(1)変革期を迎える国際秩序とメキシコの国家プロジェクト

現在、世界は「時代の転換点(change of era)」を迎えている。国際機関や既存の国際秩序は大きな試練に直面し、米国の覇権の変容、中国や新興国の台頭などを背景に、多極化が進展している。また、高齢化や技術革新による労働市場の変化、安全保障と経済効率のバランス、グローバル公共財をめぐる課題など、国際社会全体でパラダイムシフトが進行している。

こうした世界的な変化は、メキシコが進める新たな国家プロジェクトとも重なっている。現在のメキシコは、「Shared Prosperity(共有された繁栄)」を掲げ、国民生活の向上を重視する国家戦略へ転換しており、その考え方が外交政策にも反映されている。

(2)メキシコの潜在力と経済戦略「Plan México」

メキシコは北米と中南米を結ぶ地理的優位性に加え、豊富な鉱物資源、若い人口構成、世界第13位の経済規模など、多くの潜在力を有している。銀の世界最大生産国であり、リチウムをはじめとする重要鉱物資源を有することは大きな強みである。一方で、教育水準の向上や地域格差、科学技術・イノベーション能力の強化などは引き続き重要な課題である。

経済政策では、「Plan México 2030」を中長期的な国家戦略として推進している。「Made in Mexico」を掲げ、産業競争力の強化、投資拡大、国内サプライチェーンの高度化を進めるとともに、近年注目されるニアショアリングの流れを取り込みながら、産業拠点整備や雇用創出を進めていきたいと考えている。

(3)中堅国としてのメキシコ外交

メキシコは世界各地に広がる外交ネットワークと中南米有数のソフトパワーを有している。特に米国内に53の領事館を設置するなど、世界有数の在外ネットワークを活用している。

また、USAIDの縮小などを背景に、開発資金の確保が国際的な課題となるなか、中堅国が開発金融や国際協力を支える役割は一層重要になる。メキシコとしては、南南協力や三角協力、平和構築などを積極的に推進し、多国間主義を支える役割を果たしていきたい。

(4)外交政策の三本柱

メキシコ外交は、①近隣諸国との関係、②多角的なパートナーシップ、③多国間外交、の三本柱を基本としている。

対米関係では、USMCAを基盤とする経済的相互依存を重視しつつ、国際法と多国間協調を基本原則としている。中米・カリブ地域に対しては、移民問題だけではなく、地域開発やインフラ整備、安全保障を含めた包括的な協力を進めていきたい。また、中南米についても、イデオロギー対立ではなく、地域が直面する現実的な課題を重視しながら協力を進めることが重要である。

(5)アジア太平洋との関係強化

メキシコは自らを太平洋国家として位置づけ、アジア太平洋地域との関係強化を外交上の重要課題としている。ASEANとの対話やCPTPP、2028年にメキシコで開催予定のAPECなどを通じて、アジア太平洋地域との経済的・制度的な結び付きをさらに深めたい。また、サプライチェーンへの統合に加え、日本を含むアジア諸国との科学技術協力やイノベーション分野での連携にも期待している。

さらに欧州とは、価値観を共有する戦略的パートナーとして経済・研究協力を深化させるとともに、中東についても、湾岸諸国を中心に投資、再生可能エネルギー、AIなど新たな成長分野で協力を進めていく考えである。

(6)多国間主義と日本・メキシコ関係

最後に、多国間主義は中堅国であるメキシコ外交の根幹をなすものであり、国連やG20などを通じて国際制度の維持・強化や世界経済ガバナンスの改善に積極的に貢献していきたい。

また、多極化が進展する国際社会においては、北米との競争力を維持しながらも、外交・経済両面でパートナーを多角化していくことが重要である。その意味でも、日本とメキシコは、ともに中堅国として法の支配、多国間主義、ルールに基づく国際秩序を重視するという共通の価値観を有しており、今後も両国の戦略的パートナーシップは、双方にとって重要な資産となるだろう。

(文責、在事務局)