メモ

- 日 時:2024年12月26日(木)午後1時-午後2時45分
- 形 式:ZOOMによるオンライン会合
- 使用言語:日本語
- 出 席 者:
[外部講師] | 黒崎 岳大 | 東海大学准教授 |
[コメンテーター] | サイモン・ピーター・バハウ | 城西国際大学国際教育センター所長 |
[主 査] | 廣瀬 陽子 | 慶應義塾大学教授/JFIR上席研究員 |
[メンバー] | 宇山 智彦※ | 北海道大学教授 |
遠藤 貢 | 東京大学教授 | |
畝川 憲之※ | 近畿大学教授 | |
ダヴィド・ゴギナシュヴィリ | 慶應義塾大学SFC研究所上席所員 | |
高畑 洋平 | JFIR常務理事・上席研究員* | |
三船 恵美 | 駒澤大学教授/JFIR上席研究員 |
(メンバー五十音順、*本事業責任者)
- 議 題:
(1)開会
冒頭、高畑メンバー及び廣瀬主査より開会挨拶と外部講師とコメンテーターの紹介がなされた。
(2)黒崎岳大准教授による報告
「太平洋諸島をめぐる国際秩序の変化と日本の役割」
<太平洋島嶼地域における国際秩序の変遷>
太平洋島嶼地域は、メラネシア、ポリネシア、ミクロネシアの3つの地域から成る。20世紀中葉までは、イギリスやフランスを中心とする欧米列強の植民地であったが、1960年代から1990年代にかけて次々と独立を果たした。それにもかかわらず、イギリス、オーストラリア、フランス、アメリカといった旧宗主国の影響力は依然として強かった。
この状況に対抗するため、1970年代には太平洋諸島フォーラム(PIF)が結成された。しかし、現在でも旧宗主国の影響は根強く残っている。一方で、21世紀に入ると、旧宗主国以外のドナー国や国際機関、NGOがこの地域に関心を示し始め、島嶼国におけるアクターが多様化した。これには、漁業や海底鉱物資源への注目、気候変動に関する議論の増加、さらには米中間の地政学的プレゼンスの競争が背景として挙げられる。
<地域統合をめぐる動き>
太平洋島嶼国は、人口約1,200万人を有するパプアニューギニアのような大国から、人口が1,000人台の小島国家まで、多様な国々で構成されている。これらの国々は、太平洋諸島フォーラム(PIF)を活用し、外交活動を展開している。
独立前、旧宗主国によって設立された南太平洋共同体では、政治的な議論は行われなかった。そのため、例えば核実験が近隣で行われた際も議題に上がることはなく、島嶼地域に住む現地住民からの批判を招いていた。こうした背景から、政治的な課題について議論する場として、1971年に南太平洋フォーラムが結成され、オーストラリアやニュージーランドも加盟した。その後、太平洋諸島の独立が進むにつれ、フォーラムの加盟国は拡大し、1999年に名称が太平洋諸島フォーラム(PIF)に改められた。当初、オーストラリアやニュージーランドの関与は限定的であったが、2001年と2002年のテロ事件を受けて関与が拡大した。2005年には地域統合を目指す「パシフィック・プラン」、2010年にはその指針となる「パシフィック・リージョナリズム」が策定され、PIFを中心に地域枠組みの議論が進められている。
しかし、太平洋諸島内では、地域統合に対する考え方に違いが見られる。メラネシアは、比較的大きな人口や国土を持ち、資源も豊富なため、オーストラリアやニュージーランドの介入を好まず、自主的な地域統合を志向している。一方、ポリネシアは、多くの移民をオーストラリアやニュージーランドに送り出しており、これらの国との地域統合を迅速に進めたいと考えている。また、ミクロネシアは、アジアやアメリカとの関係が強いため、他の2つの地域とは異なる意識を持っている。PIFは、各加盟国の行政組織と対等に機能できるほどの官僚組織を築いており、その影響力を拡大している。このため、域外の国々は、PIFとどのように関わりを持つべきかについて関心を寄せている。
<島嶼国に対する周辺大国の外交的関与>
冷戦以降、国連外交において一国一票制度が重視される中で、島嶼国への関心が高まっている。島嶼国の14カ国は国連に加盟しており、全体の約1割の票を占めている。これらの国々は、気候変動や核軍縮といった問題について積極的に発言している。また、資源確保や海洋への軍事進出を含む海洋問題においても、多くの国が島嶼国の動向に注目している。この地域に関心を持っているアクターは、旧宗主国を中心とした欧米グループ(オーストラリア、ニュージーランド、ヨーロッパ、米国)と、太平洋諸島への関与を深める新興グループ(中国、台湾、ロシア、韓国、インド、キューバ、アラブ諸国)に分かれる。
