活動
2025年12月2日
上野 友也
岐阜大学准教授
1990年代の色々な地域における武力戦争での人権侵害の問題は、女性が被害を受けるだけでなく、紛争解決プロセスから女性が排除されていることであった。ボスニア内戦(1991–1995年)のデイトン合意では、女性は被害を受けたにも関わらず、補償や性暴力加害者の訴追に関する合意のプロセスに含まれなかった。以降、第4回世界女性会議(1995年)や国連特別総会の「女性2000年会議」では、女性に対する暴力の訴追を評価し、紛争解決プロセスにおける女性の政治参加を促す動きがあった。国連安保理決議1325(2000年)の採択により、最初は人権問題として認識されていた女性の保護と政治参画が、安全保障の問題として議論される。採択の過程では、2000年10月に「女性・平和・安全保障」公開会合が当時の安保理議長国のナミビアで開かれ、UNIFEMと国際NGOが決議文を草案し、決議が全会一致で採択された。決議1325の2本柱は、武力紛争におけるジェンダー暴力からの女性の保護と紛争解決プロセスにおける女性の参画である。
一方、決議1325の課題は、強制力のある包括的な手段は示していない点だ。履行に向けた制度や措置は徐々に確立していく。武力紛争における女性の保護について、性暴力を人権上のみならず安全保障上の問題とし、国連平和維持活動(PKO)の任務では女性の保護が訓練されている。また、性暴力の加害者に対する制裁の発動、被害者に対する訴追の支援が推進されている。紛争解決プロセスにおける女性の参画については、決議1325の第1項に紛争の予防、管理及び解決のために女性の参画を拡大する理念を掲げている。
WPS理念の履行においては、UNWOMANが「WPS:国レベルの履行に関するガイドライン」を出しており、行動計画上の要素を項目別に調査したものによると、参画、予防、保護、救助・回復の4項目が重視されている。ガイドラインは、例えば、以下のような具体策を行動計画に盛り込むことを推奨している。
日本のWPSの履行に注目すると、日本の行動計画は第1次(2015-2018年)から第3次(2023-2028年)まで出ている。第3次の行動計画の4本柱は、女性の参加とジェンダー主流化の促進、性的・ジェンダー暴力への対応と予防、災害リスク削減・災害対応・気候変動における女性の参加、日本国内におけるWPSの措置である。それぞれに「基本政策」、「行動」、「指標」、「所管部局」の構成がある。基本政策においては日本によるこれまでの支援や施策の言及がほとんどなく、第2次行動計画の成果と第3次行動計画に向けた政策目標とのつながりが弱い。行動では、活動内容が分かるが、主体が曖昧で「日本」という言葉もなく、所管部局が不明確である。行動と指標の関係も不明確であるため、誰が何をどれほどやるのかを明確にするべきだ。
比較例としてフィンランドの行動計画を見ると、冒頭は「フィンランドが」今まで行ってきた施策を述べ、構造計画では所管やNGOといった行動の主体が明記されている。日本では、第3次行動計画より第2次行動計画の方がより完成度が高いと言える。冒頭では日本の今までのイニシアチブが具体的に書かれていたが、第3次では削除されている。第2次目標と行動、所管は表にまとめられており、関係が明確・具体的であったが、第3次では簡素化されたため、関係性が不明瞭になっているのではないか。
以上をまとめると、日本のWPS行動計画では、これまでの日本のWPS支援や措置について触れながら、今後の方向性を示した方が良いのではないか。第3次行動計画より第2次行動計画の方が丁寧に日本の立場が表明されており、特に日本が推進する「人間の安全保障」という表現が第3次行動計画からは削除されている点に疑念を抱く。さらに、日本が主体のWPS支援や措置であれば、それを強調し、具体的な指標や所管部局を明確にするべき。この点においても第2次計画の方が明確である。そして「女性・平和・安全保障(WPS)」の安全保障は「人間の安全保障」とどのような関係にあるのかを整理する必要がある。また、第3次計画に書かれていない点では、災害難民や気候難民への対応、女性の人身売買に対する日本の対外支援、紛争におけるセクシャル・マイノリティをWPSの枠内に含むのかどうか、感染症やパンデミックにおける女性特有の被害、といった内容を第4次行動計画に向けて吟味するべきである。
