活動
2025年3月27日
ニコラス・セーチェーニ
戦略国際問題研究所(CSIS)日本部上席研究員/地政学・外交政策副部長
日本は、第2次トランプ政権との早期会談を実現し、「アメリカ・ファースト 」の意味を先取りすることができた数少ない同盟国のひとつである。2月7日にワシントンで行われた石破・トランプ日米首脳会談では、日米同盟の主要な柱が再確認され、二国間関係の機運が高まった。しかし、それからの数週間、日本はトランプ政権の複数の懸案に応えるよう圧力をかけられてきた。トランプ政権は同盟国が自衛を強化し、米国経済を支えることを望んでいるのだ。一方、トランプ大統領は、アメリカの外交政策の劇的な転換を画策しており、世界におけるアメリカの指導的役割に関する従来の見識を問い直そうとしている。これは、日本が自由で開かれたインド太平洋(FOIP)構想のもとでルールに基づく国際秩序を維持しようとする中で、トランプ政権の優先課題を見極め、日米間の新たな協力の可能性を模索する取り組みを複雑化させるおそれがある。
石破・トランプ日米首脳会談は、日本にとって安心材料となった。石破首相は、トランプ大統領の第1期において安倍晋三氏が伝えた「日本は強く信頼できる同盟国である」とのメッセージを改めて強調し、共同記者会見でトランプ氏が石破首相に対して示した敬意ある姿勢は、そのことを裏付けるものであった。両首脳はまた、日米同盟の議題における三つの柱である防衛協力、経済的結びつき、そしてインド太平洋地域における志を共有する国々との連携を強調する共同声明を発表し、日本の自由で開かれたインド太平洋(FOIP)構想の持つ持続的な魅力に対する支持を示した。石破・トランプ日米首脳会談は、同盟関係の継続性を示すとともに、第2次トランプ政権における「アメリカ・ファースト」外交が同盟に与える影響への懸念を和らげるものとなった。
しかしそれ以降、日本はトランプ政権の外交政策の予測不可能な性質に直面し、首脳会談が成功したからといって、さらなる負担を求める圧力から免れるわけではないという現実を認識するに至った。米国防次官(政策担当)候補のエルブリッジ・コルビーは、日本の防衛費は極めて不十分であると断言し、GDP比3%への急速な引き上げを求めた。ジョージ・グラス氏は次期駐日大使承認公聴会で、日本が米軍へのホスト国支援をさらに強化する必要性を強調した。またトランプ大統領は最近、日米安全保障条約は不公平であり、日本は米国を防衛する義務を負っていないと不満を表明した(これは、集団的自衛権の行使を可能とした2015年の日本の防衛政策改革を踏まえれば厳密には正確ではないが、この発言はより相互的な関係を求める姿勢を示していた)。要するに、より一層の負担分担の必要性が、今後の日米防衛協力に関する対話において大きな焦点となるであろう。
次に経済分野の課題がある。トランプ政権は同盟国との貿易不均衡に不満を抱いており、対米最大の海外投資国としての地位や、首脳会談での石破首相の日本からの直接投資を1兆ドルに増やすという公約にもかかわらず、日本に悪影響を及ぼしかねないさまざまな関税を導入した。関連して、日本製鉄によるUSスティールの買収提案の行方も、トランプ大統領は経営権取得に至らない範囲での投資には前向きな姿勢を示し、依然として不透明である。日本は、投資とその大義への持続的なコミットメントによって定義される米国との経済統合の誇り高き歴史が、日米同盟の経済的支柱を強化すると想定していた。こうした見立てが現実のものとなる可能性はあるが、首脳会談によって生まれた前向きな機運は、今後経済摩擦の火種となるおそれがある米国の関税政策によってかき消されつつある。
FOIPビジョンの下での戦略的連携の見通しも不透明だ。志を同じくする国々とのネットワーキングはFOIP構想の基盤であり、1月にマルコ・ルビオ米国務長官がQuad(米・日・豪・印)諸国の外相会合を主催した事実は、経済安全保障やサプライチェーンの回復力といった問題についてのイニシアティブを調整することに持続的な関心があることを示している。しかし、トランプ政権が、地域全体の公共財の提供者というQuad本来の目的にどの程度賛同するかは定かではない。日本もFOIP構想の下で地域経済統合を推進したいが、米国はもはや多国間貿易自由化を信じておらず、トランプ政権は保護主義を米国の産業基盤強化の手段としてさらに強化している。岸田元首相は2023年に「FOIP2.0」を発表し、日本と他のパートナーはグローバル・サウスへの開発援助を加速させなければならないと主張した。しかし、トランプ政権の最初の行動のひとつは、アメリカ合衆国国際開発庁(USAID)の解体だった。