オーストラリアとニュージーランドは、イギリスから力を引き継ぎ、太平洋地域での影響力を持っていた。最初は、島嶼国を「面倒見る」という立場にあったが、1970年代以降、両国の経済低迷が深刻化する中で、島嶼国の自立を促す動きが強まった。2000年以降、両国は島嶼国の安定に注視するようになり、経済支援の活発化や多国籍軍の派遣(RAMSI)、地域統合の推進などを行い、関与を強めてきた。オーストラリアはモリソン保守連合政権下で気候変動問題に関して島嶼国から批判を受けていたが、近年のアルバニージー労働党政権では、島嶼国との関係を再構築し、協力を強化している。
21世紀に入る前までは、イギリスの影響力は太平洋諸島地域で減少していた。また、フランスの影響力は主にバヌアツとの関係に限定されていた。これにより、EUとPIFを中心とした地域統合機関を通じて、関係が構築されてきた。近年、フランスは太平洋諸島に対する関心を高めている。特にニューカレドニアでは、フランスからの独立をめぐる住民投票が18年、21年、22年に行われ、いずれも独立反対が多数を占めた。一方、フランス本国の憲法改正に対する反発により、独立賛成派による暴動が発生するなど、独立問題は依然として争点となっている。そのため、フランスは今後のニューカレドニアの動向を注視している。イギリスもEU離脱後、太平洋島嶼国とアメリカ、オーストラリアと協力しながら関与を続けており、地域への影響力を維持している。さらに、ドイツやスペインなども太平洋諸島への関心を高め、地域での影響力を強化している。
冷戦時代、アメリカ合衆国はマーシャル諸島、ミクロネシア連邦、パラオに特に関心を寄せており、南半球の島嶼国についてはオーストラリアが担当するという意識が強かった。しかし、オバマ政権以降、アメリカの太平洋地域への関心は高まり、トランプ政権下では移民排斥への懸念もあったが、実際にはミクロネシアの3国との関係強化が進められた。共和党は主にミクロネシア3国に焦点を当て、民主党は地域全体に対する関心を深める傾向が見られる。バイデン政権でも、太平洋諸島外交の再活性化が進められており、2022年と2023年には米国主催で島嶼国との首脳会議が開催され、8億ドル以上の援助プログラムが資金提供され、また島嶼国には大使館が設置された。
2000年代以降、中国は太平洋島嶼国への援助額を大きく増加させており、特に習近平政権下でその戦略は拡大を続けている。2010年代後半以降、中国は島嶼国への進出を強化し、2019年にはソロモン諸島とキリバスと外交関係を結び、2024年1月にはナウルと国交を樹立した。中国は政治的影響力を強化しており、国交がない国々にも経済的な影響を与えている。例えば、ソロモン諸島は中国と国交を結ぶ前年において最大の貿易相手国となっていた。しかし、支配力の面では未だに限界があり、援助額の増加が思うように進んでいない。例えば、借款中心の支援が現地の批判を招いており、現場レベルでは中国の影響力に対して揺れ動きが見られる。中国と国交を結んでいる14カ国のうち、11カ国が過去に台湾と国交を結んでいたが、そのうち5カ国は再び国交を変えるなど、変動が続いている。
また、太平洋諸国は、PIFの全会一致の原則を活用して、特定の国に肩入れすることを避ける姿勢をとっている。例えば、中国が国交を結んでいる国の大使館を通じて地域全体に協力を求めた場合、その国は台湾と国交を結んでいる国からの反対を受けるため、その協力は進められないと言い訳ができる。さらに、英連邦加盟国、ニュージーランド自由連合国、米国自由連合国も島嶼国地域には存在するため、これらの国の影響も強いと言える。
