公益財団法人日本国際フォーラム

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公開シンポジウム 「多極秩序の狭間で:日本外交と『狭間国家』の生存戦略」

当フォーラムの「中露の勢力圏構想の行方と日本の対応:『中央アジア・コーカサス・大洋州・グローバルサウス』の含意」研究会(主査:廣瀬陽子 JFIR上席研究員)は、公開シンポジウム 「多極秩序の狭間で:日本外交と『狭間国家』の生存戦略」 を下記1.~4.の要領にて開催したところ、その概要は下記5.のとおりであった。

  1. 日 時:2026年1月19日(月) 17:00-19:00
  2. 会 場:明治記念館「孔雀の間」
  3. 参加者:66名
  4. プログラム
      <第一部 シンポジウム>
       司  会   高畑 洋平 JFIR常務理事・上席研究員
       開会挨拶   渡辺 まゆ JFIR理事長
       基調報告   廣瀬 陽子 JFIR上席研究員/慶應義塾大学教授
       成果報告   宇山 智彦 北海道大学教授
              遠藤  貢 東京大学教授
              畝川 憲之 近畿大学教授
              ダヴィド ゴギナシュヴィリ 慶応義塾大学SFC研究所上席所員
              三船 恵美 JFIR上席研究員/駒澤大学教授
       自由討論   参加者全員
       総  括   廣瀬 陽子 JFIR上席研究員/慶應義塾大学教授

      <第二部 演 奏>
       演  奏   ザザ・ゴグア、ギオルギ・バブアゼ(ジョージア人演奏家)
       閉会挨拶   高畑 洋平 JFIR常務理事・上席研究員

  5. 議論の概要

基調報告

(1)廣瀬 陽子 JFIR上席研究員/慶應義塾大学教授

本研究会は3年間にわたり、「狭間国家」をテーマに研究を継続し、政治、安全保障、経済、社会など多様な側面から各地域の事例を比較検討してきた。その成果としてまとめたのが本書『狭間国家の生存戦略』である。対象地域はユーラシア、アフリカ、南米、大洋州にまで広がり、まさに世界各地の事例を横断しながら議論を積み重ねてきた。その過程で明らかになったのは、狭間国家は特定地域にのみ存在する例外ではなく、現代世界に構造的に点在する存在であるという点である。

なぜ今、狭間国家に注目する必要があるのか。その問いを考えるうえで象徴的な事例がウクライナである。ウクライナはロシアと欧米の間に位置する典型的な狭間国家であり、2022年のロシアによる全面侵攻当初、十分な防衛準備を整えていたわけではなかった。それでもウクライナは、この戦争を単なる領土紛争ではなく民主主義のための戦いとして世界に訴え、多くの国々の支持と支援を引き出した。その背景には、自由や民主主義といった価値が国境を越えて共有された瞬間が存在した。

さらに重要なのは、その後の展開である。戦争の長期化とともに、サイバー攻撃、偽情報、エネルギーや食料の武器化、海底ケーブル破壊、GPS妨害、難民の兵器化など、戦場外を主戦場とするハイブリッド戦争の影響が世界へ拡散した。ウクライナはこれらの攻撃の最前線に立たされ、社会全体が戦争の影響を受ける経験を積むことになった。その結果、現在ではドローン運用やハイブリッド脅威への対応に関し、むしろ欧米諸国に知見を提供する側へと転じつつある。かつて守られる存在であった国家が、秩序を支える知識の提供者へと変化している点に、狭間国家の潜在力が表れている。

研究成果として特に強調したい点は三つある。第一に、狭間国家は国際秩序の「早期警戒装置」である。サイバー攻撃、選挙干渉、情報戦などの新しい脅威は、まず狭間国家に現れる。そのため彼らは最も早く危機に直面し、同時に最も早く対応策を生み出す存在となる。第二に、狭間国家は秩序の「配線盤」として機能する。エネルギー輸送、物流、人の移動、情報通信など、現代の国際秩序は多くの場合、狭間国家を経由して成立している。彼らを抜きにして秩序の全体像は見えない。第三に、狭間国家は「政策イノベーター」である。大国の間で生存するため、彼らはバランス外交、横断的連携、全社会防衛、民主的リジリエンスといった政策を実践し、絶えず制度と社会を更新してきた。

この研究は同時に、日本自身の立ち位置も問い直す。日本は軍事大国ではないが、世界の外側にいる国でもない。G7で唯一の非欧米国家としてアジアに位置しながら欧米とも深く結びつき、価値と現実の狭間で常に判断を迫られてきた。日米同盟が日本の安全保障の基軸である一方で、それはロシアなど周辺大国にとっては警戒対象でもある。この意味で、日本もまた狭間に立つ国家であると言える。

