公益財団法人日本国際フォーラム

9月22日午後(日本時間23日未明)、国連でイスラエルとパレスチナ国家共存の「2国家解決」に関する国際会議が開かれ、パレスチナを国家として認める国は英、仏、加、豪、ベルギー、ポルトガル、ルクセンブルグなど10カ国増えて150カ国超となった。その国名をすべて列挙しているのは、わが国の主要紙で筆者が見た限りでは朝日新聞だけだが(9月24日朝刊)、同紙もパレスチナ国家を認めている国名の列挙の最後に、「承認を巡る情報が錯綜している国も含む」と記している。つまり国連での採決後でも、態度が明確に特定できない国もあるのだ。

ちなみに、アラブ諸国の大半がイスラエルを国家と認めていないとも言われるが、「イスラエル国家を認めている国」をグーグルで調べても、正確な国名は出ない。つまり、その回答は「パレスチナ国家」「イスラエル国家」の定義次第なのだ。現在問題の焦点となっているガザ地区も、第3次中東戦争(6日戦争 1967年)でイスラエルがこの地区を併合する前は、イスラエル領ではなかった。イスラエルの首都でさえも、「国連決議」上はテルアビブだが、「エルサレム基本法」ではエルサレムだ。6日戦争以後イスラエルが統治するようになったイスラエル北部のゴラン高原はイスラエル領なのか否か(私はかつてイスラエルの入国ビザでゴラン高原も視察した)。ヨルダン川西岸でのイスラエル人の居住地域拡大を認めるか否か。それらも「イスラエル国家」や「パレスチナ国家」をいかに定義するかに直接関わって来る。今回の国連での「2国家解決」に関する国連会議の先鞭をつけたのは、1993年にノルウェーが仲介した「オスロ合意」である。翌年に「パレスチナ自治政府」が発足した。この事実は、イスラエル・パレスチナ問題の解決には、今後数十年はかかることも暗示している。ちなみに、アラファト・パレスチナ自治政府初代大統領はこの94年にノーベル平和賞を受けた。2005年以後はアッバス大統領が今日までパレスチナ政権を率いているが、彼は長年大統領選挙を行わず、パレスチナ人の間でも政権の腐敗・汚職が問題とされ、米国はこの9月、国連会議出席への彼の入国を拒否した。

今述べたことは前置きで、本論として最近連日のように報道されるガザ・イスラエル問題について、わが国の報道の在り方、あるいは偏向ぶりに疑問を呈したい。長い前置きは、「問題の複雑さを前提に、あえて単純化して問題提起する」ことを示唆するためである。

今日のガザ・イスラエル紛争の起源として、遠くはユダヤ人による1948年のイスラエル建国自体、近くは2023年10月7日のハマスによるイスラエル攻撃を挙げる例もある。私が疑問に思うのは、わが国のイスラム専門家の大部分が、イランがイスラエルをこの地上から抹殺することを国是としている事、またそれがイスラエル・ガザ紛争の根源にあることを明確に指摘しないことだ。メディアはイスラエルの攻撃や封鎖で、ガザでの飢えた人びとの悲惨な映像を連日のように報じている。小さな子供たちが、鍋をかざして必死に食料を求める映像は、見るに堪えない。しかし、ガザの食料自給率は元々4割程度で、電力、医薬品、さらに飲料水さえも不足しており、それらはイスラエルからか、或いはイスラエル経由で入手する以外にない。イスラエルがガザを封鎖すれば今日の事態が生じることは、ガザ地区の統治者ハマスは百も承知だったろう。あるいはメディアを通じてのその国際的反応(国際世論の強いイスラエル批判)を予見した上で、あえて23年10月7日のキブツでの音楽祭攻撃(約1200人死亡)を行っていると考えぎるをえない。

ホメイニ師による1979年のイラン革命後のイラン・イスラム国憲法の前文には、次のように述べられている。「イランにおけるイスラム軍および革命軍は、単に国境を防御し安全を保証するためばかりではなく、神の名において、全世界に神の法が打ち立てられるまで、聖戦(ジハード)を闘い抜くためにも組織されるのである。」

1989年にイラン憲法は部分的に改定されたが、基本方針に変更はない。駐日イラン大使館のサイト「世界コンズの日について」には、次の文がある。「シオニスト政権イスラエルによる占領からのパレスチナ解放は……ホメイニ師の理想の一つでした。ホメイニ師は、パレスチナにおけるシオニスト政権の樹立を悪魔の行為だとしました。」

今年6月13日から25日にかけて、イスラエルは米国も巻き込んでイランの核施設を攻撃した(十二日間戦争)。以下は、その開戦の日の駐日イラン大使館の声明である。

「在東京シオニスト体制の特使は、極めて欺瞞的な記者会見をした。これは、イランの領土保全と国家主権を明白に侵害し、テヘランやその他の都市を無差別に攻撃した、ならず者体制による冷酷かつ一方的な侵略行為を覆い隠すための茶番だった。」

つまり、主権侵害を非難するイランは、悪魔イスラエルを撲減の対象としている。ホメイニは同国の樹立を悪魔であるシオニストの仕業としており、駐日イラン大使館は駐日イスラエル大使についても「在東京シオニスト体制の特使」と称している。

2007年以来ガザ地区を支配しているイスラム過激派ハマス(エジプトの反体制過激派「ムスリム同胞団」系)は、イスラム教内の宗派がイランと異なるスンニ派であるにもかかわらず、レバノンのヒズボラ、イエメンのフーシ派などと共に、イランから軍事的、財政的支援を受けて「イスラエル撲滅」という、イランの国是と同じ目的のために戦ってきた。イランが「イスラム過激派の中央銀行」と称される所以でもある。アラビア半島東部のカタールがこの9月9日にイスラエルとハマスの和平の仲介役を果たそうと動いているとき、イスラエルはカタールに居たハマスの政治指導者たちを狙って空爆をした。カタールは同国の主権侵害だとイスラエルを強く批判した。ただ、カタールは2012年から歴代ハマスの政治指導者たちを受け入れている。ハマスが支配するガザで民衆が飢える状況下で、巨額の資産を有する彼らハマスの政治幹部たちがカタールで御殿のような豪邸にいる事は国際的に知られている。ハマス統治のガザ当局は、イスラエル攻撃の死者数をこの8月に65,200人以上としメディアもそう報じる。この数字は正しいか。ちなみに前述の「12日間戦争」の死者数は、イラン側発表は1062人、イスラエル側発表は28人である。