1970年代から80年代にかけて、ソ連は太平洋諸島への接近を試み、キリバスとバヌアツと協定を結んだ。しかし、翌年にはその協定は失効し、両国との関係は続かなかった。また、ソ連はパプアニューギニアに大使館を開設し、トンガの皇太子がソ連を訪問するなど、外交活動を展開していた。この動きに対して、アメリカやオーストラリアは敏感に反応し、援助額を増加させることで対抗した。ソ連崩壊後、ロシアと太平洋諸島との関係は希薄化したが、21世紀に入ってからは、いくつかの国との接触を再開している。例えば、2009年にはナウルがアブハジアおよび南オセチアの独立を承認し、これに対してロシアは援助の増額を行った。また、2006年のフィジーでのクーデター後、オーストラリアやニュージーランドが経済制裁を行ったことに対抗して、ロシアは太平洋諸国との関係強化を進めた。ウクライナ戦争以降、島嶼国は過度な制裁に消極的な態度を取ることが多く、これは中国の影響が背景にあると考えられている。さらに、2021年から2022年にかけてPIFの中で分裂の危機があったが、ウクライナ戦争の背景には、ウクライナがNATOに加盟していなかったことがあり、島嶼国はPIFから離脱することを避ける決断をしたとも言われている。
その他、インド、韓国、キューバ、アラブ諸国も島嶼国に対する関心を深めている。
<島嶼国側の対応の変化と課題>
太平洋島嶼国は、小島嶼国から海洋大国へと変化し、国際社会にその存在感をアピールしている。特に、気候変動問題や海洋問題については積極的に発言し、国際的な議論に貢献している。一方で、太平洋島嶼国は政治、経済、社会の面で脆弱性を抱えており、各国が国際社会で自立できるかには懸念がある。コロナウイルスの影響や自然災害など、外部要因に未だ翻弄される部分があり、そのため、持続可能な発展を実現するためには国際的な支援や協力が欠かせない。
2024年は太平洋諸島にとっても選挙の年であり、1月にはツバルの総選挙、4月にはソロモン諸島の総選挙、8月、10月にはキリバスの総選挙、大統領選挙、11月にはパラオの大統領選挙が行われた。
<日本と太平洋島嶼国>
太平洋島嶼国が独立する際、旧宗主国からのインフラ資源は限られていたが、日本はその支援に大きく貢献し、島嶼国にとって日本は非常に大きな恩義を感じさせる存在となっている。日本にとっても、太平洋島嶼国は重要な資源供給元であり、シーレーンとしての戦略的な価値を持つ地域である。また、非常任理事国選挙において票を集めるための重要なパートナーでもある。
日本と太平洋島嶼国の関係を保つために重要な役割を果たしているのが、日本政府が単独主催し、全太平洋島嶼国の独立国首脳が参加する唯一の国際会議である「太平洋・島サミット(PALM)」である。1997年以降、3年に一度開催され、2024年7月には第10回が行われた。両側ともに満足のいく内容であったと言われている。しかし、周辺諸国も同様の会議を開催する中で、日本が独自の立ち位置を明確に示すことがますます重要となっている。
(3)サイモン・ピーター・バハウ所長によるリード・コメント
パプアニューギニア出身で、約40年間にわたり、会社や大学で経済学、経営学を専攻してきた。現在、パプアニューギニアには住んでいないが、パプアニューギニアの人々とのやり取りやニュース、資料をもとに、セカンダリーインフォメーションとしてその情報を紹介したいと考えている。パプアニューギニアはフィジーやオーストラリアに比べて発展が遅れているが、リーダーシップを確立できるようになれば良いと考えている。
歴史的には、70年間オーストラリアの統治下にあった関係があり、その間、言いたいことが言えず、開発のアプローチにも違いがあった。
パプアニューギニアは外部の援助なしには成り立たない部分があるが、国内資源をどのように活用し発展させるかが重要だと考えている。
フィジーで暴動が起きた際やバヌアツで発生した地震の際にも、積極的に救援活動を働きかけてきた。
ロシア、中国、アメリカなどの大国の動きについては、パプアニューギニアにとって自国の庭が荒らされているように感じられることがあり、他人事のように受け止められることもある。
しかし、太平洋島嶼国の「友達はすべて、敵はなし(friends to all, enemies to none)」というバランス外交の姿勢には、日本に似た部分があると感じている。
日本も同じ島国として、学ぶべき点が多いと考えており、日本からのインフラや人道的支援から大きな恩恵を受けてきた。今後も日本から多くを学び、協力していきたいと考えている。