重要なのは、狭間に立つことは弱さではないという点である。それは異なる世界をつなぎ、対立を翻訳し、秩序の崩壊を防ぐ静かな力を持つ存在である。狭間国家は助けられる対象ではなく、秩序を共につくる主体である。日本外交もまた、教える外交でも押し付ける外交でもなく、共に悩み、共に鍛え、共に支える外交へと進む必要がある。

現在、日本自身もサイバー空間、情報空間、民主的統治など多くの課題を抱える。だからこそ、日本は完成されたモデルとして振る舞うのではなく、同じ課題に向き合うパートナーとして狭間国家と連携すべきである。不安定な時代においては、声の大きな大国だけでなく、狭間で踏みとどまり続ける国々の経験に学ぶ必要がある。日本はその声を聞き、つなぎ、秩序を守る国から、秩序を育てる国へと役割を進化させることができる。

さらに政策的に踏み込めば、日本外交は、安定した秩序を前提とする外交から、秩序が揺らぐことを前提に共に耐え、共に更新する外交へ発想を転換する必要がある。狭間国家への関与は地域協力にとどまらず、ハイブリッド脅威への対応、民主的リジリエンスの強化、サプライチェーンや社会基盤の強靭化、国際規範の現場からの再構築など、日本自身の安全保障と統治能力を鍛え直す取り組みにも直結する。これは他国を助ける政策ではなく、日本自身の外交と国家基盤への投資でもある。

最後に、ウクライナの人々が戦争の中で世界に訴えた言葉を想起したい。「自分たちの未来を自分たちで選びたい」という願いは、決して特別なものではない。しかし現在の世界では、その当たり前が容易に壊される。狭間国家は、その当たり前が最初に壊される場所であると同時に、それを守ろうとする意志が最も強く現れる場所でもある。

日本は戦後、力ではなく信頼を積み重ねる道を歩んできた。この姿勢は時に弱さと見られたが、秩序が揺らぐ現在、信頼を維持し対話を続けられる国は決して多くない。日本が持つ国際的信頼は大きな資産である。秩序を壊す力が目立つ時代にあっても、秩序を育てる力は静かに社会を支える。狭間国家と共に歩むことは、日本が今後も国際社会で信頼され続けるための重要な選択である。本日の議論が、狭間国家と日本外交の未来を考える契機となることを期待する。

成果報告

(2)宇山 智彦 北海道大学教授

旧ソ連諸国はいずれもロシアと他の大国に挟まれた「狭間国家」であるが、生存戦略は地域ごとに異なる。バルト諸国はロシアの脅威を強く認識し、EU・NATOを軸に欧州への帰属を明確化し、ウクライナ支援でも積極的姿勢を取る。一方、南コーカサスでは欧州接近と対露関係改善が情勢に応じて揺れ動き、域内紛争や国内政治対立が対外関係と密接に連動してきた。これに対し中央アジア諸国は、ロシアと中国という隣接大国から離れることはできないものの、両国への過度な依存を避けるため、域外国との関係を積極的に拡大する「多ベクトル外交」を採用している。域内対立が比較的少ないため、大国間対立に巻き込まれにくく、多様な国との関係をゼロサムではない形で発展させてきた点が特徴である。

ウクライナ侵攻以降、中央アジアの地政学的重要性は改めて認識され、各国が同地域への関与を強めている。その象徴が中央アジア5か国をまとめて招く「C5+1」形式であり、これは2004年の「中央アジア+日本」対話に始まり、その後EU、米国、中国、インド、ロシアなどが導入した。2025年にはEU、イタリア、中国、ロシア、米国、日本が相次いで首脳会合を開催した。ただし、経済規模と地理的近接性を背景に、中国の存在感拡大は特に顕著である。

日本は2025年12月、「中央アジア+日本」対話として初の首脳会合を開催した。中央アジアでは首脳外交が決定的に重要であるにもかかわらず、これまで日本の関与は閣僚級中心で存在感が低下していたため、首脳会合開催は重要な転機となった。中国ではこれを「裏庭への介入」とする否定的報道も見られたが、中央アジア側では概ね好意的に受け止められ、日本が提示した「グリーン・強靭化」「コネクティビティ」「人づくり」などの重点協力分野や、重要鉱物・AI分野の協力拡大は歓迎された。