日本のFOIP構想には、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の確保という規範的側面も含まれている。日本はルールに基づく国際秩序の維持を目指しているが、これまでのトランプ政権の外交姿勢は、その秩序を支えるのではなく、むしろ混乱を助長し、米国の国益の核心を根本的に再定義しようとする姿勢を示しているように見える。まさにそこに、日本にとっての課題がある。すなわち、既存の国際秩序を支えることに消極的と見られる米政権にいかに対応しつつ、日本の安全保障と繁栄の基盤をなす日米二国間関係を一層強化するための新たな協力の道をいかに見出していくかが問われているのである。
まだ初期段階ではあるが、トランプ政権の優先課題となり得るいくつかのテーマが浮上しており、日本はそれらを日米協力のターゲットとして発展させる可能性がある。その一つは、資源確保への関心である。たとえば、トランプ政権が日本に対してアラスカのLNGプロジェクトへの投資やLNG輸入の拡大を要請した事例、あるいは首脳会談の共同声明における重要鉱物のサプライチェーン多様化への言及などが挙げられる。もう一つのテーマは、米国の産業基盤の強化であり、これは日本にとって、造船分野などにおける防衛産業協力を強化する機会となる可能性がある。また、AIのような先端技術分野における協力も有望であり、トランプ政権がAIの経済的潜在力を活用し、デジタル経済という新たな成長エンジンを駆動させるために必要なエネルギーの確保を模索する中で、協力の余地は大きい。これらは、日本と米国が共通の利害を有し、革新的な形で二国間関係を発展させることのできる分野の一例にすぎない。FOIP構想のような多面的な構想のもとで、より広範な戦略目標をすり合わせることは依然として困難が伴う可能性があるが、日本は、米国との関係を緊密に保ちつつ、地域のパートナーとの協力をさらに深め、規範の擁護者としてのリーダーシップを発揮することで、混迷が深まる国際環境において安定と繁栄を促進する体制を築いていくと見られる。
日本は、第2次トランプ政権との早期会談を実現し、「アメリカ・ファースト 」の意味を先取りすることができた数少ない同盟国のひとつである。2月7日にワシントンで行われた石破・トランプ日米首脳会談では、日米同盟の主要な柱が再確認され、二国間関係の機運が高まった。しかし、それからの数週間、日本はトランプ政権の複数の懸案に応えるよう圧力をかけられてきた。トランプ政権は同盟国が自衛を強化し、米国経済を支えることを望んでいるのだ。一方、トランプ大統領は、アメリカの外交政策の劇的な転換を画策しており、世界におけるアメリカの指導的役割に関する従来の見識を問い直そうとしている。これは、日本が自由で開かれたインド太平洋(FOIP)構想のもとでルールに基づく国際秩序を維持しようとする中で、トランプ政権の優先課題を見極め、日米間の新たな協力の可能性を模索する取り組みを複雑化させるおそれがある。
石破・トランプ日米首脳会談は、日本にとって安心材料となった。石破首相は、トランプ大統領の第1期において安倍晋三氏が伝えた「日本は強く信頼できる同盟国である」とのメッセージを改めて強調し、共同記者会見でトランプ氏が石破首相に対して示した敬意ある姿勢は、そのことを裏付けるものであった。両首脳はまた、日米同盟の議題における三つの柱である防衛協力、経済的結びつき、そしてインド太平洋地域における志を共有する国々との連携を強調する共同声明を発表し、日本の自由で開かれたインド太平洋(FOIP)構想の持つ持続的な魅力に対する支持を示した。石破・トランプ日米首脳会談は、同盟関係の継続性を示すとともに、第2次トランプ政権における「アメリカ・ファースト」外交が同盟に与える影響への懸念を和らげるものとなった。
