公益財団法人日本国際フォーラム

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第3回定例研究会合
  1. 日 時:2023年11月3日(金)午前9時-午前10時半
  2. 形 式:ZOOMによるオンライン会合
  3. 出席者:33名
[主  査] 廣瀬 陽子 慶應義塾大学教授/JFIR上席研究員(担当、コーカサス)
[メンバー] 宇山 智彦 北海道大学教授※(担当、中央アジア諸国)
遠藤  貢 東京大学教授(担当、アフリカ地域)
畝川 憲之 近畿大学教授(担当、東南アジア・オセアニア地域の政治(経済))
ダヴィド・ゴギナシュヴィリ 慶應義塾大学SFC研究所上席所員※(担当、ジョージア及び黒海地域)
高畑 洋平 JFIR常務理事・上席研究員*(担当、日本外交)
三船 恵美 駒澤大学教授/JFIR上席研究員(担当、中国)
[JFIR] 渡辺  繭 理事長
伊藤和歌子 常務理事・研究主幹 他24名
  1. 議論の概要

(1)開会挨拶

冒頭、高畑常務理事と廣瀬主査より開会挨拶がなされた。まず、高畑常務理事からは、太平洋島嶼国に対して国際社会の注目が集まるきっかけとなったのは、気候変動に伴う環境変化と中国の影響力の拡大の2つの理由であること、そして、廣瀬主査からは、太平洋島嶼国は非常に日本にとっても重要な問題であるため、日本という立場から研究を進め、政策的に太平洋島嶼国情勢に参画できるようにしていくことが我々の課題である、と語られた。

(2)畝川憲之メンバーより報告

<太平洋島嶼地域の基礎>

続いて、基調報告者の畝川憲之メンバーより、次のような報告がなされた。太平洋島嶼地域には14カ国あり、ミクロネシア、ポリネシア、メラネシアの三つのサブリージョンからなっている。また、一つ一つの国は人口と面積共に非常に小さい。よって、太平洋の島々の利害を結集して団結する地域協力機構として、オーストラリアニュージーランドも加盟している、太平洋諸島フォーラム(PRL)が設立されている。
 さらに、太平洋島嶼地域は、主に3つの地理的不利条件から、一般的に産業開発が非常に困難であると言われている。3つの地理的不利条件とは、以下のものである。

  • 狭隘性:人口が非常に少ないため国内市場が小さく、大量生産と安定生産を困難にする。
  • 拡散性:島々、そして国内で人々が散らばっているということで、大量生産、安定生産が困難であり、技術、資本、人材の集約的利用が困難である。
  • 遠隔性:主要マーケットから距離が離れていることによって、輸送費が非常に高くなってしまう。

ただし、パプアニューギニアはLNGを中心とする鉱物資源の輸出産業があり、フィジーにはサトウキビおよびフィジーウォーターの輸出産業があるため、これらの国々は太平洋島嶼地域の中で比較的に産業開発が進んでいる。
 このように太平洋島嶼国は産業開発が困難であることによって、経済構造が援助に依存する形となっている。援助額の対GDP比は、パプアニューギニアとフィジーを除き、大体15%から25%である。そして、ドナー国の援助額が太平洋島嶼地域でのプレゼンスに直結している。外国からの援助額の推移については、2000年代初頭までは、オーストラリア、ニュージーランド、アメリカ、日本をはじめとする民主主義国家からの援助が多かったが、2000年代半ば過ぎ頃より中国が援助拡大していき、近年、中国からの援助が急激に拡大している状況だ。
 この地域においてプレゼンスの拡大を目指す理由は主に以下の3つの理由がある。

  • 海底資源、そして、魚をはじめとする海洋資源の確保
  • 国連での一票の獲得
  • 西洋諸国と中国にとって戦略的に重要であり、またポリネシアは南米への海上交通路という点でも重要。

<中国の影響力拡大の状況>

 中国は、持続可能な開発を達成するという目的のもとに援助を実施していて、戦略的意図はないと主張している。一方で、西洋諸国は、中国は債務の罠を仕掛けており、また民主主義勢力の戦略的優位性への脅威であると主張している。中国が債務の罠を仕掛け、また太平洋島嶼国の主権を奪うという意図を持っていることを示す直接的な証拠は存在しないが、2022年4月に中国・ソロモン諸島安全保障協定が締結されたことにより、中国の戦略的意図が明確になっている。
 中国・ソロモン諸島安全保障協定締結後、オーストラリア、ニュージーランド、アメリカ、日本をはじめとする民主主義国家は外交訪問の拡大や援助の拡大を通して、太平洋島嶼国との関係強化を試みている。特に、アメリカは関係強化に非常に積極的に動いている。