もっとも、中央アジア諸国は日本のみを重視しているわけではない。首脳会合直後にも各国首脳はロシア主催会議に参加し、中国の領土一体性支持も改めて表明している。露中の核心利益に関わる問題で明確に反対できないという制約はあるが、それは日本を含む他国との関係発展を否定するものではない。ロシアはウクライナ戦争で立場を弱める中、中央アジアとの関係維持を優先しており、日本の関与に対しても比較的静観している。一方、中国では中央アジアを自国の「裏庭」とみなす言説が表面化しつつあり、重要資源分野で他国の関与を妨げる可能性には警戒が必要である。 

日本は中国を無用に刺激することを避けつつも、脅しに屈することなく中央アジア諸国の期待に応える必要がある。日本はこれまで「利己的でないパートナー」として評価されてきたが、関与の規模と継続性が課題であった。今後は首脳外交の定例化を進め、5年間で3兆円規模の民間プロジェクト実施という目標の具体化を通じ、持続的で実効性ある関係構築を進めることが重要である。

(3)遠藤 貢 東京大学教授

本研究会で用いられてきた「狭間国家」という概念をアフリカの文脈に当てはめると、「薄い覇権」という状況に近い。すなわち、今日のアフリカでは、いずれかの大国が圧倒的影響力を行使しているわけではなく、中国の経済関与やサヘル地域におけるロシアの影響力拡大が注目される一方で、旧宗主国フランスの影響力は大きく後退し、国連PKOも受け入れられず撤退を余儀なくされている。結果として、特定の国が支配的地位を確立できず、多数の国がそれぞれの動機で関与する「争奪戦」の様相を呈しており、今日の国際社会の分断構造がアフリカに投影されているとも言える。

しかし、アフリカ諸国はこうした状況に受動的に翻弄されているわけではない。ジャン=フランソワ・バヤールの提起した「外向(extraversion)」概念が示すように、アフリカの政治エリートは外的環境を巧みに利用し、政治的集権化や経済的蓄積に結び付けてきた。すなわち、「薄い覇権」状況を利用し、自国に有利な相手との関係を臨機応変に組み替えながら、外部勢力との関係を戦略的に更新し続けている点に、アフリカ諸国の主体性が見て取れる。

その具体例がコンゴ民主共和国(DRC)における鉱物資源開発である。同国は世界最大のコバルト産出国であり、中国の投資が圧倒的な存在感を持つが、中国依存のリスクを意識し始め、投資の多角化を志向している。EU、米国、UAE、サウジアラビア、インドなども関与を強め、資源開発をめぐる競争が激化している。加えて、トランプ政権はDRC東部紛争への関与を強め、M23武装勢力とその背後にいるルワンダとの関係調整を試みるなど、紛争解決と資源確保の双方に関心を示している。東部地域はコバルトではなく、半導体小型化に不可欠なタンタル(コルタン)の主要産地であり、資源確保をめぐる国際的競争の焦点となっている。したがって、アフリカにおける鉱物資源をめぐる動向は今後も重要な注視対象である。

さらに西アフリカ・サヘル地域では、旧フランス植民地圏で「第二の脱植民地」とも言える動きが進み、フランスの影響力低下と入れ替わる形でロシアが関与を強めている。この動きをカメルーン出身の思想家ンベンベは「新主権主義」と評しているが、それは一貫した政治ビジョンというより、肥大化した幻想の側面も持ち、ロシアの関与に伴う治安悪化も見られる。アフリカ諸国自身も新たな勢力の関与を歓迎しつつ、過度な介入には警戒を示すなど、関係は依然として流動的である。こうした環境の下、日本としてもアフリカをめぐる勢力関係の再編を継続的に注視し、適切な関与の在り方を模索していく必要がある。

(4)畝川 憲之 近畿大学教授

本報告では、米中対立が進行する中での太平洋島嶼地域をめぐる国際関係と、その中で太平洋島嶼国がどのような外交アプローチを取っているかを整理する。近年、この地域では中国の影響力が経済および安全保障の両面で拡大している。経済分野では2000年代半ば以降、中国が援助やインフラ投資を拡大し、特にフィジーでのクーデター以降、西側諸国が関与を縮小した局面で中国が関与を強める形となった。また、安全保障分野では、2022年の中国とソロモン諸島との安全保障協定を契機として、中国の関与が新たな段階に入る。これに対抗する形で、米国、オーストラリア、ニュージーランド、日本なども関与を強化し、地域は米中を中心とする影響力競争の場となっている。

しかし、太平洋島嶼国は大国間対立に巻き込まれることを望まず、「すべての国と友好関係を持ち、敵を作らない」という立場を共有し、中立外交を基本方針とする。それでは、同地域において中国の影響力がどの程度拡大しているのか、島嶼国は中立を保てているのかを見ていく。経済面を見ると、中国の援助規模は拡大しているものの、依然として最大の援助供与国であるオーストラリアとの差は大きく、西側諸国全体と比較すれば中国の影響力はなお限定的である。そのため、多くの島嶼国は引き続き西側諸国への経済的依存を維持する状況にある。