しかしそれ以降、日本はトランプ政権の外交政策の予測不可能な性質に直面し、首脳会談が成功したからといって、さらなる負担を求める圧力から免れるわけではないという現実を認識するに至った。米国防次官(政策担当)候補のエルブリッジ・コルビーは、日本の防衛費は極めて不十分であると断言し、GDP比3%への急速な引き上げを求めた。ジョージ・グラス氏は次期駐日大使承認公聴会で、日本が米軍へのホスト国支援をさらに強化する必要性を強調した。またトランプ大統領は最近、日米安全保障条約は不公平であり、日本は米国を防衛する義務を負っていないと不満を表明した(これは、集団的自衛権の行使を可能とした2015年の日本の防衛政策改革を踏まえれば厳密には正確ではないが、この発言はより相互的な関係を求める姿勢を示していた)。要するに、より一層の負担分担の必要性が、今後の日米防衛協力に関する対話において大きな焦点となるであろう。
次に経済分野の課題がある。トランプ政権は同盟国との貿易不均衡に不満を抱いており、対米最大の海外投資国としての地位や、首脳会談での石破首相の日本からの直接投資を1兆ドルに増やすという公約にもかかわらず、日本に悪影響を及ぼしかねないさまざまな関税を導入した。関連して、日本製鉄によるUSスティールの買収提案の行方も、トランプ大統領は経営権取得に至らない範囲での投資には前向きな姿勢を示し、依然として不透明である。日本は、投資とその大義への持続的なコミットメントによって定義される米国との経済統合の誇り高き歴史が、日米同盟の経済的支柱を強化すると想定していた。こうした見立てが現実のものとなる可能性はあるが、首脳会談によって生まれた前向きな機運は、今後経済摩擦の火種となるおそれがある米国の関税政策によってかき消されつつある。
FOIPビジョンの下での戦略的連携の見通しも不透明だ。志を同じくする国々とのネットワーキングはFOIP構想の基盤であり、1月にマルコ・ルビオ米国務長官がQuad(米・日・豪・印)諸国の外相会合を主催した事実は、経済安全保障やサプライチェーンの回復力といった問題についてのイニシアティブを調整することに持続的な関心があることを示している。しかし、トランプ政権が、地域全体の公共財の提供者というQuad本来の目的にどの程度賛同するかは定かではない。日本もFOIP構想の下で地域経済統合を推進したいが、米国はもはや多国間貿易自由化を信じておらず、トランプ政権は保護主義を米国の産業基盤強化の手段としてさらに強化している。岸田元首相は2023年に「FOIP2.0」を発表し、日本と他のパートナーはグローバル・サウスへの開発援助を加速させなければならないと主張した。しかし、トランプ政権の最初の行動のひとつは、アメリカ合衆国国際開発庁(USAID)の解体だった。
日本のFOIP構想には、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の確保という規範的側面も含まれている。日本はルールに基づく国際秩序の維持を目指しているが、これまでのトランプ政権の外交姿勢は、その秩序を支えるのではなく、むしろ混乱を助長し、米国の国益の核心を根本的に再定義しようとする姿勢を示しているように見える。まさにそこに、日本にとっての課題がある。すなわち、既存の国際秩序を支えることに消極的と見られる米政権にいかに対応しつつ、日本の安全保障と繁栄の基盤をなす日米二国間関係を一層強化するための新たな協力の道をいかに見出していくかが問われているのである。
まだ初期段階ではあるが、トランプ政権の優先課題となり得るいくつかのテーマが浮上しており、日本はそれらを日米協力のターゲットとして発展させる可能性がある。その一つは、資源確保への関心である。たとえば、トランプ政権が日本に対してアラスカのLNGプロジェクトへの投資やLNG輸入の拡大を要請した事例、あるいは首脳会談の共同声明における重要鉱物のサプライチェーン多様化への言及などが挙げられる。もう一つのテーマは、米国の産業基盤の強化であり、これは日本にとって、造船分野などにおける防衛産業協力を強化する機会となる可能性がある。また、AIのような先端技術分野における協力も有望であり、トランプ政権がAIの経済的潜在力を活用し、デジタル経済という新たな成長エンジンを駆動させるために必要なエネルギーの確保を模索する中で、協力の余地は大きい。これらは、日本と米国が共通の利害を有し、革新的な形で二国間関係を発展させることのできる分野の一例にすぎない。FOIP構想のような多面的な構想のもとで、より広範な戦略目標をすり合わせることは依然として困難が伴う可能性があるが、日本は、米国との関係を緊密に保ちつつ、地域のパートナーとの協力をさらに深め、規範の擁護者としてのリーダーシップを発揮することで、混迷が深まる国際環境において安定と繁栄を促進する体制を築いていくと見られる。