準、気象データの共有など、国境を越えた知識ネットワークの構築が重要な役割を果たしうる。 政府間の枠組みに加え、こうした地域・民間レベルでの協力が、より実効性のある日米脱炭素連携の柱となると私は考える。

(9) 前嶋和弘教授

以下の三点について指摘したい。第一に、現在の米国で起きている一連の変化は、日本の立場からすると非常に理解しがたいものである。中東やウクライナに対する対外姿勢の揺れなど、安全保障分野における変化に加え、関税の連続的導入、公務員の大量解雇、USAIDの解体といった非軍事分野における変化も顕著である。これらの動きは、まるで1960年代の中国における文化大革命期の「粛清」にも似た印象を受ける。日本にとって、こうした急激な政策転換は極めて重大な意味を持つ。第二に、昨日行われたトランプ氏の議会演説が示した通り、これらの変化はまだ始まったばかりであり、今後さらなる動きが予想される。日本としては「次に何が起きるのか」「その影響がどのように及ぶのか」が極めて不透明であり、神経をとがらせているのが現状である。第三に、トランプ氏の復活は数多くのリスクを伴うが、それと同時に日本にとって国際社会におけるリーダーシップを発揮する好機でもあると私は考えている。米国が国際秩序から距離を取ろうとする中で、日本の役割はこれまで以上に重要となる。

例えば、TPPをめぐる米国の離脱に際しても、日本は米国の将来的な復帰を視野に入れた柔軟な対応をとってきた。日米の二国間貿易交渉においても第二フェーズに向けた準備が進められており、これはTPP復帰の足がかりにもなり得る。また、トランプ政権が気候変動対策から後退するなかで、日本は他国と連携して環境政策の国際的枠組みを守り、米国を再びその軌道に戻すよう働きかける責任を担っている。さらに、トランプ氏が「既存のグローバル・ガバナンスの制度はすでに時代遅れである」と指摘したことを踏まえるならば、日本は国際秩序の改革においても主体的に動くべきである。たとえば、中国が自由貿易の原則を遵守せず、WTOを悪用している現状に対しては、米国や欧州諸国と連携し、新たなルールの枠組みづくりに取り組む必要がある。

結論として訴えたいのは、「トランプリスク」を単なるリスクとみなすのではなく、それを「オポチュニティ」に転換するという発想である。日本は今こそ、積極的かつ柔軟な戦略をもって国際社会における役割を拡大すべき時である。

(11) メアリー・ハダッド教授

環境は日米協力において長い歴史を持つテーマであり、たとえばペリー提督が日本を訪れた際の贈り物や、1854年の日米和親条約における動植物の交換など、自然を通じた交流は古くから存在している。

現代においても、気候変動やエネルギー分野での日米協力は活発であり、トランプ政権下でもこれらは継続されると考えている。ただし、名称の変更(例:クリーンエネルギー→エネルギーパートナーシップ)によるリブランディングが行われるだろう。協力は国家間のみならず、企業、地方自治体、NGO、市民レベルでも展開されており、その多くが「Win-Win」の構造を前提としている。例えば、トヨタは2050年のカーボンニュートラルを超え、「ネット・ポジティブ」を目指す取り組みを進めている。ウォルマートも全サプライチェーンでの排出削減を目指す「ギガトン・プロジェクト」を展開しており、これらの取り組みは単なる環境政策にとどまらず、良質な投資先として評価されている。今やグリーンファイナンスは「ESG投資」ではなく「良いビジネス」として受け止められつつある。地方レベルでも、横浜港とロサンゼルス港の協力のように、実際のコスト削減や労働環境の改善に結びつく取り組みが進んでいる。日米協会による地域活動や日本庭園を通じた交流も、草の根レベルでの日米関係を支えている。

こうした協力は今後も継続し、政治的分断を回避しながら現実的な成果を上げていくと考えている。環境分野は、日米関係の安定的かつ非対立的な基盤として、今後ますます重要性を増すだろう。

質疑応答

Ⅰ 日本に外国人労働者を惹きつけるには、どのような政策が有効か。

⇒①日本はエンジニアや科学者のような高度人材にとって、比較的永住ビザが取りやすく魅力がある。ただし、労働力不足を補うために外国人労働者を受け入れてきたが、政策の運用には課題も多い。アメリカのH-1Bビザは取得が難しく、日本の方が制度としては柔軟だが、現場ではまだ改善の余地がある。(手塚准教授)
②以前、日本は物価が高く、外国人にとってハードルが高かったが、最近は円安の影響で特にアメリカ人にとって身近な存在になった。費用負担が下がったことで、観光だけでなく移住先としての魅力も高まっている。(ハダッド教授)

Ⅱ 米国と日本における不法移民の共通点や、日本の外国人労働者に対する現状の意識をどうみているか。

⇒①日本にも移民を受け入れてきた歴史はあるが、近年は排外的な空気が強まっている。特に、トランプ支持層のように外国人への不満を持つ人々が増えている印象がある。日本人は文化や言語に適応しない外国人を嫌う傾向があり、共生には一定の同化が求められると感じる。(手塚准教授)
②大きく変わりつつあるが、日本社会には移民への複雑な感情があるのも現実だ。東京のような大都市は比較的開かれているが、地方では受け入れに慎重な傾向も根強い。(前嶋教授)
③地域によって受け入れの度合いは異なる。特に東京や大阪などの都市部では外国人に対して寛容な姿勢が見られる。(手塚准教授)

