メモ

標記公開シンポジウムが、下記1.~4.の日時、場所、参加者にて開催されたところ、その議事概要は下記5.のとおり。
記
- 日 時:2024年11月7日 (木) 18:00-19:30
- 形 式:ZOOMウェビナーによるオンライン配信
- 参加者:100名
- プログラム:
司 会 高畑 洋平 JFIR常務理事・上席研究員基調報告「気候変動を遠因とする紛争」
関山 健 京都大学教授リードコメント
「渇水地域・中東地域研究の視点から」
錦田 愛子 慶応義塾大学教授「気候変動と移住の観点から」
前川 美湖 笹川平和財団主任研究員・東北大学客員教授「紛争回避と適応能力ースウェーデンの事例から」
高橋 若菜 宇都宮大学教授質疑応答(参加者全員)
総 括 関山 健 京都大学教授
- 議論概要:
<基調報告>関山健教授
気候変動、異常気象や紛争、暴動を結ぶメカニズムとして注目されているのが資源不足の影響である。農作物の収穫減や、食料価格の上昇によって暴動に加担して食い繋ごうとする人々が出てくるリスクが高まり、実際に内戦の発生率が高まるという報告もされている。気候変動による物価上昇は「気候インフレ」と呼ばれる。「気候移民」と呼ばれる気候変動により住処を追われた移住者と先住者の競争と対立も危惧されている。また気候変動が招く経済停滞や貧困が温床となる紛争も危惧されている。地政学上の変化が招く紛争も予想される。気候変動が新たな紛争の種になることはないが、既存の脅威の要素のシナジーとなって、結果として紛争や暴動の確率を上げるであろう。
日本経済にとっての気候安全保障リスクとして、近辺のアジア新興国のカントリーリスク増大やサプライチェーンの寸断、再生可能エネルギー国際競争において不利な日本の立地が挙げられる。そのため、気候安全保障リスクを視野に入れた投資戦略が不可欠となっている。
<リードコメント>
錦田愛子教授「渇水地域・中東地域研究の視点から」
パレスチナ問題やアラブの春の背景に水不足が指摘されているが‘気候変動を受けて難民が出たかどうかについては立証されておらず、人の移動には繋がらないのではないかと考えられている。その理由として中東諸国の干ばつや水不足の対応に政府も慣れており、関山教授が示された各国の適応能力の高さに大きく関係していると考えられる。
前川美湖主任研究員「気候変動と移住の観点から」
将来的に世界で2億1,600万人が気候変動により国内移住を強いられる恐れがある。移住後に限られた雇用機会や、リソースを奪い合うような状況がつくりだされてしまったり、インフォーマルかつ劣悪な環境での居住や、移住先で非合法的な生計手段に頼ってしまうという懸念も指摘されている。そのため「尊厳ある移住」を気候変動への「適応策」の一環として検討し、資金援助を含む包括的な支援の検討が重要である。また日本の国際支援の拡充や海外生産拠点や国内の沿岸域における適応策の強化も必要である。
高橋若菜教授「紛争回避と適応能力ースウェーデンの事例から」
移民増加に伴い、犯罪率の増加、また移民受け入れのキャパシティが飽和状態の中、移民の社会統合が重要視されている。気候変動の文脈においては住民参加型の住宅プロジェクトの適用やネイチャーベースソリューションなどを通して、気候変動に対しての適応・緩和を目指している。統合政策により、移民だけが住居の不利性に起因して気候変動の被害を被ることのないようにされている。
<レスポンス>関山健教授
気候の変化と移住の間にタイムタグが非常に長く発生するため、関係性を実証的に立証するのが難しい。しかし過去の事象で立証ができずとも、将来的な気候変動に伴った移民の増加が危惧されている点は留意する必要がある。
ヨーロッパが気候変動に大きな危機感を抱いている一つの理由は気候変動に伴う移民受け入れの圧力に晒されているからだと感じている。カリフォルニアで気候変動に対する意識が高いのも、気候変動による南米からの移民の発生に起因していると考えられる。
<質疑応答>
①トランプ大統領の就任にあたりこれからの動向にどのような変化があると考えられるか。また石破政権はどのように気候変動に対応していくのか。
日本はアメリカやEUの姿勢を鑑みながら自国の気候変動対策を行なっているため、それに消極的なトランプ大統領が就任した今、日本も同じベクトルで進んでいくだろう。今年のCOP29では「発展国への支援」というのが大きなテーマとなるが、アメリカはそれに対しても消極的な姿勢を示すだろう。また来年のCOP30ではCO2排出削減目標が交渉のテーマになるが、アメリカの出席も不透明かつ日本に対する圧力がかからない中、日本も削減目標に向けた野心的な姿勢は取らないだろうと予想される。
