日本にも女性登用時代が到来したか
2014年9月15日
平林 博
日本国際フォーラム副理事長
安倍政権が新経済成長戦略の一環として女性の活動推進をぶち上げ、財界も呼応した。政府は、2020年までに指導的地位に女性が占める比率を3割以上とする目標を立てた。
隗より始めよ。まず政界が範を示すべきだ。筆者は、本コラムの第15話「世界女性リーダー論―日本は後進国か」において、女性政治指導層が出にくい点はわが国民主主義の「後進性」の表れと断じた。最近では、少数ではあるが閣僚に女性が登用される慣行が定着したようだ。第2次安倍内閣においては、閣僚18名中2名(消費者・少子化・男女共同参画担当大臣および規制改革担当大臣)のほか、自民党の三役に2名(総務会長と政調会長)が起用されている。しかし、数はまだ圧倒的に少ない。
列国議員同盟の本年3月の報告によると、わが国の国会議員の中に女性が占める比率は8%で、189か国中127位、先進国では最下位である由。地方議員については、総務省の昨年12月の発表では、女性の割合は11.6%(都道府県議会は8.8%、市町村議会は11.8%)。自民党所属議員だけを取ると、都道府県議会で3.0%、市町村議会で5.8%と、さらに少なくなる。ともかく、指導的地位に就きうる女性政治家のベースが極めて小さいのである。
女性の登用は官界や経済界にも広がりつつある。本年夏の定例人事の結果、中央省庁の本省局長級以上の要職に就いた女性は、8人から15人に倍増した。人事院総裁、消費者庁長官にも初めて女性が誕生した。外務省が2人から3人となり(就任順に領事局長、外務報道官、経済局長)、経済産業省と法務省では初めての女性局長(それぞれ貿易経済協力局長、人権擁護局長)が誕生した。厚生労働省は女性幹部登用の先駆者であり、事務次官と雇用均等・児童安全局長の2人である。財務省、国土交通省、農水省、警察庁などは、前途は遠いようだ。
女性局長等が増えたのは、安倍総理の強い意志と内閣人事局の設立が寄与している。とくに、内閣人事局は、3人の官房副長官のうち安倍総理の側近である加藤勝信衆議院議員が局長となり、総理および官房長官の指示のもとで、中央省庁の局次長・官房審議官クラス以上の幹部600人余りを対象とした人事の決定権を握った。
各省庁は、そのような官邸の意向に即した人事案を官邸に提示するようになったのである。
経済界では、企業の役員(取締役、監査役、執行役)は、かつての源氏鶏太のサラリーマン小説の時代から、男性と相場が決まっていた。
これを抜本的に打破しようとしているのが安倍内閣であるが、投資家それも海外投資家の意向も強く働いている。日本取引所(以前の東京証券取引所)は、上場企業に対し取締役や監査役に女性の登用を奨励している。会社法で女性の登用を義務付けようとの意見も出ている。法令で縛られるよりは自発的に対応する方が得策と考えた企業が増え、さる6月の株主総会において多くの女性役員が誕生した。ただ、多くの場合、女性役員は外部から登用した社外役員であり、内部からの登用は少ない。女性幹部候補の採用の遅れやその後の出世に当たっての障害の多さ(いわゆる「ガラスの天井」)のため、役員適齢期の女性は十分に育っていない。
女性役員の登用については、単に女性の地位向上のみでなく、ダイバーシティーの見地から企業の経営全体にバランス感覚と女性の視点の取り入れを促すものである。とくに、グローバルに展開する企業にとっては、女性役員の登用はグローバル・スタンダード適合への必要条件とみなされる。
政府は、6月24日にまとめた経済成長戦略に基づき、女性の活躍推進のための関連法案を秋の臨時国会に提出する予定である。その中には、有価証券報告書に女性役員の比率を記載することを義務付けたり、女性の再就職支援のための助成金の支給を導入したりすることが含まれる。今後は、女性役員がいない企業は政府から白眼視され、また、毎年の株主総会において株主からの追及を覚悟する必要がある。
女性登用のための政府・財界の取り組みは加速しているが、国際的にみると道は遠い。取締役に占める女性の割合は、日本が1.4%であるのに対し、ノルウェー44.2%、スウェーデン21.9%、米国15.2%、英国12.2%、フランス10.5%、オーストラリア8.3%といった具合だ。これは、取締役会における女性取締役の数について割当枠を取り入れていることが大きい。ノルウェー、フランス、スペイン、アイスランドでは40%以上、イタリア、ベルギーでは33%以上、マレーシアでも30%以上となっている。管理職全体では、日本では女性管理職は10%程度であるのに対し、他の国は30%から40%に達している。
国会議員についても、17か国が女性議員の割当枠を、さらに34か国が選挙に出る女性議員候補者の割当枠を設定している。それ以外の国の中で52か国は、政党による自発的なクオータ制を敷いている由である。(注、以上の数字は、6月29日の日経新聞より引用)
筆者がよく知るインドにおいては、低カーストの地位向上のために、国会や州議会の議席や公務員採用数についてカーストの人口に応じた枠が設定されているが、これに加えて女性枠の導入が議論されている。女性の方が汚職などの問題を起こさないので、政治腐敗に飽き飽きとしたインドの有権者が歓迎しており、新たに政権をとったモディ首相も意欲満々である。
余談になるが、モディ首相は、野党時代にインド人民党(BJP)の上院議員団長を長く務めてきたスシュマ・スワラジ女史を外務大臣に起用したが、外務省事務方筆頭のスジャータ・シン外務次官も女性、ディーパ・ゴパラン・ワドワ駐日インド大使も女性だ。インド外務省の対日責任者は、すべて女性ということになった。
立法により女性登用枠の設定を義務付けることには、能力第一であるべき人事政策上、疑問を呈する人も多いであろう。本来は、女性も自然に能力によって出世する社会になるべきである。しかし、義務化や登用枠は、わが国の遅れた現状を考えるとやむを得ないであろう。
なお、総務省によると、専業主婦世帯は745万所帯あり、3人に一人の女性が専業主婦を希望している由。女性の社会進出を応援することは重要であるが、家庭や子育てを優先しようとする女性への思いやりも大事な施策である。この観点から、配偶者控除の見直しは安易に行ってはならないだろう。
[「自警」2014年9月号「日本から見た世界 世界から見た日本 第42話」より転載]