Ⅲ 近年のアメリカの対日外交アプローチと、それが日本の対外関係にどのように影響しているか。

⇒①日中関係をどう扱うかは、日米関係において非常に重要なテーマだと考える。日本は長年、中国と経済的に深く結びつきながらも、安全保障面では強い警戒心を抱いてきた。そのため、日本は防衛力を強化しつつ、米国や他のパートナーと連携して、中国の軍事的拡張を抑止しようとしている。この「経済的安定関係の維持」と「軍事的抑止」の両立は非常に難しく、米国にとっても同様に難題である。バイデン政権は、防衛協力の強化には成功したが、対中発言が強硬すぎて、日本などの同盟国が中国から圧力を受ける場面があった。米国は地理的に離れているため、その反応の重さを実感しづらいが、バイデン政権の後半にはようやくそれを理解し始めた。今、日本が注目しているのは、トランプ政権が再び中国に対してどの方向に進むのかという点である。経済的競争に絞るのか、それとも首脳会談を通じて「平和的合意」を狙うのか。どちらのシナリオも日本の戦略にとっては扱いが難しい。こうした複雑な環境の中で、日本の外交官は、ワシントンで繊細さや丁寧な対応の重要性を根気強く訴えてきた。我々アメリカ人は往々にしてストレートな物言いを好むが、日本のようなニュアンスの外交が今後さらに重要になると私は思う。(セーチェニ副部長)
②付け加えたいのは、日本がこの5〜6年で、地域におけるネットワーク構築を非常にうまく進めてきたという点だ。フィリピン、オーストラリア、インド、韓国、さらにはヨーロッパとの関係強化は目を見張るものがある。東京の官僚は「米国の信頼性への不安から」とは言わないだろうが、私はまさにそれが背景にあると見ている。もし米国が信頼できない場合、日本は自国の防衛力を高めるか、中国や北朝鮮と直接関与するか、あるいは他の国々とミニラテラルな枠組みを強化するしかない。日本がG7やQUAD、さらには多国間・二国間・三国間の協力を主導してきたのは、アジアの「関係の網目」を強化するためだ。従来の「ハブアンドスポーク」モデルでは、米国がハブだったが、そのハブが抜けるとシステム全体が崩れる。一方、日本が築いてきた「ラティス型」のネットワークなら、1本が崩れても他が支える。私はこの戦略が非常に賢明だと感じている。(クーパーシニアフェロー)

Ⅳ トランプ政権の下で沖縄の位置づけや日米関係における役割は今後変化すると思うか。

⇒①トランプ政権の「アメリカ・ファースト」政策は、沖縄の人々にとってある意味では歓迎される側面があった。というのも、「米軍が本国に戻るかもしれない」という期待を持つ人が一定数いたからだ。しかし、現実には安全保障の観点から、日本政府は在日米軍を国外に出すことを望んでいない。中国や北朝鮮、ロシアへの懸念が根強いためだ。沖縄は長らく複雑な立場に置かれてきた。沖縄の人々の考え方は本土とは大きく異なる部分もあり、日本政府はこの温度差を調整しながら対応していかねばならないと感じている。(前嶋教授)
②私にとって沖縄の問題は、アメリカが日本国内の重要な課題に対して無自覚である典型例だと考える。2009年から2010年にフルブライト奨学生として東京に滞在していたとき、鳩山政権が誕生し、沖縄の基地問題が政権の主要課題となっていた。当時、東京では毎週のように沖縄に関する公開討論会が開かれていて、私もよく参加した。日本では大きな関心があった一方で、アメリカではこの問題がまったく報道されていなかった。米国の国民は沖縄の状況をほとんど知らず、それゆえ政治家の反応も冷淡だった。実際、オバマ政権下のゲーツ国防長官は「合意は合意だ」として、日本側の見直し要請に取り合わなかった。沖縄問題は、日米間の認識ギャップを如実に示していると考える。(スラシック教授)

Ⅴ トランプ政権下で、日米の教育交流や市民外交、大学間連携、JET・フルブライトなどの制度はどう影響を受けるか。

⇒①正直に言えば、私は今の状況に不安を感じている。トランプ政権の方針により、米国が外国人学生の受け入れに消極的になり、日本の学生も米国への留学意欲がやや低下している。米国は自らのソフトパワーを失いつつあり、それが日米の大学間の関係にも影響を及ぼしている。(前嶋教授)
②最近の日本の若者は内向きで、現状に満足している傾向がある。また、政府の奨学金や留学支援も十分とは言えない。私の大学では留学希望者が多いが、全国的には交換協定すら整っていない大学も多く、制度的支援の拡充が必要だ。(鈴木教授)
③留学が減っている理由は3つある。第一に、円安と米国の高額な学費が留学を困難にしている。第二に、トランプ政権下でビザの却下率が上がり、渡航が難しくなった。第三に、アジア系への差別も含め、米国のソフトパワーの魅力が低下しており、学生にとって行きたい場所ではなくなってきている。(手塚准教授)

Ⅵ 若年層人口が増加した場合、国際レベルおよび地域外交における日米協力はどのように変化すると考えるか。

⇒出生率が急に回復するとは思っていない。実際、少子化を完全に逆転させた国はまだ存在しない。ただ、重要なのは人口構成の変化以上に、若者が政治に参加すること自体が、若年層・高齢層問わず広く支持されている点だ。若者が政治に関与すると、高齢者も政府への信頼が高まると感じる傾向がある。若い政治家は汚職と無縁というイメージもあり、政治全体への評価にも良い影響を与える。したがって、人口構成の変化がなくても、若者の政治参加が日米協力の質を高める可能性は十分にあると考えている。(マクリーン助教)

(文責、在研究本部)