1990年代の色々な地域における武力戦争での人権侵害の問題は、女性が被害を受けるだけでなく、紛争解決プロセスから女性が排除されていることであった。ボスニア内戦(1991–1995年)のデイトン合意では、女性は被害を受けたにも関わらず、補償や性暴力加害者の訴追に関する合意のプロセスに含まれなかった。以降、第4回世界女性会議(1995年)や国連特別総会の「女性2000年会議」では、女性に対する暴力の訴追を評価し、紛争解決プロセスにおける女性の政治参加を促す動きがあった。国連安保理決議1325(2000年)の採択により、最初は人権問題として認識されていた女性の保護と政治参画が、安全保障の問題として議論される。採択の過程では、2000年10月に「女性・平和・安全保障」公開会合が当時の安保理議長国のナミビアで開かれ、UNIFEMと国際NGOが決議文を草案し、決議が全会一致で採択された。決議1325の2本柱は、武力紛争におけるジェンダー暴力からの女性の保護と紛争解決プロセスにおける女性の参画である。
一方、決議1325の課題は、強制力のある包括的な手段は示していない点だ。履行に向けた制度や措置は徐々に確立していく。武力紛争における女性の保護について、性暴力を人権上のみならず安全保障上の問題とし、国連平和維持活動(PKO)の任務では女性の保護が訓練されている。また、性暴力の加害者に対する制裁の発動、被害者に対する訴追の支援が推進されている。紛争解決プロセスにおける女性の参画については、決議1325の第1項に紛争の予防、管理及び解決のために女性の参画を拡大する理念を掲げている。
WPS理念の履行においては、UNWOMANが「WPS:国レベルの履行に関するガイドライン」を出しており、行動計画上の要素を項目別に調査したものによると、参画、予防、保護、救助・回復の4項目が重視されている。ガイドラインは、例えば、以下のような具体策を行動計画に盛り込むことを推奨している。
日本のWPSの履行に注目すると、日本の行動計画は第1次(2015-2018年)から第3次(2023-2028年)まで出ている。第3次の行動計画の4本柱は、女性の参加とジェンダー主流化の促進、性的・ジェンダー暴力への対応と予防、災害リスク削減・災害対応・気候変動における女性の参加、日本国内におけるWPSの措置である。それぞれに「基本政策」、「行動」、「指標」、「所管部局」の構成がある。基本政策においては日本によるこれまでの支援や施策の言及がほとんどなく、第2次行動計画の成果と第3次行動計画に向けた政策目標とのつながりが弱い。行動では、活動内容が分かるが、主体が曖昧で「日本」という言葉もなく、所管部局が不明確である。行動と指標の関係も不明確であるため、誰が何をどれほどやるのかを明確にするべきだ。
比較例としてフィンランドの行動計画を見ると、冒頭は「フィンランドが」今まで行ってきた施策を述べ、構造計画では所管やNGOといった行動の主体が明記されている。日本では、第3次行動計画より第2次行動計画の方がより完成度が高いと言える。冒頭では日本の今までのイニシアチブが具体的に書かれていたが、第3次では削除されている。第2次目標と行動、所管は表にまとめられており、関係が明確・具体的であったが、第3次では簡素化されたため、関係性が不明瞭になっているのではないか。
以上をまとめると、日本のWPS行動計画では、これまでの日本のWPS支援や措置について触れながら、今後の方向性を示した方が良いのではないか。第3次行動計画より第2次行動計画の方が丁寧に日本の立場が表明されており、特に日本が推進する「人間の安全保障」という表現が第3次行動計画からは削除されている点に疑念を抱く。さらに、日本が主体のWPS支援や措置であれば、それを強調し、具体的な指標や所管部局を明確にするべき。この点においても第2次計画の方が明確である。そして「女性・平和・安全保障(WPS)」の安全保障は「人間の安全保障」とどのような関係にあるのかを整理する必要がある。また、第3次計画に書かれていない点では、災害難民や気候難民への対応、女性の人身売買に対する日本の対外支援、紛争におけるセクシャル・マイノリティをWPSの枠内に含むのかどうか、感染症やパンデミックにおける女性特有の被害、といった内容を第4次行動計画に向けて吟味するべきである。