(1)「見える敵」と「見えない敵」に直面するアフリカ

アフリカにおけるコロナの感染状況について、現在、感染者数は130万人以上で、死者数は3万人を超えている。ただし、アフリカ全体としてはピークアウトの傾向にあり、特に、感染者が最大の(大陸のほぼ半数を占める)南アフリカでは、この傾向が顕著にみられる。
当初から本年7月から9月にかけて感染のピークが予測されており、その意味において、感染者数は当初の予測通り推移しているといえよう。
しかし、こうした数値の正確性には疑問が残る。一例として、タンザニアのマグフリ政権の対応が挙げられる。本年4月29日時点で、感染者数は509名、死者21名と発表されて以降、情報が更新されていない。その理由として考えられるのは、タンザニアでは来月10月に総選挙が予定されており、選挙結果を意識してマイナス情報が更新されていないのではないか。もしかすると、現在、アフリカでは、数値に現れていない「静かな流行」が起こっている可能性が考えられる。
国連開発計画(UNDP)の見通しでは、今後、アフリカ経済は一時的にマイナス成長に陥るが、一定程度の社会、経済活動を維持できれば、マイナスにはならないという予測も出ている。今後、より正確な分析が必要であろう。また、アフリカではコロナ禍以前より、サバクトビバッタ(Desert Locusts)という「見える敵」の問題にも直面している。
このサバクトビバッタは数千億匹という想像を絶する規模で発生し、深刻な農業被害をもたらしている。このバッタは極めて高い飛翔能力(1日に100キロから200キロ)を有するほか、比較的小さな群れ(1平方キロメートル程度の広がり)であっても、1日当たり3万5千人分の食糧(穀物や果物)を食べつくすと試算されている。
今後、アフリカは、バッタという「見える敵」に加えて、コロナ禍という「見えない敵」にも対処していく必要がある。

(2)中国のアフリカへの関与

近年、中国はいわゆる「一帯一路」構想を通じて、アフリカへの関与を強めているが、その狙いは大きく4つに分類することができる。すなわち、①中国への政治的な支持獲得、②アフリカにおける安全保障への関与の強化、③アフリカ大陸における輸送網の整備を通じた大陸レベルでの連結性の強化と、その巨大な経済市場の実現、④大西洋を挟んだ南米との連結性まで見据えた巨大経済圏構想の上での重要な大陸、である。中国のアフリカへの関与の具体的な動きとして、インフラ建設では、ジブチのドラレ多目的港建設(総工費5億6000万ドルで中国側負担割合45.6%)、ジブチ港における自由貿易区の設置(総工費35憶ドルで中国側負担比率は不明)などである。
鉄道建設では、2016年10月に全線開通した、「ジブチ・エチオピア鉄道」(総工費40億ドルで中国輸出入銀行の出資比率は7割)、「モンバサ・ナイロビ標準軌鉄道」(総工費38憶ドルで中国輸出入銀行の出資比率は9割)などがあげられる。また、今年6月に行われた「中国アフリカ団結抗疫特別サミット」では、習近平国家主席はアフリカ諸国に対して、ワクチン実用化後の優先供与、債務返済期限の延長、および「アフリカ大陸自由貿易圏」(AfCFTA)建設支持について言及するなど、アフリカとの協力関係の強化を謳っている。さらに、習国家主席は、2015年9月の国連総会での演説で、今後5年間アフリカ連合(AU)に対して、1億ドルの軍事支援を行うことを表明するなど、安全保障面での関与も強めている。
他方、中国によるこうした社会経済的発展を最重視した平和構築の方法には問題点もある。例えば、アンゴラとスーダンでは、石油資源開発を通じて経済成長を実現したものの、国内での中国依存への警戒感の高まりや、民衆革命、対テロ支援の影響などにより、経済状況が再び悪化した。また、いわゆる「債務の罠外交」(Debt Trap Diplomacy)の問題もある。これは、中国からの巨額の融資を受けるインフラ建設に関して、採算割れや過剰債務、さらには融資契約上の条件などの問題から、アフリカ側から事業継続の中断やキャンセルの動きが起きているのだ。
すでに2018年に西アフリカのシエラレオネのビオ大統領が、中国からの融資で建設予定であった新空港建設の中止を決定したほか、 2019年にはタンザニアのマグフリ大統領が、中国側の大型事業の一つであった、バガモヨ港の建設中止を決定した。こうした一連の建設中止の動きは中国にとって大きな痛手となった。
現在、中国は債務返済を緩和するなど柔軟な姿勢を示しているが、中国とアフリカ関係の今後の行方については、慎重かつ多角的に分析する必要がある。

(文責、在事務局)