気候安全保障政策において、バイデン政権は国防総省全体として気候変動への対応についてのプランをたて、軍内で変革に取り組んできたがトランプ政権に変わり、そのような取り組みもペースダウンするであろう。同盟国として防衛省も似たようなプロジェクトに取り組んでいたが、トランプ政権下においては日本も気候安全保障政策に対して消極的になるだろう。(関山教授)
バイデン政権は非常にイスラエルに親和的な政権であったため、トランプ政権下でもそれを踏襲する可能性が非常に高い。イスラエルをはじめ中東の湾岸諸国に軸足を置いていくことになるだろう。そのため、これらの諸国でどの程度、気候変動や気候変動がもたらす安全保障への影響があるかに関しては関心が少しはあると考えられる。イスラエルも湾岸諸国も脱塩技術や排水の再利用が非常に進んでおり、水問題についてアメリカが関与する余地はなく、他のそのような技術が欠乏している国々での水不足に対してもトランプ政権での関与は考えにくい。日本政府は中東の水資源の確保が難しい国に国際協力を行なってきた。石破政権においても継続して水資源において国際協力を行うのであれば、有効な役割が期待できる。(錦田教授)
国際的な支援は減速するであろうが、アメリカ国内での山火事や水害に伴った避難などを踏まえて、国内での気候変動に対する対応策を取る必要があるだろう。国際的にはボーダーコントロールを強化する方向であるが、だからこそ現地での気候変動適応策を促進するための国際的な技術移転やファイナンスの強化が必要である。(前川主任研究員)
政権が気候変動に背を向いている中で、地方自治体や地域社会で気候変動に対するアクションをとり、粘ることができるかがアメリカ国内では重要になってくるだろう。日本の経済を優先し温暖化対策を蔑ろにするという認識そのもののパラダイムシフトが世界中で起きているため、そこに注目する必要性がある。(高橋教授)
②スウェーデンの紛争回避のアプローチは移民政策では多く成功事例を聞くが今後の課題は?日本が真似できる点はあるか。
治安の悪化は懸念点である。それに対しても社会的統合を行なって行こうという姿勢は地方自治体でガバナンスや包摂、寛容を重要視している。スウェーデンの包摂的、コミュニケーションを重視する政策がイノベーションを生むという考え方は普遍性があると考えている。移民を統合するようなサステイナビリティのプロジェクトなどで社会的統合に対しての前向きな姿勢、結果的に社会全体の底上げにつながっている。(高橋教授)
③スウェーデンのマルメ市の場合、移民の複数の宗教の共存はどのように実現できているのか。
スウェーデン協会の力が強く、慈善活動や社会的統合を進んで行なっている。移民やLGBTQに対しての寛容な姿勢も政策に表れているのではないだろうか。(高橋教授)
④実際の対策として気候変動対策、紛争予防策は別々に取り組むべきではないか。
途上国支援などにおいては気候変動対策と紛争対策のオーバーラップを意識する必要がある。気候変動への脆弱性をさえることが紛争のリスクを下げることに繋がり、逆も然りである。
(関山教授)
イスラエルでは十分な取水量があるにも関わらず、紛争構造に変化がないためにパレスチナ自治区はその恩恵を全く享受できていない状態である。このような状態は今後の紛争再燃の可能性を高める可能性は大きくあるため気候変動対策と紛争対策は連動させていくことが重要である。(錦田教授)
気候変動対策は環境省の所掌であるという認識を超えて取り組むべきであり、安全保障や国防も含まれる。国防分野における緩和策、適応策を進めていく必要もあり、セクターを超えた包括的な取り組みを通して脆弱性を下げていくことが社会的な安定に繋がっていくだろう。(前川主任研究員)
環境を抑圧していた国が崩壊する時の民主化運動は重要なポイントである。ガバナンスや民主化、またそれらの強化は紛争予防に繋がり、結果的に環境と密接に結びつくだろうと歴史は伝えている。(高橋教授)
⑤人口減少は気候変動にどのような影響を与えうるか
全体のCO2排出量が減少するため気候変動にはポジティブな影響がある。(関山教授)
水の使用量に直結しているため、人口減少はネガティブな側面だけではない。しかし、中東では人口が増加しているため気候に起因した問題が増えていくのではないだろうか。(錦田教授)
逆を言えば2080年まで人口は増加する一途だが、そこまで気候変動は耐久できるのかという疑問が残る。(高橋教授)
(文責、在当フォーラム)