公益財団法人日本国際フォーラム

気候変動問題に対しては、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)のもとで産業革命以降の世界平均気温上昇を1.5℃以下に抑えることが目標とされているが、2024年は2023年に続いて「史上最も暑い年」となり、単年では初めて世界平均気温上昇が1.5℃を超えて1.55℃となった。国連のグテーレス事務局長は、世界は「気候危機 (climate crisis)」に直面しているとして、各国に「野心的 (ambitious)」な取り組みを求めている[1]

日本とアメリカは1975年に日米環境保護協力協定を締結し、環境問題について協力してきた。気候変動に関しては2021年に日米気候パートナーシップを締結して、クリーンエネルギー開発や気候変動対策について協力してきた。しかしながら日本もアメリカも、温室効果ガス(GHG)排出状況は1.5℃目標に必要とされる2050年までの実質ゼロに向けた軌道にはない。シンクタンクのジャーマンウォッチ(Germanwatch)による63か国(+EU)を対象とする温暖化対策評価(Climate Change Performance Index)でアメリカは57位、日本は58位となっている [2]。また、民間研究機関連合のクライメート・アクション・トラッカー(Climate Action Tracker: CAT)は日本とアメリカの全体的な取り組みをそれぞれ「不十分」と評価している[3]

アメリカはこれまで、UNFCCC第3回締約国会議(COP3)で採択された京都議定書や、COP21で採択されたパリ協定といった国際的な気候変動対策に対しては、共和党政権期に離脱し、民主党政権期に推進するという対照的な政策を繰り返してきた。ただし、近年は気候変動をめぐる党派対立が先鋭化して「文化戦争」の様相を呈している。トランプ大統領は2025年1月の就任直後、パリ協定からの離脱に加えて、「国家エネルギー危機」を宣言して石油や石炭など化石燃料開発を推進している一方で、「エネルギー」から太陽光(solar)と風力(wind)を除外したため、実質的に再生可能エネルギーも含めた「あらゆる手段(all of the above)」を講じてきたこれまでのエネルギー戦略は大きく転換した。加えて、政府効率化省(DOGE)を中心とした連邦政府の縮小は環境保護庁(EPA)やアメリカ海洋大気庁(NOAA)などにも及んでおり、補助金の停止のみならず環境基準の緩和・撤廃や科学的データの消失などが懸念されている。

日本はパリ協定に参加している194か国(+EU)の一つであり、脱炭素化による経済成長を目指すグリーントランスフォーメーション(GX)を打ち出し、2023年にはGX推進法が成立している[4]。しかし、パリ協定に基づく2035年までの自主的なGHG排出削減目標(NDC)について、国連のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が「2019年比で2035年60%削減」を提示していたにもかかわらず、日本のNDC案は「2013年比で60%」と、「2019年比」では49%にとどまった。なお、上述のCATは、先進国である日本は2013年比であれば81%にすべきとしている[5]

このように政策を含めた脱炭素化に対する評価は高くないものの、日米ともに再生可能エネルギーの導入は増加傾向にはある。特にアメリカでは、2024年の新規導入電力の95%がクリーンエネルギー(蓄電池、原子力含む)であり、太陽光が62%、風力10%と全体の70%以上を占めた[6]。このうち太陽光発電に関してはテキサス、フロリダ、アーカンソーなど共和党の強い州での導入量が上位を占めるようになった点が注目される。また、史上最大規模の気候変動政策であるインフレ抑制法(Inflation Reduction Act)による投資額の80%以上が共和党の選挙区(連邦議会下院)を対象としている[7]。再生可能エネルギーをめぐる文化戦争の一方で、その導入や投資については必ずしも党派とは関係なく展開されており、こうした情勢による影響が注目される。

アメリカ国内では第1次トランプ政権によるパリ協定からの脱退をきっかけとして、パリ協定に沿った脱炭素化推進を目的とする枠組が形成された。元ニューヨーク市長のブルームバーグとカリフォルニア州知事のブラウンによって設立された“America’s Pledge”は、連邦政府に代替する形でメンバーによる気候変動対策をUNFCCC事務局に報告した。また、ブルームバーグはアメリカ政府の義務的拠出金を肩代わりし、2018年にブルームバーグ・フィランソロピーから4500万ドルを寄付しており、2025年の離脱に対しても同様に対応する意向を示している。また、パリ協定に沿った活動を進める“We Are Still In”という宣言にも“America’s Pledge”と同様に、州や都市の首長の他、企業、投資家、教育研究機関などが署名しており、現在では両者は“America Is All In”として統合されている。また、州知事による脱炭素化を推進する超党派のアメリカ気候同盟(U.S. Climate Alliance)には23州とグアム、プエルトリコの知事が参加している。

アメリカの上場企業を対象としたハーバード大学による最近の調査では、エネルギー、農業、運輸など主要産業の45%が気候変動技術を重視していることが明らかとなった[8]。世界のほとんどの国がパリ協定に参加していることから国際金融市場でも脱炭素化への関心は高まっており、持続可能な投資(sustainable finance)や環境、社会問題、ガバナンスを重視したESG投資などが注目されている。しかし、ESG投資は過激な“woke capitalism”(目覚めた資本主義)であるとして、保守系シンクタンクが支援する形で多くの州議会で反ESG投資法案が提出され、文化戦争の対象となっている。その一方で、企業による気候変動への取り組みに関しては、「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」という国際的な枠組が形成され、現在は国際会計基準(IFRS)に引き継がれているが、多国籍企業を中心に日米の多くの企業が参加している。すべての事業を再生可能エネルギーのみで行うRE100というイニシアチブにも同様に、日米の多くの企業が参加している。このように、特にアメリカでは政府の役割を代替するようなイニシアチブが出現するなど、多様なアクターによって脱炭素社会が構築されている。こうした点に加えて、日米ともに太陽光や風力などの再生可能エネルギー産業が次第に拡大してきている状況もふまえると、1.5℃目標に向けた日米協力としては、実際に脱炭素化を実践している様々な非国家アクターを中心とする多元的なレベルでの協力が期待される。

[1] United Nations, “Secretary-General Declares ‘We Must Move Much Faster’, Urging Leaders’ Meeting at Baku Climate Conference to Keep Pushing for High Ambition Outcome,” 13 November 2024 (https://press.un.org/en/2024/sgsm22455.doc.htm).
[2] “CCPI 2025: Ranking and Results,” (https://ccpi.org/).
[3] Climate Action Tracker, “Japan” (https://climateactiontracker.org/countries/japan/); “USA” (https://climateactiontracker.org/countries/usa/).
[4] InfluenceMap, “Japan’s $1 Tn GX (Green Transformation) Policy,” November 2023 (https://influencemap.org/briefing/Japan-GX-Policy).
[5] The Climate Action Tracker, “1.5-aligned 2035 targets for major emitters and Troika countries,” November 2024 (https://climateactiontracker.org/documents/1280/CAT_2024-11-14_Briefing_NDCsNeededFor2035.pdf).
[6] Cleanview, “The State of Clean Energy Deployment in 2025,” February 2025 (https://storage.googleapis.com/2025_report/cleanview_january_2025_report_free_version.pdf).
[7] E2, “Clean Economy Works” (https://e2.org/announcements/).
[8] Business Wire, “Harvard Study Shatters Perceptions: 45% of U.S. Companies in Major Industries are Prioritizing Green Technologies”, 18 December 2024 (https://www.businesswire.com/news/home/20241218629164/en/Harvard-Study-Shatters-Perceptions-45-of-U.S.-Companies-in-Major-Industries-are-Prioritizing-Green-Technologies).