安全保障面では、パラオ、ミクロネシア連邦、マーシャル諸島、パプアニューギニア、フィジー、ナウルなどが米国やオーストラリアと安全保障協定を結び、米豪の影響力が依然として強い。他方、中国との安全保障協力はソロモン諸島を中心に拡大する動きが見られ、バヌアツでも中国寄りの姿勢が確認できる。しかし、地域全体を俯瞰すると、ほとんどの国が中立外交の範囲内にとどまり、西側との関係を基軸とする立場を維持する。中立を超えて中国側に明確に立つ国は現時点で存在しない。したがって、中国の影響力拡大が指摘される一方、その実質的な規模は依然として限定的である。

もっとも、中国は引き続き安全保障分野での関与拡大を模索しており、地域の力学は流動的である。そのため、西側諸国は関与を緩めることなく、協力関係の維持・拡大を図る必要がある。

こうした中で、日本が太平洋島嶼地域におけるプレゼンスを維持・拡大するためには、安全保障面での競争ではなく、日本が強みを持つ経済・社会開発支援を中心とする関与を強化することが重要となる。その際、島嶼国の主権と中立外交の立場を尊重する姿勢を前提とする必要がある。具体的には、第一に、日本の開発協力について定期的かつ体系的な評価を実施し、どのような支援が効果を上げ、どこに課題があるのかを継続的に検証することが求められる。過去の援助案件の中には、現地社会や制度への理解不足により期待された成果を十分に上げられない例も存在するため、こうした課題を改善する必要がある。第二に、島嶼国との緊密な対話を通じて相互理解を深め、「真のイコールパートナー」となる関係を構築することが不可欠である。援助供与国と受益国という関係を超え、共通の課題解決に取り組む関係を構築することが重要である。

これらの取り組みは、日本の援助の質を高めるだけでなく、日本に対する信頼の醸成およびソフトパワーの強化につながり、結果として太平洋島嶼地域における持続的なプレゼンス確保にも寄与する。

(5)ダヴィド ゴギナシュヴィリ 慶応義塾大学SFC研究所上席所員

本報告では、多極化が進む国際秩序の中で「狭間地帯」がいかに生存戦略を構築するか、また日本はいかなる外交姿勢を取るべきかという本研究会の中心的問いを踏まえ、南コーカサス地域に焦点を当てて検討する。南コーカサスは、ロシア、トルコ、イランという地域大国に囲まれ、黒海とカスピ海に挟まれた地理的位置を有し、さらに欧州とアジアの境界に位置するという、極めて複雑な地政学的条件の下にある。EU、米国、中国といった域外アクターも関与を強める中で、アゼルバイジャン、アルメニア、ジョージアの三国は、外交・経済の両面で有力国の動向を慎重に見極めながら政策選択を迫られてきた。

この地域は歴史的に交易路の要衝である一方、外部勢力による支配と介入に繰り返し直面してきた。その結果、国家と社会はアイデンティティの維持と国家建設を同時に進めるという困難な課題を抱え続けてきたが、21世紀に入ってもこの構造は大きく変わらず、むしろ安全保障環境の不安定化により深刻化している。

各国の外交姿勢を見ると、ジョージアはロシアによる軍事侵略を受け、領土の約2割が現在もロシア軍の占拠下にある一方で、トルコ、アルメニア、アゼルバイジャンとの関係では概ね安定した友好関係を構築する。加えて、南コーカサスで唯一、黒海を通じて外洋へのアクセスを持つ国として、地域全体の物流・貿易において不可欠な役割を果たす。この地理的条件により、アルメニアやアゼルバイジャンのみならず、さらに東方の地域もジョージア経由の回廊に依存する構造が形成されている。

アルメニアは長年、トルコおよびアゼルバイジャンとの国境閉鎖に直面し、アゼルバイジャンとの武力衝突も断続的に続いてきた。イランとの国境は存在するものの、制裁やインフラ制約により実質的な代替ルートとはなりにくかった。しかし近年、アゼルバイジャンとの和平交渉が進展し、トルコとの国交正常化に向けた対話も前進している。特に注目すべき点は、米国、具体的にはトランプ政権が両国首脳をワシントンに招き、停戦・和平のみならず、アゼルバイジャン本土と飛び地ナフチヴァンを結ぶ物流回廊(いわゆる「トランプ回廊」)の回復を含む構想を提示した点であり、地域秩序形成における域外大国の影響力を示す事例となった。

