ホルムズ海峡石油危機を機会に変える高市外交
2026年5月11日
坂本 正弘
日本国際フォーラム上席研究員
イランによるホルムズ海峡封鎖,米国による逆封鎖は,世界の石油市場に深刻な影響を与え,特に,中東依存の高いアジア諸国の衝撃は大きい。石油価格は100ドルを超える水準となり,各国の物価を押しあげ,石油輸出国の米国でも中間選挙を控え,大きな懸念となっている。かかる状況の中で,日本も中東依存が9割を超える状況だが,ガソリン価格は170円台/リットルに抑えられ,危機感は比較的小さい。高市首相は補正予算の必要はないとする一方,一兆5千億円のパワー・アジア資金構想を打ち出し,ASEANなどアジア諸国との連携を強める方針である。危機を機会に変える手腕はさすがだが,まず,石油脆弱国・日本の変貌の原因は何故か。
日本の石油消費は300万バレル/日くらいだが,日本がうろたえない理由の第一は,手厚い国内備蓄である。国際エネルギー機関(IEA)は国内消費の90日分の備蓄を推奨し,OECD諸国の平均は100日程度とされるが,日本の備蓄は石油危機勃発の時点で,254日で群を抜いている。国家備蓄146日,民間備蓄101日の他,サウジアラビアやUAE(アラブ首長国連邦)との「産油国共同備蓄事業」により日本国内の石油備蓄タンクを産油国の石油会社に貸し出し7日程度の原油を日本に置いてもらっている。これは過去の苦い経験への反省によるものだ。政府は3月と5月に備蓄を放出して,需給を緩めたが,備蓄量は5月4日でも207日分(国家123,民間84,共同備蓄1)と高水準である。
第二に,高市内閣による国際手配・代替調達がある。先ず,①3月の日米首脳会談で米国産原油の共同備蓄で合意した。以来,米国産原油が13隻のタンカーによって運ばれて,中東依存を軽減しているが,これにメキシコからの輸入も加わった。次いで②中東からは,ホルムズ海峡外のUAEファジャイラ港,サウジのヤンブー港の他,ペルシャ湾より出光丸が日本を目指す動きがある。この他,③ロシア・サハリン2やカザフスタンなどからの調達がある。④2025年の日本の原油輸入でUAEは44%を占め,サウジの39%を凌ぐが,赤沢大臣の努力により,UAEからさらに,2000万バレルの追加供給を得ている。日本への信頼が基礎といえるが,後述するアジア諸国の危機への対応としての共同備蓄構想が功を奏したといってよい。以上の結果,⑤5月の石油供給は,中東・米国などからの代替調達輸入が6割を占め,国内備蓄の取り崩しは4割,12日分にとどまる。この程度の取り崩しであれば,現在の200日を越える国内備蓄をもってすれば,政府が来年まで石油確保のメドはついたとするのも納得できよう。もちろん,代替調達輸入は不安定な部分もあり,楽観できないが,政府はナフサの調達確保に努力中としている。
第三に,高市外交の本領はアジア諸国との共同対応構想にある。ホルムズ海峡封鎖はアジア諸国を痛撃し,3月に入り,ベトナムとフイリピンが日本に支援を要請し,フイリピンには軽油が供給された。4月15日,高市首相は,ASEAN,バングラデシュ,韓国,豪州などの諸国とオンラインで主導し,「アジア・エネルギー・資源供給力強化パートナーシップ」通称「パワー・アジア」を打ち上げた。「パワー・アジア」は,域内の原油の共同調達,共同備蓄,サプライチェーンの維持,重要物資の確保などに対し,日本政府が100億ドル・(1兆6000億円)の金融支援や原油備蓄の強化を支援する内容である。上述のように日本の石油調達には一定の目途はついたが,日本との相互依存が強いアジア諸国が困難に陥っては,医療品が典型だが,日本もサプライチェーンの危機に襲われるとの認識がある。このため地域全体での対応により,危機的事態を乗り越えようとする構想だが,更に,この機会を日本とアジア諸国間との関係をさらに深める施策である。また,原油の備蓄に関しては,アジア全体の備蓄として,UAEと米を巻き込んでいる。
高市首相は,5月2日,訪問先のベトナムの大学で,日本の新外交方針を演説するという異例の対応をした。現地の大学生を惹きつけたという。「法の支配,威圧からの自由」を掲げ自由で,開かれたインド太平洋構想を推進することでアジア各国の「自立と強靭性を基礎とした連帯」が重要と説いだ。
レ・ミン・フン首相との日越首脳会談では,「パワー・・アジア」適用の第一号として,①出光の主導するベトナム第一のニソン製油所への石油供給を行うことにより,生産活動を活発化し,透析用チューブをはじめ,医療関連品の日本への安定供給を確保する。②またベトナムは世界有数のレアアース埋蔵国だが,重要資源の協力が合意された。更に,③半導体・AIなどでの共同研究の推進が合意されたが,これはベトナムの優秀な人材を活用し,日本の研究者の不足を補う措置でもある。
高市首相はその後,もがみ型護衛艦を輸出する豪州と準同盟国関係を深めたが,高市政権閣僚のゴールデンウイーク中の海外訪問はすさまじい。茂木外相のアフリカ訪問を始め,10閣僚が南アジア,中央アジア,欧州諸国を訪問した。危機を機会に変える高市内閣の新しい基軸に基づく外交努力として期待したい。