私自身は、どの国にも偏らず、バランスの取れた外交を行うことが最も重要だと感じている。今後も日本と協力し、キャパシティビルディングの支援を受けていきたいと思っている。
近年、パプアニューギニアはオーストラリアやアメリカと安全保障協定を結んでおり、中国ともビジネスを積極的に進めている。日本との関係もこれまで通り、協力していきたいと考えている。
2018年、APECは大きな国々で開催されていたが、初めてパプアニューギニアで行われた際、太平洋諸島の仲間を招く等した。中国やアメリカはインフラ整備を行ったが、日本は軍楽支援を通じた交流を行っていた。また、開発援助等においては、JICAを通じてSTEM教育用の教科書が作成されており、2025年は周年を記念することとなり、このような援助には非常に感謝している。
(4)自由討論
Ⅰ ①パプアニューギニアはCOP29が始まる前から、結論の如何に関わらず、最初から参加しないと決めていたがなぜか。②ニューカレドニアの抗議行動に際して、アゼルバイジャンが活発な動きを見せていた。アゼルバイジャンは非同盟運動諸国の運動に積極的に関わっているが、その動きをフランスなどに対する外交カードに利用しているようにも見える。島嶼国はアゼルバイジャンのこのような動きをどう見ているか。(廣瀬主査)
⇒①太平洋島嶼国は気候変動問題に対して声を上げる重要性を共有している。しかし、現在、これらの国々の気候変動に対する認識は変化している。これまでは緩和策に重点が置かれていたが、今では適応策の優先度が高まっている。パプアニューギニアは、アマゾンに匹敵する広大な熱帯雨林を有しており、緩和策の推進を重視している。そのため、COPにおいてグローバルサウスと一体となって発言することができないと感じ、参加しない決定を下したと聞いている。しかし、全体として見ると、太平洋島嶼国は依然として気候変動問題に対して強い意識を持っており、その影響に対して積極的に取り組んでいる。②太平洋の島国は、オーストラリアやニュージーランドと「平等なパートナー」として話すことには賛成しているが、一緒に動くことで自国が取り込まれることを嫌う傾向がある。アゼルバイジャンのプレゼンスが高まることについては好意的に捉える国もあるが、すべての島嶼国が同じ考えを持っているわけではない。特にメラネシアの国々は、自分たちで外交を行いたいと考える国もあり、そのような国々はアゼルバイジャンの動きに積極的に関与する一方で、他の国々は距離を置いて見守っていると考えられる。(黒崎准教授)
Ⅱ 発表の中で、ナウルは頻繁に味方をかえると言っていたが、味方をかえる理由は何か。ナウルから見た国益とは何か。発表の中で、ナウルは頻繁に味方をかえると言っていたが、味方をかえる理由は何か。ナウルから見た国益とは何か。(ゴギナシュヴィリメンバー)
⇒ナウルは1980年代中盤くらいまで、リン鉱石の輸出を行うことで、一人当たりのGDPが世界トップクラスになるほど裕福な国だった。しかし、1980年代後半になるとリン鉱石が枯渇し、経済的に困難な状況が訪れた。ナウルは高い一人当たりのGDPが原因で、他国からの支援を得るのが困難である。さらに、ナウルは地理的に太平洋の中心に位置しており、港の建設などには非常に高いコストがかかり、さらに支援を受けにくいという問題を抱えている。例えば、港の建設には20億円以上の費用が必要となる。ナウルはこれまでもオーストラリアとの関係を重視してきたが、今年中国とも国交を結ぶなど、柔軟に外交戦略を取っている。ナウルにとって最も重要なのは、目の前の経済を立て直し、成り立たせることである。そのため、自国の利益を優先し、時には外交的な立場を変えることがあるのだと言える。(黒崎准教授)
Ⅲ ①パプアニューギニアに対して、今年昨年オーストラリアとアメリカ、中国を意識したメッセージを出している。パプアニューギニアはなぜあえて中国と共同軍事訓練を行うのか。②UAEの島嶼国における動向で、中国と関係があるものはあるか。UAE以外の国で、島嶼国と関係を持っている中東諸国はどこが挙げられるか。(三船メンバー)