<中国の勢力拡大による島嶼国への影響>

 島嶼国にとっての中国の勢力拡大の利点は経済的機会と政治的機会の二つが考えられる。まず、経済的機会については、これまでの西洋諸国の援助に中国援助が加わり、さらに、中国に対抗する形で西洋諸国の援助が増えているため、援助額が2009年の約16億ドルから2018年には約28億ドルへと大きく増加している。これは、太平洋島嶼国の”Friends to all, Enemy to none”というモットーを基とするバランス外交の結果といえる。
 二つ目の島嶼国にとっての中国の勢力拡大の利点は政治的機会である。中国の勢力拡大前は、西洋諸国からの援助が経済的ライフラインであったため、これらの国々に対する反発が困難であった。しかし、中国の勢力拡大により選択肢を持つことが可能となり、また西洋諸国への援助依存度が減り、伝統的ドナー国への批判や主権を強く主張することが可能になった。
 一方で、島嶼国にとっての中国の勢力拡大は島嶼国のデフォルトの可能性を高め、主権の喪失を招く脅威であるとも考えられる。中国が島嶼国に対して債務の罠を仕掛けている直接的な証拠はないが、中国の援助の8割が(グラントではなく)ローンであること、そして、経済的自立と開発ができていない島嶼国にとってローンの返済は難しいこと、さらにスリランカの運営権譲渡やジブチの基地化等の太平洋島嶼国以外の例を考慮すると、中国の援助拡大は島嶼国のデフォルトの確率を高めており、また債務の罠の可能性があると考えられる。デフォルトをした場合には、島嶼国は主権を喪失し、最終的には外交上のバランスを失う、バランス外交ができなくなる可能性がある。

(3)質疑応答

Ⅰ①国連総会において、太平洋の島嶼諸国は基本的には欧米や日本と同じ投票行動をしていると感じるが、国際問題については、基本的に西側と近いのか。(宇山メンバー)
⇒①民主主義的な価値観は共有しているが、中立的な立場は崩したくないという姿勢である。(畝川メンバー)

Ⅱ中国は太平洋島嶼国が重要視している気候変動の問題に関して何かアプローチをしているのか。(遠藤メンバー)
⇒中国が特段気候変動を強く押し出すような形で具体的な援助を実施しているということは、私が知る限りはない。(畝川メンバー)

Ⅲ①ロシアも少なくとも2008年のロシア・ジョージア戦争後のアブハジア、南オセチアの国家承認の動向を見るにつけ、太平洋島嶼国で影響を拡大していると思うが、ロシアの影響力は完全になきものとして考えていいのか。②債務の罠等の中国の影響は島嶼国内の国民はどう感じているのか。 (廣瀬主査)
⇒①ロシアの島嶼国においての影響力については見聞きしたことがない。現状の私のリサーチがロシアに向いていないため、見聞きしたことがない可能性がある。②国民と政府の立場は違うと思う。西側は、太平洋島嶼国が債務の罠に陥らないように、制度設計や制度の脆弱な部分を補填する形で援助をするべきだと考える。(畝川メンバー)

Ⅳ①特にソロモン諸島等の地政学的重要性は明確であるのに、なぜアメリカはおさえることができなかったのか。②中国はグローバル発展イニシアティブを提言し、国連のプロジェクトと連携させながら、太平洋島嶼国やアフリカ連合も含めて様々な活動をしている。これについてどうみているか。③日本の外交・安全保障には、大陸棚問題などの海洋権益の拡充が重要であると考える。大陸棚問題をめぐる中国によるパラオへの圧力について情報などがあれば、共有してほしい。 (三船メンバー)
⇒①2001年以降のアメリカの関心はイスラム諸国にあったため、太平洋島嶼国での中国の影響力拡大には目が向いていなかった。2010年代半ば、オバマ後期ぐらいから徐々に太平洋島嶼国に目を向けるようになった。2022年のアメリカ・太平洋島嶼国サミットを契機に急激にアメリカの関与が拡大したとみている。②太平洋島嶼国にとって、気候変動は最大の安全保障上の脅威であるため、この地域で影響力を維持や拡大するために、気候変動の問題は無視できない。そのため、グローバル発展イニシアティブを通して、気候変動問題に取り組むことは中国の影響力拡大につながるが、なぜ国連を通して行っているのかはわからない。③この点については勉強不足であったため、答えられない。(畝川メンバー)

Ⅴ援助スキームの中で、中国から島嶼国に対してどのような援助が多いのか。 (一般参加者)
⇒中国からは、コンセッショナルローンという低金利でのローンが多いが、低金利とは何%なのかは明確な定義はなく、援助ごとに金利などの詳細は異なる。コンセッショナルローンに関して、中国の設定する金利は西洋諸国に比べて高く設定されていると感じる。グラントの比率は中国も少しずつ増えてきている。(畝川メンバー)

(文責、在事務局)