より広域的に見ると、南コーカサスは東西物流の「中央回廊」における要衝である。2022年のロシアによるウクライナ全面侵攻以降、ロシア経由の北方回廊が機能不全に陥り、欧州とアジアを結ぶ陸上物流は南コーカサス経由に集中した。この結果、EUのみならず日本においても同地域への関心が高まっている。日本外交では「コネクティビティ」が中央アジア文脈で強調されてきたが、実際には南コーカサスを含めなければ物流網は完結しない。したがって、中央アジアと南コーカサスを一体として捉える視点が不可欠となる。

もっとも、同地域には民主主義の後退、制度的脆弱性、国際ルール遵守の不確実性といった課題が存在し、ロシアの覇権的影響力も依然として強い。日本単独での関与には限界があるが、EUは価値観と制度の面で自然なパートナーとなり得る。これまで培ってきた信頼関係を基盤に、EUと連携しながら、制度整備と実体的な事業・投資を結びつける戦略的関与が今後の課題となる。

総じて、南コーカサスは地政学的リスクと機会が併存する地域であり、日本企業にとっても新たなフロンティアとなり得る。日本外交は、価値や信頼を強調するだけでなく、それを具体的な経済活動や回廊整備と結びつける実効性ある関与を構築する必要がある。

(6)三船 恵美 JFIR上席研究員/駒澤大学教授

本報告では、多極化が進む国際秩序の中での米中競争の構図の変化と、その中で中国外交がグローバルサウスおよびロシアとの関係をどのように位置付けているかを整理する。研究会が始まった3年前、バイデン政権下の米国は国際協調路線へ回帰し、米中競争は民主主義体制と権威主義体制の対立として理解されていた。しかし、トランプ政権発足以降、米国の世界観は「力による支配」を前面に押し出す方向へと転換する。

特に、昨年公表された米国家安全保障戦略(NSS)が示す「西半球シフト」と勢力圏構想は、「米国の勢力圏から中国は出て行け」という強いメッセージを含むものであり、中国はトランプ・コロラリー、いわゆるモンロー主義のトランプ的帰結を突きつけられた。この方針の下で進められたベネズエラをめぐる介入は、中国が西半球で進めてきた拠点化戦略に誤算を生じさせ、中国は戦略の再編を余儀なくされている。すなわち、米国は勢力圏から、ディールではなく、力によって中国を排除しようとしている。

『狭間国家の生存戦略』で私が担当した第2章では、米中競争時代の中国外交におけるグローバルサウスとロシアの位置付けを分析している。まず前半の第1節で、グローバルサウスをめぐっては、中国外交における「新時代」という言葉が、中国を国際政治の中心に位置付ける認識であることを確認した上で、世界第二位の経済大国でありながら、中国は自らを途上国と位置付け、そのリーダーとして代表権と発言権を高めようとしていることを論じている。また、自らを「永遠に発展途上国」と位置づける中国が、グローバルサウス諸国を中国側の陣営に引き込み、中国を中軸とする多極世界の構築を目指す外交戦略を展開していることを論じている。

後半の第2節では、中国外交におけるロシアの位置付けを論じている。中国はウクライナ戦争をロシアとウクライナの二国間戦争としてではなく、西側とロシアの大国間対立の一環として捉えている。「安全保障の不可分性」を繰り返し強調し、ロシアの「合理的な懸念」に理解を示す立場を取るが、実際の中国の行動は一貫してロシア寄りである。これは長期的な米中覇権競争を見据え、ロシアを中国側の戦略的プレーヤーとして位置付けるためであり、中露関係の深化は体制に基づく戦略的選択と位置付けられる。

以上の分析を通じて、グローバルサウス諸国は米中勢力圏争いに翻弄されるだけでなく、自ら戦略的自律性を打ち出す動きを強めていること、そして中国は一帯一路や多国間枠組みを活用しつつ、多極的国際秩序の形成を通じて勢力圏拡大を目指している、と締め括っている。

最後に、3年間の研究活動の総括として強調する点は、大国の野心がむき出しになる現在だからこそ、日本外交が「法の支配」「規範」「国際法の遵守」を国際社会において粘り強く訴え続ける重要性である。今年、APECホスト国を務める中国はアジア太平洋共同体構想およびFTAAP推進を打ち出していく。そこで、CPTPPのリーダー国である日本が果たす役割の重要性は一層高まる。これまでの研究成果を踏まえ、今後もこの課題に継続的に取り組む必要がある。

(文責、在研究本部)