⇒①太平洋の島嶼国の中で軍を保有しているのは、パプアニューギニア、フィジー、トンガの3国だけである。パプアニューギニアはインドネシアとの国境を接しており、警察の力が弱いため、治安維持のために軍事力を強化する必要があると考えられている。特にオニール首相の時代には、軍事力の強化に力を入れていた。オニール首相は、経済的な利益を得られるのであれば、どの国とでも協力するというスタンスを取っていた。このような背景があるため、パプアニューギニアは中国との共同軍事訓練を実施したと考えられる。②イスラエルとの関係について言うと、ミクロネシアの3国は独立の際にアメリカと自由連合を結んでいたため、キューバやソ連がこれらの国々の国連加盟に対して反対した。そのとき米国と並んでミクロネシアの国々の国連参加を裏で支援してきたのがイスラエルである。現在でも、アメリカやイスラエル関連の案件では、ミクロネシアの3国は両国と一致した立場を取ることが多い。太平洋島嶼国は全会一致の原則を持っており、パレスチナ問題などで議論が起こると、ミクロネシアの3国は反対することが多い。このような背景を受けて、UAEはこれらの国々を取り込む必要があると考え、積極的に働きかけを行っている。また、中国とUAEの協力関係については具体的な詳細は不明だが、カタールやサウジアラビアもこれらの国々の首脳を頻繁に招いている。(黒崎准教授)
Ⅳ ①島嶼国はどのように地域統合を考えているのか。②周辺諸国も同様の会議を開催する中で、日本の独自の立ち位置を提示することが重要であると言っていたが、どのようにこの独自性を出すことができるか。③中東がアフリカに対して、EVに必要なレアメタルを確保するために中国以上の投資を行っている。これが中東諸国の島嶼国への関与と似ていると感じた。(遠藤メンバー)
⇒①オーストラリア、ニュージーランドとポリネシアの国々は地域統合を進めており、これらの国々は非常に大きな移民ネットワークを持っている。例えば、トンガの6割、サモアの半分はオーストラリアやニュージーランドに住んでいる。地域統合の基盤となるのは、オーストラリアやニュージーランドであると考えられている。対照的に、パプアニューギニア(PNG)やフィジーは東南アジアやアメリカ、中国などの域外国との関係強化を希望しており、ミクロネシア3国を含む北半球の国々も同様の意識を持っている。このように、地域統合に対する意識には国ごとに温度差があると言える。②毎回議論が同じような内容に偏り、また、PALMを今後どう進めていくか、例えばAPECのような形にしていくのかといった点が不明確であるという問題がある。日本としては、これに対して新しい提案を行い、事務局を設立するなどして独自性を示すことができるだろう。③インドも最近この地域に積極的に関与していることが目立つ。これまでは米中対立が対立の軸として明確だったが、現在では中東やインドなど、他のアクターの関与が増え、地域のダイナミクスが多様化していると感じる。(黒崎准教授)
Ⅴ 太平洋島嶼側はPALMをどのように評価しているのか。(畝川メンバー)
⇒①PALMは7本柱で議論を進める中で、最も利益を得ているのはPIFの事務局側である。島国の各政府とPIF事務局との関係は複雑で、特に最近、PALMが6回目、7回目からは14カ国を対象にするのが困難になり、PIFの事務局の窓口を中心に議論を進めることになった。この方式は、各国の情勢を把握し、島嶼国としてまとまった議論を整理できる点でありがたい。しかし、これはPIF事務局が考えていることであり、自国の意見ではないと感じることもあり、その結果、議論にギャップが生じることがある。日本はこれまでの経済協力の成果やPALMを定期的に開催してきた実績を島嶼国側からも評価されているが、各政府の立場からすると近年は欧米諸国などの先進国のような外交姿勢を見せていることに少し懸念を感じている。その結果、PIF事務局との関係が近くなる一方で、島嶼各国の意見が十分に反映されていないとの批判が上がってきている点は注意が必要である。(黒崎准教授)②10年後にPALMがどのように進んでいくかは不確定な部分がある。地政学的な話が先に出てくるが、私は経済の話が先ではないかと感じている。特に、EEZ(排他的経済水域)に関連する問題では、ソロモン諸島をはじめ、パプアニューギニアはマグロの輸出国でもあり、ダウンストリームプロセッシングや農業の振興に向けた感情がある。そのような経済的な議論を進める場として、PALMには重要な役割があると感じている。(バハウ所長)
(文責、在事務局)